単発.長めの話まとめ
それは、人生の中で、きっと1番綺麗で大切な思い出になるはずのものだった。
何も持たない、何も無いこの人生で。諦めることを覚えたのはどれくらい昔だっただろう。無彩色で、面白みもなければ盛り上がりもない。そんなつまらなくて、普通以下の、最悪なシナリオの中で。
俺の事を見てくれて、慕ってくれた、大切な子がいた。
その子は少し生意気で、自信家で、皆より少し浮いていたけれど、それでも優しくて可愛くて、皆よりなんでも出来る子だった。
そんな子と、交わした約束がある。
『――運命の赤い糸で結ばれてるってこと?』
『はい?そうですね』
『いつか夢を叶えましょう、一緒にアイドルになりましょう』
『――幸せになりましょう、俺と』
幸せになろうと、この子に誓えば、本当にそうなれる気がした。
だから俺は、身勝手な約束を、この子に結んだのだ。
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「つ・む・ぎ・に〜いさん…♪」
「わひゃあっ!?」
ふっ、と耳元に風を感じて飛び上がる。つむぎが悲鳴をあげて振り向けば、そこにはいたずらっ子の意地悪な笑みを浮かべた青年が間近に迫っていた。
「な、な、な!何するんですか〜!?」
「何っテ、イタズラだけド」
「なんでしれっと当たり前のことを聞くんだみたいな顔をしてるんですか!イタズラなんてしないでください!」
「反応がいいかラ、ついネ」
「ついじゃないですよ〜!もう!悪い子にはめっ!ですよ?――なつめちゃん」
かつての少女とは異なる――似ても似つかない――外見の青年をその名で呼んだつむぎもまた、あの約束の日からほんのわずか、大きくなった姿をしていた。
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つむぎが目を覚ましたのは、異世界のような部屋だった。
異世界のような、というと語弊があるだろうか。まず目に入った天井は、普段見慣れたボロアパートの薄茶けたものではなく、なんだか見たこともないような、汚れ一つない綺麗なものだった。
初めて見る景色に、驚いてしまって反応が出来なかった。ぼんやりと思考停止のままに視線だけを動かす。部屋の中はこれまた見たこともないほどきれいに整理整頓されて物自体が少ない、シックな雰囲気のものだった。大人の部屋、と言われて思い浮かべるようなそんな小奇麗な、初めて見る世界というふうだった。
(ここ、は……どこでしょう)
体を起こす。そこで初めて知ったのだが、今まで自分が眠っていたベッドもまた、大きくて広くて清潔で。どこもかしこも見覚えがないのだ。
自分の身体を見下ろして、そこは昨日までと同じ、子供のものだったことに安堵した。これでもし毒虫になっていたり大人になっていたり、見たこともない人間や機械の中に入っていたりしたら。それこそ現実逃避に見ている夢だと判断できたのだろう。
自分の頬を抓る。感覚はいつも通り。引っ張られる感触を感じる。
「夢、じゃないみたいですね……?」
呟いた声は広い部屋にぽつりと落ちて消えていった。その静寂に、ぞっとする。
もしこれが身代金目当ての誘拐だったら。つむぎは殺されるのだろう。それでなくても、こんな中学に上がったばかりの子供を攫うなんてペドとか、よくない理由だとしか思えない。どちらに転がってもつむぎの息つく先は終わり。かも。
短い人生だった。良い人生だったとも言えない。ただ、昔に誓った約束を果たせないことが。彼女と契ったそれを叶えられないことが。ひどく心を苛んだ。
起き上がって、拘束さえされていないことに不審さを感じ。とりあえず、逃げられそうなら逃げるかと思って部屋のドアの方へ向かう。昨日の服装と同じまま、だったらよかったのだが。今更ながらに着ているものさえ大きくて大人用だと気づく。混乱しすぎて現状把握が全くできない。
ドアを開ける。おそるおそると開くとそこは廊下だ。人気のない様子に息をついて、足を踏み出した。
「センパイ?ようやく起きたノ?遅かったじゃン」
「ひぃっ!?」
声がした。聞き覚えのない、艶やかで低い、大人の男性の声。誘拐犯だ。心臓がはやりだす。喉から出てきそうなほど騒いでいる心音に、つむぎは振り向いた。
「ン?センパイ?どうしたノ?」
「っ!」
リビングへのドアだろう先に、人影がひとつ。ドアが開く。つむぎは目をぎゅっと強く閉じて、身を強張らせた。
「センパ……、……………、…………エ!?」
「お、おれ!殺されたくありません!なんでもしますから、どうか命だけは!」
「……エ、ット……?君、どこからここへ……、っていうか小さくなったセンパイに見えるんだけド……?」
「………せんぱい、って」
「……ア~……もし違ったら悪いんだけどサ。……もしかして君、『つむぎにいさん』だったりすル?」
ぱちぱちと、彼の言葉に目をまたたかせる。
「どうして、それを……?」
素直に答えると、彼、見たこともないほどきれいな男性は、崩れ落ちてしまったのだった。
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「夏目ちゃん……どうしてそうにいさんを困らせるんですか~!?」
「アハハッ!あまりにも君の反応がいいものだからネ。面白くッテ」
「面白くなんてありませんよ~!んもうっ!」
ソファの上でむうっと頬を膨らませて拗ねているつむぎの隣に腰を掛けたのは夏目だった。ソファがその分傾いて、彼の大きい手がつむぎの肩を抱きよせる。そちらに体を預けると彼の匂いと体温が近くなった。どくりと心臓が跳ねる。
温かい。久しぶりに誰かの体温を身近に感じる。つむぎが未来(らしい)ここへきて、夏目と再会して。彼女(実際の性別としては彼、だった)はつむぎに温かいご飯と誰かの体温と、暖かな部屋と布団を与えてくれた。こんなに幸せでいいのだろうか。気を抜くとなんだか心が千切れそうな温かさに涙が出そうになるのだ。
「夏目ちゃん……」
「ン?ココア淹れたけど飲むかイ?」
「あ、ありがとうございます……。その、お願いがあって」
彼は、つむぎよりだいぶ大人だ。年齢も十以上離れている。中学生になったばかりのつむぎが触れていいのか、悩むほどに、綺麗な大人の男の人で。
こんなお願いをしたら、呆れられるだろうか。緊張に口の中がからからになった。
甘い匂いが彼からする。くらくらしてしまう。
「どうしたのかナ。ボクにできるこト?」
「……あの、あのっ!だ、だ、……」
「……ダ?」
「抱きしめてっ、いいですか……!?」
ぱちぱちと彼の金色の目がまたたいた。
「エ?どうしテ?嫌だけド」
「え!?」
思わぬ拒否に驚いて、がっくりとうなだれる。あまり期待はしていなかったが、まさか本当にきっぱりと拒絶されるなんて。じわじわとショックに心が疼く。視線を俯けて、つむぎは彼の服のすそを見つめた。
「そう、ですよね……。夏目ちゃんは抱きしめさせてくれなかったから……、その、久しぶりに誰かとこうして穏やかに会話をしたんです。だから、大好きな夏目ちゃんの体温を感じたくって……そうですよね……今の夏目ちゃんは、夏目くんですもんね。俺の知っている夏目ちゃんじゃないってわかっていたつもりだったんですけど……すみません、甘えすぎちゃいましたね……」
なんだか気持ち悪いぐらい心がぐちゃぐちゃで。つむぎは無理やり笑顔を作って彼を見上げた。歪な笑みを浮かべ、すみません、と謝って。
すると夏目の手がむに、と頬をつまむ。彼の顔が見えて。綺麗な顔立ちで、彼は困ったように笑った。
「ごめン。そんなつもりはなかったんだけド……つむぎにいさん、ボクはあなたの“夏目ちゃん”ではないけどサ。一応同じ人間だかラ……そノ、そんなにへこまないでヨ。困っちゃうかラ」
そう言うと、彼がふわりとつむぎを抱きしめる。すっぽりと腕の中に納まったつむぎは、びっくりして彼の背中に手を回せなかった。夏目の手が頭を優しく撫でる。抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。
「っ……な、つめ、ちゃん……」
「泣きそうな声じゃン」
「う、ぅう……だ、ってぇ」
「情けないナァ。『つむぎにいさん』?今のボクの前でハ、王子様みたいにかっこいい、にいさんではいてくれないノ?」
拗ねたみたいな声。彼の、夏目ちゃんの声があまりにもつむぎの知るものと同じトーンで。つい笑ってしまった。ああ、変わらないんだ。未来のつむぎは、何も変わらないままの夏目と、一緒に居られるんだ。
そうわかると、体から力が抜ける。ほっとして、彼の方へ体重を寄せる。
「なつめちゃん」
「ン?どうしたノ」
「俺……なんだか久々にこうやって笑えました……夏目ちゃんはやっぱりすごいですね」
ふにゃりと笑って、彼の広い背中に腕を回す。ぎゅっと抱きしめれば夏目も当たり前のように抱きしめ返してくれた。
「……センパイ」
「先輩……?」
「ア、君はつむぎにいさんだったネ。にいさん、いいからこっちへおいデ」
「わぅっ!?な、なんですか?いきなりぎゅうぎゅうにされると驚いちゃいますよ~?」
「フフッ……居心地のいい触れ合いもいいけド。ソレ、どうするつもりなのかナ」
つん、と夏目の指がつむぎの下腹部をつついた。びくりと肩が揺れる。
「勃ってるじゃン」
「……すみません」
「いいヨ。もしかしてボクで興奮しちゃったとカ?」
「……すみません……」
「アハハッ!素直だネェ?このぐらいのセンパイってか~わいイ…♪」
夏目の指が緩く兆していた性器を揉みだす。びくりと跳ね上がった体を彼が抱きしめ、夏目の匂いが濃く香る。
どきどきと性的興奮に鼓動が騒いだ。
「にいさん。ボクと『イイコト』──してみなイ?」
に、と弧を描いた唇から、視線が離せなかった。
