2025~
「センパイ、本当にボクのこと好きなノ?」
ぎし、と空気が一瞬凍り付いた。軋む音が聞こえた気がして、夏目は唇を噛んで失敗を知る。
──ああ、まただ。
またやってしまった。
視線を上げられず、ただうろうろとフローリングの凹凸を目が滑っていく。湧き上がったのは、恐怖と後悔。
いつもこうだ。センパイを信じられないわけじゃないのに。センパイに愛されてると、きちんとわかってるのに。どうしても、ボクとの糸を解いてしまった彼を、怯えてばかりの弱く幼い自分が疑ってしまう。
センパイはいろんな人に愛されるようになった。じゃあ、センパイはボクからの愛だけに縋る必要もなくなった。喜ばしいことだ。めでたい話じゃないか。センパイはいつまでもボクのそばに縛られる必要がなくなったんだから。
「夏目くん? 俺またなにか……君の機嫌を損ねることを、してしまいましたか」
「ッ、ううン、してなイ……ボクのこれハ、ただの間違いだかラ。気にしないデ……忘れてヨ」
嘘。嘘だよ、気づいて。心が痛いんだ。くるしくて仕方ないんだ。今すぐにセンパイに縋りついて、『何処にもいかないで、ボクのそばにいて』って叫びたいぐらいだ。ぎしぎしと軋む心はまるで引きちぎられていくみたいに冷たくて血がこぼれていて。
自分がこんなに弱いだなんて知らなかった。知りたくなかった。昔より強くて頼られる、しっかりと地に足のついた大人に慣れていたと思っていたのに。あっけない、こんなに簡単に不安定になるなんて。
つむぎの返事はない。これ以上、醜態をさらしたくなくて。夏目は踵を返す。どこでもいい。どこかに逃げてしまいたかった。
「っ、待ってください夏目くん」
後ろを向こうとして。失敗して。つむぎに腕を掴まれて引き寄せられた。ぐすっ、鼻をすする音が惨めに響く。ああ、こんな姿、弱くて情けない。センパイの隣に立つために頑張ってきたのに。ああもう、めちゃくちゃだ。
「離しテ……」
「いやです。夏目くん。俺の話を聞いてください」
つむぎの気配が肉薄する。すぐ近くで彼の体温を感じた。ふわりと香る男らしい香水は、最近付け始めたと言っていたものだ。
「顔を上げて……俺を見て?」
「いやダ」
「……ああもう、お耳まで真っ赤」
つむぎの手のひらが頬を撫でる。すり、と耳をくすぐり、頭へあがっていく。大きな手のひらが夏目の後頭部を優しく撫でつけた。
「何……もう話すことなんてないでショ。ほっといてヨ」
「君にはなくても俺にはあります」
断言する声に、むかっ腹が立った。こんなに逃げたいと意思表示してるのに。どうして手を離してくれないんだ。視線を少し上げる。つむぎの服が見えた。優しい手つきはずっと頭を撫でている。ぐ、と喉が震えた。どこにもいかないで。たったその一言がどうしても言葉にならない。
「夏目くん。俺は君のことが好きですよ」
「ハ──」
ちゅっ、と。軽やかな音がした。ふわりと頭に感じるかすかな感触。触れられている……いや、キスをされた。キス?どうして。混乱して、戸惑って、耳まで一気に熱が上がって熱くなる。息が上手くできなくて、声も出せずはくはくと唇を震わせる。
「……これで合ってますかね?ううん……あのね、夏目くん。俺はずっと君が好きですよ……何を心配になっちゃったのかはわかりませんけど、不安になったなら隠さず教えてくださいね……いつでも、どんな時でも、俺は君を肯定しますし……、──愛してますから」
つむぎの視線が注がれている。それはわかる。だってこんなにも。
「……熱イ」
「えっ?空調は適温でしょう?そもそも星奏館のエアコンって自動運転ですし……」
「……そういうことじゃないヨ。ああもウ、なんだか馬鹿らしくなっちゃっタ。……センパイ?これからどうせ暇でショ。ソラも誘ってご飯でも行かなイ?」
真っ赤な顔を見せたくなくて。振り切るように今度こそ踵を返す。ああ、あつい。こんな熱視線、恥ずかしくて。嬉しくて舞い上がってしまいそうだった。
ぎし、と空気が一瞬凍り付いた。軋む音が聞こえた気がして、夏目は唇を噛んで失敗を知る。
──ああ、まただ。
またやってしまった。
視線を上げられず、ただうろうろとフローリングの凹凸を目が滑っていく。湧き上がったのは、恐怖と後悔。
いつもこうだ。センパイを信じられないわけじゃないのに。センパイに愛されてると、きちんとわかってるのに。どうしても、ボクとの糸を解いてしまった彼を、怯えてばかりの弱く幼い自分が疑ってしまう。
センパイはいろんな人に愛されるようになった。じゃあ、センパイはボクからの愛だけに縋る必要もなくなった。喜ばしいことだ。めでたい話じゃないか。センパイはいつまでもボクのそばに縛られる必要がなくなったんだから。
「夏目くん? 俺またなにか……君の機嫌を損ねることを、してしまいましたか」
「ッ、ううン、してなイ……ボクのこれハ、ただの間違いだかラ。気にしないデ……忘れてヨ」
嘘。嘘だよ、気づいて。心が痛いんだ。くるしくて仕方ないんだ。今すぐにセンパイに縋りついて、『何処にもいかないで、ボクのそばにいて』って叫びたいぐらいだ。ぎしぎしと軋む心はまるで引きちぎられていくみたいに冷たくて血がこぼれていて。
自分がこんなに弱いだなんて知らなかった。知りたくなかった。昔より強くて頼られる、しっかりと地に足のついた大人に慣れていたと思っていたのに。あっけない、こんなに簡単に不安定になるなんて。
つむぎの返事はない。これ以上、醜態をさらしたくなくて。夏目は踵を返す。どこでもいい。どこかに逃げてしまいたかった。
「っ、待ってください夏目くん」
後ろを向こうとして。失敗して。つむぎに腕を掴まれて引き寄せられた。ぐすっ、鼻をすする音が惨めに響く。ああ、こんな姿、弱くて情けない。センパイの隣に立つために頑張ってきたのに。ああもう、めちゃくちゃだ。
「離しテ……」
「いやです。夏目くん。俺の話を聞いてください」
つむぎの気配が肉薄する。すぐ近くで彼の体温を感じた。ふわりと香る男らしい香水は、最近付け始めたと言っていたものだ。
「顔を上げて……俺を見て?」
「いやダ」
「……ああもう、お耳まで真っ赤」
つむぎの手のひらが頬を撫でる。すり、と耳をくすぐり、頭へあがっていく。大きな手のひらが夏目の後頭部を優しく撫でつけた。
「何……もう話すことなんてないでショ。ほっといてヨ」
「君にはなくても俺にはあります」
断言する声に、むかっ腹が立った。こんなに逃げたいと意思表示してるのに。どうして手を離してくれないんだ。視線を少し上げる。つむぎの服が見えた。優しい手つきはずっと頭を撫でている。ぐ、と喉が震えた。どこにもいかないで。たったその一言がどうしても言葉にならない。
「夏目くん。俺は君のことが好きですよ」
「ハ──」
ちゅっ、と。軽やかな音がした。ふわりと頭に感じるかすかな感触。触れられている……いや、キスをされた。キス?どうして。混乱して、戸惑って、耳まで一気に熱が上がって熱くなる。息が上手くできなくて、声も出せずはくはくと唇を震わせる。
「……これで合ってますかね?ううん……あのね、夏目くん。俺はずっと君が好きですよ……何を心配になっちゃったのかはわかりませんけど、不安になったなら隠さず教えてくださいね……いつでも、どんな時でも、俺は君を肯定しますし……、──愛してますから」
つむぎの視線が注がれている。それはわかる。だってこんなにも。
「……熱イ」
「えっ?空調は適温でしょう?そもそも星奏館のエアコンって自動運転ですし……」
「……そういうことじゃないヨ。ああもウ、なんだか馬鹿らしくなっちゃっタ。……センパイ?これからどうせ暇でショ。ソラも誘ってご飯でも行かなイ?」
真っ赤な顔を見せたくなくて。振り切るように今度こそ踵を返す。ああ、あつい。こんな熱視線、恥ずかしくて。嬉しくて舞い上がってしまいそうだった。
