2025~
──夏目くんは強くて頑丈で、丈夫な子だと思っていた。
昔。抗争と呼ばれるその時代の記憶の中では、夏目くんはどれだけ目の前で大切な『あに』たちが斃されても両足でふんばって、真っ直ぐこちらだけを睨みつけていた。
終わってから、お互いボロボロに傷ついた体で寄り添った時も彼は温かく、『完全に折れてしまった人の目』をしていなかった。
それからも、宙くんの前で先輩ぶったり、同級生たちに冷めた態度で接したり、転校生ちゃんを惑わせるような仕草をしたり。彼は見ている限り、どれだけ傷ついても前を向ける強い子だと思っていた。
それが変わったのはいつだっただろう。夏休みの、弱った彼を見た時か、卒業前に俺の前で涙を見せた時か。それとも、クルーズ船の中、熱中症で倒れかけた時だろうか。
とにかく、俺の意識は変えられた。
『夏目くんは弱くて脆くて、護るべき子』だと、その想いが強くなったのだ。
だから、こういう時、困ってしまう。
「……センパイ?」
夏目くんの猫みたいな金の目が俺をじっと見上げている。珍しく俺の傍に寄ってきて、ポスンと頭をこちらに傾けて彼はスマホをいじり出した。……抱きしめたい。そう思って、夏目くんの肩に手をそっと回す。
ぎゅ、と掴んだ肩は、俺なんかよりすごく、細くて小さくて、……華奢で。驚いてしまうぐらいに頼りなくて。ゾッとした。
俺の手がまるで、鈍器になったみたいな感覚が走って息を呑む。
……だってこんなに、柔らかな子を俺が抱きしめてもいいんだろうか。
俺の手でもし、この子を傷つけてしまったら。いつもみたいにそう思って、俺はやっぱりそれ以上動けなくなってしまったのだ。
「……どうしたノ」
「いえ……なんでも……」
「『なんでもない』じゃないでショ。……最近、ボクに触るの躊躇ってなイ?何。ボクのこと嫌いにでもなったノ」
「そんなことありえません!」
わっと叫ぶと夏目くんの肩に置かれている俺の手に、彼が手を重ねた。わ、細い。小さい。
「じゃあなんデ」
「……いえ、あの」
「教えてくれないと一週間口きかないかラ」
「……」
この子は的確に俺の嫌なことを当ててくる。それは困ってしまう。夏目くんと話せないなんて悲しいでしょう。
「……夏目くん、が」
「ボクが?」
「華奢、で……壊しそうだな、って」
きょとん、と目を丸くした彼は一拍置いて、そうしてむ、と眉をしかめた。
「なにそレ。バカにしてル?ボクがそんなに弱々しくて頼りない男だって思ってル?」
「いえあの、そうじゃなくって〜……」
「じゃあなんデ。ボク、センパイごときに壊されるぐらい弱くないヨ」
キッパリと言い返され、思わずくちごもる。夏目くんが強いのは知ってる。でも。
ば、と手を広げ、彼を抱きしめる。わ、と声が驚きで漏れ聞こえてきて、夏目くんは目を白黒させて俺を見上げた。
その腰に腕を回し、夏目くんの頬を手で覆う。
「……ほら。簡単に、押さえ込めるし壊せそうでしょう?」
「……だかラ?」
「だから、って」
「だからなんだヨ。センパイ、やっぱり馬鹿にしてル」
してません、返す言葉は発する前にさえぎられた。
「センパイが一番自分自身を馬鹿にしてるヨ。いイ?センパイはボクのことを壊せるし押さえ込めるし殴れル」
「えっ!そんなことしませんよ!?」
「黙って聞ケ。出来るでショ。なのにセンパイは一度もそんなことしたことなイ。それはセンパイがそんなことをする訳ないって思ってるボクと、そんなことは絶対にしないって自制できるセンパイがいるからダ」
彼の手が、頬を覆う俺の手に重なった。温かくて白い手のひら。きゅ、と指を握りこみ、夏目くんは俺の手に頬を擦り寄せる。
「センパイはネ、ボクを壊せるとしても壊すことなんて絶対にしないひとだヨ……だかラ、安心してボクに触っていいんダ。……──ボクがここまで許してあげる人なんてあなただけなんだから」
背を伸ばした夏目くんが、眼前に。ふに、と柔らかなそれが唇に当たって離れる。キス、された。
驚いて夏目くんの体を抱きしめる。夏目くんはフフッと笑って、もう一度俺にキスをした。彼の手が俺の頬を挟む。何度もキスをされ、俺は力を抜いて。そこで初めて体が強ばっていたと知った。
「……夏目くんは、すごいですね」
「今更?」
「……可愛くて弱いのに、強くてかっこいい」
「言い方が嫌なんだけド〜?」
くすくすと笑って彼は、俺の胸元に顔を寄せる。頭を撫でてあげれば夏目くんは甘えるように擦り寄って。
「……」
熱の篭った目が俺をみあげる。何をご所望なのかはわかっていたから、夏目くんの腰を撫でおろして口付ける。ぴくりと震えた肢体に手を這わせ、俺は夏目くんの理性を『壊さない程度に壊す』ために、お伺いを立てるのだ。
寝室へのお誘いは、もう何度か済ましていて、やり方もなんとなくわかってきていた。
夏目くんの手を離して立ち上がる。彼の前に跪いて、俺は夏目くんの金色の瞳をじっと見た。
「夏目くん、俺、できたらもっと君にかまってほしいんですけど──」
昔。抗争と呼ばれるその時代の記憶の中では、夏目くんはどれだけ目の前で大切な『あに』たちが斃されても両足でふんばって、真っ直ぐこちらだけを睨みつけていた。
終わってから、お互いボロボロに傷ついた体で寄り添った時も彼は温かく、『完全に折れてしまった人の目』をしていなかった。
それからも、宙くんの前で先輩ぶったり、同級生たちに冷めた態度で接したり、転校生ちゃんを惑わせるような仕草をしたり。彼は見ている限り、どれだけ傷ついても前を向ける強い子だと思っていた。
それが変わったのはいつだっただろう。夏休みの、弱った彼を見た時か、卒業前に俺の前で涙を見せた時か。それとも、クルーズ船の中、熱中症で倒れかけた時だろうか。
とにかく、俺の意識は変えられた。
『夏目くんは弱くて脆くて、護るべき子』だと、その想いが強くなったのだ。
だから、こういう時、困ってしまう。
「……センパイ?」
夏目くんの猫みたいな金の目が俺をじっと見上げている。珍しく俺の傍に寄ってきて、ポスンと頭をこちらに傾けて彼はスマホをいじり出した。……抱きしめたい。そう思って、夏目くんの肩に手をそっと回す。
ぎゅ、と掴んだ肩は、俺なんかよりすごく、細くて小さくて、……華奢で。驚いてしまうぐらいに頼りなくて。ゾッとした。
俺の手がまるで、鈍器になったみたいな感覚が走って息を呑む。
……だってこんなに、柔らかな子を俺が抱きしめてもいいんだろうか。
俺の手でもし、この子を傷つけてしまったら。いつもみたいにそう思って、俺はやっぱりそれ以上動けなくなってしまったのだ。
「……どうしたノ」
「いえ……なんでも……」
「『なんでもない』じゃないでショ。……最近、ボクに触るの躊躇ってなイ?何。ボクのこと嫌いにでもなったノ」
「そんなことありえません!」
わっと叫ぶと夏目くんの肩に置かれている俺の手に、彼が手を重ねた。わ、細い。小さい。
「じゃあなんデ」
「……いえ、あの」
「教えてくれないと一週間口きかないかラ」
「……」
この子は的確に俺の嫌なことを当ててくる。それは困ってしまう。夏目くんと話せないなんて悲しいでしょう。
「……夏目くん、が」
「ボクが?」
「華奢、で……壊しそうだな、って」
きょとん、と目を丸くした彼は一拍置いて、そうしてむ、と眉をしかめた。
「なにそレ。バカにしてル?ボクがそんなに弱々しくて頼りない男だって思ってル?」
「いえあの、そうじゃなくって〜……」
「じゃあなんデ。ボク、センパイごときに壊されるぐらい弱くないヨ」
キッパリと言い返され、思わずくちごもる。夏目くんが強いのは知ってる。でも。
ば、と手を広げ、彼を抱きしめる。わ、と声が驚きで漏れ聞こえてきて、夏目くんは目を白黒させて俺を見上げた。
その腰に腕を回し、夏目くんの頬を手で覆う。
「……ほら。簡単に、押さえ込めるし壊せそうでしょう?」
「……だかラ?」
「だから、って」
「だからなんだヨ。センパイ、やっぱり馬鹿にしてル」
してません、返す言葉は発する前にさえぎられた。
「センパイが一番自分自身を馬鹿にしてるヨ。いイ?センパイはボクのことを壊せるし押さえ込めるし殴れル」
「えっ!そんなことしませんよ!?」
「黙って聞ケ。出来るでショ。なのにセンパイは一度もそんなことしたことなイ。それはセンパイがそんなことをする訳ないって思ってるボクと、そんなことは絶対にしないって自制できるセンパイがいるからダ」
彼の手が、頬を覆う俺の手に重なった。温かくて白い手のひら。きゅ、と指を握りこみ、夏目くんは俺の手に頬を擦り寄せる。
「センパイはネ、ボクを壊せるとしても壊すことなんて絶対にしないひとだヨ……だかラ、安心してボクに触っていいんダ。……──ボクがここまで許してあげる人なんてあなただけなんだから」
背を伸ばした夏目くんが、眼前に。ふに、と柔らかなそれが唇に当たって離れる。キス、された。
驚いて夏目くんの体を抱きしめる。夏目くんはフフッと笑って、もう一度俺にキスをした。彼の手が俺の頬を挟む。何度もキスをされ、俺は力を抜いて。そこで初めて体が強ばっていたと知った。
「……夏目くんは、すごいですね」
「今更?」
「……可愛くて弱いのに、強くてかっこいい」
「言い方が嫌なんだけド〜?」
くすくすと笑って彼は、俺の胸元に顔を寄せる。頭を撫でてあげれば夏目くんは甘えるように擦り寄って。
「……」
熱の篭った目が俺をみあげる。何をご所望なのかはわかっていたから、夏目くんの腰を撫でおろして口付ける。ぴくりと震えた肢体に手を這わせ、俺は夏目くんの理性を『壊さない程度に壊す』ために、お伺いを立てるのだ。
寝室へのお誘いは、もう何度か済ましていて、やり方もなんとなくわかってきていた。
夏目くんの手を離して立ち上がる。彼の前に跪いて、俺は夏目くんの金色の瞳をじっと見た。
「夏目くん、俺、できたらもっと君にかまってほしいんですけど──」
