2022年に書いたもの
「センパイ、ボク恋人ができたんダ」
ぼんやりと意識が不透明な朝。ぴちち、と鳥のさえずりが聞こえて、俺はなぜか同じベッドで眠っていた夏目くんの言葉を理解出来ずにいた。
「……ちょっト?聞いてル?」
「朝ごはんの話ですか?」
「……」
残念なものを見るような目付きになり、夏目くんがあからさまにため息をつく。ひとつ弁明させてもらえるのなら、寝起きでそんな質量の重い情報を豪速球でなげてくる君も君だと思うんですけれど。
「ふふ…♪センパイに真っ先に言おうと思っていたんだヨ」
「……そうですか」
これは、ちょっと。というか、すごい、キツい。自然と目線が下へ降りる。だって、好きな子に、朝っぱらからいきなり誰とも知らない恋人──しかも付き合いたて──の話をされるなんて、なんていう罰ゲーム?ゲー厶だったら速攻リセットボタンだ。
けれど、悲しいかなこれは現実。俺の好きな子が、告白する前に他の誰かのモノになったことも。俺だけが覚えている幼い頃の約束も、全部、痛い現実なのだ。
「よかった、ですね」
笑みを貼り付ける。せめて祝福くらいはしないと、なんて、自分を納得させたくて。
「うン、ありがとウ、センパイ」
「告白は、最近ですか」
口角を上げて、楽しそうに夏目くんは頷く。そして口を開いて、すらすらとその恋人について話しだした。
「いやァ、すっごく熱く求めてくれちゃってサァ?さすがのボクでも驚いたネ」
「……そ、うなんですか」
「センパイ?なんだか反応が鈍いけれど祝ってくれないのかナ?可愛い後輩の恋が成就したんダ」
「俺は…っ、いえ……夏目くんが選んだ人なら、大丈夫でしょうね。応援、しますよ」
「そうだネ。ありがとウ…♪」
目を伏せる。そうか、そうだったんだ。彼は俺のことをそういう目では見てくれていなかった。ただそれだけのこと。俺が出遅れただけの、滑稽な話だっただけ。恋人ができたというのなら、恋人でもない人間とベッドにいるのはまずいだろう。早く抜け出そう。
そう思って地に足を下ろした、途端。後ろからの声。
「────で、いつになったラ、告白しなおしてくれるノ?」
「────────えっ?」
俯いていた顔を上げて、振り向く。
琥珀色の瞳が見えた。
────俺を見ている。俺を?なんで?というか、告白をしなおすって?
「昨晩はあんなに熱烈だったのにネェ?なんで一晩経っただけでヘタレ毛玉に戻っちゃってるのサ」
「な、んの…なんの、話ですか……?」
「ナニ?本当に覚えてないノ?」
「……」
はあ、と大きなため息。嘘じゃないかラ、と前置きされて夏目くんは話しはじめる。
「昨夜、センパイはボクに告白をしたんだヨ。それも熱烈に、酔っ払いながらたどたどしい口調でネ。ボクとしては好きな人に告白されて嬉しかったけれド……酔ってたから翌朝がどうなるかなと思っていたんダ……マァ、見事にボクの考えが当たるなんテ、センパイに少しイタズラを仕掛けたくなるのは仕方ないでショ?」
つらつらと並べ立てられる言葉に追いつけず、思考の整理がしたいとストップをかける。
「夏目くん、それって……」
「なにかナ?とうとう脳みそまでやられて処理落ちでもしたノ?」
「俺、告白したんですか」
「うン。されたヨ」
「……その告白って、秘密の告白……とか?」
「たしかに秘密の告白といえばそうだけド…ここまで聞いて分からないのは一種の才能だネ。恋心をさらけ出していた、と言えばさすがに解るかナ」
ざあ、と血の気が引いた。死にそうな顔をしている俺を見て、夏目くんはおい、と俺の腹を軽く殴る。
「あれハ、間違いだったとか言うなヨ」
「で、でも──」
ばすん、とまた一撃。夏目くんが、今度は逆に俯いている。なんで、と混乱する中で、夏目くんの肩が震えていることに気づく。
「え?……え?なんで、……もしかして、泣いてます、か……?」
「黙レ」
「夏目くん!?ごめ、ごめんなさい、君を傷つけるつもりは──」
「じゃあ、もう一度、告白してヨ」
「は、はい!だから泣かない……で……?」
夏目くんが顔を上げた。俺は泣き腫らした彼の顔を思い浮かべてどう謝ろうか迷っていた。
なのに、彼はケロッとしていて。涙のあとはあっても、目は赤くなっていないし、というか、にんまりと笑っている。
「ハメましたね!?」
「アハハッ!騙される方がマヌケなだけダ!」
げたげたと笑う彼に、毒気を抜かれて力がぬける。
「酷いです……」
「この状況で思い至らないセンパの方が酷いと思うんだけド?」
それはそうだ。言い返せないでいると手を差し出される。
「センパイ?というわけデ、エスコートぐらいしてくれないのかナ?せっかくの朝がラブホなんて台無しだからネ」
「エスコートですか…というかここ、ラブホだったんですか?」
「うん。まぁ打算とか下心もあるけド、昨夜のセンパイが今にも吐きそうだったから適当にネ」
打算だの下心なんてワードは流して、そうですか、と返す。
彼は本当に俺を翻弄するのが楽しいようで。こんな子を好きになった俺も大概だけど、こんな俺に付き合う彼も大概だ。破れ鍋に綴じ蓋なのだろう。相性が良ければ、それでいいか。
「それで、どこへ行きましょうか」
「とりあえずゆっくりふたりきりで話が出来るところへ、かナ」
ベッドから下りると服はシワだらけ。一度帰った方が良さそうだ、なんて思っていたら手をきゅっと握りしめられる。
驚いて隣を見る。夏目くんは見たこともないくらい嬉しそうにしていて、続いた言葉に機嫌の良さがありありと詰まっていた。
「さぁセンパイ、早くエスコートしテ。満足させてもらわなきゃ告白の返事はしないヨ…♪」
「あはは…お手柔らかにお願いしますね」
夏目くんの手を握りかえせば及第点、とだけ返される。視線を逸らしたのがわざとらしくて、照れているのかな、なんて。
きっとかわいいこの子に、今までよりもっと振り回されるんだろう。でも、それすら幸せだと思えてしまう。
夏目くんの一挙一動に困らせられる未来が見えて、俺は苦く笑ったのだった。
ぼんやりと意識が不透明な朝。ぴちち、と鳥のさえずりが聞こえて、俺はなぜか同じベッドで眠っていた夏目くんの言葉を理解出来ずにいた。
「……ちょっト?聞いてル?」
「朝ごはんの話ですか?」
「……」
残念なものを見るような目付きになり、夏目くんがあからさまにため息をつく。ひとつ弁明させてもらえるのなら、寝起きでそんな質量の重い情報を豪速球でなげてくる君も君だと思うんですけれど。
「ふふ…♪センパイに真っ先に言おうと思っていたんだヨ」
「……そうですか」
これは、ちょっと。というか、すごい、キツい。自然と目線が下へ降りる。だって、好きな子に、朝っぱらからいきなり誰とも知らない恋人──しかも付き合いたて──の話をされるなんて、なんていう罰ゲーム?ゲー厶だったら速攻リセットボタンだ。
けれど、悲しいかなこれは現実。俺の好きな子が、告白する前に他の誰かのモノになったことも。俺だけが覚えている幼い頃の約束も、全部、痛い現実なのだ。
「よかった、ですね」
笑みを貼り付ける。せめて祝福くらいはしないと、なんて、自分を納得させたくて。
「うン、ありがとウ、センパイ」
「告白は、最近ですか」
口角を上げて、楽しそうに夏目くんは頷く。そして口を開いて、すらすらとその恋人について話しだした。
「いやァ、すっごく熱く求めてくれちゃってサァ?さすがのボクでも驚いたネ」
「……そ、うなんですか」
「センパイ?なんだか反応が鈍いけれど祝ってくれないのかナ?可愛い後輩の恋が成就したんダ」
「俺は…っ、いえ……夏目くんが選んだ人なら、大丈夫でしょうね。応援、しますよ」
「そうだネ。ありがとウ…♪」
目を伏せる。そうか、そうだったんだ。彼は俺のことをそういう目では見てくれていなかった。ただそれだけのこと。俺が出遅れただけの、滑稽な話だっただけ。恋人ができたというのなら、恋人でもない人間とベッドにいるのはまずいだろう。早く抜け出そう。
そう思って地に足を下ろした、途端。後ろからの声。
「────で、いつになったラ、告白しなおしてくれるノ?」
「────────えっ?」
俯いていた顔を上げて、振り向く。
琥珀色の瞳が見えた。
────俺を見ている。俺を?なんで?というか、告白をしなおすって?
「昨晩はあんなに熱烈だったのにネェ?なんで一晩経っただけでヘタレ毛玉に戻っちゃってるのサ」
「な、んの…なんの、話ですか……?」
「ナニ?本当に覚えてないノ?」
「……」
はあ、と大きなため息。嘘じゃないかラ、と前置きされて夏目くんは話しはじめる。
「昨夜、センパイはボクに告白をしたんだヨ。それも熱烈に、酔っ払いながらたどたどしい口調でネ。ボクとしては好きな人に告白されて嬉しかったけれド……酔ってたから翌朝がどうなるかなと思っていたんダ……マァ、見事にボクの考えが当たるなんテ、センパイに少しイタズラを仕掛けたくなるのは仕方ないでショ?」
つらつらと並べ立てられる言葉に追いつけず、思考の整理がしたいとストップをかける。
「夏目くん、それって……」
「なにかナ?とうとう脳みそまでやられて処理落ちでもしたノ?」
「俺、告白したんですか」
「うン。されたヨ」
「……その告白って、秘密の告白……とか?」
「たしかに秘密の告白といえばそうだけド…ここまで聞いて分からないのは一種の才能だネ。恋心をさらけ出していた、と言えばさすがに解るかナ」
ざあ、と血の気が引いた。死にそうな顔をしている俺を見て、夏目くんはおい、と俺の腹を軽く殴る。
「あれハ、間違いだったとか言うなヨ」
「で、でも──」
ばすん、とまた一撃。夏目くんが、今度は逆に俯いている。なんで、と混乱する中で、夏目くんの肩が震えていることに気づく。
「え?……え?なんで、……もしかして、泣いてます、か……?」
「黙レ」
「夏目くん!?ごめ、ごめんなさい、君を傷つけるつもりは──」
「じゃあ、もう一度、告白してヨ」
「は、はい!だから泣かない……で……?」
夏目くんが顔を上げた。俺は泣き腫らした彼の顔を思い浮かべてどう謝ろうか迷っていた。
なのに、彼はケロッとしていて。涙のあとはあっても、目は赤くなっていないし、というか、にんまりと笑っている。
「ハメましたね!?」
「アハハッ!騙される方がマヌケなだけダ!」
げたげたと笑う彼に、毒気を抜かれて力がぬける。
「酷いです……」
「この状況で思い至らないセンパの方が酷いと思うんだけド?」
それはそうだ。言い返せないでいると手を差し出される。
「センパイ?というわけデ、エスコートぐらいしてくれないのかナ?せっかくの朝がラブホなんて台無しだからネ」
「エスコートですか…というかここ、ラブホだったんですか?」
「うん。まぁ打算とか下心もあるけド、昨夜のセンパイが今にも吐きそうだったから適当にネ」
打算だの下心なんてワードは流して、そうですか、と返す。
彼は本当に俺を翻弄するのが楽しいようで。こんな子を好きになった俺も大概だけど、こんな俺に付き合う彼も大概だ。破れ鍋に綴じ蓋なのだろう。相性が良ければ、それでいいか。
「それで、どこへ行きましょうか」
「とりあえずゆっくりふたりきりで話が出来るところへ、かナ」
ベッドから下りると服はシワだらけ。一度帰った方が良さそうだ、なんて思っていたら手をきゅっと握りしめられる。
驚いて隣を見る。夏目くんは見たこともないくらい嬉しそうにしていて、続いた言葉に機嫌の良さがありありと詰まっていた。
「さぁセンパイ、早くエスコートしテ。満足させてもらわなきゃ告白の返事はしないヨ…♪」
「あはは…お手柔らかにお願いしますね」
夏目くんの手を握りかえせば及第点、とだけ返される。視線を逸らしたのがわざとらしくて、照れているのかな、なんて。
きっとかわいいこの子に、今までよりもっと振り回されるんだろう。でも、それすら幸せだと思えてしまう。
夏目くんの一挙一動に困らせられる未来が見えて、俺は苦く笑ったのだった。
