2023年〜2024年に書いたもの

──青葉さんは好い人だと皆さんおっしゃられますよね。今回の映画は特にそういった役を演じていましたが、撮影中の好青年然としたエピソードなど具体的にあるのでしょうか?
「⋯⋯⋯ふうン」
 目を通していた文章は、あまりに馬鹿馬鹿しくて思わず手にしていた雑誌を机に置いた。するとカウンターキッチンでココアを作っていたつむぎが夏目を呼ぶ。
「夏目くん?どうかしましたか〜?」
「なんなノ?このインタビュー」
「えぇ?なにって?」
 ソファに腰掛け、むすっと不機嫌そうに雑誌を睨みつけている夏目の前にマグカップを置き、つむぎが顔をのぞき込んだ。
「センパイ、ほんっとお人好しキャラだよネ」
「あはは、そうですか?」
「そんなに優しくないくせ二、外面はいいんだかラ。いつか詐欺で訴えられるんじゃないノ?」
 当たり前のように二人がけのソファの隣に座ったつむぎ。手を伸ばして夏目の頬をなで、落ちていた髪を掬って耳にかける。手慣れた動作に苛ついて、ばしんと手をはたく。
「触るナ」
「なんで不機嫌なんですか⋯⋯」
「わからなイ?」
 つむぎは気にもしてないようで、叩かれても懲りずに夏目に触れていた。指が絡んで、きゅうと握りしめられる。夏目のものより少し高い温度に、大きくてゴツゴツした指に、心臓がうるさく騒ぎ始めてしまう。それがひどく気に食わなかった。
「センパイ」
「はい?」
 のほほんと笑う顔に、さらに虫の居所が悪くなる。鼻をつまんで、ばか、とつぶやく。
「ほんっとバカ、バカ青毛玉、青モジャ、毛玉星人」
「どうしたんですか〜?……なんだか、君らしくありませんよ」
 その言葉を伝えるかどうか散々まよう。けれど結局言わないという選択肢を選べないと思ってしまって。本音をこぼせるのは、つむぎが許してくれるだろうとわかっているからでしかない。だから、こんな醜い嫉妬すら、さらけ出そうという気になってしまう。
 
 すべて、つむぎが悪いのだ。
 
「――大切な人以外に、そんなに優しくする必要あるのかヨ」

 ぼそりとつぶやいた小さな声。彼に届かなくてもいいと思って、でもわかってほしかった。複雑な心模様に、鈍感なこの男がわかるのだろうかとおそるおそる視線を横に向ける。怯えと、期待で半々だった。
「……なんて顔してるのサ」
「えっ…………え?えっ??」
「っ、うるさイ!!もう寝るから手を離セッ……!!」
 立ち上がろうとした夏目の、絡んでいた指がさらに痛いほど握られる。ぐんと引っ張られ、ソファに逆戻りだ。つむぎの膝の上に不格好に落ちて、顔を上げて睨みつけようとした。は、と口を開いて文句を言おうとして、固まる。

 真っ赤な顔をして、相好を崩した表情で夏目を見ているつむぎがいたからだ。

「……嫉妬、してくれたんですか」
「ッ!……してなイ!」
「俺が、優しすぎるからイヤになった?」
「っ、〜〜〜〜っ!!そこまでわかってるなら言うナ!!」
 逃げ出そうにも腰にまわった腕ががっちりと夏目の体を捕まえていて動けない。見なくてもわかるほどに顔が暑い。暖房のせいにするには空調は完璧過ぎた。
「夏目くん、こっち見て」
「嫌ダ……!」
「照れ隠しですか?」
「ちがっ……ん、う」
 温かい熱が唇をふさぐ。キスされた、と理解したときには薄く開いたくちびるを割って舌が入り込んでいて。
 ちゅ、ちゅ、と淫らな音を立てて舌が口腔内の弱いところをなぞりあげる。体はびくびくと反応して、思考はとろりと溶けていく。
「っ、は……夏目くん」
 くちびるが離れた。
 囁く声が鼓膜を撫でる。ぞくぞくと甘い痺れが背筋をかけた。
「嬉しかったんです。君が、わかりやすく好意を伝えてくれたから」
「……ソウ」
「それにね?俺、そんなに言われるほど良い人じゃありませんよ」
 にっこりと人の好さそうな顔で笑うつむぎに、知ってる、と小さくかえす。せめてもの抵抗に、ぺちんと頬を叩いて両手で挟み込む。
 驚いた顔で抗議しようとした唇に自分のを重ね合わせた。触れるだけの軽いキスだ。
「……確かニ。いい人ならボクにこんなことするわけないしネ」
 ぼかんと呆ける顔を見て、すこしはスカッとした。喉を鳴らして笑っていると、夏目を抱きしめる腕の力が少し強くなる。
「……俺がこんなことをするのは、君にだけですよ?君だから、俺は良い人じゃないままでいられるんです」
「あっソ」
「それに君だって、夏目くん以外に俺がこうやって、乱暴なことしていたら嫌でしょう?」
「……その言い方は癪に障るナァ、ボクが乱暴にされて喜んでるみたいに言わないでくれル?」
「乱暴な俺も好きですよね、君」
「さんざん暴行して後悔させながら殺してやる」
「怖っ!?」
 ば、と身を引いた彼を見て、ため息が出る。ああ、可愛くない。自分がいちばんわかっている。こういうときに真面目に返せない自分が、いちばんよく。
「まァ、冗談だヨ。軽いジョーク」
「本当ですか〜?その割には目が怖いんですけど⋯⋯」
 怯えるように腕を擦るつむぎを見て、ふんと鼻を鳴らす。そのまま夏目がするりとつむぎに近寄った。首に手を回したかと思うと思い切り、下に引っ張られる。痛いと喚いた声は無視した。

「……ボク以外に、こういうあなたを見せちゃダメだかラ」
「わかっていますよ」

 微笑むと、夏目はふいと顔を逸らしてソウ、と小さく答える。
 ──夏目くん、嬉しいのかな。だとすると俺も嬉しいな。そう思っているのがまるわかりなふわふわとした笑顔。なんだか無性に腹が立って夏目はつむぎを睨みつけ、足を組んでマグカップに手を伸ばしたのだった。
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