2022年に書いたもの
――ちり、と軽い痛みが走る。
(あ、まただ)
閉じていた瞳を薄く開くと、視界には男にしては長いまつ毛が見えた。琥珀色の綺麗な瞳は今は閉じられていて、欲に濡れているであろうその色を見ることが出来ない。
かし、とまた舌先に軽い痛み。少し強い力に、思わず夏目の後頭部に回していた指先がぴくりと震える。
――青葉つむぎの恋人は、キスをしている時に舌を噛むクセがあるのだ。
▷▷
そのクセに気付いたのはわりと最近で。付き合いだしてから数ヶ月経って、ハグもキスもその先も終えた間柄になってからだった。
夏目にキスをすると、びくっと驚いたように体が震える。慣れてくれないなぁと思いながらも舌をねじ込むとおずおずと舌が絡む。最初の頃は触れるだけのキスをするだけで殴られてたのにな、と少し感傷のようなものに浸る。
「っ、ン⋯⋯」
舌を絡め、ぢゅうと吸っては口腔内を撫でていくと、次第に夏目からは鼻に抜けるような甘い声が盛れ出していく。この手で開く、この感覚はいつまで経っても、何度経験しても暗い欲望がじわじわと満たされていくのだ。陶酔しそうになる。
恋人を味わうように、喰らい尽くすみたいなキスをしていると、夏目の舌がねだるように触れる。にゅるにゅると粘膜が擦れ合う独特の感覚に腰の辺りにゾワゾワとした欲が募って。後頭部と背中に手を回し、がっつりと抱きしめる。
キスに溺れていた時、ちりっと痛みが舌に走る。驚いてん、と声を漏らせば夏目がうっすら瞳を開いた。
「……っぷ、ハァ……」
「ふ、……夏目くん?」
「……なんでガン見してるんだヨ」
「可愛いからですよ〜?それ以外にあります?」
ぷい、と顔をそらされた。ついでとばかりに胸元を手でグイグイ押し戻される。もう下は臨戦態勢なのに拒絶するんですか、と泣きつけば頭突きを食らう。
「痛い!!なんでですか〜!?」
「……キスまで許してるんだかラ、もっと殊勝に喜んでほしいネ」
「キスまで、じゃなくて「だけ」でしょう、もう」
わりと淫靡な空気になると押せば簡単に許してくれる恋人は、今日はどうやら本当にしたくないようで。恋の駆け引きなんてあまり面倒でしたくないが、この子がどうすれば堕ちてくれるか考えるのは楽しいのだ。だから、引き際ももちろん重要。
じゃあ、なんて言って仕切り直しとばかりにもう一度くちびるを重ねた。
角度を変え、キスを深めていくとまた痛みが舌先に走る。噛まれたのだ、と気づいた時には夏目はつむぎの舌をかしかしと噛んでいた。
(⋯⋯うぅん、少し痛いですね)
キスの合間は目を閉じろと何度も言われているが、そんなこと守る気もないので瞳を開く。嫌がって噛んでいるのかと思ったが、朱に染る目尻と甘ったるい矯声はそ
うでもないと言っていた。
――そうして、その日からなぜか夏目は深いキスの際に時折舌を噛むようになる。
▷▷
今日もまた、舌を噛まれていた。
師走に入り、慌ただしい事務所内。ようやく雑務が終わったところに夏目が入ってきたのだ。そして仮眠室に連れ込まれ、という具合で。
キスだけならいい、と珍しく許されたことでつむぎは舞い上がっていた。疲れすぎてテンションがおかしかったこともある。じいと夏目を観察するように目を開いて最初からキスをしていて。彼の全てを見ていたくて、その存在を感じて愛おしさに悶えたくて、ひく、と時折震えるまつ毛を見ていた。かわいいなぁ、なんでこんなに愛おしいんだろう、なんて馬鹿みたいなことを考えつつ貪り尽くすキスをして。
そして、夏目がかしかしとつむぎの舌先を噛み始めた。
甘噛みのその行為はどうやら無意識のようで。キスがある程度深くなり、彼の思考が緩やかに停止した時に出てくるクセだとつむぎは考える。重ねるだけから、くちびるをわって中に侵入したはじめは噛まれることもない。
けれど、彼が快楽に堕ちていくように時間が経つと噛むのだ。下手くそということか、なんて不安に思ったこともあるが、声を聞く限りそうでもないようで。
(なんで噛むんでしょうね)
可愛い恋人の、(おそらく)甘えた行為。
可愛らしいのだが、なんでわざわざ痛みを伴う甘え方をしてくるのか。わからないし聞く必要も無いので尋ねることはしない。もちろんそれで解明されることはないが、可愛いと思えば可愛い。
だって、つむぎだけが知る夏目の甘え方なんて、つむぎただひとりが知っていればいい。もちろん誰にも言うつもりもない。
いや、夏目本人にすら知らせたくないと思ってしまう。
――それはさすがに独占欲が強すぎるだろうか。
つむぎたったひとりだけが知る甘えグセ。その言葉の密やかな甘さにドキドキと胸が高鳴る。指摘して、治されてしまっても嫌だから、痛みが強くなりすぎなければずっと自分の心の中に秘めておこう。
重症だと笑われてしまうだろうか。
でも、知るのがつむぎ以外に居なければ笑われることもないだろうし。まあいいか、と結論付けて恋人との時間に意識をもどし、その口腔内を味わうことにしたのだった
(あ、まただ)
閉じていた瞳を薄く開くと、視界には男にしては長いまつ毛が見えた。琥珀色の綺麗な瞳は今は閉じられていて、欲に濡れているであろうその色を見ることが出来ない。
かし、とまた舌先に軽い痛み。少し強い力に、思わず夏目の後頭部に回していた指先がぴくりと震える。
――青葉つむぎの恋人は、キスをしている時に舌を噛むクセがあるのだ。
▷▷
そのクセに気付いたのはわりと最近で。付き合いだしてから数ヶ月経って、ハグもキスもその先も終えた間柄になってからだった。
夏目にキスをすると、びくっと驚いたように体が震える。慣れてくれないなぁと思いながらも舌をねじ込むとおずおずと舌が絡む。最初の頃は触れるだけのキスをするだけで殴られてたのにな、と少し感傷のようなものに浸る。
「っ、ン⋯⋯」
舌を絡め、ぢゅうと吸っては口腔内を撫でていくと、次第に夏目からは鼻に抜けるような甘い声が盛れ出していく。この手で開く、この感覚はいつまで経っても、何度経験しても暗い欲望がじわじわと満たされていくのだ。陶酔しそうになる。
恋人を味わうように、喰らい尽くすみたいなキスをしていると、夏目の舌がねだるように触れる。にゅるにゅると粘膜が擦れ合う独特の感覚に腰の辺りにゾワゾワとした欲が募って。後頭部と背中に手を回し、がっつりと抱きしめる。
キスに溺れていた時、ちりっと痛みが舌に走る。驚いてん、と声を漏らせば夏目がうっすら瞳を開いた。
「……っぷ、ハァ……」
「ふ、……夏目くん?」
「……なんでガン見してるんだヨ」
「可愛いからですよ〜?それ以外にあります?」
ぷい、と顔をそらされた。ついでとばかりに胸元を手でグイグイ押し戻される。もう下は臨戦態勢なのに拒絶するんですか、と泣きつけば頭突きを食らう。
「痛い!!なんでですか〜!?」
「……キスまで許してるんだかラ、もっと殊勝に喜んでほしいネ」
「キスまで、じゃなくて「だけ」でしょう、もう」
わりと淫靡な空気になると押せば簡単に許してくれる恋人は、今日はどうやら本当にしたくないようで。恋の駆け引きなんてあまり面倒でしたくないが、この子がどうすれば堕ちてくれるか考えるのは楽しいのだ。だから、引き際ももちろん重要。
じゃあ、なんて言って仕切り直しとばかりにもう一度くちびるを重ねた。
角度を変え、キスを深めていくとまた痛みが舌先に走る。噛まれたのだ、と気づいた時には夏目はつむぎの舌をかしかしと噛んでいた。
(⋯⋯うぅん、少し痛いですね)
キスの合間は目を閉じろと何度も言われているが、そんなこと守る気もないので瞳を開く。嫌がって噛んでいるのかと思ったが、朱に染る目尻と甘ったるい矯声はそ
うでもないと言っていた。
――そうして、その日からなぜか夏目は深いキスの際に時折舌を噛むようになる。
▷▷
今日もまた、舌を噛まれていた。
師走に入り、慌ただしい事務所内。ようやく雑務が終わったところに夏目が入ってきたのだ。そして仮眠室に連れ込まれ、という具合で。
キスだけならいい、と珍しく許されたことでつむぎは舞い上がっていた。疲れすぎてテンションがおかしかったこともある。じいと夏目を観察するように目を開いて最初からキスをしていて。彼の全てを見ていたくて、その存在を感じて愛おしさに悶えたくて、ひく、と時折震えるまつ毛を見ていた。かわいいなぁ、なんでこんなに愛おしいんだろう、なんて馬鹿みたいなことを考えつつ貪り尽くすキスをして。
そして、夏目がかしかしとつむぎの舌先を噛み始めた。
甘噛みのその行為はどうやら無意識のようで。キスがある程度深くなり、彼の思考が緩やかに停止した時に出てくるクセだとつむぎは考える。重ねるだけから、くちびるをわって中に侵入したはじめは噛まれることもない。
けれど、彼が快楽に堕ちていくように時間が経つと噛むのだ。下手くそということか、なんて不安に思ったこともあるが、声を聞く限りそうでもないようで。
(なんで噛むんでしょうね)
可愛い恋人の、(おそらく)甘えた行為。
可愛らしいのだが、なんでわざわざ痛みを伴う甘え方をしてくるのか。わからないし聞く必要も無いので尋ねることはしない。もちろんそれで解明されることはないが、可愛いと思えば可愛い。
だって、つむぎだけが知る夏目の甘え方なんて、つむぎただひとりが知っていればいい。もちろん誰にも言うつもりもない。
いや、夏目本人にすら知らせたくないと思ってしまう。
――それはさすがに独占欲が強すぎるだろうか。
つむぎたったひとりだけが知る甘えグセ。その言葉の密やかな甘さにドキドキと胸が高鳴る。指摘して、治されてしまっても嫌だから、痛みが強くなりすぎなければずっと自分の心の中に秘めておこう。
重症だと笑われてしまうだろうか。
でも、知るのがつむぎ以外に居なければ笑われることもないだろうし。まあいいか、と結論付けて恋人との時間に意識をもどし、その口腔内を味わうことにしたのだった
