2022年に書いたもの
夏目くん、と聞きなれたつむぎの声がした。ニューディの事務所のあるフロアを歩いていたら、暗がりに引きずり込まれたのだ。
いきなり腹に腕を回され、なんだよ、と悪態をつこうと思って後ろを向いた。その途端、頬に手が添えられてくちびるが重なったのだ。おどろいて、動きが止まる。その間に手早く身体は抑え込まれて壁に押し付けられた。
ちゅ、と唇を触れ合わせるだけのキスが何度か続いて、リップ音がいちいち耳に届く。
かたくなに深まらないから、理性がジリジリと焼かれていくようなもどかしさだけがつのる。
いつもの食べられるのではないかと思ってしまうようなキスとはちがっていて。
「っ……」
キスの合間にひとみをかすかに開く。
飛び込んできたのは愛おしそうに目を細め頬をそめて、痴態ともいえる夏目の表情をじいと見ていた、いつもより獣性にそまった男のかお。
気圧されるようにヘーゼルから視線をはずす。あけたばかりの瞳を伏せ、視界からすべてを追いだした。すると過敏になった聴覚と触覚が心を焼き焦がして。
ふわりとすこしかさついた薄いくちびるが何度も降ってくる気配を感じた。
じわりと高められていく欲望に、けれど触れあわせるだけで頭がバカになるような気持ちよさはなくて。
────こ、れは、ちょっと、やばい、かも
ふにふにとたまに下唇を食まれたりはするが、それだけで。ひとつの生き物みたいな長い舌が唇をひらくことはしない。ずっと、先程から触れあうだけ。その先を求められることはなくて。
口唇をついばまれるたびじわりじわりと熱を煽られているのに、あがりきる前にその熱が遠のいてしまう。
はっきりいって、ものたりない。
いつもみたいに、舌で口のなかの気持ちいいところをこすって、舌を絡めて、ぐちゃぐちゃに犯してほしい。息すら奪うような、情熱的で暴力的な、優しくてひどいキスをしてほしい。
あまい唾液を、こくりと飲み干して、いい子とでもいうようにうしろに添えられた手で髪をなでてほしい。
そうは思っても、深まることのない子供みたいな戯ればかり。もどかしさに、じりじりと理性の糸が焼き切られていく感覚がする。
自分から求めるなんて、スマートではない。それにキャラとしても違う。絶対にこの男の前で、その隣に立つのに相応しくないようなふるまいなんてしたくないのに、本能が、欲望があまい快楽を与えられたいとさわぐ。
きゅ、と指先で服のすそを掴んだ。それに気づかれたのかキスがとまる。おそるおそる瞳をひらけば、熱を宿した瞳とかちあった。
「……何」
「あ、えーっと、もしかして、なんですけど」
にらみつければ、照れたように眉が下がってふにゃりと微笑まれた。苛立つが、このさきをつむぎの方から提案してくれるとなれば止める意味なんてない。
鼓動はやけに早鐘をうち、密着したところからうるさい心音がバレるのではないかとドキドキする。
この先に欲しかったものがある。ようやくそれを、与えてくれる。期待でざわついた。
唇が開いたのをぼんやりと見る。
とくりと胸が高鳴って──
「……キス、気持ちよくありませんでしたか?」
「────ハ?」
「なんだか、不機嫌そうですし……いつもキスする時はしつこいって怒られてしまうから触れるだけにしたんですけど、これもダメ、でした?徹夜明けなので、あまり感覚が戻らなくて……」
「……」
ちがう、そうじゃない。はくはくとくちびるが震えた。なんでこいつはこんなにおかしいんだ?欲望をおさえて怒りがあふれてくる。ふるりと震えた手を握りしめ、思いっきりふりあげた。
「────さいってい!!」
「あ痛ぁっ!?」
腹を思いきり殴りつけ、痛みでよろけた体から距離をとる。そのまま蔑むようにしゃがみ込んだつむぎを見下ろして、死ねと吐き捨てて逃げ出したのだった。
いきなり腹に腕を回され、なんだよ、と悪態をつこうと思って後ろを向いた。その途端、頬に手が添えられてくちびるが重なったのだ。おどろいて、動きが止まる。その間に手早く身体は抑え込まれて壁に押し付けられた。
ちゅ、と唇を触れ合わせるだけのキスが何度か続いて、リップ音がいちいち耳に届く。
かたくなに深まらないから、理性がジリジリと焼かれていくようなもどかしさだけがつのる。
いつもの食べられるのではないかと思ってしまうようなキスとはちがっていて。
「っ……」
キスの合間にひとみをかすかに開く。
飛び込んできたのは愛おしそうに目を細め頬をそめて、痴態ともいえる夏目の表情をじいと見ていた、いつもより獣性にそまった男のかお。
気圧されるようにヘーゼルから視線をはずす。あけたばかりの瞳を伏せ、視界からすべてを追いだした。すると過敏になった聴覚と触覚が心を焼き焦がして。
ふわりとすこしかさついた薄いくちびるが何度も降ってくる気配を感じた。
じわりと高められていく欲望に、けれど触れあわせるだけで頭がバカになるような気持ちよさはなくて。
────こ、れは、ちょっと、やばい、かも
ふにふにとたまに下唇を食まれたりはするが、それだけで。ひとつの生き物みたいな長い舌が唇をひらくことはしない。ずっと、先程から触れあうだけ。その先を求められることはなくて。
口唇をついばまれるたびじわりじわりと熱を煽られているのに、あがりきる前にその熱が遠のいてしまう。
はっきりいって、ものたりない。
いつもみたいに、舌で口のなかの気持ちいいところをこすって、舌を絡めて、ぐちゃぐちゃに犯してほしい。息すら奪うような、情熱的で暴力的な、優しくてひどいキスをしてほしい。
あまい唾液を、こくりと飲み干して、いい子とでもいうようにうしろに添えられた手で髪をなでてほしい。
そうは思っても、深まることのない子供みたいな戯ればかり。もどかしさに、じりじりと理性の糸が焼き切られていく感覚がする。
自分から求めるなんて、スマートではない。それにキャラとしても違う。絶対にこの男の前で、その隣に立つのに相応しくないようなふるまいなんてしたくないのに、本能が、欲望があまい快楽を与えられたいとさわぐ。
きゅ、と指先で服のすそを掴んだ。それに気づかれたのかキスがとまる。おそるおそる瞳をひらけば、熱を宿した瞳とかちあった。
「……何」
「あ、えーっと、もしかして、なんですけど」
にらみつければ、照れたように眉が下がってふにゃりと微笑まれた。苛立つが、このさきをつむぎの方から提案してくれるとなれば止める意味なんてない。
鼓動はやけに早鐘をうち、密着したところからうるさい心音がバレるのではないかとドキドキする。
この先に欲しかったものがある。ようやくそれを、与えてくれる。期待でざわついた。
唇が開いたのをぼんやりと見る。
とくりと胸が高鳴って──
「……キス、気持ちよくありませんでしたか?」
「────ハ?」
「なんだか、不機嫌そうですし……いつもキスする時はしつこいって怒られてしまうから触れるだけにしたんですけど、これもダメ、でした?徹夜明けなので、あまり感覚が戻らなくて……」
「……」
ちがう、そうじゃない。はくはくとくちびるが震えた。なんでこいつはこんなにおかしいんだ?欲望をおさえて怒りがあふれてくる。ふるりと震えた手を握りしめ、思いっきりふりあげた。
「────さいってい!!」
「あ痛ぁっ!?」
腹を思いきり殴りつけ、痛みでよろけた体から距離をとる。そのまま蔑むようにしゃがみ込んだつむぎを見下ろして、死ねと吐き捨てて逃げ出したのだった。
