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フェリ菊短編集

「星に願いをかけると叶うんだって!」
すれ違う子供たちが言ってることを聞いて思い出す。昔、そんなことを言っていた人がいたなあ。
まだ幼い頃、数回会っただけの黒髪の青年に恋をした。初恋、ではなかったけれども。二回目の恋は彼に捧げた。その人はいつも白いベッドで本を読んでいた。あとから知ったのだけど、彼は病弱で外へ出られなかったのだそうだ。とても儚げで、綺麗で。その人は優しかった。数十年たった今でも思い出す。頭を撫でられて、優しく微笑まれたことを。
名前はキク、と言っていたな。彼は今も生きているだろうか。ある日突然いつものベッドの上からいなくなった彼は、今もどこかで誰かにその優しさを振りまいているのだろうか。
『星に願いを、月に祈りを。フェリシアーノくん。叶えたいことがあるのなら夜、空を見上げてみてください。きっと貴方の願いは叶いますよ』
星に願いをかけたら、月に祈りを捧げたら、彼にまた会えるのだろうか。
「そんなわけないかぁ…」
「……あの、すみません」
「はい?」
感傷にくらい浸らせてほしいなぁ。声をかけられたのでそちらを振り向く。視界に映ったのは、黒い髪と、病的なほどに細い体。優しく微笑んだ彼は、俺の名前を呼んだ。
「お久しぶりですね、フェリシアーノくん。覚えていますか?私のこと」
「そんな……嘘」
思わず、抱きしめていた。その体温を確かめたくて。
「キク……キク!おかえり!……体は、大丈夫なの?外に出て平気?」
「あら、そんなことまでバレていたのですか。体のことは伝えないで、と言っておいたのに」
その体は、あの頃みたいに大きくなかった。細くて、小さくて、すごく怖くなった。
「……そういえば、なんでこの町に?帰ってきたの?」
「……ええ。最後に、貴方に会いたくて」
「…………さい、ご……?」
「フェリシアーノくん。私は、貴方に救われた。貴方のおかげで生を諦めなくてすみました。私を生かしてくれて、本当にありがとうございました」
「……キク!そんなこと言わないでよ!そんな、こと……」
「さようなら、フェリシアーノくん」
キクの体が淡く光る。体の線が薄れていく。腕の中の体温が、徐々になくなっていく。
「いやだ、いやだよ!いかないで!ねえキク!置いていかないで!!」
「……ごめんなさい」
最後に見たキクは、とても綺麗だった。
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