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朝菊短編集

冬の足音が近づいてきた街で菊はコンビニで買ったカフェオレを片手に裸になった木にもたれかかり足早に歩く人々を見ていた。菊は今、人を待っている。相手は恋人、と言っていいのかわからないが友人以上の関係の男。一通りキスやらセックスやら済ませたが果たして恋人かと問われればそうでもないと首を振るしかない。同性同士で、年の差も結構ある。それに彼はイギリス人で見目麗しい。女遊びも激しい。人前でおおっぴらにエロ本を読むような男だ。そんな彼は日本人で童顔でちんちくりんの私と長年の付き合いである。私の友人の兄に当たる彼とは友人を介して知り合った。私がまだ中学生の時だ。彼はその時既に成人しており、私が彼のことを好きだと知っていた。高校生にあがると私は彼に処女を喰われた。童貞卒業より処女卒業の方が早い男とは。まあ、大学生の今でも童貞卒業する予定は未定なのだが。
マフラーにくるまって分厚い手袋にピーコートで完全防備の菊はまだかろうじて温かいカフェオレを飲み干す。彼が遅いのはいつものことだ。最悪ドタキャンされる。今日は何時間遅れで来るのか、いや来ないかも。そんなことを考えつつ時計を見る。待ち合わせから二十分経っていて寒空の下ここから何時間も待つのかと思うと身がすくむ。近くの本屋にでも、と思いその場から立ち去ろうとしたとき、菊を呼ぶ声がした。
「キク」
「あ、カークランドさん」
長い金髪を赤いリボンで縛った翠眼の美青年が立っていた。菊の待ち人だ。顔は自信に満ち溢れてるようでどこか偉そうなのは彼のデフォルトだ。実際偉いんだけど。
「今日は早いですね」
「ん、ああ、髭に仕事任せてきた」
「フランシスさん可哀想」
「そんなことより行くぞ」
アーロン・カークランドは世界的に大企業で英国に社を構えるカークランド一族の次期当主である。華々しい見目と傲岸不遜ながらも実力主義者で力のある者を素直に評価する彼のカリスマ性に惹かれる人間は少なくない。本田菊もその一人だった。中学生のころ、友人のアーサーの家でアーロンを見て以来恋心をこじらせている。アーロンも菊のことを少なからず好いているらしく、よく遊び誘われたり気まぐれに体を重ねたりしている。今日はアーロンから誘われてディナーを共にとる予定だ。
「ちなみに今日は何料理ですか?」
「この前食いたいって言ってたイタリアンだ」
「ありがとうございます」
「お前ほんと食いもん好きだな。日本人は食べ物に目がない」
「イギリス人は食を疎かにしすぎなんですよ」
そんな雑談を交えて高級ホテルに入っていく2人。イタリアンはすぐそこだ。


▷▷


「キク」
「はい?」
「どうした?」
「なにが、ですか?」
食事も終わり今日はホテルに泊まると言われて菊はアーロンの後をついて部屋に入った。するとアーロンは菊に座れと促したあとテーブルを挟んでアーロンも椅子に腰掛けた。そして、問う。高圧的な顔で、声で、全てをさらけ出せと王者は菊に言う。
「隠せるとでも思っていたか?俺も甘く見られたもんだな」
「………」
「キク、話せ」
「…………」
「そうか。ならこっちもそれ相応の態度をとらせてもらう。手酷くされても怒るなよ」
アーロンはネクタイを片手で取り去ると菊を乱暴に抱き上げベッドに下ろした。


▷▷


「っ、や、ぃ、やだ…!」
「なにが、いや、なんだよ、おらっ!」
肉と肉がぶつかり合う音が粘着質な水音と絡まり卑猥な音が部屋に響く。菊は前戯もそこそこに苛立ったアーロンになかば強姦のように犯されていた。菊にどれだけなにが気に食わないのか聞いても答えようとしないためアーロンのもともと破裂寸前の堪忍袋の緒が切れたのだ。手酷く抱かれているのに、菊はそれでもアーロンを美味しそうに飲み込む。口では嫌だ、嫌だと言っているが腰が揺れているのはアーロンと長く体を重ねるようになって調教のたわものだろう。
「キク、いい加減にしろ」
アーロンは冷酷な瞳で、低い声音でキクに最後通告を渡す。これ以上話すのを拒んだら、何をするかわからない。菊はゾッとした。滅多に本気で怒らない彼は怒ると怖いどころの話ではない。しかし、菊にも言いたくないことはある。それでも口を噤む菊を見て、アーロンはため息をついた。
「仕方ねぇな」
諦めてくれたのか、菊はホッとする。しかしアーロンはその隙を狙って挿抜を激しくする。がちゅ、ばちゅ、とアーロンのペニスが菊の胎を強引な力で犯す。菊はたまらず悲鳴のような喘ぎ声をあげた。
「あ゙!っ、ヴあぁ、あ、っ、ぅん!」
「はっ、トぶな、よっ、じごう、じとくだっ!」
「あ、あ゙、ぅあ゙、っ〜〜〜〜♡♡♡」
菊は涙を浮かべて虚ろに焦点のあっていない瞳でアーロンを見た。やめて、やめて、ごめんなさい、おかしくなる。どうにか言葉にしようとしても激しすぎるピストンのせいで、過ぎた快楽のせいで、言葉が頭から抜け落ちて意味の無い母音が口から漏れ出る。アーロンのそれは、力任せというより確実に悦いところを突いてきていて、いつもみたいな思いやりであふれた優しいものではない。強すぎる快楽は毒でしかない。アーロンはそれを知っているのだろう。だからこそこんな、酷いセックスをしているのだ。
そうして菊は今日何度目かもわからないまま、絶頂へ達して果てた。くたりと出し尽くして萎えた菊のペニスをアーロンはおもむろに掴んだ。急所を握られることへの恐怖で菊の霧散していた意識は急速に正常に戻る。アーロンを恐る恐る見ると意地の悪い笑みを浮かべていて、恐怖でひっ、と菊は息を呑んだ。
「まさかこれで終わりとは思ってねぇよなぁ、キク?これは、お仕置きだ。許さねぇよ」
ギラギラした嗜虐的な獰猛な瞳は綺麗とは言い難いほど澱んでいた。アーロンのペニスが菊の中からズルりと抜かれる。敏感になった菊の体はそれだけで快楽を拾って思わずうわずった声を出してしまう。アーロンはくつくつと笑ってベッドサイドテーブルの引き出しから小瓶と手錠を取り出した。嫌な予感がした菊はさあ、と顔から血が引くのがわかった。
「あ、いや、なに…」
「いやじゃねぇよ。なぁに、少しばかりヨくなれる薬だ。後遺症はないから安心しろ」
「や、やめて、おねが」
アーロンは菊の手をまとめて手錠で後ろ手に縛り、小瓶のコルクを開ける。とろりとした液体は菊の尻の窄みに垂らされた。それだけでは足りずさらに乳首、口内、へそなどあらゆる性感帯に塗りたくられる。彼のささくれだった大きい手が、白く細い綺麗な指が、菊の体に丹念に液体を塗り込む。ごくり、喉がなった。それをアーロンは鼻で笑うと意地悪な顔をして、菊から離れた。どこへ行くのかと彼をぽかんと見ていると彼は窓際にあるテーブルにワインセラーからワインを持ち出すと酒盛りをしはじめた。なにをしてるんだという顔でアーロンを見ていると彼はふっと笑った。
「その媚薬は即効性じゃねぇんだよ」
「…はい?」
「遅効性だから効いてくるまで時間がかかる。そのうち体に熱が燻りはじめるだろうな。そのとき、お前は耐えられるかな?」
「っ…」
菊はこれから襲い来るであろう地獄に震えるしかなかった。

▷▷

「っひ、あ、ぁん、ぅゔ〜〜、あ゙♡」
「どうだ?終わらない快楽の波は。泣くほど気持ちいいか」
菊の神経は敏感になりシーツと体がすれるのすら快楽に変換される。両手が使えないから昂る屹立を自分で扱くことも、後孔をいじることもできない。普段の菊ならばアーロンの前で自慰をしたい、するということを考えることすらできないほどうぶなのだが、媚薬のせいで理性は焼き切れておりただひたすらもどかしい刺激とも言えない刺激に体をくねらせるばかり。触ってほしい。アーロンがほしい。弄って、嬲って、翻弄して。
「っあ゙、ひぅっ、か、くらんど、さ」
「なんだ」
「も、やぁ…おねがっ、おねがい、さわっ、ひぁ゙」
「…これはお仕置きだ、キク」
無慈悲にもアーロンは触れる気はない、と言外に言う。菊はイきたいのにイけない凶暴的な快感の波に口をはくはくと空気を求めるかのように動かして、そのまま唸り声のような、叫び声のような、苦しそうな大声を上げて気絶してしまった。


▷▷


「っ……」
次に菊が目覚めたのは明け方だった。窓から差し込む朝の柔らかな陽光が菊の裸体を照らす。アーロンはどこだ。拘束をといて欲しい一心で彼の姿を探す。
「よお、お目覚めか?眠り姫」
「……か、く、らん、どさ…」
彼を呼びきれずに咳き込む。昨晩は死んでしまうのではないかというほど声を上げてヨがり狂った。とりあえずこの拘束を解いてくれないだろうか。アーロンを見つめる。彼はまだ少し苛立っているようで嫌がっていたが菊の掠れきった声で体調を案じて手錠の鍵を開けてくれた。
「ほらよ、水」
両手がやっと自由になり、拘束されていた間散々抵抗したので手首には赤い跡が残っている。それをアーロンはバツが悪そうな顔で見ていた。
「で、なんでだよ」
ごくごくと音を立ててペットボトルの水を飲み干すとアーロン聞いてきた。
「なんで、とは」
「だから、なんで機嫌悪そうにしてたんだよ」
「……」
「そんなに言いたくないのか」
勝気な彼にしては珍しくしょんぼりしているのはアーロンには素直な菊がどこまでも反抗しているからだろう。
「…………です」
「ん?」
「カークランドさん、他の女の匂いがしてたからです」
「え」
アーロンが驚いて目を見開く。菊は恥ずかしそうに目をそらした。そのまま菊はアーロンにいきおい良く抱き抱えられる。そして姫抱きにされて、嬉しそうなアーロンは菊にキスをした。
「嫉妬してたのかお前」
「………」
「可愛いやつだなぁ」
「…どこへ連れていくおつもりで?」
「風呂場」
「なぜ」
「体洗ってもう1ラウンドしようぜ」
「……いやで」
「拒否権はねぇよ」
「……でも、なぜそんな嬉しそうにするんですか?」
「だってそりゃ、滅多に自分の考えを教えてくれない恋人が初めて嫉妬してくれたんだぞ」
「……恋人なんていたのですか?」
「え」
アーロンは菊が問いかけるとビシリ、と硬直した。不思議そうな菊はアーロンに畳み掛ける。
「…恋人ができたのなら、この関係も終わりにしないといけませんよね。こういうことはちゃんとした恋人さんとやるべきですよ」
「は?」
「?私おかしなこと言いましたか?」
「待て待て待て、お前が俺の恋人だろ?」
「はい?私達ただのセフレですよね?」
「え?」
「え?」
食い違う2人。まさか一番意見の相違したくないところで間違いをおかしていたとは。絶望。
「俺はお前のこと、恋人だと…」
「ええ…でもあなた好きとか言ったことないじゃないですか」
「そうだっけか?」
「ええ」
「………すまん」
「…で、私と貴方は恋人になるんですか?」
「いっ、いいのか…?!」
「先程までの殊勝な貴方はどこへ行ったのです」
「だってよ…」
「いいですよ、恋人になります」
風呂場へついた菊はアーロンにキスをした。
「よろしくおねがいしますね、カークランドさん」
「……アーロンって呼んでくれねぇのかよ」
「………アーロンさん」
「よっしゃ風呂入ったらもう1回シような!」
「え」
途端に嫌そうな顔をした菊はアーロンのご機嫌そうな顔を見て仕方ない、付き合ってあげますか、と不器用な恋人に心中で許しを出した。でも、激しすぎるのは嫌ですよ、とは声に出したけども。
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