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朝菊短編集

やるよ、これ。…いらないです。
あまったからな。やる。……必要ありません。
お前のために買ったんだ。………押し付けないでください!

ああ、ああ、嗚呼!何度目だ、なんと惨めなことか。貴方は私がこう思っていることを当たり前のように知らないのでしょうね。憎たらしい。

大日本帝国の同盟国である大英帝国は少しズレている。彼は日帝に沢山の贈り物をくれる。そのどれもが高価なものばかりで西洋風の物に慣れ始めたばかりの日帝は辟易していた。彼は懐に入り込んだ者にはとことん甘いらしい。それを聞いたのはフランスに英帝の元弟である米帝の話からだった。
毎日のように贈られる宝石や服や車。ひどい時などは英国の土地を贈られた。日帝はそれが彼の癖なのだと理解しながら心のどこかで劣等感に苛まれていた。そんなに身の回りの物や土地や宝石を贈られなければいけないほど自分は醜く、幼いと思われているのか。私は貴方の同盟国として不釣り合いなのか。考えるのはそんなことばかり。そうして今日も日帝は英帝からの贈り物を蔵にしまいこむ。日本にある家の蔵にはそれはもう沢山の英帝の影がちらつく物が溜まりに溜まっていた。
「おい、ジジイ」
「なんですか」
「やる」
そう言われて差し出されるのは大粒のエメラルドが嵌められた指輪。ああ、またか。
「……貴方は、私のことを見ていないのですね」
「は?」
思わずこぼれた文句のような言葉に英帝の言葉尻が上がる。慌てて訂正しようとしても英帝は気分を損ねていた。
「いえ、あの」
「なんだよ、何が不満なんだ?」
暗にこんなに機嫌をとってやってるのに、と言われる。それに日帝は悲しくなった。しかしその程度でしょげるほどポーカーフェイスはゆるくない。
「いつもいつも、こんなに贈り物を」
「何が悪い?」
「貴方は本当に私のことが見えていないのですね」
「だから、なんなんだよ」
英帝の機嫌が悪くなっていくのが手に取るようにわかる。ああ、こんなのではいけないのに。言うつもりなんて無かったのに。
「私が欲しい物を貴方はくださらない」
「はァ?なんだよ欲しい物って」
「ご自分で考えなさいな」
「こんなに沢山やってるんだぞ?」
「だからですよ」
「わけわかんねぇよ」
語気を荒くした英帝は部屋を出ていく。その後ろ姿を見て日帝はほんの少し後悔した。あんな、ふっかけるように、なんてことを。


それからしばらくは英帝からの贈り物はパタリと止んだ。日帝はほっとしたがそれがどこか寂しく思ってる自分に気が付きうんざりした。
それから数日後。
「おい」
「はい?」
「……やる」
またか、止んでいたあのひどい行為が繰り返されるのか。英帝に失望した日帝は顔を上げた。すると。
「…………え」
机の前に立つ彼の両手には抱えきれないほどの多くの大輪の赤い薔薇の花束があった。
「……これは」
「…………お前が本当に欲しい物、考えたんだ。…そしたら、これがいいかもしれないって」
英帝の顔はらしくないほど真っ赤に染まっていた。その姿が、どうしようもなく。たまらない気持ちが溢れてきた日帝は、英帝の前で久しぶりに笑った。
「…はい。ありがとうございます」
「っ?!……くそ」
英帝は何かを呟いたあと、そそくさと部屋から逃げ出した。残された日帝は薔薇の花束を見て、どこに活けようか嬉しい悩み事をする。
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