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梅雨の笑顔

彼の前から逃げるのは何度目だろうか。
雨が春歌の体を打つ。冷たくて、冷たくて。滲んだ涙は雨と共に流れていく。今だけは、全てを雨のせいにしても許されますか、問う声に返してくれる誰かはいない。

春歌がトキヤに告白して、逃げ出したのは家から3駅分遠い路地だった。土地勘が無い春歌はフラフラと歩き回る。雨が体温を奪っていくのがありありとわかる。しかしそれに構う余裕はない。帰りたい、帰りたくない。このまま雨に溶けて消えてしまいたい。免罪符のように全てを雨のせいにして、これからトキヤに会う時にどんな顔をすればいいのか分からなくなったお土産をもたらした自分の行動を嘲笑って、涙とも雨ともつかない雫が頬にしきりに伝う。土砂降りの重く立ち込めた雲に願った。どうか、この涙が枯れるまで、止まないで。
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