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プリ春雑多



パチリ、目が覚めた。
ベッドから上半身を起こし寝ぼけ眼を擦ってベッドサイドにおいてある時計を見ると時刻は2:30。早起きというには早すぎる時間であり、かと言ってこれから眠れるかと言われたら微妙な帯に短したすきに長しといった時間帯。
とりあえず寝起きで乾いた喉を潤すためキッチンへと向かう。
「………?」
キッチンへと続く廊下には、キッチンの方から光が漏れていた。不思議に思い真斗は音を立てないようにキッチンへのドアを少しばかり開く。
「〜〜〜♪」
シンクに立っていたのは真斗の恋人である春歌だった。
まあ、真斗と春歌以外にこの部屋に住んでいる人間はいないのだから当たり前といえば当たり前で。春歌は楽しそうに歌を口ずさみながら小さな鍋で何かを温めていた。
「ハル……?」
「っ!?……あ、真斗、くん」
「どうした?こんな遅い時間に」
同棲しているといっても寝室は別なので彼女がなぜ起きているのかはわからない。怖い夢でも見て眠れなくなったのか、と考えるがそれなら彼女は今こうして歌を口ずさんではいられないだろう。ならばなぜ。疑問に思っていることが顔に出ていたのか、春歌はえっと、と少し慌てながら言葉を発した。
「あのですね、えっと…ついさっき起きてしまいまして…なぜでしょうね、それで、その…」
「ハル、大丈夫だ。落ち着いて話せ。別に俺は怒ったりしない」
「あ、は、はい…そうですよね、はは…」
「それより、温めているその鍋はいいのか?」
「えっ、あ、あ!」
春歌はしゅんとしたと思えば存在を忘れ去っていた小鍋の火を慌てて消す。あわあわと手を意味もなく動かして慌てふためく姿は可愛らしくて真斗は笑みがこぼれた。
「…なんだ、それは」
「あ、はい、ホットミルクです」
ホットミルク。牛乳。真斗が苦手としている飲み物。良い顔が出来ず顔を少し顰めるとそれにこういう時だけ聡い春歌は気づいて別に真斗くんに飲ませたいわけじゃないです、と弁解してくれた。
「それにしてもなぜ?」
「ミルクですか?」
「それもだが、なぜ今お前は起きてここでホットミルクを作っていたんだ?」
「あ〜ええと」
春歌が言うには彼女も2:00に目が覚めてしまいベッドで横になっていたのだが眠れる気配が無く眠る前に取るといいと言われている牛乳、ホットミルクを作ろうとつい先程思い立ち作っていたところ真斗が来た、というわけだった。
「真斗くんも飲みます?」
「……遠慮しておこう」
「ふふ、冗談です」
こぽこぽとお揃いで買った春歌のマグカップに湯気の立つ白い液体が小鍋から注がれる。テーブルに座ってキッチンで小鍋をシンクに置く春歌の後ろ姿を真斗はぼうっと見つめる。
同棲するようになって少し。アイドルとして彼女と同棲しているということがバレたらせっかくここまで掴んできた人気もガタ落ちだ。それでも真斗は春歌と共にいる道を選んだ。その選択に後悔しないでいたい、と切実に思う。彼女を選んだことを後悔したくない。気づけば彼女の存在は真斗の中でとても大きな、大切なものになっていた。春歌に救われたあの冬の雪の降る日。そしてシャイニング学園時代。そのどれもが真斗にとっては何事にも変え難い大事なものだ。
マグカップを両手で持ってきた春歌が真斗の反対側の椅子に座った。そしてマグカップの中のホットミルクに息を吹いて冷ましながら熱そうにこくりと嚥下する。
「………真斗くん?」
「ん?」
「…そんなに見られると、恥ずかしいです」
尻すぼみな言葉で春歌は顔を赤くしながら俯いた。真斗はそこでようやく自分が彼女を熱い目線で見ていたことに気づく。
「すっ、すまない!」
「いえ、別にいいんですけど、どうかしましたか?」
「え?」
「真斗くん、辛そうだから」
「え」
辛そう。俺が?
キョトンとした真斗に春歌は言葉を続ける。
「起きてきたのも、生活リズムが崩れているからですよね?最近、お仕事ばかり詰め込まれてろくな休みもないですし、疲労が溜まっているんじゃないでしょうか…」
真斗に春歌は心配そうに体調を気使う言葉をつらねる。そして春歌はどうぞ、と真斗にマグカップを渡した。
「……ココア?」
「はい。眠れない時はホットミルクかホットココアがいいって言われて育てられたんです私。だから、眠くなるおまじないです」
くるくるとティースプーンを回してホットココアを混ぜ、1口飲む。温かいそれはじんわりと体に染み渡るように胃に収まった。
「真斗くんは牛乳が苦手なのでココアなら大丈夫かと思ったんです」
真斗はふわりと微笑んだ春歌の表情に胸が温かくなるのを感じた。
ここまで真斗自身のことを親身になって心配してくれる人はじいぐらいしかいなかった。じいも仕事だから真斗のことを気にかけているのだと思い込んでいた。その固定概念を壊し愛を教えてくれた彼女は今でもなおまだ真斗が知らない愛を教えてくれる。やはり春歌は運命なのだ。神様が与えてくれた大切な人。真斗はホットココアを飲み干す立ち上がりと春歌の頭を撫でた。彼女の空になったマグカップを持ちシンクへと向かう。マグカップを軽く濯いでからそれを見ていた春歌を抱きしめる。
「…ハル。一緒に寝よう」
「……はい」
手を繋いで大きいベッドがある真斗の部屋へと2人は廊下を歩いた。
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