梅雨の笑顔
「セシルさんがてるてる坊主を作っていたんですよ」
「へえ、そうですか」
「はい、でもセシルさんてるてる坊主を何かと勘違いしていたのでしょうね、てるてる坊主は雨を防げなかったら首がちょんぎられるのでしょう、って」
「それはまた物騒な」
スタジオを取り留めのない会話を交わしながら歩く二つの影。それは一ノ瀬トキヤとトキヤの想い人だった。
七海春歌。トキヤの専属作曲家であり、学園時代のパートナーである。専属作曲家と言ってもトキヤにのみ曲を作っているわけではなく、トキヤへの曲の提供が多いだけでほかのアイドルにも曲を作って提供している。夕日のようなサラサラのオレンジの髪に琥珀色をした透き通る大きな瞳。華奢で身長も小さく、可憐な声をしている。引っ込み思案で人見知りだと言っていたが最近では表に立つことが多くなりそれも克服されてきている。そして何より彼女の作る曲は有無を言わさぬ圧倒的な「歌い手への愛」が込められており、彼女の作った曲は必ずと言っていいほどヒットする。まさにシャイニング事務所の稼ぎ柱。そんな彼女とトキヤは新曲を収録するためにレコーディングルームへとやってきていた。作曲家は通常レコーディングにたちあわなくても良いのだが彼女の場合、ここは譲れないというポイントがあるらしく必ずトキヤのレコーディングには付き合っているのだ。ほかのタレントのレコーディングは行けたら行く、程度らしく何故そこまでトキヤを贔屓するのか一度聞いてみたことがある。すると彼女はきょとんとした顔をした後に恥ずかしそうに「トキヤくんは大切なパートナーですし、何よりトキヤくんの歌が好きだから、そのトキヤくんの出せる表現力全てを引き出したいんです」と言われたきりトキヤはその話題には触れないことにしている。
片恋中の女性にそんなことを言われて喜ばない男がいるだろうか。一ノ瀬トキヤもまた、恋する男だったという話。
今回の曲について春歌はトキヤに熱弁する。梅雨のジメジメしたうっとおしさを払うような爽やかな曲。これを聞いた人が笑顔になれるような応援ソングだった。トキヤはバラードを歌うことが多く、こういった曲はあまり歌わない傾向にある。それを踏まえてなぜその曲調なのかと聞けばトキヤくんの可能性をもっと引き出してウリにしたいからです、なんて勢いよく言われた。そこまで真剣に自分のことを思ってくれているのだとトキヤの口元は緩むがそこはポーカーフェイスで何とか乗り切る。レコーディングルームに着くとトキヤはブースの中へ春歌はコントロールルームへと入っていった。
そうして始まった収録はスムーズに終わり、解散となった。解散となり、トキヤは春歌の元へ行く。
「七海くん」
「はい」
「この後食事でもどうですか?」
「へ」
「…無理なら断ってくださって結構なのですが」
「あ、いえ!大丈夫です!何も予定はありませんから、行けます」
「そうですか。実はいいカフェを見つけましてね」
「ホントですか!?一ノ瀬さんが見つけるお店って当たりしかありませんよね」
「まあ、当然でしょう」
雨に恋をしたてるてる坊主は首をちょんぎられて恋心共々無かったことにされるのだろうか。決して叶わぬ恋をした、哀れなてるてる坊主。おのが身を焦がすだけとわかっていて、恋に死ぬことが出来るのなら本望だろうか。トキヤは、春歌への想いをそれと重ね、答えの出ない問に悶々としていた。
「へえ、そうですか」
「はい、でもセシルさんてるてる坊主を何かと勘違いしていたのでしょうね、てるてる坊主は雨を防げなかったら首がちょんぎられるのでしょう、って」
「それはまた物騒な」
スタジオを取り留めのない会話を交わしながら歩く二つの影。それは一ノ瀬トキヤとトキヤの想い人だった。
七海春歌。トキヤの専属作曲家であり、学園時代のパートナーである。専属作曲家と言ってもトキヤにのみ曲を作っているわけではなく、トキヤへの曲の提供が多いだけでほかのアイドルにも曲を作って提供している。夕日のようなサラサラのオレンジの髪に琥珀色をした透き通る大きな瞳。華奢で身長も小さく、可憐な声をしている。引っ込み思案で人見知りだと言っていたが最近では表に立つことが多くなりそれも克服されてきている。そして何より彼女の作る曲は有無を言わさぬ圧倒的な「歌い手への愛」が込められており、彼女の作った曲は必ずと言っていいほどヒットする。まさにシャイニング事務所の稼ぎ柱。そんな彼女とトキヤは新曲を収録するためにレコーディングルームへとやってきていた。作曲家は通常レコーディングにたちあわなくても良いのだが彼女の場合、ここは譲れないというポイントがあるらしく必ずトキヤのレコーディングには付き合っているのだ。ほかのタレントのレコーディングは行けたら行く、程度らしく何故そこまでトキヤを贔屓するのか一度聞いてみたことがある。すると彼女はきょとんとした顔をした後に恥ずかしそうに「トキヤくんは大切なパートナーですし、何よりトキヤくんの歌が好きだから、そのトキヤくんの出せる表現力全てを引き出したいんです」と言われたきりトキヤはその話題には触れないことにしている。
片恋中の女性にそんなことを言われて喜ばない男がいるだろうか。一ノ瀬トキヤもまた、恋する男だったという話。
今回の曲について春歌はトキヤに熱弁する。梅雨のジメジメしたうっとおしさを払うような爽やかな曲。これを聞いた人が笑顔になれるような応援ソングだった。トキヤはバラードを歌うことが多く、こういった曲はあまり歌わない傾向にある。それを踏まえてなぜその曲調なのかと聞けばトキヤくんの可能性をもっと引き出してウリにしたいからです、なんて勢いよく言われた。そこまで真剣に自分のことを思ってくれているのだとトキヤの口元は緩むがそこはポーカーフェイスで何とか乗り切る。レコーディングルームに着くとトキヤはブースの中へ春歌はコントロールルームへと入っていった。
そうして始まった収録はスムーズに終わり、解散となった。解散となり、トキヤは春歌の元へ行く。
「七海くん」
「はい」
「この後食事でもどうですか?」
「へ」
「…無理なら断ってくださって結構なのですが」
「あ、いえ!大丈夫です!何も予定はありませんから、行けます」
「そうですか。実はいいカフェを見つけましてね」
「ホントですか!?一ノ瀬さんが見つけるお店って当たりしかありませんよね」
「まあ、当然でしょう」
雨に恋をしたてるてる坊主は首をちょんぎられて恋心共々無かったことにされるのだろうか。決して叶わぬ恋をした、哀れなてるてる坊主。おのが身を焦がすだけとわかっていて、恋に死ぬことが出来るのなら本望だろうか。トキヤは、春歌への想いをそれと重ね、答えの出ない問に悶々としていた。