梅雨の笑顔
トキヤはがむしゃらに駆け出していた。好きだと告げた想い人の後を追って、彼女がどこへ行ったのかわからないがそれでも追いかけなければいけないと思ったのだ。ここで追いかけなければ後悔する。手に入るものを失ってしまう。焦燥感がトキヤを動かしていた。いくつもの路地を虱潰しに探し、歩き回って大通りも、カフェの店内も、春歌が行きそうな場所をとにかく探し回った。トキヤが春歌を見つけたのは15分後のことだった。
えんじ色の髪をびしょびしょに濡らして俯き雨の中佇む春歌。トキヤは彼女に声をかけるのに躊躇ったが、ここで逃げてはもう二度と戻れない気がして彼女の名前を呼んだ。
バッ、と春歌がトキヤの方へ見る。キョトンとした目はだんだん大きく見開かれていき、口からはなんで、と小さなつぶやきがこぼれる。
「なんで追ってきちゃうんですか…」
「…七海くん」
「……一ノ瀬さんのこと、諦めるために告白したのに。…追いかけて来てくれちゃ、ダメですよ。諦めきれないじゃないですか」
嗚咽混じりに苦しそうに涙を流しながら春歌は掠れている声でトキヤを責める。しかしその言葉に覇気はなく、責めているというより懺悔しているかのようだった。だんだん視線が下へと移動し、俯いた彼女は微かに震えていた。ぐっと拳を握りしめ必死に耐えている姿が痛々しくトキヤの瞳に映る。自分より小さくて守るべきこの体にどれだけ無体を強いたのか。今更この場で謝るのは違うだろう。トキヤに出来ることは、ただ一つ。
春歌の体を抱きしめる。一瞬彼女の体が強ばった。しかし彼女は抵抗することなくトキヤの腕に抱かれ、そのことにトキヤは安堵した。両腕ですっぽりと包み込めるその小さな体は冷えきっていて冷たかった。雨はまだ降りしきっている。このままでは二人して風邪をひいてしまうだろう。躊躇っている時間などない。
「私の家に行きましょう。このままだと風邪をひいてしまう」
春歌はこくりと頷いた。少しでも自分の温度が春歌に伝わるように、トキヤはその柔らかい春歌の手のひらを握った。
えんじ色の髪をびしょびしょに濡らして俯き雨の中佇む春歌。トキヤは彼女に声をかけるのに躊躇ったが、ここで逃げてはもう二度と戻れない気がして彼女の名前を呼んだ。
バッ、と春歌がトキヤの方へ見る。キョトンとした目はだんだん大きく見開かれていき、口からはなんで、と小さなつぶやきがこぼれる。
「なんで追ってきちゃうんですか…」
「…七海くん」
「……一ノ瀬さんのこと、諦めるために告白したのに。…追いかけて来てくれちゃ、ダメですよ。諦めきれないじゃないですか」
嗚咽混じりに苦しそうに涙を流しながら春歌は掠れている声でトキヤを責める。しかしその言葉に覇気はなく、責めているというより懺悔しているかのようだった。だんだん視線が下へと移動し、俯いた彼女は微かに震えていた。ぐっと拳を握りしめ必死に耐えている姿が痛々しくトキヤの瞳に映る。自分より小さくて守るべきこの体にどれだけ無体を強いたのか。今更この場で謝るのは違うだろう。トキヤに出来ることは、ただ一つ。
春歌の体を抱きしめる。一瞬彼女の体が強ばった。しかし彼女は抵抗することなくトキヤの腕に抱かれ、そのことにトキヤは安堵した。両腕ですっぽりと包み込めるその小さな体は冷えきっていて冷たかった。雨はまだ降りしきっている。このままでは二人して風邪をひいてしまうだろう。躊躇っている時間などない。
「私の家に行きましょう。このままだと風邪をひいてしまう」
春歌はこくりと頷いた。少しでも自分の温度が春歌に伝わるように、トキヤはその柔らかい春歌の手のひらを握った。