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プリ春雑多

「あなたと一緒にいると、おかしくなってしまう」
「へ?」
トキヤくんに音也もいないことですし、お茶でもどうですか?と部屋に誘われてついて行った先。お茶をいれてくれて焼き菓子も用意してくれたトキヤくんに私は嬉しくなった。私のためにここまでしてくれるのだ。そんな人、トキヤくんが初めてだった。足の低いテーブルに置かれたお茶菓子を食しながら床に座って話をする。
「あ、このマドレーヌ美味しいです」
「そうですか、それはよかった」
にっこりと微笑まれてその笑顔の破壊力に私の脳は瞬間沸騰する。俯いてしまった私はトキヤくんがその間に私のそばに来ていたことなど気が付かなかった。
ぎゅっと抱きしめられる感触。
何をされたのか一瞬わからなかった。でも、近くにある端正なトキヤくんの顔を見て抱きしめられたのだとわかった。
「とっ、ととととトキヤくん!?」
「春歌、好きです」
「ふえ…」
「私はあなたといるとおかしくなってしまう」
「え!?おかしくなる、というのは体調が悪くなるんですか?それなら私離れます、トキヤくんのそばに近づかないと約束します!」
「ふふ、そうではないのですよ」
私の後ろから抱きついているトキヤくんは私の肩口に顔をうずめた。
「春歌の匂いがします」
「くっ、臭いですか!?シャンプー、いや、シャワーを浴びなければ!」
「ちがいますよ。とても心地よい、爽やかな香り。貴女が私の腕の中に収まっているという証」
「え…と、その…」
「あなたはどうしてこう、私を狂わすのでしょうね」
トキヤくんはぽつり、と独り言のように、ギリギリ聞こえる声量でつぶやく。
「あなたは運命だと思いました。そして、パートナーになったとき、私はあなたとなら絶対に変われると思ったのです。そして、それは叶った。変われました。音楽の楽しさ、そして私に人を愛する喜びも教えてくれた」
「…かいかぶりすぎですよ」
「大切な恋人の自慢をしているのですよ?かいかぶってなどいませんし、私は嘘が嫌いです。私の言葉が嘘偽りに聞こえますか?」
「……聞こえません」
トキヤくんが顔を肩から少し離す。密着していたのが少し和らいでほっとしたのもつかの間。トキヤくんは私の首筋にキスをした。
「今もそう。あなたは私を狂わせる。こんなにも満たされて、心地好くて、幸せな気分、歌を歌う時と同じような多幸感。そして、歌を歌う時と違うのは、自分をセーブできなくなる、ということ」
そう言うや否や、トキヤくんは私を押し倒した。押し倒された、と気づいたのは上に天井とトキヤくんの綺麗な顔が見えたからだ。私はされたことに驚き、恥ずかしくて顔に血が上る。
「このまま、あなたと……」
「たっだいま〜!!」
「っ!?」
突如聞こえた一十木くんの声がその淫らな空気を壊した。私達は瞬時に元の席へ着いた。
「あれ、七海来てたんだ」
「は、はい!」
「ん?どしたの?なんかソワソワしてるけど」
「なんでもありませんよ、それより音也。」
「ん?」
「今日は帰ってこないと言っていましたよね?」
「あ〜……はは、思ってたより用事が早く終わっちゃってさ」
「はあ……全く。あなたという人は」
「別に早く帰ってくるぐらいいいだろ〜」
「…私と彼女の邪魔をしなければ、許しますよ」
「へ?……え?俺まさか邪魔しちゃった?」
「ええ」
「ええええ!!??ごっ、ごめん!」
ペコペコと謝る一十木くんと腕に手を組み一十木くんを怒るトキヤくんに私はさっきまでのドキドキはもう無くなっていて、笑ってしまう。一十木くんが帰ってきたのなら長居しない方が良いだろうと思って私はトキヤくんにもう帰ります、と伝えた。トキヤくんにまた、今度は邪魔が入らないように誘いますから覚悟してくださいね、なんて言われたけど。
今度何されるか、わからないほど初心ではない。心臓が高鳴る。それは恐怖ではなく、期待と、喜び。
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