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プリ春雑多

たとえその全てが私のものでなくていい。

部屋に甘い嬌声と卑猥な水音が響く。熱気を帯びた室内は空調をきかせているというのに肌がしっとりと汗ばむ。

その左薬指に巻きついているシルバーリング。私以外の『誰か』の所有物である証。それが憎らしくて、でもそんなことを言える立場ではないことなど理解しているから。ちらちらと反射光で光るシルバーリングを睨みつけて腰のストロークを速くすると春歌が下で泣き声のような息をするのもやっと、というようにはしたなくも大声で喘ぐ。そして、春歌がイくと腟内の締め付けが強くなり、自身も果てる。倦怠感に苛まれズルリと精を吐き出し萎えた己を引き抜く。その刺激で春歌がまた少し声を上げた。可愛らしくて小さく笑う。泡沫の幸福。あるはずだった有り得ない未来。春歌は私のものでは無い。しかし、私は春歌のものである。そういうと彼女は目を伏せて哀しそうにするので告げることは出来ないが。私が全てを捧げるのは、貴女だけですよ、春歌。

眠りに落ちた春歌の萌えるようなオレンジ色の髪のひと房を掬い、キスを落とす。彼女の手を取り指を絡めて握りしめると、春歌もぎゅっと握り返してくれる。

私達は出会うのが遅すぎたんです、きっと。

トキヤが春歌と出会ったのは一年前。仕事の関係で春歌の曲を歌うことになった。そして、彼女の曲を聞いたその瞬間、運命だと思った。彼女の曲を100%歌えるのは自分しかいない。そう、思ったのだ。それは彼女も同じようで目が合うと新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせていた。しかし春歌にはもう既にパートナーがいた。仕事のパートナーも、夫婦としてのパートナーも。
その時の絶望といったら1週間近く機嫌が悪そう、と音也に言われたほどのことだ。外に感情をあまり出さないあのトキヤが。
春歌も感じ取っていたのだろう。トキヤが春歌の運命の人だと。酒の席でふたり抜け出し、そのままもつれこむようにホテルで熱を分かちあった。幸福感で満たされた。体を初めて重ねたはずなのに、ピッタリとくっついて欠けていたパズルのピースが当てはまったかのようだった。それ以来、トキヤは春歌をこうして抱いている。


朝になれば消える繋がりだ。だが、それにすがってしまう。

春歌、もし私たちが最初にパートナーとして出会っていれば………
不毛なことだとわかっていても、何回も何回も繰り返し湧き出る思い。それを振り払うために頭を降ってトキヤは後処理をするため風呂場へと消える。
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