プリ春雑多
「犬に咬まれたとでも思ってさ。なあ、いいだろ?」
「えっ…と、その…」
レンが春歌を壁ドンする形で逃げ場をなくし、追い詰める。春歌は困惑した表情でただひたすら意味にならない声を発していた。
「おいレン!何やってんだ!!」
レンと春歌しかいなかった教室に突如怒鳴り声が響いた。声の主は、来栖翔。高めの、それでいて芯のある凛とした声で翔はレンに怒った。春歌が困っているのなら、それを助けるのは俺様の使命、とでも言うように二人の間に割って入る。
「なんだよおチビちゃん」
「困ってんだろ!やめろよ!お前そこまで飢えてんのかよこのバカ!」
「……おチビちゃんは勘違いをしているね」
レンはさらっとなんでもないかのように髪をかきあげて言った。それに翔は目を丸くする。は?と翔の声が漏れていた。
「俺はただ、レディに似合う服を買ってあげたから着てくれないかと、そう頼んだだけだ」
「はぁぁ?」
「それをなにと勘違いしたのかな?おチビちゃんはさ」
「……ぅぐ…」
翔が顔を赤くしてバッと二人から離れる。それをいいことにレンは春歌の手を取り語りかけた。
「レディ…いや、お姫様。俺の選んだ服を着てくれないか?それだけでいい。なに、簡単なことだろう」
「で、でも……」
「レンの選んだ服かぁ…俺も気になるな」
「えっ、翔くんまで」
「さすがおチビちゃん。人を見る目があるね」
「上から目線やめろっての」
二人に迫られ春歌は渋々レンの選んだ服を着ることになったのだ。
▷▷
「レディ?もういいかい?」
教室の外へ出た翔とレンは十分程度待ち、室内にいる春歌へ声をかけた。しかし返事はない。
「おーい、七海?」
「あっ、えと、その……あの、ほんとにこれ、お2人に見せなきゃダメですか?」
「当たり前だろう?そのために買ったんだ」
「終わってんなら入るぞ〜」
無慈悲にも翔が教室の扉を開けた。そして二人の目に飛び込んできたのは。
スカイブルーの襟元が大きく開いたノースリーブにホットパンツを履いた大胆ながらも下品すぎない、それでいて露出の多い服を身にまとった春歌だった。
「…………」
「やっぱり俺の目に間違いはなかったね」
ひゅう、とレンが口笛を吹いた。翔は固まって動かない。
「こんな服着るの初めてです……」
「なあレディ?知ってるかい?」
「え…?」
「男が女性に服を送る意味」
そこのおチビちゃんには刺激が強すぎたかな、とレンは笑って翔の前でねこだましのように手を叩く。すると翔はハッとして顔を赤くした。
「おっ、れ、お前、レン!」
「なんだいおチビちゃん」
「お前!こんな服!」
「たまにはこういうのもいいだろう?可憐で清楚なレディもいいけど、大胆さが足りない」
「そ、それに、それにお前、男が服を送る意味とか!!何言ってんだよ!バカ!!」
「おや、おチビちゃんは知ってるのかい?」
「当たり前だろ!」
「えっ、ええと、その…」
春歌をおいてけぼりにしてレンに翔が噛み付く。レンは何処吹く風だが、翔はキャンキャンと説教のような何かを怒鳴っていた。
そんなことより、とレンが春歌の肩を抱いた。
「さっきの、贈り物の意味。知りたい?」
「え……」
「女性に服をプレゼントするのは、『その服をこの手で脱がせたいから』って意味があるんだ」
「えっ」
春歌がみるみる真っ赤になっていく。それを見たレンはにっこりと微笑む。
「おっ、俺だってなぁ!!」
翔が見る間に淫らになっていく空気を断ち切るように叫んだ。そして春歌の手を掴む。
「これ、やるよ」
「……これ、は…?」
「ネックレス」
付けてやるから、と翔が春歌の背後にまわり留め具を付ける。レンはそれをニヤニヤと見ていた。
「おチビちゃんもやるねぇ」
「意味わかってるのかよ」
「もちろんさ」
「えと、……どういうことですか?」
「ネックレスの意味は『あなたを独占したい』ってことさ」
恥ずかしそうに戸惑いキョロキョロと2人を交互に見る春歌にレンと翔は食えない笑みでそれぞれ手を取った。そして恭しくその手にキスをした。
「いつか、わかる時が来るよ」
「絶対負けないからな」
「レディが選ぶのはこの俺だ」
「ええ……?」
今はまだ、知らなくていい。分からなくていい。気付かなくていい。いつか、その時が来たら。この手で貴女に贈ったプレゼントを、暴く時が来たら。その時は、存分にこの愛を囁いてあげようじゃないか。my princess。