プリ春雑多
「このままどこかへ行ってしまおうか」
「へ?」
今日は音也とトキヤに誘われて春歌と3人で遠出をすることになったありふれた休日。生き先は3駅先の水族館。ほの暗い館内で淡くライトアップされた優雅に泳ぐ魚達を見て3人ではしゃいで(厳密には音也と春歌がはしゃいでそれをトキヤが窘めていたのだが)とても楽しい休日だった。
帰りの電車はちょうど人が少ない時間帯で音也、トキヤ、春歌以外に電車内にいる人はいなかった。3人で並んで座って買ってきたイルカのストラップを開封したりぬいぐるみのモフモフを楽しんだりと和気あいあいとしていた中、ポツリと音也が呟いたのだ。
「…どうしたんです?あなたらしくない」
「えっ、あ、声に出てた?」
「ええ、バッチリと」
「ごめん!」
「で?いきなりなぜそんなことを?」
「あー…ははは」
照れくさそうに頭を搔いてトキヤはポツリ、ポツリと言葉を探して選ぶようにゆっくり話し出した。
「今日は楽しかった。うん、それは確かだよ。でも、3人でこうやって遊べるなんてデビューしてから半年近く経つけどこれが初めてだった。それでなんか少し寂しくなっちゃったのかな、俺。はは、まあ気にしないで」
「………寂しかったんですね」
「…………うん」
「それで?このまま仕事も生活も全部投げ捨てて3人で誰も知らないような場所へ逃げたくなった、と?」
トキヤの鋭い言葉に音也はバツが悪そうな顔をしてうん、と小さく肯定した。
「………馬鹿ですね、あなたは」
「え?」
「音也くん、私たちは3人でデビューしたんですよ?寂しかったならちゃんと言ってほしいです。太陽のようなあなたがそんなに悲しそうな、寂しそうな顔をしてしまうのは、見てる私達もつらいです…」
「春歌、トキヤ…」
車内のアナウンスはつぎが降りる駅だと告げた。
「私達はいつでも貴方と共にいます。心で繋がっているんです。音也くん。だから、1人で抱え込まないでほしいです」
「その通りですよ、全く。で?次は降りる駅ですが、そのまま降りずに逃避行でもしますか?」
「っ、………ううん!俺、まだ芸能界でやり残したこともやりたいことも沢山ある!だから、帰ろう!」
パアっと元の明るい笑顔になった音也に春歌とトキヤは顔を見合わせて笑った。
どこか知らない場所へ。
君を/あなたをさらっていってしまおうか。
昏いドロドロとした独占欲が思考を蝕む。
どこかへ行こうと言ったのは本心でもあった。春歌を連れて、そのままどこか遠くへ。トキヤと音也が考えていることなど、春歌は知らない。