短編
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いつから自分の心に蓋をするようになってしまったんだろう。いつから子供のように我儘がいえなくなってしまったんだろう。ふと、そんなことを思う夜が増えた。
私はベッドの上で膝を抱えたまま、携帯の画面をじっと見つめる。液晶の白い明かりが、やけに目に沁みた。
私の恋人は、この江戸の街で知らぬ者はいないだろう真選組一番隊隊長、沖田総悟。江戸の治安を守る真選組という組織の性質上、忙しさは最初から覚悟していたつもりだ。だけど頭では分かっていても、胸にぽっかりと穴が空いたような寂しさは埋められない。
ここ三週間、大きな仕事が重なっているらしく、顔を見るどころか連絡もまともに取れていない。
朝と夜に送る『おはよう』と『おやすみ』それが一日の唯一の繋がりだ。声が聞きたいな、と指先が通話ボタンを掠める。けれど、すぐにその指を引っ込めた。脳裏をよぎるのは、昔の恋人に投げつけられた「重いんだよ」という冷めた言葉。きっと電話してしまったら『寂しい、会いたい』と彼を困らせてしまうようなことを言ってしまう。嫌われたくない。面倒な女だと思われたくない。
何より死線と隣り合わせの彼に、我儘を言ってこれ以上余計な荷物を背負わせたくなかった。そして今日も無機質に光る携帯の画面をぼんやりと見つめるのだった。
*
そんなある日、お昼ご飯を食べにいつもの定食屋に入った。日替わり定食を注文して待っていると、隣の席に誰かがどかっと座った。
「よっ、隣邪魔するぜ」
聞き慣れたやる気のない声。ふと見ると、銀さんがそこにいた。銀さんとはここの定食屋でよく遭遇する。この定食屋には宇治銀時丼という銀さん専用の信じられないメニューまで存在する。慣れたように店主に例の宇治銀時丼を頼んでいるがあんな物を食べて糖尿病にならないのが不思議だ。
「なんだよ、しけた面してよ」
「はぁ…聞いてくれます?」
「嫌だね、今から宇治銀時丼食うのに忙しいんだわ」
「え、聞いてくれるんですか?ありがとうございます、実はですね」
「オイ嘘だろ!?俺の話聞いてた?何この子怖いよ」
「最近、総悟に会えなくて」
「へー」
銀さんは興味なさそうに私の話を聞きながら早速目の前に来た甘そうな丼を口に頬張った。
「めちゃくちゃ寂しくて死にそうなんですけど、どうしたらいいんですか、もう三週間も会えてないんですよ!」
「うるせぇな!知らねぇよ、そういうのは本人に言え!」
「言えないから困ってるんです、仕事頑張ってるのに会いたいとか寂しいとか言う女って嫌じゃないですか。重いじゃないですか。てか前の彼氏にも重いって言われたし」
「それはそいつの器が小さかったんじゃねぇの」
銀さんは丼を掻き込む手を止めずに、さらりと言った。少しだけ心が軽くなる。
「そうなんですかね、銀さんならどうですか。仕事忙しい時に彼女から寂しい、会いたいって言われたら…あ、銀さん彼女いないから分からないか…」
「ぶち殺すぞてめぇ!銀さんモテモテだからね?わざと彼女作らないだけだからね勘違いしないでよね!?」
「はいはい、そうなんですねー」
「その憐れみの目止めてくんない?つーか、寂しい時は本人に言え。それ受け止める器量のねぇ奴なんざ誰かと付き合う資格ねぇよ。信じてみろよ、てめぇで選んだ男を。」
「銀さん…たまには良いこと言うんですね」
「たまには余計だろ、てことでここの勘定お前持ちな」
「はぁ?なんでそうなるんですか!」
銀さんは最後の一口を食べ、お茶を飲み干すと、私の頭を乱暴に撫で回し、そのまま店を後にした。少しだけ、胸のつかえが取れた気がした
*
夜、日付の変わりそうな頃。部屋で一人、昼間に銀さんに言われたことを思い出し携帯の画面を指でなぞる。寂しい、って連絡してみようかな。一度くらいなら大丈夫かな。いざ連絡してみようかと思った瞬間、携帯の画面に着信。【沖田総悟】と画面に大きく出た文字を見て心臓が大きく跳ねた。
「……もしもし」
恐る恐るボタンを押して耳に当てると、受話器の向こうから聞こえてきたのは間違いなく、ずっとずっと聞きたかった愛おしい総悟の声だった。久しぶりに聞く声に少し泣きそうになる。
「あ、起きてやしたか。こんな時間に悪ぃな」
「どうしたの!?仕事終わったの?」
「んーまぁそんなとこでさァ、それより今家に居やすか?」
「うん。いるよ」
「じゃあ、ドア開けてくだせェ」
「えっ、ドア?」
言ってる意味が分からずに頭が真っ白になる。ドアを開けてということは家の前にいるということ…?そう思うと一瞬にしてドキドキと大きな音が耳元まで響いてくる。というかもう寝る前だったしスッピンなのに久々に顔を見れるというのにこんな格好なんて。今の自分の姿に落胆した。
「おい早くしろ、外寒いんでさァ」
鏡で身なりを整える余裕もなく、携帯を握ったまま玄関まで走って、ドアノブに手をかけた瞬間、心臓だけが馬鹿みたいにうるさい。ゆっくりとドアを開けると、そこには隊服姿の総悟が立っていた。仕事明けなのだろうか隊服の所々は泥で汚れ、目の下にうっすらと浮かぶクマが疲労を物語っていた。そんなボロボロな姿で会いに来てくれたことが切なくて嬉しくて鼻の奥がツンと熱くなる。久しぶりに見る大好きな人に視界がじわりと滲んだ。
「……なんでいるの」
驚きと嬉しさと色々な感情が押し寄せてきて言葉に詰まる。
「なんでって、会いに来やした」
いつものポーカーフェイスのまま答える総悟。会いに来てくれた、それが嬉しくて涙が頬を伝った。
「おい、何泣いてんでィ」
「なんか嬉しくなっちゃって」
「相変わらず泣き虫だな」
総悟が少し笑って、私の頬に落ちた涙を親指で拭う。冷たい指先が触れた瞬間、胸がきゅうっと締めつけられた。
「ごめんね。外寒いよね、中入る?」
こくん、と頷く総悟を部屋の中に招き入れる。中に入ると着ていた隊服をバサリと脱いだ。
「お茶淹れてくるね、待ってて」
キッチンに向かい温かいお茶を入れようと準備していると不意に総悟の匂いと体温に包まれた。後ろから抱きしめられたのだ。
「ど、どうしたの総悟」
「寂しかったですかィ?」
耳元で囁かれた低い声に、体がビクリと震える。
「…ちょっとだけね、でも大丈夫だよ」
「嘘つけィ」
私を抱きしめている腕の力がほんの少し強くなる。
「寂しくて死にそうになってるって聞きやしたけど」
「えっ?」
「…今日、旦那にばったり会いましてねィ、そん時にお前の彼女寂しくて死にそうになってるって言われたんでさァ」
銀さん、余計なことを。まさか本人にそんなことが伝わるとは思っていなくて恥ずかしさと気まずさで穴があったら入りたい気分だ。私が何も言わずに黙っていると総悟は私をくるりと振り向かせた。久しぶりに近くで見る顔にドキッと心臓が跳ねた。
「何で直接俺に言わないんでさァ、他人の口から彼女のこと聞かされる俺の身にもなりやがれ」
総悟が少しだけ不機嫌そうに目を細めた。
「ごめん、本当は寂しかったし会いたかったけど……迷惑、かけたくなかったから。仕事、大変だって分かってたし、重いって思われたくなくて…」
しばらく黙って私を見て、小さくため息をついた。
「…そんな重さなら俺が全部背負ってやらァ。彼氏様、舐めんな」
そう言うと総悟は唇に短いキスを落とした。唇が離れたかと思えば次の瞬間、ギュッと抱きしめられた。
「……俺だって、お前に会えなくて寂しかった」
小さくそう呟いて、恥ずかしいのか私の首に顔をうずめる総悟。そんな彼が愛おしくて私もそっと背中に手を回す。
「総悟も寂しかったんだ」
「恥ずかしいこと何回も言わせんじゃねェ」
「でも、そう思っててくれて嬉しい」
「だから、これから寂しい時はすぐ俺に言いなせェ。すぐ駆けつけてやらァ」
「…うん……総悟ありがとう、大好き」
精一杯の想いを込めて伝えると、総悟がゆっくりと顔を上げた。そして唇を塞がれた。今度は先ほどとは違う深い、何度も角度を変えてのキス。離れがたいように唇が離れる。
「……本当は顔見て帰るつもりだったのに、我慢できなくなりやした」
「えっ…?」
彼は私をひょいとお姫様抱っこすると、そのまま寝室へと運んでいく。そしてベッドに沈み込む体。
「会えなかった分、朝まで可愛がってやらァ」
そうニヤリと笑った総悟を見て顔に熱が集まってくるのを感じた。
三週間分の空白を埋めるように夜は長く、甘く続く。
私はベッドの上で膝を抱えたまま、携帯の画面をじっと見つめる。液晶の白い明かりが、やけに目に沁みた。
私の恋人は、この江戸の街で知らぬ者はいないだろう真選組一番隊隊長、沖田総悟。江戸の治安を守る真選組という組織の性質上、忙しさは最初から覚悟していたつもりだ。だけど頭では分かっていても、胸にぽっかりと穴が空いたような寂しさは埋められない。
ここ三週間、大きな仕事が重なっているらしく、顔を見るどころか連絡もまともに取れていない。
朝と夜に送る『おはよう』と『おやすみ』それが一日の唯一の繋がりだ。声が聞きたいな、と指先が通話ボタンを掠める。けれど、すぐにその指を引っ込めた。脳裏をよぎるのは、昔の恋人に投げつけられた「重いんだよ」という冷めた言葉。きっと電話してしまったら『寂しい、会いたい』と彼を困らせてしまうようなことを言ってしまう。嫌われたくない。面倒な女だと思われたくない。
何より死線と隣り合わせの彼に、我儘を言ってこれ以上余計な荷物を背負わせたくなかった。そして今日も無機質に光る携帯の画面をぼんやりと見つめるのだった。
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そんなある日、お昼ご飯を食べにいつもの定食屋に入った。日替わり定食を注文して待っていると、隣の席に誰かがどかっと座った。
「よっ、隣邪魔するぜ」
聞き慣れたやる気のない声。ふと見ると、銀さんがそこにいた。銀さんとはここの定食屋でよく遭遇する。この定食屋には宇治銀時丼という銀さん専用の信じられないメニューまで存在する。慣れたように店主に例の宇治銀時丼を頼んでいるがあんな物を食べて糖尿病にならないのが不思議だ。
「なんだよ、しけた面してよ」
「はぁ…聞いてくれます?」
「嫌だね、今から宇治銀時丼食うのに忙しいんだわ」
「え、聞いてくれるんですか?ありがとうございます、実はですね」
「オイ嘘だろ!?俺の話聞いてた?何この子怖いよ」
「最近、総悟に会えなくて」
「へー」
銀さんは興味なさそうに私の話を聞きながら早速目の前に来た甘そうな丼を口に頬張った。
「めちゃくちゃ寂しくて死にそうなんですけど、どうしたらいいんですか、もう三週間も会えてないんですよ!」
「うるせぇな!知らねぇよ、そういうのは本人に言え!」
「言えないから困ってるんです、仕事頑張ってるのに会いたいとか寂しいとか言う女って嫌じゃないですか。重いじゃないですか。てか前の彼氏にも重いって言われたし」
「それはそいつの器が小さかったんじゃねぇの」
銀さんは丼を掻き込む手を止めずに、さらりと言った。少しだけ心が軽くなる。
「そうなんですかね、銀さんならどうですか。仕事忙しい時に彼女から寂しい、会いたいって言われたら…あ、銀さん彼女いないから分からないか…」
「ぶち殺すぞてめぇ!銀さんモテモテだからね?わざと彼女作らないだけだからね勘違いしないでよね!?」
「はいはい、そうなんですねー」
「その憐れみの目止めてくんない?つーか、寂しい時は本人に言え。それ受け止める器量のねぇ奴なんざ誰かと付き合う資格ねぇよ。信じてみろよ、てめぇで選んだ男を。」
「銀さん…たまには良いこと言うんですね」
「たまには余計だろ、てことでここの勘定お前持ちな」
「はぁ?なんでそうなるんですか!」
銀さんは最後の一口を食べ、お茶を飲み干すと、私の頭を乱暴に撫で回し、そのまま店を後にした。少しだけ、胸のつかえが取れた気がした
*
夜、日付の変わりそうな頃。部屋で一人、昼間に銀さんに言われたことを思い出し携帯の画面を指でなぞる。寂しい、って連絡してみようかな。一度くらいなら大丈夫かな。いざ連絡してみようかと思った瞬間、携帯の画面に着信。【沖田総悟】と画面に大きく出た文字を見て心臓が大きく跳ねた。
「……もしもし」
恐る恐るボタンを押して耳に当てると、受話器の向こうから聞こえてきたのは間違いなく、ずっとずっと聞きたかった愛おしい総悟の声だった。久しぶりに聞く声に少し泣きそうになる。
「あ、起きてやしたか。こんな時間に悪ぃな」
「どうしたの!?仕事終わったの?」
「んーまぁそんなとこでさァ、それより今家に居やすか?」
「うん。いるよ」
「じゃあ、ドア開けてくだせェ」
「えっ、ドア?」
言ってる意味が分からずに頭が真っ白になる。ドアを開けてということは家の前にいるということ…?そう思うと一瞬にしてドキドキと大きな音が耳元まで響いてくる。というかもう寝る前だったしスッピンなのに久々に顔を見れるというのにこんな格好なんて。今の自分の姿に落胆した。
「おい早くしろ、外寒いんでさァ」
鏡で身なりを整える余裕もなく、携帯を握ったまま玄関まで走って、ドアノブに手をかけた瞬間、心臓だけが馬鹿みたいにうるさい。ゆっくりとドアを開けると、そこには隊服姿の総悟が立っていた。仕事明けなのだろうか隊服の所々は泥で汚れ、目の下にうっすらと浮かぶクマが疲労を物語っていた。そんなボロボロな姿で会いに来てくれたことが切なくて嬉しくて鼻の奥がツンと熱くなる。久しぶりに見る大好きな人に視界がじわりと滲んだ。
「……なんでいるの」
驚きと嬉しさと色々な感情が押し寄せてきて言葉に詰まる。
「なんでって、会いに来やした」
いつものポーカーフェイスのまま答える総悟。会いに来てくれた、それが嬉しくて涙が頬を伝った。
「おい、何泣いてんでィ」
「なんか嬉しくなっちゃって」
「相変わらず泣き虫だな」
総悟が少し笑って、私の頬に落ちた涙を親指で拭う。冷たい指先が触れた瞬間、胸がきゅうっと締めつけられた。
「ごめんね。外寒いよね、中入る?」
こくん、と頷く総悟を部屋の中に招き入れる。中に入ると着ていた隊服をバサリと脱いだ。
「お茶淹れてくるね、待ってて」
キッチンに向かい温かいお茶を入れようと準備していると不意に総悟の匂いと体温に包まれた。後ろから抱きしめられたのだ。
「ど、どうしたの総悟」
「寂しかったですかィ?」
耳元で囁かれた低い声に、体がビクリと震える。
「…ちょっとだけね、でも大丈夫だよ」
「嘘つけィ」
私を抱きしめている腕の力がほんの少し強くなる。
「寂しくて死にそうになってるって聞きやしたけど」
「えっ?」
「…今日、旦那にばったり会いましてねィ、そん時にお前の彼女寂しくて死にそうになってるって言われたんでさァ」
銀さん、余計なことを。まさか本人にそんなことが伝わるとは思っていなくて恥ずかしさと気まずさで穴があったら入りたい気分だ。私が何も言わずに黙っていると総悟は私をくるりと振り向かせた。久しぶりに近くで見る顔にドキッと心臓が跳ねた。
「何で直接俺に言わないんでさァ、他人の口から彼女のこと聞かされる俺の身にもなりやがれ」
総悟が少しだけ不機嫌そうに目を細めた。
「ごめん、本当は寂しかったし会いたかったけど……迷惑、かけたくなかったから。仕事、大変だって分かってたし、重いって思われたくなくて…」
しばらく黙って私を見て、小さくため息をついた。
「…そんな重さなら俺が全部背負ってやらァ。彼氏様、舐めんな」
そう言うと総悟は唇に短いキスを落とした。唇が離れたかと思えば次の瞬間、ギュッと抱きしめられた。
「……俺だって、お前に会えなくて寂しかった」
小さくそう呟いて、恥ずかしいのか私の首に顔をうずめる総悟。そんな彼が愛おしくて私もそっと背中に手を回す。
「総悟も寂しかったんだ」
「恥ずかしいこと何回も言わせんじゃねェ」
「でも、そう思っててくれて嬉しい」
「だから、これから寂しい時はすぐ俺に言いなせェ。すぐ駆けつけてやらァ」
「…うん……総悟ありがとう、大好き」
精一杯の想いを込めて伝えると、総悟がゆっくりと顔を上げた。そして唇を塞がれた。今度は先ほどとは違う深い、何度も角度を変えてのキス。離れがたいように唇が離れる。
「……本当は顔見て帰るつもりだったのに、我慢できなくなりやした」
「えっ…?」
彼は私をひょいとお姫様抱っこすると、そのまま寝室へと運んでいく。そしてベッドに沈み込む体。
「会えなかった分、朝まで可愛がってやらァ」
そうニヤリと笑った総悟を見て顔に熱が集まってくるのを感じた。
三週間分の空白を埋めるように夜は長く、甘く続く。
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