短編
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かぶき町にあるファミレス、そこで私は働いている。人が多く住んでいるこの町では日々たくさんの人が来る。その中でも頻繁に来るのが目の前に居るこの男。坂田銀時である。
「ナマエいつものやつ頼むわ。」
「銀時まーたあのパフェ食べようとしてんの?いい加減糖尿なるよ。」
「うっせ、1日1パフェなら糖尿になんねぇんだよ!」
「何それ聞いたことないわ。」
幼馴染というよりもはや腐れ縁の銀時はこうして来店する度に特大サイズのパフェを注文する。幼い頃から甘い物が大好きでこちらが胸焼けしそうになるくらいいつも甘い物を食べていた。そんな私たちももういい大人だ。そろそろ本当に糖尿になるのではないかと心配している。出来上がった特大パフェを持っていくと銀時にちょっと座れと促された。一応仕事中なんだけどなと思いながらも銀時の横に座る。
「何よ、私仕事中なんだからね。」
「おめぇ土曜日仕事か?」
「土曜日?夕方まで仕事だけど?」
「そうか、それなら夜は空けとけ。」
強制的な言い方、何があるんだろうか。正直銀時と関わると碌なことが起きない。理由を聞けばどうやらその日は夏祭りが開かれるらしい。そういえばポスターが至る所に貼ってあったっけ。
「何?一緒にお祭り行く人居なくて私のこと誘ってんの?ププーッ」
「ふざけんな、誰が2人っつったよ、新八と神楽がお前のこと誘えって煩かったんだよ!」
「あー新八くんと神楽ちゃんも一緒なのね、それは喜んで行かせてもらうわ。」
「まるで俺と二人が嫌みたいな言い方やめてくんない!?」
はいはい、と軽くあしらい仕事に戻ろうと席を立った瞬間銀時に手を掴まれた。今度は何だ?銀時は私の目を見てぽつりと呟いた。その瞬間頭の中が真っ白になった。
「高杉の野郎が江戸に来てるしいぜ。」
その銀時の言葉に大きな衝撃が走った。目の前がチカチカして頭はクラクラとするが平然を装いながらそうなんだ、と返事をした。その一言を言うのが精一杯だった。上手く呼吸が出来なくて心臓がバクバクと大きくとなっているのが分かる。銀時に掴まれている手を無理矢理離し仕事に戻ると言って奥に入り込んだ。高杉晋助、こいつも銀時と同じく幼馴染だ。そしてずっと私が想い続けている人。今は過激派攘夷志士として指名手配なんてされている。あの日、突然晋助が居なくなってから片時も忘れたことなんてない。どうして私を置いて行ったの、どうして何も言わずに居なくなったの、どうして、、聞きたいことはたくさんある。そんな晋助が江戸に潜伏してる。一目でいいから会いたい。でも相手は指名手配されている男だ簡単には会えないだろう。それに晋助からしたら今更昔の仲間に会いたくないのかもしれない。グルグルと頭の中で色々なことが巡る。それから仕事中もあまり手につかずに1日が終わってしまった。
土曜日、夏祭り当日になった。銀時の話を聞いた後、偶然もう一人の幼馴染のヅラにも会い晋助のことを聞いてみればどうやら本当に江戸に潜伏しているようだ。もしかしたらバッタリと遭遇したり甘味処に来るのではないかとそわそわしながら過ごしたものの晋助には会えずにいた。あれからというもの考えないようにしていてもつい晋助のことばかり考えてしまい夜もろくに眠れずに居た。万事屋の皆との集合場所に着き1人でぼーっとしていれば後ろから体に衝撃が走った。何事かと思えば後ろから神楽ちゃんが飛びついて来ていた。
「ナマエ久しぶりネー!」
「神楽ちゃん相変わらず元気だね。」
「ナマエさん、お久しぶりです。」
神楽ちゃんの後ろから新八くんと銀時も現れた。神楽ちゃんにゆさゆさと大きく揺さぶられている私を見て2人は哀れな目で見ている。助けろよ!何とか神楽ちゃんから体を引き離したがいつもに増してテンションが高い神楽ちゃん。
「今日は食べまくるネ!キャホーイ!!」
「あっ、神楽ちゃん走ったら危ないよ!」
そのままテンション高く屋台に走り出した神楽ちゃんを止めようと新八くんも走り出す。いつもの万事屋の光景に笑みがこぼれた。いつの間にか隣に居た銀時はそんな私の顔をじっと見つめてくる。
「お前ちゃんと寝てるか?クマ出来てんぞ。」
「え、あー最近忙しくて睡眠時間足りないんだよね。」
「どうせ高杉のことでも考えてたんだろ。」
「は!?何で私があいつのこと考えなきゃいけないのよ!」
「だってお前好きだったじゃん、つーか今も忘れてねぇのかよ、あんなやつのこと。」
呆れたように言い放つ銀時の言葉が胸に刺さる。銀時に全て見透かされているようで何とも心地が悪い。
「まさか、、もうとっくに忘れてるって。てかお腹空いた、私たちも屋台行こう。」
あまりに分かりやすい嘘だったが銀時はもうそれ以上何も聞いてこなかった。屋台に移動し神楽ちゃんと新八くんと合流する。そう今日は折角のお祭りだ晋助のことなんか忘れて楽しまくちゃ。新八くんの持っているたこ焼きをひとつ摘まんで口に運んだ。
万事屋の皆で歩いていれば前の方から見覚えのある服を着た人たちが歩いてくるのが見えた。あの服は真選組だ。よく見れば近藤さん、土方さん、沖田さんの3人だ。3人ともうちのお店にちょくちょく来てくれるので顔見知りだ。真選組の3人がこちら気付いたようであからさまに嫌な顔をする。
「おー税金泥棒さんこんなところで遊んでてもいいのか?」
「遊んでるわけじゃねぇんだよ!見回りだ見回り!」
銀時が突っかかっていくのに対して土方さんもむきになって返している。本当この2人は顔合わせると喧嘩ばっかりするんだから。呆れていれば神楽ちゃんが近藤さんに焼きそば奢れよとたかりそんな近藤さん新八くんにお妙ちゃんのことを聞いている。とてもカオスな様子を見つめていれば肩を叩かれた。隣を見れば沖田くんが立っている。
「ナマエさんこいつらと祭り来たんですかィ?」
「そうそう、誘ってくれてね。沖田くんは仕事だよね。」
「まぁ仕事っつっても見回りだけで退屈なんでさァ。」
沖田くんは本当に退屈そうに欠伸する。何とも沖田くんらしい態度につい笑ってしまった。
「そうだあっちに美味しそうなイカ焼きあったんで一緒に行きやしょう。」
そう私の手を掴んでこちらの返事も聞かずにどんどんと進む沖田くん。
「ちょっと!?仕事は?てか近藤さんたち置いてきていいの?」
「大丈夫でさァ。」
何が大丈夫なのかよく分らないが沖田くんに連れて行かれるままイカ焼きの屋台まで来た。イカ焼きを2本買うとひとつを私に渡してくれた。食べてみれば香ばしい香りが口いっぱいに広がりとても美味しい。ふと沖田くんを見れば口の端にタレが付いている。それを見て笑っている私に何でィとジトリと睨んでくる。
「口にタレ付いてるよ。はいハンカチあるから拭いていいよ。」
「子供扱いしないでくだせェ。」
「えーだって沖田くん子供じゃん。」
「じゃあナマエさんはおばさんかァ。」
「なんだとー、それは怒る!」
「はは、嘘でさァ、次は射的行きやしょう~。」
マイペースな沖田くんにまたもや連れていかれ射的をした後にかき氷を買った時だった、後ろからすごい剣幕で土方さんが走って来た。多分沖田くんが途中で抜けたことに気付いたのだろう。
「総悟ォォ!何堂々と仕事サボってんだ!」
「あーぁ、見つかっちまった。」
「見つかったじゃねぇんだよ!仕事をしろ!」
沖田くんと土方さんが言い合いを始めれば奥の方からキャーという女性の悲鳴が聞こえた、次に引ったくりだ!という声が聞こえた。
「引ったくりか、行くぞ総悟!」
「へいへい、ナマエさんまた後でねィ。」
「後でじゃねぇんだよ、お前は一生見回りだ!」
そう言って2人は事件が起こった場所に走って行ってしまった。急に1人になり少し寂しい。皆どこに居るかなぁ。あの3人は目立つからきっとすぐに合流できるだろう。とりあえず買ったばかりのかき氷を食べてから動こうと思い屋台のある表通りを抜け人の少ない道でかき氷を食べる。口の中がひんやりと冷えて気持ちがいい。
「幕府の犬と随分仲がいいじゃねぇか。」
後ろからいきなり聞こえた声に私は思わず手に持っていたかき氷を落としてしまう。半分溶けていたかき氷がどんどんと道に染みていく。久しぶりに聞く低い声、でも忘れはしないずっと会いたかった人の声だ。一瞬にして手が震えだし心臓がドクンと大きく脈打つそして全身からドッと汗が噴き出してきた。声の出ない私はゆっくりと後ろを振り向けば女物の着物を着て笠で顔を隠した男が立っている。上手く息が吸えないが絞り出すように声を出した。
「し、、晋助」
「久しぶりだなァ。ナマエ。」
男はそう言うと少し笠を上げて顔を出した。あぁ目の前に晋助が居る。ずっとずっと会いたくて仕方なかった人が目の前に居る。今までの感情が一気に溢れ出してくる。それと同時に目からも涙が溢れ視界が滲みぼやける。泣いている私に見かねたのか晋助は静かな声でついてこい、と言い放った。回らぬ頭で晋助の後をゆっくりとついていけば人が誰も居なくなった。お祭りのやっている近くの神社だろう。先ほどまでの賑やかさとは対照的に静寂が響く。
「相変わらず泣き虫だなァ。」
そう笑いながら話す晋助、誰のせいだと思ってるんだ。止まることなく流れる涙を晋助は指ですくった。その顔は過激派攘夷志士として指名手配されている男とは思えぬほどに優しい顔で私の大好きな晋助そのものだった。少し落ち着いた私は呼吸を整える。
「、、何しに来たの。」
「酷ェ言いぐさだな、こうやって昔の仲間に会いに来たってのに。」
「酷いのはどっち?何も言わずに消えたかと思えば、、今更のこのこ現れて。」
そう言うのと同時に温かい体温に包まれた。目の前には晋助の胸元、ふわりと香る煙管の匂いが鼻に広がる。いきなり晋助に抱きしめられ体温が上昇していき心臓がまた大きくなっていくのが分かった。
「俺ァお前に会いに来た。」
そう耳元で囁かれると体がゾクゾクとするのが分かった。やめてと晋助から離れようと抵抗すれば
「お前も会いたいと思っていたが違ったか?」
などと続けて言われて思考が停止してしまう。ズルい、この人は本当にズルい。昔から私の気持ちなんてとっくに気づいているくせに。私は抵抗を止め小さく会いたかったと言えばさらに強く抱きしめられた。いきなりのことで頭が追い付かない。そんな私に対して晋助は耳元である店の名前を囁いた。
「後で来い、そこで待ってる。」
そういうと私を解放し笠を深く被り直した晋助は足早に神社の奥の暗闇へと消えてしまった。私が名前を呼んでも振り向きもせず行ってしまったのだ。しばらくの間動くことも出来ずに呆然と立ち尽くしてると神社の入り口の方から私を呼ぶ声が聞こえた。声の方へと顔を向ければ土方さんと沖田くんが神社の入り口に立っている。
「お前こんなところで何してんだ?」
土方さんのそんな問い掛けに迷子になりました、と適当にそう答えれば土方さんはため息をついていた。
「いい大人が迷子かよ、しっかりしろよ。」
「ナマエさん、女1人でこんなところに居るの危ないですぜィ。」
「そうだね。」
土方さんと沖田さんはそんな1人で突っ立っている私を祭りの会場まで送り届けてくれた。するとタイミングよく万事屋の皆にも再会できた。銀時は私を見るとどこ行ってたんだよと呆れたようだった。新八くんがもうすぐ花火も始まると教えてくれたが私は心ここに有らずだ。
「おい、お前本当どうしたんだよボーっとして。」
「具合でも悪くなったアルか?」
「、、ごめん、ちょっと寝不足で体調悪くなってきたみたいだから私先に帰るね。ごめんね。」
「えっ?大丈夫なんですか?」
「おい、、ナマエおめぇ、、」
「本当にごめん。」
銀時の言葉を遮るようにして私は頭を下げその場から逃げ出した。あの勘のいい銀時に悟られたくなかったのと、いち早くも晋助の元に行きたかった。自分でも馬鹿な女だって思う。きっと行かない方がいい、もう関わらない方がいい頭では分かっているのに体が勝手に動いてしまう。先ほど晋助が言っていたある店の名前は聞き覚えがあった。確かかぶき町の外れの方にある料亭旅館だ。曖昧な記憶を辿り走って来たがどうやらまだ私の記憶は捨てたもんではなかった。上品で高級そうな入り口を足を踏み入れればやたらと笑顔の番頭のおじさんが居た。
「いらっしゃいませ、生憎今日は貸し切りでして。」
「えっと、、ある人に会いたくてここまで来ました。」
そう言えば先ほどまでニコニコと笑っていたおじさんの顔から笑顔が消え冷たく怖い表情になった。
「お前、何者だ。」
まるでこちらに敵意を剥き出しのような声色だ。晋助の名前を出してもいいものか困惑していればおじさんの背後から晋助がゆっくりと現れた。
「そいつは俺の客人だ通して構わねぇ。」
「たっ、高杉様のお客様でしたか。これは失礼致しました。」
晋助の顔を見た瞬間おじさんはとても驚いたような顔をして頭を深々と下げている。そんな中、呆然としている私の手を取り晋助はまたもやゆっくりと歩きだした。晋助に手を引かれやってきたのは建物の二階にある一番奥の部屋だった。料亭旅館なだけあり豪華な部屋だ。
「随分と早い到着だったな、そんなに早く俺に会いたかったか?」
「そんなわけないでしょ。」
精一杯の強がりでそう答えれば晋助は全てを見透かしているように目を細め笑った。晋助は私の髪を撫でそのまま頬に手をやる。先ほどとは違い明るいところで至近距離の晋助の顔は恥ずかしくてつい目を逸らしてしまった。
「どうしてここに私を呼んだの」
「、、お前に会いたかったは理由になんねぇか?」
フッと笑う晋助を見て胸が締め付けられて苦しい。私は何と答えていいのか分からず下を向き黙ってしまう。その瞬間唇に温かい感触。驚いて咄嗟に体を離した。
「な、何すんの。」
「ずっとお前に触れたかった。」
そういう晋助の顔は酷く優しくて自然と目から涙が溢れ出てくる。
「、、ずるいよ。晋助は昔からずるい。」
か細く絞り出した声、そんな言葉を聞き私の涙を指で優しく拭ってくれる。そんなことされたら余計に晋助への想いが溢れ出してくる。私の涙を拭う指先が、頬から顎そして首筋へとすべるように移動していく。
「ずるいのはお前もだろ。」
耳元でそんなことを囁かれ私は小さく肩を震わせた。
「ずっと、俺にこうされるの待ってたんじゃねぇのか。」
低く囁くような声が、私の奥深くに沈んでいく。体が熱を帯びてくるのがわかる。何も答えることが出来ずただ晋助の顔を見つめていれば肯定と受け取ったのか、晋助は私の腰を引き寄せ、再び唇を重ねてきた。今度は抵抗することは出来ず受け入れる。
「俺ァお前のこと忘れたことなんてない。」
「黙って置いていったくせによく言うね。」
「、、悪かったな。お前を巻き込みたくなかった。」
そう囁いた晋助の声は微かだが震えていた。あの高杉晋助がこんなにも脆い声を出すなんて。
「おい、ナマエ。」
晋助はまるで壊れ物に触れるように私の頬に触れた。
「俺と一緒に来ねぇか。」
頭がクラクラとした。心臓が痛いくらいに高鳴って呼吸がうまくできない。私はずっと、ずっとこの言葉を待っていたんだ。あの日、何も言わずに背を向けた晋助。
どれだけ泣いて、どれだけ憎んで、それでも大好きで愛しくて忘れられなかった。
晋助はまた私のことを見透かしたようにただじっとこちらを見つめている。ずるい男だ。
晋助の元へ行くということはもう後戻りなんてできない。穏やかな日常も、守ってきた小さな幸せも全部。それでも私は
「、、一緒に行きたい。」
次の瞬間、晋助は私を腕の中に強く引き寄せた。体温と香りに包まれる。
「馬鹿な女だねぇ。」
「本当、馬鹿だね私。」
そう2人で笑い合うとどちらからともなく唇を合わせた。深く、お互いを確かめ合うように。夜の静寂が、ふたりを優しく包み込む。私たちはそっと、夜に溶けていった。
「ナマエいつものやつ頼むわ。」
「銀時まーたあのパフェ食べようとしてんの?いい加減糖尿なるよ。」
「うっせ、1日1パフェなら糖尿になんねぇんだよ!」
「何それ聞いたことないわ。」
幼馴染というよりもはや腐れ縁の銀時はこうして来店する度に特大サイズのパフェを注文する。幼い頃から甘い物が大好きでこちらが胸焼けしそうになるくらいいつも甘い物を食べていた。そんな私たちももういい大人だ。そろそろ本当に糖尿になるのではないかと心配している。出来上がった特大パフェを持っていくと銀時にちょっと座れと促された。一応仕事中なんだけどなと思いながらも銀時の横に座る。
「何よ、私仕事中なんだからね。」
「おめぇ土曜日仕事か?」
「土曜日?夕方まで仕事だけど?」
「そうか、それなら夜は空けとけ。」
強制的な言い方、何があるんだろうか。正直銀時と関わると碌なことが起きない。理由を聞けばどうやらその日は夏祭りが開かれるらしい。そういえばポスターが至る所に貼ってあったっけ。
「何?一緒にお祭り行く人居なくて私のこと誘ってんの?ププーッ」
「ふざけんな、誰が2人っつったよ、新八と神楽がお前のこと誘えって煩かったんだよ!」
「あー新八くんと神楽ちゃんも一緒なのね、それは喜んで行かせてもらうわ。」
「まるで俺と二人が嫌みたいな言い方やめてくんない!?」
はいはい、と軽くあしらい仕事に戻ろうと席を立った瞬間銀時に手を掴まれた。今度は何だ?銀時は私の目を見てぽつりと呟いた。その瞬間頭の中が真っ白になった。
「高杉の野郎が江戸に来てるしいぜ。」
その銀時の言葉に大きな衝撃が走った。目の前がチカチカして頭はクラクラとするが平然を装いながらそうなんだ、と返事をした。その一言を言うのが精一杯だった。上手く呼吸が出来なくて心臓がバクバクと大きくとなっているのが分かる。銀時に掴まれている手を無理矢理離し仕事に戻ると言って奥に入り込んだ。高杉晋助、こいつも銀時と同じく幼馴染だ。そしてずっと私が想い続けている人。今は過激派攘夷志士として指名手配なんてされている。あの日、突然晋助が居なくなってから片時も忘れたことなんてない。どうして私を置いて行ったの、どうして何も言わずに居なくなったの、どうして、、聞きたいことはたくさんある。そんな晋助が江戸に潜伏してる。一目でいいから会いたい。でも相手は指名手配されている男だ簡単には会えないだろう。それに晋助からしたら今更昔の仲間に会いたくないのかもしれない。グルグルと頭の中で色々なことが巡る。それから仕事中もあまり手につかずに1日が終わってしまった。
土曜日、夏祭り当日になった。銀時の話を聞いた後、偶然もう一人の幼馴染のヅラにも会い晋助のことを聞いてみればどうやら本当に江戸に潜伏しているようだ。もしかしたらバッタリと遭遇したり甘味処に来るのではないかとそわそわしながら過ごしたものの晋助には会えずにいた。あれからというもの考えないようにしていてもつい晋助のことばかり考えてしまい夜もろくに眠れずに居た。万事屋の皆との集合場所に着き1人でぼーっとしていれば後ろから体に衝撃が走った。何事かと思えば後ろから神楽ちゃんが飛びついて来ていた。
「ナマエ久しぶりネー!」
「神楽ちゃん相変わらず元気だね。」
「ナマエさん、お久しぶりです。」
神楽ちゃんの後ろから新八くんと銀時も現れた。神楽ちゃんにゆさゆさと大きく揺さぶられている私を見て2人は哀れな目で見ている。助けろよ!何とか神楽ちゃんから体を引き離したがいつもに増してテンションが高い神楽ちゃん。
「今日は食べまくるネ!キャホーイ!!」
「あっ、神楽ちゃん走ったら危ないよ!」
そのままテンション高く屋台に走り出した神楽ちゃんを止めようと新八くんも走り出す。いつもの万事屋の光景に笑みがこぼれた。いつの間にか隣に居た銀時はそんな私の顔をじっと見つめてくる。
「お前ちゃんと寝てるか?クマ出来てんぞ。」
「え、あー最近忙しくて睡眠時間足りないんだよね。」
「どうせ高杉のことでも考えてたんだろ。」
「は!?何で私があいつのこと考えなきゃいけないのよ!」
「だってお前好きだったじゃん、つーか今も忘れてねぇのかよ、あんなやつのこと。」
呆れたように言い放つ銀時の言葉が胸に刺さる。銀時に全て見透かされているようで何とも心地が悪い。
「まさか、、もうとっくに忘れてるって。てかお腹空いた、私たちも屋台行こう。」
あまりに分かりやすい嘘だったが銀時はもうそれ以上何も聞いてこなかった。屋台に移動し神楽ちゃんと新八くんと合流する。そう今日は折角のお祭りだ晋助のことなんか忘れて楽しまくちゃ。新八くんの持っているたこ焼きをひとつ摘まんで口に運んだ。
万事屋の皆で歩いていれば前の方から見覚えのある服を着た人たちが歩いてくるのが見えた。あの服は真選組だ。よく見れば近藤さん、土方さん、沖田さんの3人だ。3人ともうちのお店にちょくちょく来てくれるので顔見知りだ。真選組の3人がこちら気付いたようであからさまに嫌な顔をする。
「おー税金泥棒さんこんなところで遊んでてもいいのか?」
「遊んでるわけじゃねぇんだよ!見回りだ見回り!」
銀時が突っかかっていくのに対して土方さんもむきになって返している。本当この2人は顔合わせると喧嘩ばっかりするんだから。呆れていれば神楽ちゃんが近藤さんに焼きそば奢れよとたかりそんな近藤さん新八くんにお妙ちゃんのことを聞いている。とてもカオスな様子を見つめていれば肩を叩かれた。隣を見れば沖田くんが立っている。
「ナマエさんこいつらと祭り来たんですかィ?」
「そうそう、誘ってくれてね。沖田くんは仕事だよね。」
「まぁ仕事っつっても見回りだけで退屈なんでさァ。」
沖田くんは本当に退屈そうに欠伸する。何とも沖田くんらしい態度につい笑ってしまった。
「そうだあっちに美味しそうなイカ焼きあったんで一緒に行きやしょう。」
そう私の手を掴んでこちらの返事も聞かずにどんどんと進む沖田くん。
「ちょっと!?仕事は?てか近藤さんたち置いてきていいの?」
「大丈夫でさァ。」
何が大丈夫なのかよく分らないが沖田くんに連れて行かれるままイカ焼きの屋台まで来た。イカ焼きを2本買うとひとつを私に渡してくれた。食べてみれば香ばしい香りが口いっぱいに広がりとても美味しい。ふと沖田くんを見れば口の端にタレが付いている。それを見て笑っている私に何でィとジトリと睨んでくる。
「口にタレ付いてるよ。はいハンカチあるから拭いていいよ。」
「子供扱いしないでくだせェ。」
「えーだって沖田くん子供じゃん。」
「じゃあナマエさんはおばさんかァ。」
「なんだとー、それは怒る!」
「はは、嘘でさァ、次は射的行きやしょう~。」
マイペースな沖田くんにまたもや連れていかれ射的をした後にかき氷を買った時だった、後ろからすごい剣幕で土方さんが走って来た。多分沖田くんが途中で抜けたことに気付いたのだろう。
「総悟ォォ!何堂々と仕事サボってんだ!」
「あーぁ、見つかっちまった。」
「見つかったじゃねぇんだよ!仕事をしろ!」
沖田くんと土方さんが言い合いを始めれば奥の方からキャーという女性の悲鳴が聞こえた、次に引ったくりだ!という声が聞こえた。
「引ったくりか、行くぞ総悟!」
「へいへい、ナマエさんまた後でねィ。」
「後でじゃねぇんだよ、お前は一生見回りだ!」
そう言って2人は事件が起こった場所に走って行ってしまった。急に1人になり少し寂しい。皆どこに居るかなぁ。あの3人は目立つからきっとすぐに合流できるだろう。とりあえず買ったばかりのかき氷を食べてから動こうと思い屋台のある表通りを抜け人の少ない道でかき氷を食べる。口の中がひんやりと冷えて気持ちがいい。
「幕府の犬と随分仲がいいじゃねぇか。」
後ろからいきなり聞こえた声に私は思わず手に持っていたかき氷を落としてしまう。半分溶けていたかき氷がどんどんと道に染みていく。久しぶりに聞く低い声、でも忘れはしないずっと会いたかった人の声だ。一瞬にして手が震えだし心臓がドクンと大きく脈打つそして全身からドッと汗が噴き出してきた。声の出ない私はゆっくりと後ろを振り向けば女物の着物を着て笠で顔を隠した男が立っている。上手く息が吸えないが絞り出すように声を出した。
「し、、晋助」
「久しぶりだなァ。ナマエ。」
男はそう言うと少し笠を上げて顔を出した。あぁ目の前に晋助が居る。ずっとずっと会いたくて仕方なかった人が目の前に居る。今までの感情が一気に溢れ出してくる。それと同時に目からも涙が溢れ視界が滲みぼやける。泣いている私に見かねたのか晋助は静かな声でついてこい、と言い放った。回らぬ頭で晋助の後をゆっくりとついていけば人が誰も居なくなった。お祭りのやっている近くの神社だろう。先ほどまでの賑やかさとは対照的に静寂が響く。
「相変わらず泣き虫だなァ。」
そう笑いながら話す晋助、誰のせいだと思ってるんだ。止まることなく流れる涙を晋助は指ですくった。その顔は過激派攘夷志士として指名手配されている男とは思えぬほどに優しい顔で私の大好きな晋助そのものだった。少し落ち着いた私は呼吸を整える。
「、、何しに来たの。」
「酷ェ言いぐさだな、こうやって昔の仲間に会いに来たってのに。」
「酷いのはどっち?何も言わずに消えたかと思えば、、今更のこのこ現れて。」
そう言うのと同時に温かい体温に包まれた。目の前には晋助の胸元、ふわりと香る煙管の匂いが鼻に広がる。いきなり晋助に抱きしめられ体温が上昇していき心臓がまた大きくなっていくのが分かった。
「俺ァお前に会いに来た。」
そう耳元で囁かれると体がゾクゾクとするのが分かった。やめてと晋助から離れようと抵抗すれば
「お前も会いたいと思っていたが違ったか?」
などと続けて言われて思考が停止してしまう。ズルい、この人は本当にズルい。昔から私の気持ちなんてとっくに気づいているくせに。私は抵抗を止め小さく会いたかったと言えばさらに強く抱きしめられた。いきなりのことで頭が追い付かない。そんな私に対して晋助は耳元である店の名前を囁いた。
「後で来い、そこで待ってる。」
そういうと私を解放し笠を深く被り直した晋助は足早に神社の奥の暗闇へと消えてしまった。私が名前を呼んでも振り向きもせず行ってしまったのだ。しばらくの間動くことも出来ずに呆然と立ち尽くしてると神社の入り口の方から私を呼ぶ声が聞こえた。声の方へと顔を向ければ土方さんと沖田くんが神社の入り口に立っている。
「お前こんなところで何してんだ?」
土方さんのそんな問い掛けに迷子になりました、と適当にそう答えれば土方さんはため息をついていた。
「いい大人が迷子かよ、しっかりしろよ。」
「ナマエさん、女1人でこんなところに居るの危ないですぜィ。」
「そうだね。」
土方さんと沖田さんはそんな1人で突っ立っている私を祭りの会場まで送り届けてくれた。するとタイミングよく万事屋の皆にも再会できた。銀時は私を見るとどこ行ってたんだよと呆れたようだった。新八くんがもうすぐ花火も始まると教えてくれたが私は心ここに有らずだ。
「おい、お前本当どうしたんだよボーっとして。」
「具合でも悪くなったアルか?」
「、、ごめん、ちょっと寝不足で体調悪くなってきたみたいだから私先に帰るね。ごめんね。」
「えっ?大丈夫なんですか?」
「おい、、ナマエおめぇ、、」
「本当にごめん。」
銀時の言葉を遮るようにして私は頭を下げその場から逃げ出した。あの勘のいい銀時に悟られたくなかったのと、いち早くも晋助の元に行きたかった。自分でも馬鹿な女だって思う。きっと行かない方がいい、もう関わらない方がいい頭では分かっているのに体が勝手に動いてしまう。先ほど晋助が言っていたある店の名前は聞き覚えがあった。確かかぶき町の外れの方にある料亭旅館だ。曖昧な記憶を辿り走って来たがどうやらまだ私の記憶は捨てたもんではなかった。上品で高級そうな入り口を足を踏み入れればやたらと笑顔の番頭のおじさんが居た。
「いらっしゃいませ、生憎今日は貸し切りでして。」
「えっと、、ある人に会いたくてここまで来ました。」
そう言えば先ほどまでニコニコと笑っていたおじさんの顔から笑顔が消え冷たく怖い表情になった。
「お前、何者だ。」
まるでこちらに敵意を剥き出しのような声色だ。晋助の名前を出してもいいものか困惑していればおじさんの背後から晋助がゆっくりと現れた。
「そいつは俺の客人だ通して構わねぇ。」
「たっ、高杉様のお客様でしたか。これは失礼致しました。」
晋助の顔を見た瞬間おじさんはとても驚いたような顔をして頭を深々と下げている。そんな中、呆然としている私の手を取り晋助はまたもやゆっくりと歩きだした。晋助に手を引かれやってきたのは建物の二階にある一番奥の部屋だった。料亭旅館なだけあり豪華な部屋だ。
「随分と早い到着だったな、そんなに早く俺に会いたかったか?」
「そんなわけないでしょ。」
精一杯の強がりでそう答えれば晋助は全てを見透かしているように目を細め笑った。晋助は私の髪を撫でそのまま頬に手をやる。先ほどとは違い明るいところで至近距離の晋助の顔は恥ずかしくてつい目を逸らしてしまった。
「どうしてここに私を呼んだの」
「、、お前に会いたかったは理由になんねぇか?」
フッと笑う晋助を見て胸が締め付けられて苦しい。私は何と答えていいのか分からず下を向き黙ってしまう。その瞬間唇に温かい感触。驚いて咄嗟に体を離した。
「な、何すんの。」
「ずっとお前に触れたかった。」
そういう晋助の顔は酷く優しくて自然と目から涙が溢れ出てくる。
「、、ずるいよ。晋助は昔からずるい。」
か細く絞り出した声、そんな言葉を聞き私の涙を指で優しく拭ってくれる。そんなことされたら余計に晋助への想いが溢れ出してくる。私の涙を拭う指先が、頬から顎そして首筋へとすべるように移動していく。
「ずるいのはお前もだろ。」
耳元でそんなことを囁かれ私は小さく肩を震わせた。
「ずっと、俺にこうされるの待ってたんじゃねぇのか。」
低く囁くような声が、私の奥深くに沈んでいく。体が熱を帯びてくるのがわかる。何も答えることが出来ずただ晋助の顔を見つめていれば肯定と受け取ったのか、晋助は私の腰を引き寄せ、再び唇を重ねてきた。今度は抵抗することは出来ず受け入れる。
「俺ァお前のこと忘れたことなんてない。」
「黙って置いていったくせによく言うね。」
「、、悪かったな。お前を巻き込みたくなかった。」
そう囁いた晋助の声は微かだが震えていた。あの高杉晋助がこんなにも脆い声を出すなんて。
「おい、ナマエ。」
晋助はまるで壊れ物に触れるように私の頬に触れた。
「俺と一緒に来ねぇか。」
頭がクラクラとした。心臓が痛いくらいに高鳴って呼吸がうまくできない。私はずっと、ずっとこの言葉を待っていたんだ。あの日、何も言わずに背を向けた晋助。
どれだけ泣いて、どれだけ憎んで、それでも大好きで愛しくて忘れられなかった。
晋助はまた私のことを見透かしたようにただじっとこちらを見つめている。ずるい男だ。
晋助の元へ行くということはもう後戻りなんてできない。穏やかな日常も、守ってきた小さな幸せも全部。それでも私は
「、、一緒に行きたい。」
次の瞬間、晋助は私を腕の中に強く引き寄せた。体温と香りに包まれる。
「馬鹿な女だねぇ。」
「本当、馬鹿だね私。」
そう2人で笑い合うとどちらからともなく唇を合わせた。深く、お互いを確かめ合うように。夜の静寂が、ふたりを優しく包み込む。私たちはそっと、夜に溶けていった。
