女中物語
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今日は久しぶりにお妙と飲みにいく約束をしている。自分の仕事を終わらせて着替えて町に繰り出した。集合場所に着けばすでにお妙が来ていた。
「ごめん、お待たせ!」
「今来たところよ、行きましょ。」
お妙が最近見つけたという居酒屋に入った。ふとカウンターで1人で飲んでいる人物が目に入り思わず声が出てしまった。私の声で気付いたのかゆっくりとこちらを向いたのは銀時だった。だがいつものしょぼくれて飲んでるのとは違い今日は妙にニコニコしている。そして私たちに近づいてきた。
「よぉ、お二人さん奇遇だねぇ」
「銀時こそなんかご機嫌そうじゃん」
「ちょっとこれで勝っちまってよー」
手でクイクイとする、要するにパチンコで勝ったということか。いつもなら「金貸してくれ」なんて情けない顔をしているのに、珍しいこともあるもんだ。
「そうなんですか、じゃあ今日は銀さんに奢ってもらおうかしら」
「仕方ねぇな今日だけ特別だぞ」
もうすでに酔いが回り上機嫌になっている銀時は、冗談で言ったお妙の言葉に二つ返事で返した。こうして何故か三人で飲むことになってしまったのだった。
もう今後ないかもしれない銀時の奢りということもあり私とお妙はしこたまお酒を注文した。
「店員さーん!こっちに日本酒とワイン追加とあと一番高いおつまみ全部持ってきてくださいな」
「おい、お前ら人の金だからって遠慮ねぇな」
「銀時に奢ってもらうなんて最初で最後だもん、この機会を逃すわけにはいかないよね」
「そうよ、銀さんいつも甲斐性ないもの」
「誰が甲斐性なしだ、俺だって本気だせば金持ちにも夜王にもなれるけど本気出してないだけだからね」
「はぁ、結婚するなら銀時みたいな人はやめよ」
「そういえば真選組にいい人はいないの?あのゴリラ以外で」
そうお妙に聞かれ真選組隊士の顔を頭に浮かべてみる。土方さんはかっこいいけどマヨに呪われてるし、沖田さんも顔はいいけど性格に難がありすぎるし、山崎さんは地味だし。他の隊士さんも何だかんだキャラの濃い人ばかりだ。
「いない、全然いない。」
「そうなの?勿体ないわね折角公務員なのに」
「じゃあお妙が近藤さんと結婚し「殺すわよ」」
「すいませんでした」
「つーか、お前あれは沖田くんどうよ」
「何で沖田さんなの?」
「中々お似合いだと思うけどねぇ」
「やだよー、年下は興味ないって」
「勿体ないねぇ」
「もういいじゃん、この話題は!飲もう!」
お酒をグイっと煽った。
それからどれくらい飲んだのか分からないほどに三人で浴びるほどに飲んだ。もう体は熱いし頭はふわふわとしていて何が何だか分からない。けど誰かが何かを話すたびに何がそんなにおかしいのか分からないが爆笑してすごく楽しかった。笑いすぎてお腹が痛いし、視界はゆらゆら揺れている。
もうすぐ日付が変わる頃そろそろお開きにしようととりあえずお会計をしてフラフラと外に出た。
「この後どうする?二軒目行く?」
「んーいや私そろそろ帰ろうかな」
「お前一人で帰れんの?」
「帰れるよ、大丈夫、ほら」
歩いて見せるが千鳥足で足元の覚束ない私を見て二人は笑っている。それにつられ私も何だか面白くて笑った。
「あんたら何してんでィ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
沖田side
夜の見回りをしていればやたらと煩い三人組がいる。酔っ払い同士の揉め事か?面倒くせぇが仕方ないので近づいてみると見知った顔だった。旦那に姐御、そしてミョウジ。三人揃って顔を赤くして相当酔っているのかテンションがクソ高ぇ。何がそんなに楽しいのやらずっと笑い合っている。
「あんたら何してんでィ」
そう声をかけてみれば一斉にこっちを見た。
「おー沖田くんじゃん!」
「本当だ、沖田さんだ!沖田さーん!」
「ちょうどいいわ、沖田さんに送ってもらえばいいじゃない」
「いきなり何なんでさァ」
「こいつ一人で帰すの危ねぇからさ、沖田くん任せたわ!」
「えー、大丈夫だって言ってるのに」
旦那と姐御はミョウジの体を半ば強引に俺に押し付けてきた。
「俺、仕事中なんですけど」
「まーまー固いこと言わないでさ!頼むわ!」
「沖田さんナマエのこと頼みますね。そうとなれば銀さんこれから『すまいる』行ってドンペリ入れてもらいますよ」
「は!?嘘だろ?もうお前らのせいで財布からっぽだけど?おい!」
「ふふふ、さぁ行きましょう」
「おい、勘弁してくれよ」
姐御はそのまま旦那の首を抱えたまま夜の闇へと消えていった。旦那の悲鳴が遠ざかるのを見送って隣に視線を落とした。残されたミョウジ。ふらふらとしながら旦那たちの消えていった方向に楽しそうに笑いながら手を振っている。めんどくせぇことになった。このままこいつを置いて帰るわけにも行かず屯所まで送り届けることになった。
「おい、帰るぞ」
「はーい!了解です!」
ヘラヘラと笑いながらもとろんとした目でこちらに顔を近づけてくる。ふわりと香る甘い匂いと酒の匂い。不覚にもドキリとしてしまいそれを誤魔化すように俺は歩き出した。が、後ろにいるミョウジは思った以上に酔っ払っているようでフラフラして上手く歩けないようだった。何だか壊れたおもちゃのようでそれを見て笑っている俺にミョウジは、笑うなー!と呂律の回らない口でそう言った。これじゃあいつまで経っても屯所に帰れやしないからミョウジの手を握れば、ミョウジはそのまま体ごと俺に預けてきた。いつものこいつからは想像できない姿で正直戸惑う。
「寄りかかりすぎでさァ。重てェんですけど」
口ではそう言いながらも、腕の中に収まったミョウジの体温が妙に心地よくて、無意識に握る手に力が入る。たまたまあそこを通りかかったのが自分で良かった。こんな無防備な姿を他のやつらに見られるのが嫌だと思った。そのまま少し歩き出したがフラフラと足取りの覚束ないミョウジのおかげでこちらまで歩きづらくて仕方がない。しょうがねぇ。俺は溜息を一つ吐くと、ミョウジの前に背中を向けて、軽く腰を落とした。
「乗りなせェ」
「え?なに?」
「おぶってやるって言ってんでィ。さっさと乗らねーと、ここに置いていくぞ」
「えーあはは!沖田さんおんぶしてくれるんだー!」
その瞬間、背中全体に柔らかい感触と、ミョウジの熱い体温がダイレクトに伝わってきて心臓が跳ねた。
動揺を隠すように、ミョウジの膝裏に腕を回してぐいっと持ち上げる。首に回された腕からは、酒とミョウジ自身の柔らかな甘い香りが混ざり合って漂ってきた。耳元で聞こえる熱っぽい吐息が俺の理性をじわじわと削っていく。
「背中、あったかーい」
「そりゃ良かったですねィ、つーかもうちょっと痩せろ重てェ」
自分の胸の鼓動がうるさくてたまらなくて、それを誤魔化すように嫌味を言ってみても酔っているミョウジはそれを笑って受け流す。背中に伝わる体温が、歩くたびにゆっくりと深く馴染んでくる。
しばらくすると、さっきまであんなに騒がしかったミョウジの口が止まり、代わりに耳元で規則正しい、寝息が聞こえ始めた。無防備すぎんだろこいつ。でも嫌な感じはせずむしろ俺の背中で安心して身を任せているミョウジが少し愛おしく感じた。このまま、屯所まで少し遠回りして帰るのも悪くねェかな。その時だった。
「……ん、……ぎん、とき?」
耳元で、ミョウジがうわ言のように呟いた。一瞬、聞き間違いかと思った。だが、ミョウジは俺の首に回した腕にさらに力を込め、幸せそうに俺の背中に顔を擦り付けてくる。
「……銀時、…ありがと。大好き。」
足が止まる。夜の冷たい空気が、一気に身体に突き刺さるような感覚。
「へぇ。旦那だと思ってんですかィ、今おぶってんのが」
ポツリと、自分でも引くほど低くて温度のない声が出た。ミョウジは寝ぼけているのか「んふふ」と笑っているだけだった。腹の底から、どろりとした黒い感情がせり上がってくる。初めて感じるこんなどす黒い感情。
「……寝言でまで他の男の名前呼ぶとは、いい度胸してんじゃねェか」
いつもの皮肉めいた口調も、今は自分でも驚くほど低く、冷たく響いた。さっきまで感じていた心地よい体温が、急に遠く感じて、胸の奥がキリキリと痛む。
面白くねェ、、
こいつをこのまま道端に放り出して置いて帰りたいがそうもいかねぇ。俺はミョウジの足を支える手にギリと痛いくらいに力を込めた。しかしミョウジが旦那と前々から仲が良いのは知っていたがミョウジ本人の口から『大好き』という言葉を聞くとは思わなかった。俺の前では見せたこともねェような甘い声で。
本当に腹が立つ、面白くねェ。
ナマエside
朝の光で目が覚めた。段々と意識を取り戻すにつれて頭が痛いそして自分がとても酒臭い。
「あ、ナマエちゃん起きた?」
ぼーっとする頭で見れば朝の支度している小梅ちゃん。
「ごめんね起こしちゃって、今日非番だよね?ゆっくり寝ていてね」
そういって小梅ちゃんはそそくさと部屋を出て行ってしまった。そういえば私、どうやってここまで帰ってきたんだったっけ?あれ、昨日はお妙と銀時としこたま浴びるほどお酒を飲んだのは覚えている。銀時の奢りだからと馬鹿みたいに飲んだ、そうそこまでは覚えてるのだが終盤の記憶がすっぽりと抜け落ちている。酔っ払いながらもちゃんと帰ってこれたのかな?それとも二人が送ってくれたのか、全く思い出せない。思い出そうとすればするほど、頭の奥がズキズキと痛む。とりあえず水を飲もうと、重い体を引きずって部屋を出た。廊下を歩いていると、向こうから山崎さんがやってくるのが見えた。
「ミョウジさん、おはよう、体大丈夫?」
「おはようございます、めちゃくちゃ二日酔いです」
「だろうね、昨日帰ってきた時、泥酔してたもんね」
「え、あの…私どうやって帰ってきました?」
「あー、沖田さんがおぶって帰ってきたよ」
「沖田さんが!?」
その言葉を聞いても全く記憶がない、どうして沖田さんが私をおぶって屯所まで帰ってきたんだろう。私が考え込んでいると山崎さんはそれを見て苦笑いを浮かべる。
「覚えてないんだね、でも覚えてない方がいいかも昨日の沖田さん凄く殺気立って怖かったし」
山崎さんの言葉に嫌な汗が背中を伝うのが分かった。きっと私が酔っ払って何かしたのかもしれない、、そこまで不機嫌にさせるなんて、一体何をしでかしたんだろ?怖い。
「もう、近付くのも怖いくらいだったよ。ミョウジさんを屯所に放り込んですぐ自室に籠っちゃったけど……悪いこと言わないから、今日はあんまり沖田さんに近付かない方がいいかもね」
山崎さんはそう言い残して、逃げるように去っていった。山崎さんの背中を見送りながら、私は廊下で立ち尽くした。どうしよう、思い出せないけど送ってもらったのは事実なんだしお礼は言わなくちゃいけないよね。とりあえずこの酷い外見を整えてから行こうと一旦、自室に戻ることにした。
昼過ぎ、シフトを確認したところ一番隊は稽古をしているようなので道場の方へとやってきた。竹刀のぶつかり合う音が聞こえる。中を覗くと、隊の面々が汗を流している。その中心で、一際鋭い動きを見せているのが沖田さんだった。いつもならどこか気だるげに、サボる隙を伺いながら稽古をしているはずなのに、今日はまるで何かに取り憑かれたような気迫で竹刀を振るっている。相手をしている隊士さんたちが床でばてている。休憩に入るのを見計らいそーっと道場に入り水を飲んでいる沖田さんの元へ向かった。
「沖田さん、お疲れ様です。すいません、今いいですか」
「…何でさァ」
「その昨日、私のこと送ってもらったって聞いて、ありがとうございます」
「……」
「あの…それで私、酔ってて覚えてないんですけど、凄く失礼なこととかしちゃいましたか」
そういうと沖田さんの眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。
「へー覚えてないねェ。別に何もねぇよ。つーか練習の邪魔なんで出て行ってくだせェ」
突き放すような物言いに、心臓がギュッと縮まる。それ以上は一言も発さず、沖田さんは立ち上がると私と目を合わせることもなく、私のすぐ横を通り過ぎていった。追いかけようとしたが、その背中からは「近寄るな」という無言の圧力が溢れ出していて、足が動かなかった。沖田さんはいつも意地悪だけど、あんな風に冷たい態度をとることはなかったのでショックだった。
*
そこからしばらく日が経った。あの日から沖田さんは私に対してそっけなくなった。いや、そっけないというより、まるでいないみたいだった。廊下ですれ違っても視線を合わせない。声をかけても返事は最小限。いつもなら起こしに行けばぐずぐずと文句を言うのに、ここ最近は私が部屋に入る前に自分で起きていた。いよいよ沖田さんと関わることがなくなってしまった。別に困ることなんてないのだが、なんだか心にぽっかりと穴が開いたように寂しい。
「ねぇナマエちゃん、沖田さんと何かあったの?喧嘩?」
部屋で寝る準備をしていれば小梅ちゃんが心配そうに覗き込んできた。最近、この質問をされるのは何度目だろう。小梅ちゃんだけではない、土方さんや他の隊士さんにも聞かれた。
「んー喧嘩はしてないんだけど、多分私が怒らせちゃったんだけど原因を覚えてなくて」
「そっか、沖田さん最近ずっと不機嫌そうだしナマエちゃんも元気ないから心配」
「元気だよ!でもほぼ毎日沖田さんに絡まれてたからそれがなくて、ちょっと寂しいのかも」
「早く仲直りできるといいね、、」
「心配かけちゃってごめんね、ありがとう」
私もできれば以前のように話せる関係に戻りたいけど話すら聞いてくれそうにない今の状況でどうしていいのか分からない。本当にどうしたもんか。
*
真選組で飲み会が行われることになったのはそれから間もなくのことだった。新しく入隊した隊士さんたちの歓迎会らしく大広間にはずらりと膳が並んでいる。私たち女中も料理やお酒の準備に追われていたが一通り料理などを運び終えると参加していいということで隅の方でひっそりと参加させてもらった。ちなみに私は今回はお酒はしばらくやめようと思いお茶で過ごしている。
「ナマエちゃん、これ美味しいね」
「自分たちで作ったやつだけど上出来だね」
小梅ちゃんと肩を並べ食事をつまみながら広間の様子を眺める。宴会が進むにつれお酒が進み段々とカオスな状態になっていた。新入隊士たちは緊張で顔を強張らせながらも、先輩隊士たちに次々と酒を向けられ顔を真っ赤にして必死に食らいついている。近藤さんは何故か裸になろうとしているし、土方さんは相変わらず新人隊士にマヨネーズに勧めどん引かれている。山崎さんに至ってはバドミントンのラケット持ってうろうろしている、何でバドミントン?
あちこちでそんな怒号や笑い声が飛び交い熱気に包まれる大広間。
「ちょっとお手洗い行ってくるね」
そう小梅ちゃんに告げ大広間から廊下へと出た。冷えた夜風が、大広間の喧騒で火照った肌に心地いい。ふぅ、と小さく溜息をついてトイレへ向かおうとした、その時だった。廊下の向こうに沖田さんがいるのを見つけた。何となく気まずくてもう一度、大広間に戻ろうかと思った時、声をかけられた。
「おーミョウジじゃねぇか」
その声は、最近の冷たさは微塵もなく、どこかふわふわと浮ついたような、ひどく上機嫌なようだった。話しかけらるとは思っていなかったので驚いて固まってしまった。そんな私を見て笑みを浮かべフラフラと覚束ない足取りで近づいてきた。沖田さんの顔も耳も赤くなっており目はいつもよりとろんとしている、これは相当酔っ払ってる。
「どうしたんですか、大分酔っ払ってます?」
「酔ってねぇー」
「酔っ払いこそそう言うんですよ、お水持ってきましょうか」
「いらねー」
酔っているとはいえ久しぶりに普通にやり取りが出来てなんだか嬉しい。今なら何で沖田さんが怒ってしまったのか聞き出せるかな。
「沖田さん、私、あの日何かしちゃいましたか?本当に覚えてなくて申し訳ないんですけど。あれから沖田さん急に冷たくなっちゃって少し寂しかったです……」
「……お前、万事屋の旦那のこと好きなんだろィ」
「えっ!?なんでそうなるんですか?」
「俺の背中で『大好き』って言ってやしたぜ、幸せそうに」
そう沖田さんは煽るような棘のある口ぶりで言い放ったが、私は全くその記憶がない。そもそも沖田さんにおぶられてる記憶すらないのに。本当に思い出せずに黙って考えていると沖田さんがしびれを切らしたのか口を開いた。
「まぁ、お前が誰を好きでもいいけど、勘違いして呼ばれるのは良い気はしねぇ」
そうか、私おんぶしてくれてるのが銀時って勘違いしちゃったんだ。それでいつもの軽口で大好き、だなんて沖田さん向かって言ってしまったんだ。頭の中でようやくピースがどんどんハマっていくような感覚。
「私あの日、本当に酔っ払ってしまって、直前までお妙と銀時と三人で楽しく飲んでたのでその記憶で多分、銀時と間違っちゃったんだと思います、、本当すいません。」
「…別に俺には関係ねぇことです」
「あと私、銀時のことは別に好きじゃないですから」
「嘘つけ」
「本当ですって……私とうの昔に振られてますし、今考えたら何であんな天パ好きだったのか謎ですけどキッパリ振られてます。だから友達です。」
言いたくなかったことだけど沖田さんに誤解されるのは嫌だった。それを聞いた沖田さんは一瞬目を見開いたかと思えば何かが緩んだような顔をした。そしていきなり吹き出した。
「振られてんのかよ、だっせェ!」
「うるさいな、だから沖田さんには話したくなかったんですよ」
「ギャハハ、旦那に振られてやんの」
私のことを指さしながら大爆笑の沖田さん。久しぶりに聞く笑い声だった。すごく馬鹿にされてるのになんだか嬉しくて胸の奥がじんわりと温かくなる。
「笑いすぎですよ!」
「はー、傑作でさァ」
ようやく笑いがひと段落したようだ。
「これからはまたいつも通り話してくださいね」
「さっき寂しかったって言ってやしたけど、そんなに俺に馬鹿にされんのが好きですかィ?あんたも大概、物好きでさァ」
「別に馬鹿にされるのが好きなわけじゃないですよ!ただ、沖田さんと話せなくなるのは何か…寂しかったです」
沖田さんが少し黙った。
「…あんたが素直だと調子狂いまさァ。俺もまぁ、ガキみてぇなことで怒って悪かった」
ぼそりとそう言うと視線を逸らし頭を搔いている。
「じゃあこれで仲直り!」
そう笑えば沖田さんも小さく笑い返してくれた。
「そういえば沖田さん何でここにいるんですか」
「飲みすぎたから廊下で休んでやした」
「ほらーやっぱり飲みすぎなんじゃないですか、お水持ってきてあげますよ」
「お節介ババア復活でさァ」
「ちょっと待っててくださいね!」
お水を持ってきてあげようと沖田さんの隣を通り過ぎようとしたその瞬間、手首を掴まれた。そしてグイッと引っ張られて目の前には沖田さんのドアップの顔。そしてふわりと唇に柔らかい感触。一瞬のことだった。気付けば唇は離れた。呆然と固まっている私に対して沖田さんは何もなかったかのような顔をしている。
「……中、戻りやす、じゃあな」
沖田さんはまた覚束ない足取りで大広間へと戻っていった。キス、されたよね今。指先でそっと自分の唇に触れる。今のは何だったの?静まり返った廊下で、私の心臓の音だけがドキドキとうるさく鳴り響いていた。
「ごめん、お待たせ!」
「今来たところよ、行きましょ。」
お妙が最近見つけたという居酒屋に入った。ふとカウンターで1人で飲んでいる人物が目に入り思わず声が出てしまった。私の声で気付いたのかゆっくりとこちらを向いたのは銀時だった。だがいつものしょぼくれて飲んでるのとは違い今日は妙にニコニコしている。そして私たちに近づいてきた。
「よぉ、お二人さん奇遇だねぇ」
「銀時こそなんかご機嫌そうじゃん」
「ちょっとこれで勝っちまってよー」
手でクイクイとする、要するにパチンコで勝ったということか。いつもなら「金貸してくれ」なんて情けない顔をしているのに、珍しいこともあるもんだ。
「そうなんですか、じゃあ今日は銀さんに奢ってもらおうかしら」
「仕方ねぇな今日だけ特別だぞ」
もうすでに酔いが回り上機嫌になっている銀時は、冗談で言ったお妙の言葉に二つ返事で返した。こうして何故か三人で飲むことになってしまったのだった。
もう今後ないかもしれない銀時の奢りということもあり私とお妙はしこたまお酒を注文した。
「店員さーん!こっちに日本酒とワイン追加とあと一番高いおつまみ全部持ってきてくださいな」
「おい、お前ら人の金だからって遠慮ねぇな」
「銀時に奢ってもらうなんて最初で最後だもん、この機会を逃すわけにはいかないよね」
「そうよ、銀さんいつも甲斐性ないもの」
「誰が甲斐性なしだ、俺だって本気だせば金持ちにも夜王にもなれるけど本気出してないだけだからね」
「はぁ、結婚するなら銀時みたいな人はやめよ」
「そういえば真選組にいい人はいないの?あのゴリラ以外で」
そうお妙に聞かれ真選組隊士の顔を頭に浮かべてみる。土方さんはかっこいいけどマヨに呪われてるし、沖田さんも顔はいいけど性格に難がありすぎるし、山崎さんは地味だし。他の隊士さんも何だかんだキャラの濃い人ばかりだ。
「いない、全然いない。」
「そうなの?勿体ないわね折角公務員なのに」
「じゃあお妙が近藤さんと結婚し「殺すわよ」」
「すいませんでした」
「つーか、お前あれは沖田くんどうよ」
「何で沖田さんなの?」
「中々お似合いだと思うけどねぇ」
「やだよー、年下は興味ないって」
「勿体ないねぇ」
「もういいじゃん、この話題は!飲もう!」
お酒をグイっと煽った。
それからどれくらい飲んだのか分からないほどに三人で浴びるほどに飲んだ。もう体は熱いし頭はふわふわとしていて何が何だか分からない。けど誰かが何かを話すたびに何がそんなにおかしいのか分からないが爆笑してすごく楽しかった。笑いすぎてお腹が痛いし、視界はゆらゆら揺れている。
もうすぐ日付が変わる頃そろそろお開きにしようととりあえずお会計をしてフラフラと外に出た。
「この後どうする?二軒目行く?」
「んーいや私そろそろ帰ろうかな」
「お前一人で帰れんの?」
「帰れるよ、大丈夫、ほら」
歩いて見せるが千鳥足で足元の覚束ない私を見て二人は笑っている。それにつられ私も何だか面白くて笑った。
「あんたら何してんでィ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
沖田side
夜の見回りをしていればやたらと煩い三人組がいる。酔っ払い同士の揉め事か?面倒くせぇが仕方ないので近づいてみると見知った顔だった。旦那に姐御、そしてミョウジ。三人揃って顔を赤くして相当酔っているのかテンションがクソ高ぇ。何がそんなに楽しいのやらずっと笑い合っている。
「あんたら何してんでィ」
そう声をかけてみれば一斉にこっちを見た。
「おー沖田くんじゃん!」
「本当だ、沖田さんだ!沖田さーん!」
「ちょうどいいわ、沖田さんに送ってもらえばいいじゃない」
「いきなり何なんでさァ」
「こいつ一人で帰すの危ねぇからさ、沖田くん任せたわ!」
「えー、大丈夫だって言ってるのに」
旦那と姐御はミョウジの体を半ば強引に俺に押し付けてきた。
「俺、仕事中なんですけど」
「まーまー固いこと言わないでさ!頼むわ!」
「沖田さんナマエのこと頼みますね。そうとなれば銀さんこれから『すまいる』行ってドンペリ入れてもらいますよ」
「は!?嘘だろ?もうお前らのせいで財布からっぽだけど?おい!」
「ふふふ、さぁ行きましょう」
「おい、勘弁してくれよ」
姐御はそのまま旦那の首を抱えたまま夜の闇へと消えていった。旦那の悲鳴が遠ざかるのを見送って隣に視線を落とした。残されたミョウジ。ふらふらとしながら旦那たちの消えていった方向に楽しそうに笑いながら手を振っている。めんどくせぇことになった。このままこいつを置いて帰るわけにも行かず屯所まで送り届けることになった。
「おい、帰るぞ」
「はーい!了解です!」
ヘラヘラと笑いながらもとろんとした目でこちらに顔を近づけてくる。ふわりと香る甘い匂いと酒の匂い。不覚にもドキリとしてしまいそれを誤魔化すように俺は歩き出した。が、後ろにいるミョウジは思った以上に酔っ払っているようでフラフラして上手く歩けないようだった。何だか壊れたおもちゃのようでそれを見て笑っている俺にミョウジは、笑うなー!と呂律の回らない口でそう言った。これじゃあいつまで経っても屯所に帰れやしないからミョウジの手を握れば、ミョウジはそのまま体ごと俺に預けてきた。いつものこいつからは想像できない姿で正直戸惑う。
「寄りかかりすぎでさァ。重てェんですけど」
口ではそう言いながらも、腕の中に収まったミョウジの体温が妙に心地よくて、無意識に握る手に力が入る。たまたまあそこを通りかかったのが自分で良かった。こんな無防備な姿を他のやつらに見られるのが嫌だと思った。そのまま少し歩き出したがフラフラと足取りの覚束ないミョウジのおかげでこちらまで歩きづらくて仕方がない。しょうがねぇ。俺は溜息を一つ吐くと、ミョウジの前に背中を向けて、軽く腰を落とした。
「乗りなせェ」
「え?なに?」
「おぶってやるって言ってんでィ。さっさと乗らねーと、ここに置いていくぞ」
「えーあはは!沖田さんおんぶしてくれるんだー!」
その瞬間、背中全体に柔らかい感触と、ミョウジの熱い体温がダイレクトに伝わってきて心臓が跳ねた。
動揺を隠すように、ミョウジの膝裏に腕を回してぐいっと持ち上げる。首に回された腕からは、酒とミョウジ自身の柔らかな甘い香りが混ざり合って漂ってきた。耳元で聞こえる熱っぽい吐息が俺の理性をじわじわと削っていく。
「背中、あったかーい」
「そりゃ良かったですねィ、つーかもうちょっと痩せろ重てェ」
自分の胸の鼓動がうるさくてたまらなくて、それを誤魔化すように嫌味を言ってみても酔っているミョウジはそれを笑って受け流す。背中に伝わる体温が、歩くたびにゆっくりと深く馴染んでくる。
しばらくすると、さっきまであんなに騒がしかったミョウジの口が止まり、代わりに耳元で規則正しい、寝息が聞こえ始めた。無防備すぎんだろこいつ。でも嫌な感じはせずむしろ俺の背中で安心して身を任せているミョウジが少し愛おしく感じた。このまま、屯所まで少し遠回りして帰るのも悪くねェかな。その時だった。
「……ん、……ぎん、とき?」
耳元で、ミョウジがうわ言のように呟いた。一瞬、聞き間違いかと思った。だが、ミョウジは俺の首に回した腕にさらに力を込め、幸せそうに俺の背中に顔を擦り付けてくる。
「……銀時、…ありがと。大好き。」
足が止まる。夜の冷たい空気が、一気に身体に突き刺さるような感覚。
「へぇ。旦那だと思ってんですかィ、今おぶってんのが」
ポツリと、自分でも引くほど低くて温度のない声が出た。ミョウジは寝ぼけているのか「んふふ」と笑っているだけだった。腹の底から、どろりとした黒い感情がせり上がってくる。初めて感じるこんなどす黒い感情。
「……寝言でまで他の男の名前呼ぶとは、いい度胸してんじゃねェか」
いつもの皮肉めいた口調も、今は自分でも驚くほど低く、冷たく響いた。さっきまで感じていた心地よい体温が、急に遠く感じて、胸の奥がキリキリと痛む。
面白くねェ、、
こいつをこのまま道端に放り出して置いて帰りたいがそうもいかねぇ。俺はミョウジの足を支える手にギリと痛いくらいに力を込めた。しかしミョウジが旦那と前々から仲が良いのは知っていたがミョウジ本人の口から『大好き』という言葉を聞くとは思わなかった。俺の前では見せたこともねェような甘い声で。
本当に腹が立つ、面白くねェ。
ナマエside
朝の光で目が覚めた。段々と意識を取り戻すにつれて頭が痛いそして自分がとても酒臭い。
「あ、ナマエちゃん起きた?」
ぼーっとする頭で見れば朝の支度している小梅ちゃん。
「ごめんね起こしちゃって、今日非番だよね?ゆっくり寝ていてね」
そういって小梅ちゃんはそそくさと部屋を出て行ってしまった。そういえば私、どうやってここまで帰ってきたんだったっけ?あれ、昨日はお妙と銀時としこたま浴びるほどお酒を飲んだのは覚えている。銀時の奢りだからと馬鹿みたいに飲んだ、そうそこまでは覚えてるのだが終盤の記憶がすっぽりと抜け落ちている。酔っ払いながらもちゃんと帰ってこれたのかな?それとも二人が送ってくれたのか、全く思い出せない。思い出そうとすればするほど、頭の奥がズキズキと痛む。とりあえず水を飲もうと、重い体を引きずって部屋を出た。廊下を歩いていると、向こうから山崎さんがやってくるのが見えた。
「ミョウジさん、おはよう、体大丈夫?」
「おはようございます、めちゃくちゃ二日酔いです」
「だろうね、昨日帰ってきた時、泥酔してたもんね」
「え、あの…私どうやって帰ってきました?」
「あー、沖田さんがおぶって帰ってきたよ」
「沖田さんが!?」
その言葉を聞いても全く記憶がない、どうして沖田さんが私をおぶって屯所まで帰ってきたんだろう。私が考え込んでいると山崎さんはそれを見て苦笑いを浮かべる。
「覚えてないんだね、でも覚えてない方がいいかも昨日の沖田さん凄く殺気立って怖かったし」
山崎さんの言葉に嫌な汗が背中を伝うのが分かった。きっと私が酔っ払って何かしたのかもしれない、、そこまで不機嫌にさせるなんて、一体何をしでかしたんだろ?怖い。
「もう、近付くのも怖いくらいだったよ。ミョウジさんを屯所に放り込んですぐ自室に籠っちゃったけど……悪いこと言わないから、今日はあんまり沖田さんに近付かない方がいいかもね」
山崎さんはそう言い残して、逃げるように去っていった。山崎さんの背中を見送りながら、私は廊下で立ち尽くした。どうしよう、思い出せないけど送ってもらったのは事実なんだしお礼は言わなくちゃいけないよね。とりあえずこの酷い外見を整えてから行こうと一旦、自室に戻ることにした。
昼過ぎ、シフトを確認したところ一番隊は稽古をしているようなので道場の方へとやってきた。竹刀のぶつかり合う音が聞こえる。中を覗くと、隊の面々が汗を流している。その中心で、一際鋭い動きを見せているのが沖田さんだった。いつもならどこか気だるげに、サボる隙を伺いながら稽古をしているはずなのに、今日はまるで何かに取り憑かれたような気迫で竹刀を振るっている。相手をしている隊士さんたちが床でばてている。休憩に入るのを見計らいそーっと道場に入り水を飲んでいる沖田さんの元へ向かった。
「沖田さん、お疲れ様です。すいません、今いいですか」
「…何でさァ」
「その昨日、私のこと送ってもらったって聞いて、ありがとうございます」
「……」
「あの…それで私、酔ってて覚えてないんですけど、凄く失礼なこととかしちゃいましたか」
そういうと沖田さんの眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。
「へー覚えてないねェ。別に何もねぇよ。つーか練習の邪魔なんで出て行ってくだせェ」
突き放すような物言いに、心臓がギュッと縮まる。それ以上は一言も発さず、沖田さんは立ち上がると私と目を合わせることもなく、私のすぐ横を通り過ぎていった。追いかけようとしたが、その背中からは「近寄るな」という無言の圧力が溢れ出していて、足が動かなかった。沖田さんはいつも意地悪だけど、あんな風に冷たい態度をとることはなかったのでショックだった。
*
そこからしばらく日が経った。あの日から沖田さんは私に対してそっけなくなった。いや、そっけないというより、まるでいないみたいだった。廊下ですれ違っても視線を合わせない。声をかけても返事は最小限。いつもなら起こしに行けばぐずぐずと文句を言うのに、ここ最近は私が部屋に入る前に自分で起きていた。いよいよ沖田さんと関わることがなくなってしまった。別に困ることなんてないのだが、なんだか心にぽっかりと穴が開いたように寂しい。
「ねぇナマエちゃん、沖田さんと何かあったの?喧嘩?」
部屋で寝る準備をしていれば小梅ちゃんが心配そうに覗き込んできた。最近、この質問をされるのは何度目だろう。小梅ちゃんだけではない、土方さんや他の隊士さんにも聞かれた。
「んー喧嘩はしてないんだけど、多分私が怒らせちゃったんだけど原因を覚えてなくて」
「そっか、沖田さん最近ずっと不機嫌そうだしナマエちゃんも元気ないから心配」
「元気だよ!でもほぼ毎日沖田さんに絡まれてたからそれがなくて、ちょっと寂しいのかも」
「早く仲直りできるといいね、、」
「心配かけちゃってごめんね、ありがとう」
私もできれば以前のように話せる関係に戻りたいけど話すら聞いてくれそうにない今の状況でどうしていいのか分からない。本当にどうしたもんか。
*
真選組で飲み会が行われることになったのはそれから間もなくのことだった。新しく入隊した隊士さんたちの歓迎会らしく大広間にはずらりと膳が並んでいる。私たち女中も料理やお酒の準備に追われていたが一通り料理などを運び終えると参加していいということで隅の方でひっそりと参加させてもらった。ちなみに私は今回はお酒はしばらくやめようと思いお茶で過ごしている。
「ナマエちゃん、これ美味しいね」
「自分たちで作ったやつだけど上出来だね」
小梅ちゃんと肩を並べ食事をつまみながら広間の様子を眺める。宴会が進むにつれお酒が進み段々とカオスな状態になっていた。新入隊士たちは緊張で顔を強張らせながらも、先輩隊士たちに次々と酒を向けられ顔を真っ赤にして必死に食らいついている。近藤さんは何故か裸になろうとしているし、土方さんは相変わらず新人隊士にマヨネーズに勧めどん引かれている。山崎さんに至ってはバドミントンのラケット持ってうろうろしている、何でバドミントン?
あちこちでそんな怒号や笑い声が飛び交い熱気に包まれる大広間。
「ちょっとお手洗い行ってくるね」
そう小梅ちゃんに告げ大広間から廊下へと出た。冷えた夜風が、大広間の喧騒で火照った肌に心地いい。ふぅ、と小さく溜息をついてトイレへ向かおうとした、その時だった。廊下の向こうに沖田さんがいるのを見つけた。何となく気まずくてもう一度、大広間に戻ろうかと思った時、声をかけられた。
「おーミョウジじゃねぇか」
その声は、最近の冷たさは微塵もなく、どこかふわふわと浮ついたような、ひどく上機嫌なようだった。話しかけらるとは思っていなかったので驚いて固まってしまった。そんな私を見て笑みを浮かべフラフラと覚束ない足取りで近づいてきた。沖田さんの顔も耳も赤くなっており目はいつもよりとろんとしている、これは相当酔っ払ってる。
「どうしたんですか、大分酔っ払ってます?」
「酔ってねぇー」
「酔っ払いこそそう言うんですよ、お水持ってきましょうか」
「いらねー」
酔っているとはいえ久しぶりに普通にやり取りが出来てなんだか嬉しい。今なら何で沖田さんが怒ってしまったのか聞き出せるかな。
「沖田さん、私、あの日何かしちゃいましたか?本当に覚えてなくて申し訳ないんですけど。あれから沖田さん急に冷たくなっちゃって少し寂しかったです……」
「……お前、万事屋の旦那のこと好きなんだろィ」
「えっ!?なんでそうなるんですか?」
「俺の背中で『大好き』って言ってやしたぜ、幸せそうに」
そう沖田さんは煽るような棘のある口ぶりで言い放ったが、私は全くその記憶がない。そもそも沖田さんにおぶられてる記憶すらないのに。本当に思い出せずに黙って考えていると沖田さんがしびれを切らしたのか口を開いた。
「まぁ、お前が誰を好きでもいいけど、勘違いして呼ばれるのは良い気はしねぇ」
そうか、私おんぶしてくれてるのが銀時って勘違いしちゃったんだ。それでいつもの軽口で大好き、だなんて沖田さん向かって言ってしまったんだ。頭の中でようやくピースがどんどんハマっていくような感覚。
「私あの日、本当に酔っ払ってしまって、直前までお妙と銀時と三人で楽しく飲んでたのでその記憶で多分、銀時と間違っちゃったんだと思います、、本当すいません。」
「…別に俺には関係ねぇことです」
「あと私、銀時のことは別に好きじゃないですから」
「嘘つけ」
「本当ですって……私とうの昔に振られてますし、今考えたら何であんな天パ好きだったのか謎ですけどキッパリ振られてます。だから友達です。」
言いたくなかったことだけど沖田さんに誤解されるのは嫌だった。それを聞いた沖田さんは一瞬目を見開いたかと思えば何かが緩んだような顔をした。そしていきなり吹き出した。
「振られてんのかよ、だっせェ!」
「うるさいな、だから沖田さんには話したくなかったんですよ」
「ギャハハ、旦那に振られてやんの」
私のことを指さしながら大爆笑の沖田さん。久しぶりに聞く笑い声だった。すごく馬鹿にされてるのになんだか嬉しくて胸の奥がじんわりと温かくなる。
「笑いすぎですよ!」
「はー、傑作でさァ」
ようやく笑いがひと段落したようだ。
「これからはまたいつも通り話してくださいね」
「さっき寂しかったって言ってやしたけど、そんなに俺に馬鹿にされんのが好きですかィ?あんたも大概、物好きでさァ」
「別に馬鹿にされるのが好きなわけじゃないですよ!ただ、沖田さんと話せなくなるのは何か…寂しかったです」
沖田さんが少し黙った。
「…あんたが素直だと調子狂いまさァ。俺もまぁ、ガキみてぇなことで怒って悪かった」
ぼそりとそう言うと視線を逸らし頭を搔いている。
「じゃあこれで仲直り!」
そう笑えば沖田さんも小さく笑い返してくれた。
「そういえば沖田さん何でここにいるんですか」
「飲みすぎたから廊下で休んでやした」
「ほらーやっぱり飲みすぎなんじゃないですか、お水持ってきてあげますよ」
「お節介ババア復活でさァ」
「ちょっと待っててくださいね!」
お水を持ってきてあげようと沖田さんの隣を通り過ぎようとしたその瞬間、手首を掴まれた。そしてグイッと引っ張られて目の前には沖田さんのドアップの顔。そしてふわりと唇に柔らかい感触。一瞬のことだった。気付けば唇は離れた。呆然と固まっている私に対して沖田さんは何もなかったかのような顔をしている。
「……中、戻りやす、じゃあな」
沖田さんはまた覚束ない足取りで大広間へと戻っていった。キス、されたよね今。指先でそっと自分の唇に触れる。今のは何だったの?静まり返った廊下で、私の心臓の音だけがドキドキとうるさく鳴り響いていた。
