ゾロ
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【初恋①】
今日はすごくいい天気だ。
太陽が反射して海の水面がキラキラとちりばめたパールのように光っている。
あたしはどうしてもその絵をキャンバスに描きたくて
朝から画材道具を持って近くの岬に来ていた。
海の美しさに見とれながら
あたしは黙々と筆をはしらせていた。
すると突然
『マナッッ!!』
怒鳴り声にも近い声色で名前を呼ばれる。
なに?
怪訝そうな表情をしながら声の主の方を向く。
『絵なんて描いてないでさっさと町まで行ってきな!』
憎らしい表情でサイナが強い口調で言った。
あたしが住む下宿先の娘で、あたしの大嫌いな女でもある。
両親のいないあたしをいつも見下していて、何か理由をつけては命令をしてくる。
町までって…片道でも1時間はかかるのに。
『サイナ、町には何しに行けば?』
冷静に、怒りをおさえてサイナに声をかける。
直後、『ガチャッ』と音を立てた。
画材道具がサイナの右足によって蹴飛ばされた音だ。
やれやれ…
毎度毎度、よくこんな低能な事できるものね。
関心さえしてしまいそうになる。
『仕立て屋に頼んでいたあたしのワンピースが出来上がったのよ!
今すぐ取りに行ってきなさい』
あたしは画材道具を集めながら『わかったわ』と答えた。
サイナは本当にむかつく女で
言い返してやりたいけど、あたしには叶えたい夢があるから我慢する。
下宿先を追い出されても困ってしまうし。
とにかくお金を貯めて、あたしは早く海に出たかった。
『絵描き』になるために。
世界中を、写真ではなく絵で伝えられたらと。
小さい時から思い描いていた夢。
そのためだったらサイナの用事でもなんでも聞いてやるわ。
険しい山道を下りながら天気のいい空を見上げる。
風が額の汗を乾かすかのように吹いてくれる。
『きもちぃー』
両腕を天高く掲げるように伸びをした。
その時、目線の少し先には目的とする町が見える。
『やっと着いた』
仕立て屋はどこだっけ。
キョロキョロと辺りを見渡す。
『あっ』
仕立て屋の看板が目に入り、お店までまっすぐに進んだ。
お店の前に着いて愕然とする。
『定休日』とドアにプレートが掲げられていたから。
1時間も歩いて
また帰りもあの険しい山道を登らなくてはならないのに。
『これもサイナの嫌がらせかな…』
彼女の事だから、定休日って知っていそうだもん。
とにかく、足が痛いからどっかでお茶でもしようかな。
『喉もカラカラだしね』
少し歩いて、以前行った事のある路地のBARに入った。
路地にあるといっても、この町は比較的おだやかで
たいして問題のない町だから駐在所に海軍が一人か二人いる程度。
だから危機感なんてものは皆無だった。
あたしはカウンターの端っこに腰をかける。
『何を飲む?』
店主がおしぼりを渡しながら声をかけてくる。
サッとメニューに目を通してから『冷たいミルクティーで』と答えた。
『はいよ』
店主は手慣れた手つきでコースターの上にミルクティーを置いた。
『ありがとう』
あたしは小さくお辞儀をしてからグラスに口づける。
喉が渇いていたからか
一口飲んだだけでハァ~と息をはいた。
少し汗も引いて、一息ついた頃
カバンから小さいスケッチブックを取り出した。
この町に来る途中に見た景色とか
思い出しながらでも描きとめておきたいものがあって。
夢中になって絵を描いていたら
突然肩をグイっと掴まれた。
『ねぇちゃん一人かい?』
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら見知らぬ男が声をかけてきた。
いや、男…というよりは男達かな。
振り向いたらあたしは、3人のゴロツキ達に囲まれていた。
BARの店主に目を向けたが
目を合わせる前に裏へと逃げて行ってしまった。
周りを見渡しても、誰も目を合わせてくれず、知らん顔。
『そんな…』
『なぁ俺たちと一緒に楽しい事しないかぃ?』
思いもよらない出来事に怖くて声が出ない。
男たちはガタガタ震えるあたしの体を舐めまわすような目で品定めをしていた。
頭の先からつま先まで上下に目線を動かしている。
『上玉じゃねぇか』なんてヒソヒソと雑談しながら。
最低。気持ち悪い。……誰か…助けて…
その時、入り口からふらりと一人の男が入ってきた。
男達の仲間だったらどうしよう…
その男は腰に刀を三本差していて緑色の頭に腹巻きといった風変わりな格好をしていた。
スタスタとカウンターに向かってくると
そのままドカッと椅子に腰かけた。
あたし達の事は眼中にないのかな…
『おーい、誰かいないのか?』
その男は不愛想に腕を組みながら言った。
『酒飲みに来たのによ』
チッと舌打ちしてカウンターに足を乗せてキィキィと椅子をならしている。
その時ゴロツキの一人が彼に声をかけた。
『おい、緑頭のにいちゃんよぉ俺達は今このねぇちゃんと取り込んでんだよ。』
『邪魔だからどっか行ってくんねぇか?』
そう言いながら銃を向けている。
男は小さくため息をついて
チラっとあたしを横目で見ながら
『お前らに指図される筋合いねーよ』と言った。
男達の目線が彼に注がれている。
彼と目が合った隙に小さく『…助けてください…』と言った。
すると彼はゆっくりと立ち上がり、銃を向けている男に思いきり拳を振り上げた。
ドサッと男が倒れると、仲間が慌てふためいてナイフを彼に向ける。
『危ない!』そう思った瞬間、彼は刀を一本だけ抜き取った。
あたしが見えたのはそこまでで
一瞬の出来事すぎて、まるで手品を見ているような感覚になった。
チンッと彼が刀を鞘に戻すと
男達はすでに床に突っ伏していた。
呆然と倒れている男達を見つめていると
『飲めねぇなら船に戻るか』
彼は独り言のように呟いて、そのままスタスタと店を出て行ってしまった。
彼を目で追って我にかえった。
『あたしの事助けてくれたのに』
お礼も言えてない事にハッとする。
急いで荷物をまとめ、カウンターにお代を置いた後すぐに彼の後を追った。
店を出て、キョロキョロと周りを見渡した。
少し歩きだした距離に彼を見つけ、後を追いかける。
『あっ、あの!』
後ろから声をかける。
振り向きながら『あぁ、お前か』って
…何ともダルそうに答える人だなぁ。
『さっきは、本当にありがとうございました』
あたしは深々と彼に頭を下げた。
『気にすんな。気まぐれみてーなもんだから』
『で、でも何かお礼とか…』
彼はあくびするついでに『いらねぇ』と言った。
何だかスッキリしないなぁ。
彼が歩き出そうとしたその時、少し遠くから
『ゾォ~~~ロォ~~~』
何とも気の抜けた声だろう。
無邪気に笑いながら麦わら帽子をかぶった少年がこちらに駆け寄ってきた。
何だか見たことある気がするけど…なんでかな?
『ゾロは何してんだ?』
麦わら帽子の少年は彼の知り合いなのね。
じゃあ、この人ゾロって名前なんだ。
『酒飲み来たけどねぇから船に戻るんだよ』
ゾロって人はお友達にもこんな愛想ないんだぁ…。
麦わら帽子の少年はあたしを見て声をかけてきた。
『おめぇ誰だ?ゾロの知り合いか?』
『あたしは、さっきその方に助けてもらったので…何かお礼がしたくて』
『そっか』
それを聞いて麦わら帽子の少年は得意げにシシシと笑った。
『礼なんていらねぇーって』
ゾロさんは本当に助けたつもりじゃないのかな。
気まぐれって言ってたし。
『お前さ、そんなにゾロにお礼したいなら俺らの船で宴会すっから遊びに来いよ!』
『え?』
『決まりだ決まり!行くぞ~!』
麦わら帽子の少年は半ば強引に話を進めて
あたしの腕を掴み、船に向かった。
よくよく考えたら、船ってことは海賊?
あたし大丈夫なのかな。
でも、いつか海に出たいと考えてるあたしにとって
彼らの船はとても立派に見えた。
『すご…』
船の上から麦わら帽子の少年が『早くこいよー』と催促してくる。
梯子もおりてないのに、どうやって乗り込んだの??
ゾロさんもだけど…手品みたい。
あたしはククッと小さく笑った。
『今行きますね』
ゾロさんが梯子をおろしてくれたので
さぁ登ろうと思ったら、腰ににゅるにゅるとロープが巻き付けられた。
『え?なにこれ??』
するといきなり体が宙に浮き、悲鳴をあげる前に船の甲板に乗り込んでいた。
腰に目をやると、ロープはひとりでにほどけ
麦わら帽子の少年のもとへ向かった。
さっきまでのロープが彼の腕だった事に驚愕する。
『あ、あな…たは一体…』
麦わら帽子の少年は目をまんまるくさせて
『俺はルフィ!ゴム人間だ』
あたしの目の前でニカッと笑うと口を伸ばして見せた。
そこからあたしは記憶がとんでしまった。
次に気が付いたときは見慣れない部屋だった。
『気づいたか?』
可愛らしい声に耳を傾ける。
『…はぃ…もう大丈夫…です』
そう言いながら声のもとを辿る。
…たぬきが喋ってる…??
『…たぬき??』
放心しながら口からでた疑問点に
『俺はトナカイだぁー!』
うっすら目が潤んでる。
タヌキに間違われてショックだったのかな。
『あ、ごめんなさい。トナカイなのね』
ビックリはしたけど、見た目の可愛らしさにフフっと笑いかける。
『あ。トナカイさん、ルフィさんとゾロさん知ってるかな?』
『ルフィ達なら外で宴会してるゾ』
行こう行こうと手を引かれて甲板にでる。
もう外はすっかり暗くなっていた。
あたしに気づいたルフィさんが『おーい』と言いながら大きく手を振った。
トナカイさんが手を引きながら皆の居るところへ誘導してくれる。
ルフィさんからジョッキを渡されて
はじめましての人達とテーブルを囲んだ。
『そいやぁ、お前名前は??』
ルフィさんに言われてハッした。
『ごめんなさい、自己紹介まだでしたね』
『あたしはマナと言います。町から1時間ほど離れた村に住んでるの』
ルフィさんは船員の方を次々に紹介してくれた。
この船はルフィさん率いる麦わら海賊団で
航海士のナミさんに、狙撃手のウソップさん
コックのサンジさんに、船医のチョッパーさん
考古学者のロビンさん、そしてあたしを助けてくれた剣士のゾロさん。
この7人で旅してるって事。
まさか手配書に載っていた海賊団に会えるなんて…
だからルフィさん見た事ある気がしたのか。
小さな村に暮らしているからか
旅の話はどれを聞いても新鮮でとっても不思議だった。
悪魔の実なんてはじめて聞いたしね。
ルフィさんとロビンさんとチョッパーさんは悪魔の実を食べた能力者なんだって。
あたしも海に出る日が来たら
こんなキラキラした旅が出来るのかな。
その日は、『泊まっちゃいなさいよ』ってナミさんが言ってくれて
サイナの用事で町に出かけた事を忘れ、
夜通し皆の話をワクワクしながら聞いた。
『マナは何かやりたい事ないの?』
隣に座るナミさんがあたしに目を向け、声をかける。
『あ、…あたしは絵描きになりたくて』
皆さんの野望や夢を聞いたばかりだから
あたしの小さな夢を語るのは少し照れ臭いなぁ。
でも、あたしにとっては叶えたくてしょうがない夢だから。
『あたし、いつか…世界中を見てまわりたいの。それを絵で伝えられればと思ってて!』
その為に頑張って資金を貯めている事。
いつか海に出たいこと。
身の上話なんかもしたりして。
皆は馬鹿にすることなく聞いてくれた。
気をよくしたあたしは、カバンからスケッチブックを取り出して
サラサラと皆の似顔絵を描き上げていった。
『すごいじゃない!』
ナミさんが歓喜の声をあげる。
『そっくりだなぁ~』
ルフィさんも無邪気に笑ってくれた。
『嬉しく無いかもしれないけど、出会えた記念にもらってくれる?』
『もちろん!』
皆は口々に喜びを表す言葉をあたしに投げかけた。
何だか、口元が緩む。
こんなに喜んでもらった事ないから…
不愛想なゾロさんでさえ
『うめぇもんだな』
なんて、口角をあげている。
彼、こんな表情もするんだ…優しい顔。
宴会が終わるころ、あたしはナミさんとロビンさんに連れられて
女子部屋で寝ることになった。
『このベッド使ってちょーだい』
『え、でもここはナミさんのベッドじゃないの?あたしはそこのソファで大丈夫…』
『いーのよぉ!あたし朝まで見張りだから使わないし』
ケラケラと明るい笑顔につられてあたしも笑顔になる。
なんて気持ちのいい人なんだろう。
『じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね』
しばらく女子だけで談笑した後、ナミさんは見張りに出てしまった。
海賊ってもっと殺伐としたイメージだったけど。
こんなに楽しくて優しくて気持ちのいい人達ばかりなんて…
彼らと一緒に航海できたらきっと楽しいだろうなぁ…
そんな事を考えながら
あたしはふかふかのベッドに身を落とすと、すぐにぐぅぐぅと寝てしまった。
『おはよう、マナ』
優しく、落ち着いた声でロビンさんが声をかけてきた。
あたしはむくりと起き上がり、ロビンさんの目を見て『おはようございます』と返事する。
さっきまでロビンさんが眠っていたベッドにはくぅくぅと寝息をたてるナミさんの姿。
あたしがベッド使っちゃったからか…何だか悪い事しちゃったな。
『朝食を食べに行きましょうか』
『あ、はい』
ロビンさんに連れられて、ラウンジへと移動した。
『お、マナちゃん昨日はゆっくり眠れたかい?』
ラウンジに入ると、コックのサンジさんが優しく声かけてきた。
『はい、ぐっすり眠れました』
『そこに座って、コーヒーでも淹れるよ』
サンジさんに言われた場所に座り、目の前に並ぶ料理に目を丸くした。
朝からこんなに…サンジさんて凄いコックさんなのね。
続々と人が集まり、見張りだったナミさん以外の全員がテーブルを囲んだ。
ルフィさんが大きな声で『いっただきまーす』と言うと
いきなり目の前が戦場化する。
はじめて見る光景にビックリしすぎて開いた口が塞がらなかった。
ルフィさんの凄い食欲は昨日の宴会でもビックリしたけど…
でも、その光景が何だか可笑しくて。
あたしは大きな声であははと笑った。
すると、ルフィさんが口の中にたくさん詰め込んだ状態で
『ほはえ、ほへはひのははまにはれよ!』
と言った。
『ん?ルフィさん何て言ってるのかわからない』
改めてルフィさんに耳を傾けると、ほおばっていたものをゴクンと飲み込み
『お前さ、俺達の仲間になれよ!』と言われた。
『…あたし……??』
自分の事を人差し指でさしながら周りを見渡す。
皆にこやかにあたしへと目を向けてくれていた。
そりゃあ…こんな素敵な人たちと旅ができるならどんなに楽しいだろう…
でも、本当にいいのかな。
あたしは下を向き、すぐに答えを出せずにいた。
『航海士さんが…ログが溜まってここを出るのは明日って言ってたわ』
『…ロビンさん?』
『あまり長い時間はないけれど、明日までにゆっくり考えてみたらどうかしら?』
ロビンさんはそう言うとフフフと優しく笑いかけてくれた。
『じゃ、じゃあ明日またこの船に来ます。ルフィさん、返事はその時でいいですか?』
『おう、また明日待ってるぞ!』そう言ってまたルフィさんはシシシと笑う。
あたしは食事を終えて、皆に見送られながら船を後にした。
そのままの足で町の仕立て屋に寄った。
そういえば昨日町にきたのはここに用事があったからなんだよね。
仕立て屋は開いていて
出来上がっているサイナのワンピースを受け取った。
村までの帰り道は、ずっと夢見心地だった。
だって、あんな素敵な人たちから一味へのお誘いをいただいて。
本当にワクワクしたの。
あっという間に村について、あたしが住む下宿先へ戻ると
仁王立ちでサイナが立っていた。
『あんた、今までどこに行ってたのよ』
『…あなたに言う必要ある?』
『生意気ね!あたしのワンピースは受け取ったんでしょうね!』
はいはいと言いながらサイナに仕立て屋の袋を渡す。
サイナはそれを受け取るとにんまりした表情を浮かべた。
『じゃああたしは部屋にもどるわ』
あたしが部屋に向かって歩き出すと、信じられない言葉を投げかけられた。
『昨日…ゴロツキにちゃんと襲われてあげたの?』
……は?…何言ってんの…この女。
ちゃんとって何……あのゴロツキ達もサイナが仕組んでいたって事…?
『…ねぇ…あなたの言ってる意味が…わからない…んだけど…』
全身が怒りで震える。
あの時は本当に怖くて、もしゾロさんが現れていなかったら…
もしもの事を想像して『うっ』と吐き気を感じてすぐに我慢した。
『言った通りよ。…でも残念ね…無事だったんだぁ』
サイナは『あーぁ』なんてため息をつきながら心底、残念そうな表情をした。
本当になんて最低な女なの。
『ま、また色々とお願いするわね、マナ』
サイナの言葉を聞いて全身がゾクッとした。
あたしは、このまま…ここにいたら…きっとダメになる。
あたしはサイナから逃げるようにして部屋へ向かい、閉じこもった。
ドアに背中を預けて、崩れるように座り込んだ。
あたしの意識とは関係なしに涙がボロボロと溢れ出る。
悔しい、悔しい、悔しい、サイナなんて大っ嫌い!!!
しばらくして、窓の方に目を向けた。
微かだけど、海が見える。
涙を拭きながら立ち上がり、大きなカバンに入るだけの荷物を詰め込んだ。
窓を全開にあけると心地よい風が吹いてくる。
もう、あたしには迷う事はない。
ルフィさんが『仲間になれよ』って言ってくれた。
あたしが一味に入るって事は海賊になるって事。
もちろん、戦う事や海軍に追われる事もあるだろうな…
戦闘術なんてないけど、皆に迷惑がかからないようにこれから覚えればいい。
海に出て、絵描きになる夢があるあたしには…悩むまでも無かったんじゃないかな。
甘えになるかもしれないけど
せっかくの夢を叶えるチャンス…
何よりも、あんなに素敵な人たちと旅ができるなら!
あたしは窓から大きな荷物を投げると、自分自身も窓から飛び出した。
向かうのは町の先に停泊している小さな海賊船。
逃げるように山道をかけおりた。
何度もつまづきながら、でもすぐに立ち上がって。
1分…いや、1秒でも早くルフィさん達に伝えたかった。
『あたしを仲間にしてください』って
無我夢中で駆け下りていたら
案外すんなりと町に着いた。
息を切らしながら『あたしって案外足はやいかも』…なんて。
そのまま彼らの海賊船を目指す。
海賊船の前までついて、辺りを見渡す。
『明日来るなんて言ってしまったけど…大丈夫かな』
海賊船を目の前にしてしまったら
何だか急に冷静になっちゃって…すごく不安になってしまった。
『やっぱり仲間にならなくていい』とか言われてしまうんじゃないかって…
そんな事を考えていたら、船からナミさんの声がした。
『マナじゃなーい!どうしたの??』
あ、ナミさんは寝ていたから知らないんだ。
あたしがルフィさんに誘われていたこと。
何だか言いづらいな…
『梯子おろすから上がってきなさいよー』
その言葉を聞いて、『うん』とうなずく。
船に上がると、『明日』って言葉を聞いていた皆は嬉しそうな顔であたしを見ていた。
そもそもで、大きな荷物を抱えていたからその意図は読み取られていたんだと思う。
あたしが来たことを聞きつけたルフィさんが急いであたしの前に走ってくる。
『お、おめぇ来るの早いけど』
仲間になるのかならないのか…
どっちだと言うような表情で力強くあたしを見ている。
あたしは姿勢を正し、ルフィさんに向かって頭を下げた。
もう答えは決まってるから。
『ルフィさん、みなさん、あたしも仲間にしてください』
『みなさんと一緒に海へ出て、世界中の絵を描きたいです!』
『きっと…足手まといにはなると思うけど…できるだけ迷惑かけないから…』
だから…お願いします…
頭を深く下げながら、不安にかられる胸を押さえた。
『マナ、お前はもう仲間だ!よろしくな!』
船長のルフィさんはそういうと、また無邪気に笑った。
頭を上げて周りを見渡すと一味全員が微笑みながらあたしの周りに立っている。
『なんだそうだったの!これからよろしくね!』
ナミさんがあたしの肩に手を置きながら嬉しそうにしている。
『フフ、これからよろしくね』
ロビンさん…
『よっしゃー!マナちゃんこれからもよろしくぅぅ』
サ、サンジさん。
『マナ、よろしくな!』
チョッパーさん…
『騒がしいやつらばっかだけど、よろしくな』
ウソップさん。
『……よろしく』
ゾロさん…
『はい、皆さんあらためてよろしくお願いします!』
そしてルフィさんの提案で
あたしが仲間になったお祝いに今日も宴会することが決まった。
何だか…本当素敵な人達。
あたしは今日、麦わら海賊団の一味になった。
世界中の景色なんかを絵で描き、世の中に伝えるっていう夢を叶えるため。
素敵な仲間たちと一緒に…これからどんな冒険が待っているのかな?
今日はすごくいい天気だ。
太陽が反射して海の水面がキラキラとちりばめたパールのように光っている。
あたしはどうしてもその絵をキャンバスに描きたくて
朝から画材道具を持って近くの岬に来ていた。
海の美しさに見とれながら
あたしは黙々と筆をはしらせていた。
すると突然
『マナッッ!!』
怒鳴り声にも近い声色で名前を呼ばれる。
なに?
怪訝そうな表情をしながら声の主の方を向く。
『絵なんて描いてないでさっさと町まで行ってきな!』
憎らしい表情でサイナが強い口調で言った。
あたしが住む下宿先の娘で、あたしの大嫌いな女でもある。
両親のいないあたしをいつも見下していて、何か理由をつけては命令をしてくる。
町までって…片道でも1時間はかかるのに。
『サイナ、町には何しに行けば?』
冷静に、怒りをおさえてサイナに声をかける。
直後、『ガチャッ』と音を立てた。
画材道具がサイナの右足によって蹴飛ばされた音だ。
やれやれ…
毎度毎度、よくこんな低能な事できるものね。
関心さえしてしまいそうになる。
『仕立て屋に頼んでいたあたしのワンピースが出来上がったのよ!
今すぐ取りに行ってきなさい』
あたしは画材道具を集めながら『わかったわ』と答えた。
サイナは本当にむかつく女で
言い返してやりたいけど、あたしには叶えたい夢があるから我慢する。
下宿先を追い出されても困ってしまうし。
とにかくお金を貯めて、あたしは早く海に出たかった。
『絵描き』になるために。
世界中を、写真ではなく絵で伝えられたらと。
小さい時から思い描いていた夢。
そのためだったらサイナの用事でもなんでも聞いてやるわ。
険しい山道を下りながら天気のいい空を見上げる。
風が額の汗を乾かすかのように吹いてくれる。
『きもちぃー』
両腕を天高く掲げるように伸びをした。
その時、目線の少し先には目的とする町が見える。
『やっと着いた』
仕立て屋はどこだっけ。
キョロキョロと辺りを見渡す。
『あっ』
仕立て屋の看板が目に入り、お店までまっすぐに進んだ。
お店の前に着いて愕然とする。
『定休日』とドアにプレートが掲げられていたから。
1時間も歩いて
また帰りもあの険しい山道を登らなくてはならないのに。
『これもサイナの嫌がらせかな…』
彼女の事だから、定休日って知っていそうだもん。
とにかく、足が痛いからどっかでお茶でもしようかな。
『喉もカラカラだしね』
少し歩いて、以前行った事のある路地のBARに入った。
路地にあるといっても、この町は比較的おだやかで
たいして問題のない町だから駐在所に海軍が一人か二人いる程度。
だから危機感なんてものは皆無だった。
あたしはカウンターの端っこに腰をかける。
『何を飲む?』
店主がおしぼりを渡しながら声をかけてくる。
サッとメニューに目を通してから『冷たいミルクティーで』と答えた。
『はいよ』
店主は手慣れた手つきでコースターの上にミルクティーを置いた。
『ありがとう』
あたしは小さくお辞儀をしてからグラスに口づける。
喉が渇いていたからか
一口飲んだだけでハァ~と息をはいた。
少し汗も引いて、一息ついた頃
カバンから小さいスケッチブックを取り出した。
この町に来る途中に見た景色とか
思い出しながらでも描きとめておきたいものがあって。
夢中になって絵を描いていたら
突然肩をグイっと掴まれた。
『ねぇちゃん一人かい?』
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら見知らぬ男が声をかけてきた。
いや、男…というよりは男達かな。
振り向いたらあたしは、3人のゴロツキ達に囲まれていた。
BARの店主に目を向けたが
目を合わせる前に裏へと逃げて行ってしまった。
周りを見渡しても、誰も目を合わせてくれず、知らん顔。
『そんな…』
『なぁ俺たちと一緒に楽しい事しないかぃ?』
思いもよらない出来事に怖くて声が出ない。
男たちはガタガタ震えるあたしの体を舐めまわすような目で品定めをしていた。
頭の先からつま先まで上下に目線を動かしている。
『上玉じゃねぇか』なんてヒソヒソと雑談しながら。
最低。気持ち悪い。……誰か…助けて…
その時、入り口からふらりと一人の男が入ってきた。
男達の仲間だったらどうしよう…
その男は腰に刀を三本差していて緑色の頭に腹巻きといった風変わりな格好をしていた。
スタスタとカウンターに向かってくると
そのままドカッと椅子に腰かけた。
あたし達の事は眼中にないのかな…
『おーい、誰かいないのか?』
その男は不愛想に腕を組みながら言った。
『酒飲みに来たのによ』
チッと舌打ちしてカウンターに足を乗せてキィキィと椅子をならしている。
その時ゴロツキの一人が彼に声をかけた。
『おい、緑頭のにいちゃんよぉ俺達は今このねぇちゃんと取り込んでんだよ。』
『邪魔だからどっか行ってくんねぇか?』
そう言いながら銃を向けている。
男は小さくため息をついて
チラっとあたしを横目で見ながら
『お前らに指図される筋合いねーよ』と言った。
男達の目線が彼に注がれている。
彼と目が合った隙に小さく『…助けてください…』と言った。
すると彼はゆっくりと立ち上がり、銃を向けている男に思いきり拳を振り上げた。
ドサッと男が倒れると、仲間が慌てふためいてナイフを彼に向ける。
『危ない!』そう思った瞬間、彼は刀を一本だけ抜き取った。
あたしが見えたのはそこまでで
一瞬の出来事すぎて、まるで手品を見ているような感覚になった。
チンッと彼が刀を鞘に戻すと
男達はすでに床に突っ伏していた。
呆然と倒れている男達を見つめていると
『飲めねぇなら船に戻るか』
彼は独り言のように呟いて、そのままスタスタと店を出て行ってしまった。
彼を目で追って我にかえった。
『あたしの事助けてくれたのに』
お礼も言えてない事にハッとする。
急いで荷物をまとめ、カウンターにお代を置いた後すぐに彼の後を追った。
店を出て、キョロキョロと周りを見渡した。
少し歩きだした距離に彼を見つけ、後を追いかける。
『あっ、あの!』
後ろから声をかける。
振り向きながら『あぁ、お前か』って
…何ともダルそうに答える人だなぁ。
『さっきは、本当にありがとうございました』
あたしは深々と彼に頭を下げた。
『気にすんな。気まぐれみてーなもんだから』
『で、でも何かお礼とか…』
彼はあくびするついでに『いらねぇ』と言った。
何だかスッキリしないなぁ。
彼が歩き出そうとしたその時、少し遠くから
『ゾォ~~~ロォ~~~』
何とも気の抜けた声だろう。
無邪気に笑いながら麦わら帽子をかぶった少年がこちらに駆け寄ってきた。
何だか見たことある気がするけど…なんでかな?
『ゾロは何してんだ?』
麦わら帽子の少年は彼の知り合いなのね。
じゃあ、この人ゾロって名前なんだ。
『酒飲み来たけどねぇから船に戻るんだよ』
ゾロって人はお友達にもこんな愛想ないんだぁ…。
麦わら帽子の少年はあたしを見て声をかけてきた。
『おめぇ誰だ?ゾロの知り合いか?』
『あたしは、さっきその方に助けてもらったので…何かお礼がしたくて』
『そっか』
それを聞いて麦わら帽子の少年は得意げにシシシと笑った。
『礼なんていらねぇーって』
ゾロさんは本当に助けたつもりじゃないのかな。
気まぐれって言ってたし。
『お前さ、そんなにゾロにお礼したいなら俺らの船で宴会すっから遊びに来いよ!』
『え?』
『決まりだ決まり!行くぞ~!』
麦わら帽子の少年は半ば強引に話を進めて
あたしの腕を掴み、船に向かった。
よくよく考えたら、船ってことは海賊?
あたし大丈夫なのかな。
でも、いつか海に出たいと考えてるあたしにとって
彼らの船はとても立派に見えた。
『すご…』
船の上から麦わら帽子の少年が『早くこいよー』と催促してくる。
梯子もおりてないのに、どうやって乗り込んだの??
ゾロさんもだけど…手品みたい。
あたしはククッと小さく笑った。
『今行きますね』
ゾロさんが梯子をおろしてくれたので
さぁ登ろうと思ったら、腰ににゅるにゅるとロープが巻き付けられた。
『え?なにこれ??』
するといきなり体が宙に浮き、悲鳴をあげる前に船の甲板に乗り込んでいた。
腰に目をやると、ロープはひとりでにほどけ
麦わら帽子の少年のもとへ向かった。
さっきまでのロープが彼の腕だった事に驚愕する。
『あ、あな…たは一体…』
麦わら帽子の少年は目をまんまるくさせて
『俺はルフィ!ゴム人間だ』
あたしの目の前でニカッと笑うと口を伸ばして見せた。
そこからあたしは記憶がとんでしまった。
次に気が付いたときは見慣れない部屋だった。
『気づいたか?』
可愛らしい声に耳を傾ける。
『…はぃ…もう大丈夫…です』
そう言いながら声のもとを辿る。
…たぬきが喋ってる…??
『…たぬき??』
放心しながら口からでた疑問点に
『俺はトナカイだぁー!』
うっすら目が潤んでる。
タヌキに間違われてショックだったのかな。
『あ、ごめんなさい。トナカイなのね』
ビックリはしたけど、見た目の可愛らしさにフフっと笑いかける。
『あ。トナカイさん、ルフィさんとゾロさん知ってるかな?』
『ルフィ達なら外で宴会してるゾ』
行こう行こうと手を引かれて甲板にでる。
もう外はすっかり暗くなっていた。
あたしに気づいたルフィさんが『おーい』と言いながら大きく手を振った。
トナカイさんが手を引きながら皆の居るところへ誘導してくれる。
ルフィさんからジョッキを渡されて
はじめましての人達とテーブルを囲んだ。
『そいやぁ、お前名前は??』
ルフィさんに言われてハッした。
『ごめんなさい、自己紹介まだでしたね』
『あたしはマナと言います。町から1時間ほど離れた村に住んでるの』
ルフィさんは船員の方を次々に紹介してくれた。
この船はルフィさん率いる麦わら海賊団で
航海士のナミさんに、狙撃手のウソップさん
コックのサンジさんに、船医のチョッパーさん
考古学者のロビンさん、そしてあたしを助けてくれた剣士のゾロさん。
この7人で旅してるって事。
まさか手配書に載っていた海賊団に会えるなんて…
だからルフィさん見た事ある気がしたのか。
小さな村に暮らしているからか
旅の話はどれを聞いても新鮮でとっても不思議だった。
悪魔の実なんてはじめて聞いたしね。
ルフィさんとロビンさんとチョッパーさんは悪魔の実を食べた能力者なんだって。
あたしも海に出る日が来たら
こんなキラキラした旅が出来るのかな。
その日は、『泊まっちゃいなさいよ』ってナミさんが言ってくれて
サイナの用事で町に出かけた事を忘れ、
夜通し皆の話をワクワクしながら聞いた。
『マナは何かやりたい事ないの?』
隣に座るナミさんがあたしに目を向け、声をかける。
『あ、…あたしは絵描きになりたくて』
皆さんの野望や夢を聞いたばかりだから
あたしの小さな夢を語るのは少し照れ臭いなぁ。
でも、あたしにとっては叶えたくてしょうがない夢だから。
『あたし、いつか…世界中を見てまわりたいの。それを絵で伝えられればと思ってて!』
その為に頑張って資金を貯めている事。
いつか海に出たいこと。
身の上話なんかもしたりして。
皆は馬鹿にすることなく聞いてくれた。
気をよくしたあたしは、カバンからスケッチブックを取り出して
サラサラと皆の似顔絵を描き上げていった。
『すごいじゃない!』
ナミさんが歓喜の声をあげる。
『そっくりだなぁ~』
ルフィさんも無邪気に笑ってくれた。
『嬉しく無いかもしれないけど、出会えた記念にもらってくれる?』
『もちろん!』
皆は口々に喜びを表す言葉をあたしに投げかけた。
何だか、口元が緩む。
こんなに喜んでもらった事ないから…
不愛想なゾロさんでさえ
『うめぇもんだな』
なんて、口角をあげている。
彼、こんな表情もするんだ…優しい顔。
宴会が終わるころ、あたしはナミさんとロビンさんに連れられて
女子部屋で寝ることになった。
『このベッド使ってちょーだい』
『え、でもここはナミさんのベッドじゃないの?あたしはそこのソファで大丈夫…』
『いーのよぉ!あたし朝まで見張りだから使わないし』
ケラケラと明るい笑顔につられてあたしも笑顔になる。
なんて気持ちのいい人なんだろう。
『じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね』
しばらく女子だけで談笑した後、ナミさんは見張りに出てしまった。
海賊ってもっと殺伐としたイメージだったけど。
こんなに楽しくて優しくて気持ちのいい人達ばかりなんて…
彼らと一緒に航海できたらきっと楽しいだろうなぁ…
そんな事を考えながら
あたしはふかふかのベッドに身を落とすと、すぐにぐぅぐぅと寝てしまった。
『おはよう、マナ』
優しく、落ち着いた声でロビンさんが声をかけてきた。
あたしはむくりと起き上がり、ロビンさんの目を見て『おはようございます』と返事する。
さっきまでロビンさんが眠っていたベッドにはくぅくぅと寝息をたてるナミさんの姿。
あたしがベッド使っちゃったからか…何だか悪い事しちゃったな。
『朝食を食べに行きましょうか』
『あ、はい』
ロビンさんに連れられて、ラウンジへと移動した。
『お、マナちゃん昨日はゆっくり眠れたかい?』
ラウンジに入ると、コックのサンジさんが優しく声かけてきた。
『はい、ぐっすり眠れました』
『そこに座って、コーヒーでも淹れるよ』
サンジさんに言われた場所に座り、目の前に並ぶ料理に目を丸くした。
朝からこんなに…サンジさんて凄いコックさんなのね。
続々と人が集まり、見張りだったナミさん以外の全員がテーブルを囲んだ。
ルフィさんが大きな声で『いっただきまーす』と言うと
いきなり目の前が戦場化する。
はじめて見る光景にビックリしすぎて開いた口が塞がらなかった。
ルフィさんの凄い食欲は昨日の宴会でもビックリしたけど…
でも、その光景が何だか可笑しくて。
あたしは大きな声であははと笑った。
すると、ルフィさんが口の中にたくさん詰め込んだ状態で
『ほはえ、ほへはひのははまにはれよ!』
と言った。
『ん?ルフィさん何て言ってるのかわからない』
改めてルフィさんに耳を傾けると、ほおばっていたものをゴクンと飲み込み
『お前さ、俺達の仲間になれよ!』と言われた。
『…あたし……??』
自分の事を人差し指でさしながら周りを見渡す。
皆にこやかにあたしへと目を向けてくれていた。
そりゃあ…こんな素敵な人たちと旅ができるならどんなに楽しいだろう…
でも、本当にいいのかな。
あたしは下を向き、すぐに答えを出せずにいた。
『航海士さんが…ログが溜まってここを出るのは明日って言ってたわ』
『…ロビンさん?』
『あまり長い時間はないけれど、明日までにゆっくり考えてみたらどうかしら?』
ロビンさんはそう言うとフフフと優しく笑いかけてくれた。
『じゃ、じゃあ明日またこの船に来ます。ルフィさん、返事はその時でいいですか?』
『おう、また明日待ってるぞ!』そう言ってまたルフィさんはシシシと笑う。
あたしは食事を終えて、皆に見送られながら船を後にした。
そのままの足で町の仕立て屋に寄った。
そういえば昨日町にきたのはここに用事があったからなんだよね。
仕立て屋は開いていて
出来上がっているサイナのワンピースを受け取った。
村までの帰り道は、ずっと夢見心地だった。
だって、あんな素敵な人たちから一味へのお誘いをいただいて。
本当にワクワクしたの。
あっという間に村について、あたしが住む下宿先へ戻ると
仁王立ちでサイナが立っていた。
『あんた、今までどこに行ってたのよ』
『…あなたに言う必要ある?』
『生意気ね!あたしのワンピースは受け取ったんでしょうね!』
はいはいと言いながらサイナに仕立て屋の袋を渡す。
サイナはそれを受け取るとにんまりした表情を浮かべた。
『じゃああたしは部屋にもどるわ』
あたしが部屋に向かって歩き出すと、信じられない言葉を投げかけられた。
『昨日…ゴロツキにちゃんと襲われてあげたの?』
……は?…何言ってんの…この女。
ちゃんとって何……あのゴロツキ達もサイナが仕組んでいたって事…?
『…ねぇ…あなたの言ってる意味が…わからない…んだけど…』
全身が怒りで震える。
あの時は本当に怖くて、もしゾロさんが現れていなかったら…
もしもの事を想像して『うっ』と吐き気を感じてすぐに我慢した。
『言った通りよ。…でも残念ね…無事だったんだぁ』
サイナは『あーぁ』なんてため息をつきながら心底、残念そうな表情をした。
本当になんて最低な女なの。
『ま、また色々とお願いするわね、マナ』
サイナの言葉を聞いて全身がゾクッとした。
あたしは、このまま…ここにいたら…きっとダメになる。
あたしはサイナから逃げるようにして部屋へ向かい、閉じこもった。
ドアに背中を預けて、崩れるように座り込んだ。
あたしの意識とは関係なしに涙がボロボロと溢れ出る。
悔しい、悔しい、悔しい、サイナなんて大っ嫌い!!!
しばらくして、窓の方に目を向けた。
微かだけど、海が見える。
涙を拭きながら立ち上がり、大きなカバンに入るだけの荷物を詰め込んだ。
窓を全開にあけると心地よい風が吹いてくる。
もう、あたしには迷う事はない。
ルフィさんが『仲間になれよ』って言ってくれた。
あたしが一味に入るって事は海賊になるって事。
もちろん、戦う事や海軍に追われる事もあるだろうな…
戦闘術なんてないけど、皆に迷惑がかからないようにこれから覚えればいい。
海に出て、絵描きになる夢があるあたしには…悩むまでも無かったんじゃないかな。
甘えになるかもしれないけど
せっかくの夢を叶えるチャンス…
何よりも、あんなに素敵な人たちと旅ができるなら!
あたしは窓から大きな荷物を投げると、自分自身も窓から飛び出した。
向かうのは町の先に停泊している小さな海賊船。
逃げるように山道をかけおりた。
何度もつまづきながら、でもすぐに立ち上がって。
1分…いや、1秒でも早くルフィさん達に伝えたかった。
『あたしを仲間にしてください』って
無我夢中で駆け下りていたら
案外すんなりと町に着いた。
息を切らしながら『あたしって案外足はやいかも』…なんて。
そのまま彼らの海賊船を目指す。
海賊船の前までついて、辺りを見渡す。
『明日来るなんて言ってしまったけど…大丈夫かな』
海賊船を目の前にしてしまったら
何だか急に冷静になっちゃって…すごく不安になってしまった。
『やっぱり仲間にならなくていい』とか言われてしまうんじゃないかって…
そんな事を考えていたら、船からナミさんの声がした。
『マナじゃなーい!どうしたの??』
あ、ナミさんは寝ていたから知らないんだ。
あたしがルフィさんに誘われていたこと。
何だか言いづらいな…
『梯子おろすから上がってきなさいよー』
その言葉を聞いて、『うん』とうなずく。
船に上がると、『明日』って言葉を聞いていた皆は嬉しそうな顔であたしを見ていた。
そもそもで、大きな荷物を抱えていたからその意図は読み取られていたんだと思う。
あたしが来たことを聞きつけたルフィさんが急いであたしの前に走ってくる。
『お、おめぇ来るの早いけど』
仲間になるのかならないのか…
どっちだと言うような表情で力強くあたしを見ている。
あたしは姿勢を正し、ルフィさんに向かって頭を下げた。
もう答えは決まってるから。
『ルフィさん、みなさん、あたしも仲間にしてください』
『みなさんと一緒に海へ出て、世界中の絵を描きたいです!』
『きっと…足手まといにはなると思うけど…できるだけ迷惑かけないから…』
だから…お願いします…
頭を深く下げながら、不安にかられる胸を押さえた。
『マナ、お前はもう仲間だ!よろしくな!』
船長のルフィさんはそういうと、また無邪気に笑った。
頭を上げて周りを見渡すと一味全員が微笑みながらあたしの周りに立っている。
『なんだそうだったの!これからよろしくね!』
ナミさんがあたしの肩に手を置きながら嬉しそうにしている。
『フフ、これからよろしくね』
ロビンさん…
『よっしゃー!マナちゃんこれからもよろしくぅぅ』
サ、サンジさん。
『マナ、よろしくな!』
チョッパーさん…
『騒がしいやつらばっかだけど、よろしくな』
ウソップさん。
『……よろしく』
ゾロさん…
『はい、皆さんあらためてよろしくお願いします!』
そしてルフィさんの提案で
あたしが仲間になったお祝いに今日も宴会することが決まった。
何だか…本当素敵な人達。
あたしは今日、麦わら海賊団の一味になった。
世界中の景色なんかを絵で描き、世の中に伝えるっていう夢を叶えるため。
素敵な仲間たちと一緒に…これからどんな冒険が待っているのかな?