サンジ
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【強がり彼女とナンパ彼氏】
『そこのレディ、一緒にお茶でもどうですか?』
数メートル先に見えるはナンパしまくりの金髪の姿。
街に降りた途端に始まった毎度毎度の彼の病気。
あーあ、目がハートだよ。
『あんた、あれほっといていいの?』
隣で歩いているナミが怪訝な顔であたしに声をかける。
『う~ん……いつもの事なんだけどねぇ』
見慣れた光景ではあるし、彼は声をかけるだけで
それ以上の進展は無いからなぁ
大体、いつもは振られて終わるんだけど。
だけど珍しく今回は成功した様子で、ハートがパワーアップしている。
あたしはハァとため息をついてから
一目散に金髪に向かって駆け寄る。
『いい加減にしろ!エロコック!』
声と同時にパシンと鳴る頬の音。
『痛っ、え、マナちゃん?』
驚いた様子でこちらを見ている金髪。
彼の名前はサンジ。
半年ほど前からあたし達は付き合っていて
麦わら海賊団の仲間でもある。
『毎回よく飽きもせずにナンパ出来るわね!』
『いや、癖みてェなもんなんだけど…』
可愛い子がいたらつい声をかけちゃう…といいわけしてくる。
『…そっか、……癖なら仕方ないね。』
強がりながら吐き捨てるように呟いて、あたしはナミの元へと踵を返す。
サンジがあたしの名を呼んでいる。
でも、もう知らない。
船から降りると毎回こうだから。
船にいる間は…ちゃんとあたしを見ていてくれて、大事にしてくれる。
だから、船を降りた時のサンジはいつからか別人だと思う事にしていた。
付き合ってすぐナンパを目撃した時は
胸が潰されるぐらい辛くて、どうしようもない感情になったっけ。
『ねぇナミ…』
『ん?』
『ここのログはどのくらいで溜まるの?』
『…そうねぇ……今の溜まり方を見ると、多分2週間ぐらいかかりそうね』
『そっかぁ……2週間か。』
2週間…あたしの心は耐えられるのかな。
見慣れたと言っても、目の当たりにするとやっぱり辛いし。
サンジが他の女性と一緒に居るかもしれない不安と日々戦わなくちゃいけない。
なるべく考えないようにしないとな。
それからはナミと街を探索しながらショッピングをした。
談笑しながらブラブラ歩いていると
正面からサンジと先ほどナンパされていた女性が歩いてくる。
デレデレして、やけに楽しそうじゃない。
『サンジくんたら…あいつぶん殴るわよ!』
あたしより先にナミが、拳を握りながら憤慨している。
『ナミ、あたしは大丈夫だから』
余裕のある表情でナミに向かって笑って見せる。
『…で、でも…』
『大丈夫だって!ほら、もう一軒見に行くよ!』
『わ、わかったわよぅ』
そのまま左に曲がってサンジ達を回避する。
幸いなことに、まだサンジには気づかれていなかったみたい。
ホッとしたら喉が渇いたな。
あたしはナミと喫茶店へ来ていた。
『ねぇ、サンジくんの事いいの?』
ナミはいつになく真剣な表情であたしに問いかける。
『…癖なんだってさぁ…』
口をとがらせ、強がるあたしにナミが畳みかける。
『今回はいつもと状況が違うんじゃないの?』
『うん、今回はじめてナンパ成功したみたい…』
『…そっか、…船の上だとマナとサンジくんは相思相愛なのにね』
ハァと溜息をつくナミの顔から呆れた表情が読み取れる。
『ま、船に戻ってきたら話してみるよ。』
『そうねぇ、それで何発かぶん殴るのよ!マナ!』
『了解♪ナミありがと』
ナミと一通り話してから、船に戻った。
船にはお留守番だったロビンと、ゾロが各々にくつろいでいた。
一足早く戻っていたフランキーもいる。
あたしは周りを見渡し、キッチンへと向かう。
キッチンは真っ暗でしんと静まりかえっている。
『……まだ戻ってるわけないか』
そりゃあね。
あんなにデレデレだったんだもん。
思い返すだけで、チクリと胸が痛む。
考えるのをやめようと思っていたのにな…
キッチンにいるからサンジの事考えちゃうんだ、きっとそう。
…だけど、より一層いつもの強がりが出なくて
こみ上げそうになる涙に気づく。
ねぇ、あの子とまだ一緒に居るの…?
あたしにはもう飽きちゃったの…?
あたしはサンジの事が好きで好きでたまらないのに。
暗いキッチンで声を押し殺す。
ポタポタと床に涙の痕が滲んでいる。
その時、ガチャっと勢いよく扉が開いた。
あたしはビックリして、思わず体が強ばる。
パァと電気がついて、ゴシゴシと必死に涙を止めると
『…マナちゃん』
後ろから、大好きなサンジの声がしてそのまま優しく抱きしめられる。
『怒ってる……よな?』
弱々しい声で確認してくるけど、いつもそう。
怒っているに決まってるじゃない。
『…サンジ……あたしの事…好き?』
『も、もちろんマナちゃんの事好きだよ!』
『…もう、飽きちゃったんじゃない?』
『そんな事ねェよ!』
サンジは慌てるように言ってから、抱きしめる腕の力を強めた。
このぬくもりに包まれていると
すべて許してしまいそうになる…でも、ハッキリしなくちゃ。
あたしはサンジの腕をはずし、クルリと振り向く。
あぁ、サンジの顔だ。
対面になった事で視線が重なる。
愛おしそうに見つめる表情は、いつもの彼と変わらない。
…でもちゃんと伝えよう。
『…今までね、…ナンパとか気にしないようにしてたの…』
『う、うん』
『…だけど毎回辛いし、不安で……』
『…悪かった…。』
『でも…癖なんだもんね…。だから治らないと思うの』
『え…』
サンジは言葉につまっている様子でこちらを見つめている。
『…今はさ、サンジの彼女でいる自信ないから……しばらく距離をあけようよ』
あたしからの提案を聞いて、サンジは固まっている。
本当はあたしだってこんな事言いたくないのにな。
『…じゃあ、…部屋に戻るね。』
スルっとサンジから離れ、あたしはキッチンを後にした。
甲板に出て、あたしは思い切り深呼吸する。
とにかく気持ちを落ち着けないと…
サンジの事を考えないように、ロビンの元へ行き一緒に花壇の水やりをした。
その後は船に戻ってきたウソップの作業を手伝ったりもした。
そうしている内に日も暮れてきて、キッチンからは美味しそうな匂いが漂ってくる。
『飯だぞー』と船内にサンジの声が響き、各々キッチンへと向かった。
気まずいながらも、顔を出さないわけにはいかない。
あたしも平気な顔してキッチンへと足を運んだ。
いつも通りに、いつもと同じサンジの一番近くに居られる席へと座る。
一瞬だけサンジと目が合った。
きっと彼はあたしの事を見ていたのかもしれない。
あたしはすぐに視線を落とし、フイと顔を横に向ける。
サンジは各自に食事を配っていて、『どうぞ、マナちゃん』と言いながら
あたしの前に料理の乗ったプレートを置く。
『ありがと、サンジ』
そう言ってあたしはサンジに向かって微笑む。
黙々と食事をしてから、『ごちそうさま』と言って食器をシンクまで運ぶと
小さな声で『マナちゃん』と呼ばれた。
声の主をチラリと振り返り、あたしはそのまま逃げるようにしてキッチンを出て行った。
だめ。今はサンジの声を聴くのも、姿を見るのも辛い…
食事の時間どれだけ我慢して平然を装ったと思ってるの?
甲板に出て、夜風にあたる。
街を見つめながら、サンジの事を考えていた。
自分から距離をあける提案しておいて、今すぐサンジにすがりつきたいと思うなんて
あたしってワガママだな。
たかがナンパだからこそ、許したい気持ちもあるし
やっぱり許せない気持ちもある。
『マナ』
モヤモヤと考え事していたら、ナミに声を掛けられる。
ナミは暖かい紅茶を持ってきてくれた。
『はい、マナの分。サンジくんに言ってマナの好きな分量でミルクと砂糖入れてもらったのよ』
『あ、ありがと。』
ナミからカップを受け取り、フゥフゥと熱を冷ましてから口をつける。
さすがサンジ…って思うぐらい完璧なミルクティー。
今までも二人でキッチンで話をするとき用意してくれたやつだ。
『サンジくんの事は…ぶん殴ったの?』
『ううん、殴ってないよ』
ナミの唐突の言葉に少し笑って対応する。
『…でも、殴られたぐらい辛そうな顔してたわよ?』
『…うーん…さっきあたしが、ナンパするのは癖だから治らないと思う。
だから距離あけようって言ったからかな』
ナミは驚いた表情であたしを見つめる。
『で、でも、別れるとかではないよ?…たかがナンパって思うんだけど…不安でさ』
『わかるわよ。辛いわよね』
共感してくれるナミの言葉がスッと胸に沁みて、涙がポタポタ流れてくる。
『あたしはさ、…サンジだけを好きなのに…サンジは、あたし以外の女の子の事も好きだから…』
『…だから、嫌われたくなくてナンパするのも…ずっと我慢してたんだけど…』
『毎回だから、あたしには飽きたのかなって…不安で不安でたまらないの…』
あたしは涙を流しながら、ナミに思っている事を吐露した。
ナミは頭を撫でながら『うんうん』って聞いてくれる。
…人に聞いてもらったことで何だかスッキリしたなぁ。
『…ありがと、ナミ。だいぶスッキリした…』
『いいのよ、相談料はまけといてあげるわ♪』
『えー、お金取るつもりだったのぉ!』
『当たり前じゃない~…なんて、良かった。マナの笑顔見れて』
ナミは優しい表情で言葉をつづけた。
『あたしはね、マナとサンジくんが仲良くしているのが一番嬉しいけど』
『サンジくんの女好きにも問題ありだし…』
『少し、距離を置いて…お互いを見つめ直すのもいいかもしれないわね。』
『…何かあったら相談乗るわよ♪』
ナミはそう言いながら親指と人差し指で小さな丸を作る。
その様子がおかしくて、二人でケラケラと笑いあった。
ナミに言われた通り、お互いを見つめ直す。
うん、いい機会なのかもしれない。
その言葉を胸に刻みながら、あっという間に2週間が経過する。
ログが溜まったから明日には島を離れるみたいだ。
この2週間、サンジはあたしに対して必要以上に声を掛けてこなくなった。
あたしからも特に発信はしない。
たまにする会話も、付き合う前の時みたいで
凄く悲しい気持ちにもなった。
触れたいのに触れられないもどかしさもあって、何度も人目を避けて泣いたっけ。
ただ、あの日以来サンジは、2週間一度も船を降りなかった。
今までだったら毎日ナンパに出かけていたのに。
今日中に最終の買い出しだけ行くみたいだけど…
ま、あたしには関係ないか。
今日はみんなが出払っていて、あたしはナミにお留守番を頼まれている。
朝から誰もいない船内を一人でふらふら。
洗濯したり、本を読んだり。
暖かい日差しに誘われるようにして、あたしはくぅくぅと眠ってしまった。
いくらか日が落ちたのか、あたしは肌寒さで目が覚めると慌てて起き上がる。
それと同時にバサッと見慣れたジャケットが足元へ落ちていった。
…このジャケットは…
すぐに拾い上げてギュっと抱きしめる。
…やっぱり……大好きなサンジの匂い。
あたしはジャケットを抱え、キッチンへと向かった。
少し緊張しながら、ゆっくりとキッチンのドアを開ける。
『…サンジ?…居るの?』
声をかけると、料理中のサンジの視線があたしに注がれる。
『こ、これ、ありがとう』
そう言いながらテーブルの上に畳んだジャケットを置いて
あたしはすぐにキッチンを出ようとした。
『おい、マナちゃん!』
扉を押さえつけられ、しっかりと彼に捕まるあたしの左手。
『…痛いよ、サンジ』
『ご、ごめん……なァ…少し俺と話できねェかな…?』
サンジはパッと手を離しながら言った。
『……いいよ。話しよっか』
あたしがそう答えるとサンジは嬉しそうに口角をあげる。
椅子に腰かけてしばらく待っていると
『はい、マナちゃん』
目の前にミルクティーの入ったカップが置かれる。
サンジはそのまま隣の椅子に座り、あたしをじっと見つめると指で髪を撫でてくる。
『…マナちゃん…この間はごめんな……君を傷つけてしまった…』
あたしは下を向き、サンジの声に耳を傾ける。
『この前さ、ナミさんに言われたんだ。…マナちゃんが泣いてたって…』
『俺の前で泣いてるとこなんて見た事なかったから…今まで甘えちまってたんだ…』
『もう二度とナンパなんてしねェ…だから…また俺と一緒にいてくれないか?』
サンジは深々と頭を下げながら悲願する。
『…バッカみたい…やめられないくせに……』
あたしってば素直じゃない。
何でこんな時も強がっちゃうんだろう…サンジの事すごく好きなのに…
『……俺は、マナちゃんさえ居れば…それでいい……』
サンジはフワッと両腕を広げて
『もう一度、…俺を信じてくれないか』と言った。
サンジの表情が…すごく苦しそうで、胸が張り裂けそうになる。
だんだんとあたしの視界もぼやけてしまう。
あぁ、あたし初めてサンジの前で泣いちゃったんだ。
いつも強がってばかりだったから…
もう、素直に……自分に正直になろう。
あたしはサンジの広げた腕に飛び込んだ。
『…あたしこそ……サンジと一緒にいたい…』
泣きじゃくるあたしを、サンジはしっかりと抱きしめてくれる。
暖かくて、あたしの一番大好きな温もり。
涙が落ち着いた頃、ゆっくりとサンジの顔を見上げた。
優しいまなざしと視線が重なる
『初めてマナちゃんの泣き顔見たけど……クソ可愛いな…』
そう言ってサンジは優しく微笑むと、ゆっくりと唇を重ねてくる。
久しぶりの口づけはやっぱり煙草の味がして
より一層サンジに染まる気がした。
『もう、ナンパしちゃ駄目だからね?』
『絶対にしないよ、プリンセス♪』
あたし達は『約束だよ』と言ってお互いに小指を絡めあった。
これからは絶対にナンパさせないように、あたしも素直にならなくちゃな。
もしまたナンパなんてしたら……今度こそぶん殴っちゃうんだからね。
『そこのレディ、一緒にお茶でもどうですか?』
数メートル先に見えるはナンパしまくりの金髪の姿。
街に降りた途端に始まった毎度毎度の彼の病気。
あーあ、目がハートだよ。
『あんた、あれほっといていいの?』
隣で歩いているナミが怪訝な顔であたしに声をかける。
『う~ん……いつもの事なんだけどねぇ』
見慣れた光景ではあるし、彼は声をかけるだけで
それ以上の進展は無いからなぁ
大体、いつもは振られて終わるんだけど。
だけど珍しく今回は成功した様子で、ハートがパワーアップしている。
あたしはハァとため息をついてから
一目散に金髪に向かって駆け寄る。
『いい加減にしろ!エロコック!』
声と同時にパシンと鳴る頬の音。
『痛っ、え、マナちゃん?』
驚いた様子でこちらを見ている金髪。
彼の名前はサンジ。
半年ほど前からあたし達は付き合っていて
麦わら海賊団の仲間でもある。
『毎回よく飽きもせずにナンパ出来るわね!』
『いや、癖みてェなもんなんだけど…』
可愛い子がいたらつい声をかけちゃう…といいわけしてくる。
『…そっか、……癖なら仕方ないね。』
強がりながら吐き捨てるように呟いて、あたしはナミの元へと踵を返す。
サンジがあたしの名を呼んでいる。
でも、もう知らない。
船から降りると毎回こうだから。
船にいる間は…ちゃんとあたしを見ていてくれて、大事にしてくれる。
だから、船を降りた時のサンジはいつからか別人だと思う事にしていた。
付き合ってすぐナンパを目撃した時は
胸が潰されるぐらい辛くて、どうしようもない感情になったっけ。
『ねぇナミ…』
『ん?』
『ここのログはどのくらいで溜まるの?』
『…そうねぇ……今の溜まり方を見ると、多分2週間ぐらいかかりそうね』
『そっかぁ……2週間か。』
2週間…あたしの心は耐えられるのかな。
見慣れたと言っても、目の当たりにするとやっぱり辛いし。
サンジが他の女性と一緒に居るかもしれない不安と日々戦わなくちゃいけない。
なるべく考えないようにしないとな。
それからはナミと街を探索しながらショッピングをした。
談笑しながらブラブラ歩いていると
正面からサンジと先ほどナンパされていた女性が歩いてくる。
デレデレして、やけに楽しそうじゃない。
『サンジくんたら…あいつぶん殴るわよ!』
あたしより先にナミが、拳を握りながら憤慨している。
『ナミ、あたしは大丈夫だから』
余裕のある表情でナミに向かって笑って見せる。
『…で、でも…』
『大丈夫だって!ほら、もう一軒見に行くよ!』
『わ、わかったわよぅ』
そのまま左に曲がってサンジ達を回避する。
幸いなことに、まだサンジには気づかれていなかったみたい。
ホッとしたら喉が渇いたな。
あたしはナミと喫茶店へ来ていた。
『ねぇ、サンジくんの事いいの?』
ナミはいつになく真剣な表情であたしに問いかける。
『…癖なんだってさぁ…』
口をとがらせ、強がるあたしにナミが畳みかける。
『今回はいつもと状況が違うんじゃないの?』
『うん、今回はじめてナンパ成功したみたい…』
『…そっか、…船の上だとマナとサンジくんは相思相愛なのにね』
ハァと溜息をつくナミの顔から呆れた表情が読み取れる。
『ま、船に戻ってきたら話してみるよ。』
『そうねぇ、それで何発かぶん殴るのよ!マナ!』
『了解♪ナミありがと』
ナミと一通り話してから、船に戻った。
船にはお留守番だったロビンと、ゾロが各々にくつろいでいた。
一足早く戻っていたフランキーもいる。
あたしは周りを見渡し、キッチンへと向かう。
キッチンは真っ暗でしんと静まりかえっている。
『……まだ戻ってるわけないか』
そりゃあね。
あんなにデレデレだったんだもん。
思い返すだけで、チクリと胸が痛む。
考えるのをやめようと思っていたのにな…
キッチンにいるからサンジの事考えちゃうんだ、きっとそう。
…だけど、より一層いつもの強がりが出なくて
こみ上げそうになる涙に気づく。
ねぇ、あの子とまだ一緒に居るの…?
あたしにはもう飽きちゃったの…?
あたしはサンジの事が好きで好きでたまらないのに。
暗いキッチンで声を押し殺す。
ポタポタと床に涙の痕が滲んでいる。
その時、ガチャっと勢いよく扉が開いた。
あたしはビックリして、思わず体が強ばる。
パァと電気がついて、ゴシゴシと必死に涙を止めると
『…マナちゃん』
後ろから、大好きなサンジの声がしてそのまま優しく抱きしめられる。
『怒ってる……よな?』
弱々しい声で確認してくるけど、いつもそう。
怒っているに決まってるじゃない。
『…サンジ……あたしの事…好き?』
『も、もちろんマナちゃんの事好きだよ!』
『…もう、飽きちゃったんじゃない?』
『そんな事ねェよ!』
サンジは慌てるように言ってから、抱きしめる腕の力を強めた。
このぬくもりに包まれていると
すべて許してしまいそうになる…でも、ハッキリしなくちゃ。
あたしはサンジの腕をはずし、クルリと振り向く。
あぁ、サンジの顔だ。
対面になった事で視線が重なる。
愛おしそうに見つめる表情は、いつもの彼と変わらない。
…でもちゃんと伝えよう。
『…今までね、…ナンパとか気にしないようにしてたの…』
『う、うん』
『…だけど毎回辛いし、不安で……』
『…悪かった…。』
『でも…癖なんだもんね…。だから治らないと思うの』
『え…』
サンジは言葉につまっている様子でこちらを見つめている。
『…今はさ、サンジの彼女でいる自信ないから……しばらく距離をあけようよ』
あたしからの提案を聞いて、サンジは固まっている。
本当はあたしだってこんな事言いたくないのにな。
『…じゃあ、…部屋に戻るね。』
スルっとサンジから離れ、あたしはキッチンを後にした。
甲板に出て、あたしは思い切り深呼吸する。
とにかく気持ちを落ち着けないと…
サンジの事を考えないように、ロビンの元へ行き一緒に花壇の水やりをした。
その後は船に戻ってきたウソップの作業を手伝ったりもした。
そうしている内に日も暮れてきて、キッチンからは美味しそうな匂いが漂ってくる。
『飯だぞー』と船内にサンジの声が響き、各々キッチンへと向かった。
気まずいながらも、顔を出さないわけにはいかない。
あたしも平気な顔してキッチンへと足を運んだ。
いつも通りに、いつもと同じサンジの一番近くに居られる席へと座る。
一瞬だけサンジと目が合った。
きっと彼はあたしの事を見ていたのかもしれない。
あたしはすぐに視線を落とし、フイと顔を横に向ける。
サンジは各自に食事を配っていて、『どうぞ、マナちゃん』と言いながら
あたしの前に料理の乗ったプレートを置く。
『ありがと、サンジ』
そう言ってあたしはサンジに向かって微笑む。
黙々と食事をしてから、『ごちそうさま』と言って食器をシンクまで運ぶと
小さな声で『マナちゃん』と呼ばれた。
声の主をチラリと振り返り、あたしはそのまま逃げるようにしてキッチンを出て行った。
だめ。今はサンジの声を聴くのも、姿を見るのも辛い…
食事の時間どれだけ我慢して平然を装ったと思ってるの?
甲板に出て、夜風にあたる。
街を見つめながら、サンジの事を考えていた。
自分から距離をあける提案しておいて、今すぐサンジにすがりつきたいと思うなんて
あたしってワガママだな。
たかがナンパだからこそ、許したい気持ちもあるし
やっぱり許せない気持ちもある。
『マナ』
モヤモヤと考え事していたら、ナミに声を掛けられる。
ナミは暖かい紅茶を持ってきてくれた。
『はい、マナの分。サンジくんに言ってマナの好きな分量でミルクと砂糖入れてもらったのよ』
『あ、ありがと。』
ナミからカップを受け取り、フゥフゥと熱を冷ましてから口をつける。
さすがサンジ…って思うぐらい完璧なミルクティー。
今までも二人でキッチンで話をするとき用意してくれたやつだ。
『サンジくんの事は…ぶん殴ったの?』
『ううん、殴ってないよ』
ナミの唐突の言葉に少し笑って対応する。
『…でも、殴られたぐらい辛そうな顔してたわよ?』
『…うーん…さっきあたしが、ナンパするのは癖だから治らないと思う。
だから距離あけようって言ったからかな』
ナミは驚いた表情であたしを見つめる。
『で、でも、別れるとかではないよ?…たかがナンパって思うんだけど…不安でさ』
『わかるわよ。辛いわよね』
共感してくれるナミの言葉がスッと胸に沁みて、涙がポタポタ流れてくる。
『あたしはさ、…サンジだけを好きなのに…サンジは、あたし以外の女の子の事も好きだから…』
『…だから、嫌われたくなくてナンパするのも…ずっと我慢してたんだけど…』
『毎回だから、あたしには飽きたのかなって…不安で不安でたまらないの…』
あたしは涙を流しながら、ナミに思っている事を吐露した。
ナミは頭を撫でながら『うんうん』って聞いてくれる。
…人に聞いてもらったことで何だかスッキリしたなぁ。
『…ありがと、ナミ。だいぶスッキリした…』
『いいのよ、相談料はまけといてあげるわ♪』
『えー、お金取るつもりだったのぉ!』
『当たり前じゃない~…なんて、良かった。マナの笑顔見れて』
ナミは優しい表情で言葉をつづけた。
『あたしはね、マナとサンジくんが仲良くしているのが一番嬉しいけど』
『サンジくんの女好きにも問題ありだし…』
『少し、距離を置いて…お互いを見つめ直すのもいいかもしれないわね。』
『…何かあったら相談乗るわよ♪』
ナミはそう言いながら親指と人差し指で小さな丸を作る。
その様子がおかしくて、二人でケラケラと笑いあった。
ナミに言われた通り、お互いを見つめ直す。
うん、いい機会なのかもしれない。
その言葉を胸に刻みながら、あっという間に2週間が経過する。
ログが溜まったから明日には島を離れるみたいだ。
この2週間、サンジはあたしに対して必要以上に声を掛けてこなくなった。
あたしからも特に発信はしない。
たまにする会話も、付き合う前の時みたいで
凄く悲しい気持ちにもなった。
触れたいのに触れられないもどかしさもあって、何度も人目を避けて泣いたっけ。
ただ、あの日以来サンジは、2週間一度も船を降りなかった。
今までだったら毎日ナンパに出かけていたのに。
今日中に最終の買い出しだけ行くみたいだけど…
ま、あたしには関係ないか。
今日はみんなが出払っていて、あたしはナミにお留守番を頼まれている。
朝から誰もいない船内を一人でふらふら。
洗濯したり、本を読んだり。
暖かい日差しに誘われるようにして、あたしはくぅくぅと眠ってしまった。
いくらか日が落ちたのか、あたしは肌寒さで目が覚めると慌てて起き上がる。
それと同時にバサッと見慣れたジャケットが足元へ落ちていった。
…このジャケットは…
すぐに拾い上げてギュっと抱きしめる。
…やっぱり……大好きなサンジの匂い。
あたしはジャケットを抱え、キッチンへと向かった。
少し緊張しながら、ゆっくりとキッチンのドアを開ける。
『…サンジ?…居るの?』
声をかけると、料理中のサンジの視線があたしに注がれる。
『こ、これ、ありがとう』
そう言いながらテーブルの上に畳んだジャケットを置いて
あたしはすぐにキッチンを出ようとした。
『おい、マナちゃん!』
扉を押さえつけられ、しっかりと彼に捕まるあたしの左手。
『…痛いよ、サンジ』
『ご、ごめん……なァ…少し俺と話できねェかな…?』
サンジはパッと手を離しながら言った。
『……いいよ。話しよっか』
あたしがそう答えるとサンジは嬉しそうに口角をあげる。
椅子に腰かけてしばらく待っていると
『はい、マナちゃん』
目の前にミルクティーの入ったカップが置かれる。
サンジはそのまま隣の椅子に座り、あたしをじっと見つめると指で髪を撫でてくる。
『…マナちゃん…この間はごめんな……君を傷つけてしまった…』
あたしは下を向き、サンジの声に耳を傾ける。
『この前さ、ナミさんに言われたんだ。…マナちゃんが泣いてたって…』
『俺の前で泣いてるとこなんて見た事なかったから…今まで甘えちまってたんだ…』
『もう二度とナンパなんてしねェ…だから…また俺と一緒にいてくれないか?』
サンジは深々と頭を下げながら悲願する。
『…バッカみたい…やめられないくせに……』
あたしってば素直じゃない。
何でこんな時も強がっちゃうんだろう…サンジの事すごく好きなのに…
『……俺は、マナちゃんさえ居れば…それでいい……』
サンジはフワッと両腕を広げて
『もう一度、…俺を信じてくれないか』と言った。
サンジの表情が…すごく苦しそうで、胸が張り裂けそうになる。
だんだんとあたしの視界もぼやけてしまう。
あぁ、あたし初めてサンジの前で泣いちゃったんだ。
いつも強がってばかりだったから…
もう、素直に……自分に正直になろう。
あたしはサンジの広げた腕に飛び込んだ。
『…あたしこそ……サンジと一緒にいたい…』
泣きじゃくるあたしを、サンジはしっかりと抱きしめてくれる。
暖かくて、あたしの一番大好きな温もり。
涙が落ち着いた頃、ゆっくりとサンジの顔を見上げた。
優しいまなざしと視線が重なる
『初めてマナちゃんの泣き顔見たけど……クソ可愛いな…』
そう言ってサンジは優しく微笑むと、ゆっくりと唇を重ねてくる。
久しぶりの口づけはやっぱり煙草の味がして
より一層サンジに染まる気がした。
『もう、ナンパしちゃ駄目だからね?』
『絶対にしないよ、プリンセス♪』
あたし達は『約束だよ』と言ってお互いに小指を絡めあった。
これからは絶対にナンパさせないように、あたしも素直にならなくちゃな。
もしまたナンパなんてしたら……今度こそぶん殴っちゃうんだからね。
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