【GG】Johnny✕Testament
ーーしくじった。
自他ともに認める完全無欠のパーフェクト。ジェリーフィッシュの頭領は、その場で正座しながら全身に冷や汗をかいていた。
「他人の性癖をどうこう言うのは主義ではないが……」
正座するジョニーを見下ろすテスタメントの視線は冷たい。更に、185cmの長身が見下ろす圧が半端ない。立てばほとんど身長差が無く、普段は意識していなかったが、低い視点から見上げるとこんなに圧が掛かるとは。
ことの始まりは数分前。昨夜いつもの様に二人でジョニーの部屋で飲んで、気持ち良くなったところでよろしく致して。そうして明け方ベッドの上で目覚めたジョニーの隣に、テスタメントはいなかった。トイレにでも行ったのだろうかと、その時は暢気に考えていたものの、当の本人は意外とすぐ近くに居た。そう、ジョニーの秘蔵の書物が収まる、壁面の本棚の前に。
「流石に、これはどうかと思うぞ?」
テスタメントは手に持っている雑誌の表紙をジョニーに見える様に掲げながら冷ややかに言う。月刊人妻ダイナマイト。ジョニーが発刊当時から愛読書としている雑誌だ。クルーやメイに見つからぬ様、いつもこっそり購入し、誰も居ない部屋で一人楽しんでいた禁断の書物。それをよりによって、テスタメントに見られた。雑誌なので背表紙は無く、本棚に入れているだけなら一目でそれとは看破しにくい。それでも、目に付きにくい場所に他の雑誌達の中に紛れ込ませる形で収納していたのだが。普段、誰も室内に入れない為、油断していた。少し前から親密な間柄になっていたたテスタメントの存在を、失念していた。
「いや、それは、その……」
「まさか人妻に興奮する男だったとはな? 確かに他人の迷惑にならなければ性癖は自由だと思うぞ? だがこれに関しては……なあ?」
テスタメントは、見てしまった。目覚めた後、壁面に並ぶ本棚を見て、ジョニーが普段読んでいる書物に興味を持った。上の段から順番に背表紙を追い、下の方にある雑誌に目が止まった。最近ファッション誌を購読していたので、ジョニーもそういったものを読むのかと思って。数ある雑誌の中からそれを引き抜いてしまった。それも、その月刊誌の中では特に過激な表紙のものを。
そうしてジョニーは眠っている所を叩き起こされ、上半身裸のままテスタメントの前に正座をさせられ、今に至る。下半身の衣服の着用を許されたのは、せめてもの慈悲か。
「もしやディズィーもそんな目で見ているのか?」
「んな訳あるか!」
咄嗟に反論する。流石に彼女をそういった目で見た事はない。誓って。大体彼女は生まれてまだ数年の存在だ。見た目は大人の女性でも、純粋な年齢で言ったらまだ子供である。少なくとも、ジョニーから見れば。そんな彼女が連王であるカイと結婚すると聞いた時は驚いたが。それでも、人妻となった彼女に劣情を抱いたりした事はない。語気を強め、大きな声で言うとテスタメントは「ふぅん」と、胡乱げな眼差しでジョニーを見据えて来た。
「ああ、でも残念だ。私はお前の好みでは無かったのか」
雑誌を開き、ぱらぱらと捲って内容を見ながらテスタメントが言う。拗ねている、なんて可愛い表現ではない。彼は静かに怒っている。初めて互いの想いを確かめ合ったあの夜、テスタメントは人に愛される実感を得た。幸せで、けれど切なくて。心がどうかしそうだった。それなのに、相手はーージョニーは人妻が好きなのだ。雑誌の内容は人妻がいかに魅力的な存在か、男をそそらせる存在か。蠱惑的な写真と共にコラムで熱く語られていた。そして、その雑誌は創刊号と思しきものから最新刊まで、一つとして欠ける事無く本棚に収まっている。
「いや、そんな事は……」
「だが私は人妻ではないぞ?」
「う……」
先程よりも反論する言葉が小さく、弱い。正直に性癖を述べればジョニーの好みは人妻だ。熟女ならば尚良い。仕事で忙しい夫に相手にされず、性欲を持て余す団地妻。我慢できなくなった人妻は夫の居ない日中に若い男を家に招き入れ、背徳感の中夫ではない存在を受け入れ、快楽に喘ぐーー想像するだけで興奮する、なんて。テスタメントの前では口が裂けても言えない。
テスタメントの事は好きだ。それこそ、人妻であるかどうかなど関係なく。だが、それとは別で人妻の事は大好きだ。どうしようもないと、我ながら思う。そう、仕方ないのだ。男の性なのだ。開き直って言いそうになるのをぐっと堪える。もしそんな事を言えば、間違いなくテスタメントの大鎌が牙を剥く。首を撥ねられるならまだしも、腰に下がる自慢のイチモツを切り落とされたら、死ぬより辛い、気がする。
完全に状況は劣勢。ここからどうやってテスタメントの信頼を回復すれば良いか。ジョニーが思考をフル回転させていると、テスタメントが口を開いた。
「そうだ。私も人妻になればお前の好みとなるか?」
「……はい?」
唐突な提案だった。何を言っているのか理解できず、ジョニーは思わず間の抜けた声を上げる。すると、テスタメントは底意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ちょうど東チップ王国の頭領に熱烈なアタックを受けていてな。プロポーズもされたんだ」
「はぁ!?」
そんなの聞いてない。初耳だ。まさかあの忍者が、エセジャパニーズが、変な所で異常に勘が鋭いが基本は馬鹿なあいつが。テスタメントに接近していたとは思わなかった。しかも知らない所でプロポーズまでしていたとは。あいつ、いつの間に。テスタメントの言葉からしてまだプロポーズを受け入れている訳ではないようだが、今度あったら締めてやると、ジョニーは一人誓った。
「あの者の所に嫁げば、お前の大好きな人妻になるぞ?」
「やめろ」
静止の声は、ジョニー自身が驚くほどマジのトーンだった。焦って止めてくると思っていた為、テスタメントは少々驚いた様に片眉を跳ね上げる。
「確かに俺は人妻が好きだ。あの熟れた肉感、滲み出るエロス……想像するだけで興奮する。だがな」
「………………」
顔を上げ、力強い眼差しでテスタメントを見詰める。格好良く語っているが実際に言ってる事は最低だ。テスタメントが明らかに引いた目で見ている。視線が痛い。ブスブス刺さる。それでも、ジョニーは引き下がるわけには行かない。
「だからってお前さんが誰かのモノになるのは……駄目だ。どうしても辛抱ならん」
それは、いつか感じた独占欲。目の前の存在が、自分以外の誰かのものになるなんて。自分以外の存在がテスタメントを見て、テスタメントもまた、その相手を見る。考えたくない現実だった。互いに相手を縛る存在になりたくないと言いつつ、実際は相手を誰にも渡したくないと言う矛盾。頭では分かっていても、止めることは出来なかった。
「悪かった」
全身全霊の土下座。床に額を擦り付け、心の底から謝罪する。自分がどうしようもなく最低な存在だと分かっていた。それでも、テスタメントのことが好きだというのは揺るぎない真実だった。そのテスタメントが、自分の性癖のせいで誰かの元に嫁ぐなど、到底受け入れられない。
ジョニーの謝罪の言葉を聞き、テスタメントはしばらく黙ったまま彼を見下ろしていた。重い沈黙。その時間は決して長くはなかったが、ジョニーには数十秒にも数十分にも感じられた。地獄の時間。果たして彼は、どんな言葉をジョニーに返すのか。
死刑になるか無罪になるか。判決を待つ囚人の如く待っていると、テスタメントは小さな溜息を吐き、膝を折ってジョニーの前に屈み込んだ。
「いや、私の方こそ少しムキになってしまった。すまない」
「……へ?」
意外な言葉だった。謝るべきは自分の方なのにと、ジョニーが顔を上げるとテスタメントが困った様な笑みを浮かべていた。てっきり、罵倒されるものかと。厳しい非難の言葉と共に、最悪捨てられる事も視野に入れていた。それなのに、目の前のテスタメントは謝罪の言葉と共に雑誌を持たない方の手を伸ばし、ジョニーの頬に触れる。
「お前の気を引こうとして、他人を巻き込もうとした。 ……最低だな、私は」
いや、少なくとも愛しい人の前で自分の性癖を暴露する行為に比べれば可愛いモンだと。此処には居ない誰かが突っ込んだ様な気がした。申し訳無さそうに眉を弛めるテスタメントの姿に、ジョニーは思わず頬に触れる手を取り、両手で包み込む様にしながらその甲へキスを落とした。
「お前さんは、優しいな」
どんな時でも、他人への気遣いを忘れない。その優しさに、ジョニーの心は救われた気がした。
「まあ、その月刊誌を読むことを止めはしない。だが……出来れば私の目につかない所に置いてくれないか?」
「……オーケー。ちゃんと管理する」
どうやら、許されたらしい。その事にジョニーは心底安堵し、テスタメントの要求を受け入れる意志を力強く頷く事で示して見せるーー心の片隅で、一番気に入っている冊子が破られたり燃やされたりしなかった事にも安堵していたが、その事がバレたらきっと一撃必殺を喰らって冊子共々あの世行きだろう。
その日から、月刊人妻ダイナマイトはジョニーの部屋の隠し本棚に収納されることとなった。
自他ともに認める完全無欠のパーフェクト。ジェリーフィッシュの頭領は、その場で正座しながら全身に冷や汗をかいていた。
「他人の性癖をどうこう言うのは主義ではないが……」
正座するジョニーを見下ろすテスタメントの視線は冷たい。更に、185cmの長身が見下ろす圧が半端ない。立てばほとんど身長差が無く、普段は意識していなかったが、低い視点から見上げるとこんなに圧が掛かるとは。
ことの始まりは数分前。昨夜いつもの様に二人でジョニーの部屋で飲んで、気持ち良くなったところでよろしく致して。そうして明け方ベッドの上で目覚めたジョニーの隣に、テスタメントはいなかった。トイレにでも行ったのだろうかと、その時は暢気に考えていたものの、当の本人は意外とすぐ近くに居た。そう、ジョニーの秘蔵の書物が収まる、壁面の本棚の前に。
「流石に、これはどうかと思うぞ?」
テスタメントは手に持っている雑誌の表紙をジョニーに見える様に掲げながら冷ややかに言う。月刊人妻ダイナマイト。ジョニーが発刊当時から愛読書としている雑誌だ。クルーやメイに見つからぬ様、いつもこっそり購入し、誰も居ない部屋で一人楽しんでいた禁断の書物。それをよりによって、テスタメントに見られた。雑誌なので背表紙は無く、本棚に入れているだけなら一目でそれとは看破しにくい。それでも、目に付きにくい場所に他の雑誌達の中に紛れ込ませる形で収納していたのだが。普段、誰も室内に入れない為、油断していた。少し前から親密な間柄になっていたたテスタメントの存在を、失念していた。
「いや、それは、その……」
「まさか人妻に興奮する男だったとはな? 確かに他人の迷惑にならなければ性癖は自由だと思うぞ? だがこれに関しては……なあ?」
テスタメントは、見てしまった。目覚めた後、壁面に並ぶ本棚を見て、ジョニーが普段読んでいる書物に興味を持った。上の段から順番に背表紙を追い、下の方にある雑誌に目が止まった。最近ファッション誌を購読していたので、ジョニーもそういったものを読むのかと思って。数ある雑誌の中からそれを引き抜いてしまった。それも、その月刊誌の中では特に過激な表紙のものを。
そうしてジョニーは眠っている所を叩き起こされ、上半身裸のままテスタメントの前に正座をさせられ、今に至る。下半身の衣服の着用を許されたのは、せめてもの慈悲か。
「もしやディズィーもそんな目で見ているのか?」
「んな訳あるか!」
咄嗟に反論する。流石に彼女をそういった目で見た事はない。誓って。大体彼女は生まれてまだ数年の存在だ。見た目は大人の女性でも、純粋な年齢で言ったらまだ子供である。少なくとも、ジョニーから見れば。そんな彼女が連王であるカイと結婚すると聞いた時は驚いたが。それでも、人妻となった彼女に劣情を抱いたりした事はない。語気を強め、大きな声で言うとテスタメントは「ふぅん」と、胡乱げな眼差しでジョニーを見据えて来た。
「ああ、でも残念だ。私はお前の好みでは無かったのか」
雑誌を開き、ぱらぱらと捲って内容を見ながらテスタメントが言う。拗ねている、なんて可愛い表現ではない。彼は静かに怒っている。初めて互いの想いを確かめ合ったあの夜、テスタメントは人に愛される実感を得た。幸せで、けれど切なくて。心がどうかしそうだった。それなのに、相手はーージョニーは人妻が好きなのだ。雑誌の内容は人妻がいかに魅力的な存在か、男をそそらせる存在か。蠱惑的な写真と共にコラムで熱く語られていた。そして、その雑誌は創刊号と思しきものから最新刊まで、一つとして欠ける事無く本棚に収まっている。
「いや、そんな事は……」
「だが私は人妻ではないぞ?」
「う……」
先程よりも反論する言葉が小さく、弱い。正直に性癖を述べればジョニーの好みは人妻だ。熟女ならば尚良い。仕事で忙しい夫に相手にされず、性欲を持て余す団地妻。我慢できなくなった人妻は夫の居ない日中に若い男を家に招き入れ、背徳感の中夫ではない存在を受け入れ、快楽に喘ぐーー想像するだけで興奮する、なんて。テスタメントの前では口が裂けても言えない。
テスタメントの事は好きだ。それこそ、人妻であるかどうかなど関係なく。だが、それとは別で人妻の事は大好きだ。どうしようもないと、我ながら思う。そう、仕方ないのだ。男の性なのだ。開き直って言いそうになるのをぐっと堪える。もしそんな事を言えば、間違いなくテスタメントの大鎌が牙を剥く。首を撥ねられるならまだしも、腰に下がる自慢のイチモツを切り落とされたら、死ぬより辛い、気がする。
完全に状況は劣勢。ここからどうやってテスタメントの信頼を回復すれば良いか。ジョニーが思考をフル回転させていると、テスタメントが口を開いた。
「そうだ。私も人妻になればお前の好みとなるか?」
「……はい?」
唐突な提案だった。何を言っているのか理解できず、ジョニーは思わず間の抜けた声を上げる。すると、テスタメントは底意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ちょうど東チップ王国の頭領に熱烈なアタックを受けていてな。プロポーズもされたんだ」
「はぁ!?」
そんなの聞いてない。初耳だ。まさかあの忍者が、エセジャパニーズが、変な所で異常に勘が鋭いが基本は馬鹿なあいつが。テスタメントに接近していたとは思わなかった。しかも知らない所でプロポーズまでしていたとは。あいつ、いつの間に。テスタメントの言葉からしてまだプロポーズを受け入れている訳ではないようだが、今度あったら締めてやると、ジョニーは一人誓った。
「あの者の所に嫁げば、お前の大好きな人妻になるぞ?」
「やめろ」
静止の声は、ジョニー自身が驚くほどマジのトーンだった。焦って止めてくると思っていた為、テスタメントは少々驚いた様に片眉を跳ね上げる。
「確かに俺は人妻が好きだ。あの熟れた肉感、滲み出るエロス……想像するだけで興奮する。だがな」
「………………」
顔を上げ、力強い眼差しでテスタメントを見詰める。格好良く語っているが実際に言ってる事は最低だ。テスタメントが明らかに引いた目で見ている。視線が痛い。ブスブス刺さる。それでも、ジョニーは引き下がるわけには行かない。
「だからってお前さんが誰かのモノになるのは……駄目だ。どうしても辛抱ならん」
それは、いつか感じた独占欲。目の前の存在が、自分以外の誰かのものになるなんて。自分以外の存在がテスタメントを見て、テスタメントもまた、その相手を見る。考えたくない現実だった。互いに相手を縛る存在になりたくないと言いつつ、実際は相手を誰にも渡したくないと言う矛盾。頭では分かっていても、止めることは出来なかった。
「悪かった」
全身全霊の土下座。床に額を擦り付け、心の底から謝罪する。自分がどうしようもなく最低な存在だと分かっていた。それでも、テスタメントのことが好きだというのは揺るぎない真実だった。そのテスタメントが、自分の性癖のせいで誰かの元に嫁ぐなど、到底受け入れられない。
ジョニーの謝罪の言葉を聞き、テスタメントはしばらく黙ったまま彼を見下ろしていた。重い沈黙。その時間は決して長くはなかったが、ジョニーには数十秒にも数十分にも感じられた。地獄の時間。果たして彼は、どんな言葉をジョニーに返すのか。
死刑になるか無罪になるか。判決を待つ囚人の如く待っていると、テスタメントは小さな溜息を吐き、膝を折ってジョニーの前に屈み込んだ。
「いや、私の方こそ少しムキになってしまった。すまない」
「……へ?」
意外な言葉だった。謝るべきは自分の方なのにと、ジョニーが顔を上げるとテスタメントが困った様な笑みを浮かべていた。てっきり、罵倒されるものかと。厳しい非難の言葉と共に、最悪捨てられる事も視野に入れていた。それなのに、目の前のテスタメントは謝罪の言葉と共に雑誌を持たない方の手を伸ばし、ジョニーの頬に触れる。
「お前の気を引こうとして、他人を巻き込もうとした。 ……最低だな、私は」
いや、少なくとも愛しい人の前で自分の性癖を暴露する行為に比べれば可愛いモンだと。此処には居ない誰かが突っ込んだ様な気がした。申し訳無さそうに眉を弛めるテスタメントの姿に、ジョニーは思わず頬に触れる手を取り、両手で包み込む様にしながらその甲へキスを落とした。
「お前さんは、優しいな」
どんな時でも、他人への気遣いを忘れない。その優しさに、ジョニーの心は救われた気がした。
「まあ、その月刊誌を読むことを止めはしない。だが……出来れば私の目につかない所に置いてくれないか?」
「……オーケー。ちゃんと管理する」
どうやら、許されたらしい。その事にジョニーは心底安堵し、テスタメントの要求を受け入れる意志を力強く頷く事で示して見せるーー心の片隅で、一番気に入っている冊子が破られたり燃やされたりしなかった事にも安堵していたが、その事がバレたらきっと一撃必殺を喰らって冊子共々あの世行きだろう。
その日から、月刊人妻ダイナマイトはジョニーの部屋の隠し本棚に収納されることとなった。
