【GG】Johnny✕Testament
久しぶりに会う友人は、最後に会った時から随分と印象が変わっていた。
ディズィーを森から送り出し、その後は彼女を育てた老夫婦の元に身を寄せていると聞いた。手紙のやり取りはあったものの、会って話をする事はほとんど無かった。前回会った時も、まだ陰のあるーー言ってしまえば陰鬱な佇まいであったのだが。
「……随分と変わっちまったなあ、お前さん」
ジョニーは自らを出迎えた麗人の姿を見て、サングラスの奥の瞳を細めた。
「そうかな? 目に見えて変わったという自覚は余り無いのだけれど」
麗人ーーテスタメントはジョニーの言葉に緩く首を傾げる。
「いやあ、変わったね。まず雰囲気が明るく……そう、柔らかくなった。それから……あー、なんだ。イメージチェンジっつぅのか。見た目も洒落てるじゃないか」
「ふふ、最近は流行のファッションにも興味があってね。良く雑誌を読んでいるよ。モデルも始めようかと思っている所さ」
「へえ……そいつはまた」
今時の若者風になったとでも言えば良いのか。以前はいかにも死神といった黒装束であったが、今目の前に居る彼は全身黒ベースにスリットの入ったスカートこそ変わらないものの、随所に粋を感じる装いになっていた。
「…………」
「どうしたんだい?」
「いや、何というか……違和感がな」
雰囲気はともかく、振る舞いにどうしても違和感を覚える。森でディズィーを守っていた頃の彼とは余りにも違い過ぎる。あの時の彼は常に、何に対しても警戒していて、威圧的で、とにかく余裕が無い様に見えた。
それが今は、別人の様だった。柔和な雰囲気に砕けた口調。中身が入れ替わったのかと思うほどだ。何があったのか。何が彼を変えたのか。
「違和感? ……ああ、そうか」
ジョニーの言葉を反芻し、片手を顎に添え、考え込む。時間で言えばほんの数秒。暫しの沈黙の後、彼の言いたい事を察したのか、テスタメントはふっと笑い、口を開いた。
「『お前』はこちらの方が馴染みがあるな?」
「……、ああ。そうだな」
以前会った時と同じ、少し堅い話し方。それだけで目の前にいる存在が確かに彼の人物であると確認できた。その事に、僅かながら安堵する。
「こう言っちゃあ難だが……お前さん、どうしてそんな風に?」
「猫を被っているつもりはない。これが本来の私、と言うべきか。まあ、色々あったんだ」
「……成程ねえ」
本来の、と言うとギアになる前だろうか。当然、ジョニーはその頃のテスタメントを知らない。彼はジョニーよりも若く見えるが、実際はジョニーよりも長い年月を生きている。それも、人としてではなく、ギアとして。
「少し驚いたが……お前さん、前よりも今の方がずーっと良い顔してるぜ」
「それはどうも」
過去の事を詮索するつもりはない。ただ、今目の前に居る彼が本来の自分であると言うなら、余程壮絶な過去だったのだろう。ギアという存在がいかに恐ろしく、悍ましいものであるかは、身を以て知っている。彼だって、望んでギアになった訳ではない筈だ。長年兵器として望まぬ活動を強いられ、理性はあれど本能に逆らえず、精神を擦り減らされ、開放され、そして、どうなる。まともな感性を持っている者なら、その業に耐えられるかも分からない。少なくとも、ジョニーには耐えられる自信が無い。
「さあ、立ち話も難だ。今日は良い紅茶を用意している。案内しよう」
「そいつは楽しみだ」
そんな彼が、本来の自分を取り戻した。それは喜ぶべき事なのだろう。驚いてしまったが、目の前の彼はとても活き活きとしているように見える。好ましいとさえ、感じてしまう程に。
ーーらしくないねェ。
一瞬、見惚れてしまったなんて。とても言えない。そう、これはきっと、気の迷い。胸の内に生まれた小さな動揺に、ジョニーはテスタメントから見えない位置で苦笑し、先を行く彼に続いて歩き出した。
ディズィーを森から送り出し、その後は彼女を育てた老夫婦の元に身を寄せていると聞いた。手紙のやり取りはあったものの、会って話をする事はほとんど無かった。前回会った時も、まだ陰のあるーー言ってしまえば陰鬱な佇まいであったのだが。
「……随分と変わっちまったなあ、お前さん」
ジョニーは自らを出迎えた麗人の姿を見て、サングラスの奥の瞳を細めた。
「そうかな? 目に見えて変わったという自覚は余り無いのだけれど」
麗人ーーテスタメントはジョニーの言葉に緩く首を傾げる。
「いやあ、変わったね。まず雰囲気が明るく……そう、柔らかくなった。それから……あー、なんだ。イメージチェンジっつぅのか。見た目も洒落てるじゃないか」
「ふふ、最近は流行のファッションにも興味があってね。良く雑誌を読んでいるよ。モデルも始めようかと思っている所さ」
「へえ……そいつはまた」
今時の若者風になったとでも言えば良いのか。以前はいかにも死神といった黒装束であったが、今目の前に居る彼は全身黒ベースにスリットの入ったスカートこそ変わらないものの、随所に粋を感じる装いになっていた。
「…………」
「どうしたんだい?」
「いや、何というか……違和感がな」
雰囲気はともかく、振る舞いにどうしても違和感を覚える。森でディズィーを守っていた頃の彼とは余りにも違い過ぎる。あの時の彼は常に、何に対しても警戒していて、威圧的で、とにかく余裕が無い様に見えた。
それが今は、別人の様だった。柔和な雰囲気に砕けた口調。中身が入れ替わったのかと思うほどだ。何があったのか。何が彼を変えたのか。
「違和感? ……ああ、そうか」
ジョニーの言葉を反芻し、片手を顎に添え、考え込む。時間で言えばほんの数秒。暫しの沈黙の後、彼の言いたい事を察したのか、テスタメントはふっと笑い、口を開いた。
「『お前』はこちらの方が馴染みがあるな?」
「……、ああ。そうだな」
以前会った時と同じ、少し堅い話し方。それだけで目の前にいる存在が確かに彼の人物であると確認できた。その事に、僅かながら安堵する。
「こう言っちゃあ難だが……お前さん、どうしてそんな風に?」
「猫を被っているつもりはない。これが本来の私、と言うべきか。まあ、色々あったんだ」
「……成程ねえ」
本来の、と言うとギアになる前だろうか。当然、ジョニーはその頃のテスタメントを知らない。彼はジョニーよりも若く見えるが、実際はジョニーよりも長い年月を生きている。それも、人としてではなく、ギアとして。
「少し驚いたが……お前さん、前よりも今の方がずーっと良い顔してるぜ」
「それはどうも」
過去の事を詮索するつもりはない。ただ、今目の前に居る彼が本来の自分であると言うなら、余程壮絶な過去だったのだろう。ギアという存在がいかに恐ろしく、悍ましいものであるかは、身を以て知っている。彼だって、望んでギアになった訳ではない筈だ。長年兵器として望まぬ活動を強いられ、理性はあれど本能に逆らえず、精神を擦り減らされ、開放され、そして、どうなる。まともな感性を持っている者なら、その業に耐えられるかも分からない。少なくとも、ジョニーには耐えられる自信が無い。
「さあ、立ち話も難だ。今日は良い紅茶を用意している。案内しよう」
「そいつは楽しみだ」
そんな彼が、本来の自分を取り戻した。それは喜ぶべき事なのだろう。驚いてしまったが、目の前の彼はとても活き活きとしているように見える。好ましいとさえ、感じてしまう程に。
ーーらしくないねェ。
一瞬、見惚れてしまったなんて。とても言えない。そう、これはきっと、気の迷い。胸の内に生まれた小さな動揺に、ジョニーはテスタメントから見えない位置で苦笑し、先を行く彼に続いて歩き出した。
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