100秒で潜る空
「なに?」
レジーナごと私、”レジーナ・ラバルト”。
父親の後を追いかけて、ここまで来た。
今まで私の理解者だろうと信じていた父の同志で、空の警備隊隊長”バルド・ゴンドラ”に裏切られた。
私は唇を強く嚙みしめ、通信機のスイッチに手を掛ける。
「ここから先は好き勝手にさせてもらうよ隊長……お世話になりました」
「な!急に何を言い出すんだ、やめろレジ――」
「さようなら」
私はその言葉を最後にスイッチをOFFに切り替えて、二度と連絡が来ないように連絡用スイッチを遮断した。
――もう、誰も止める者はいない。
飛行機を転回し上空に向けて飛行する。
どこも穴を見つけることはできなかった。
なら、残すは……上空のみ。
台風が多く発生した時に龍動曇が生まれるなら、龍動曇もまた台風の同じ系統である可能性が高い。
だとするならば、台風の”目”の中心に”入口”は存在するはず!
エンジンに力一杯押して、上空を早く駆け抜けていく。
身体に掛かる重力を耐えながら、突き進んでいく。
後少しで覆っていた曇を突き抜けていく……!
その距離まで後、50ⅿ……10ⅿ!
――0。
曇を突き抜けると、白い雲が平行線にかけて広がっていた。
「……まるで白い絨毯みたいね」
青と白の綺麗なコントラストに目を奪われる。
雲の中では嵐ばかり起きているというのに、ここではまるで無関係だと言わんばかりに空は晴れやかなものだった。
白い絨毯を眺めていたレジーナはある一ヶ所に目がとどまった。
「あれは間違いない……龍の穴だ!」
そう、ようやっと龍動曇の入り口を見つけた。
レジーナは大きく空気を吸込み、呼吸を整える。
そして方向を龍動曇の入り口に向けて飛行し、近くまで来ると飛行機を大きく反転させて真上から下にかけるように入り口に向かって飛行機を潜らせた。
龍動曇の入り口に入り、進んでいく。
先は暗く、何も見えない。
それでもレジーナは奥を目指して突き進んでいく。
もしかしたらこの先には何もなくて、時空穴しかなかったりして……。
操縦機を掴む手が怖さで震えだす。
今さら怖がってどうなるんだ、自分はここまで父親一心で追いかけてきたのに。
私が生まれた時に母親が亡くなっていらいから、親は父親だけだった。
信じるのも、味方も、父親しかいなかった。
――そうだ、この先に父さんがいる。
例えそれが”死”に直面しようとも、今までやってきた自分を裏切りたくはない。
視界がだんだん滲んで先が霞んで見えにくくなっていく。
胸がだんだんと苦しくなって、レジーナは目を閉じた。
すると、その時だった。
突き刺すような光が飛行機内を照らした。
光に驚いたレジーナは閉じていた目を開いて、その先を見ようとした。
光は飛行機を包み、その先へと飛行していると白い光から一変して綺麗な彩色に変わっていった。
「……ここは、大陸?」
そこは大きな大陸で自然が一面に広がり、動物達が豊かに生きて共存していた。
レジーナは色んな彩りで咲いている花畑に飛行機を離陸させて、無事着地した。
飛行機の扉を開けて、花畑に降り立つ。
空は雲1つもなく、晴れやかな青さが広がっている。
ここが龍動曇の中なのだろうか?にわかに信じがたく、でも確かに自分はここにいる。
もしかしたら自分は潜っている時に……もう。
そう考えかけた時に花畑の向こうから、人影がこちらに近づくのが見えた。
レジーナはこの大陸に人がいるとは思っておらず、その人影を見続けた。
その人影は近づく度に輪郭がはっきりとしていき、次第にその姿はレジーナにとって驚くべき人物であるのがわかった。
「え?おと……さん?」
「……レジーナ」
その人物は、この世を去ったと思われていた”グラン・ラバルト”本人であった。
信じられないことに、自分の父親は生きていたのだ。
レジーナはこみ上げてきた気持ちに抑えきれず、父親に駆け寄りそして抱きしめた。
「会いたかった……ずっと、会いたかったよダディ!」
泣きじゃくるレジーナにグランは抱きしめ返し、優しく頭を撫でてあげた。
グランもまた娘との再開に嬉しかったのだろう……涙を流していた。
そして親子二人は長い間空いていた時間を埋めるように、花畑を抜けて自然を巡り……この大陸を歩き回った。
夜になり、外で星空を眺めながら話し合った。
「ダディ、ここは何処なの?もしかして……天国?」
「ははっ!そうだな……だとしたなら、ここは神のいる楽園なのだろうな」
「災害や嵐も来ない、自然に溢れ生き物達が活発に動き回っている……命が生きている。これほど素晴らしい世界はないだろうな」
私達の暮らしている世界は常に大陸の奪還を賭けて争いが続いていた。
空賊に襲われ、時空穴に落ち、嵐に巻き込まれ、大陸を賭けての戦時に人々が命を奪われていく。
小さかった頃からのその景色をずっと見てきた。
だからこそ、この目に映る景色がどれ程尊いものなのか……その命の価値を天秤に掛けて比べるものじゃない。
「毎日生き延びることが大変だった……」
「ああ、生きるということはそういう苦しみが付いて廻るものだからな」
「でもな、レジーナ……どのような世界に陥ってもお前だけが生きていれば、私はそれでいい」
グランの瞳は慈愛に満ち、レジーナを見つめていた。
それに答えるようにレジーナは笑顔で返した。
「あっちでもまだ雲があるのかな」
「あるとも……私達がここに居るのだからな」
夜に輝く星空の下、親子を見守るように月が彼らを優しく照らしている。
――”100秒で潜る空《幻影なる空》”。
大天使が居るとされる青と白の境目。
誰もそこには辿り着けた者はいない……もし誰かがそこへ辿り着いたのなら、その者は大天使に祝福され受け入られたのだろう。
黄金の大陸に歓迎され、人としてではなく天使に生まれ変わって一生その世界で生きていくことになるだろう。
それはただの言い伝えなのか。
それとも伝説か、おとぎ話か……。
それを見たものは、まだ誰もいない。
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