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小説

男6人は事務所の奥に肩を寄せて、ジルエットから届いた分厚い封筒を見つめる。
「開けたらそれぞれに配るから慌てないでよね」
「うるせぇ、良いからさっさとしろ。
アイツが振り向かないせいで欲求不満なんだ」
「ファイン美人だもんなぁ、早く見たい気持ちよーく分かる。
俺もシークの可愛い姿、また見たい」
「…女の子達が帰ってきちゃうから早くした方が良いよ…」
「ふふっ、カイザが落ち着かないなんて珍しいね」
「下心無いって顔しても無駄だぞリーダー。
早くイリスの写真を出せ、ミドル」
口々に話しかける男達をいさめながら、それぞれに写真を配っていく。
それを覗き込んだ全員が深いため息を漏らした。
…自分の横でこれを着せて歩かせたい…
その写真はこの間宣伝に使うとミドルとジルエットが撮影したもので、ようやく焼き上がり事務所に届いたものだ。
「…はぁ…シーク可愛いなぁ…
何食ったらこんな天真爛漫に育つんだ?
可愛いし良い子だし…
うわっ、これ脚出てる…!や、ばい!
ミドル、これくれ!
いや、シークの全部くれ!」
「あぁ、うん。
今手渡したのは宣材写真とは違って別に頼んだやつだから、それぞれ持って帰って良いよ。
これをパワーにして是非告白してもらいたいものだね」
「ハッ、俺様が告白?あり得ねえな。
時期に向こうが俺に好きと言わなきゃ居られなくなるんだ。
焦る必要ねえだろ」
出会ってから5年になるのにそのスタンスは変わらないんだなと全員が思ったが、今は手元の写真に夢中でそれどころではない。
女は飽きるほどだったフォルテも無言になり写真の仲のファインを見てため息を漏らしていた。
「カイザ、もう満足したのか?」
「いや…人前で見るものでもないし…
…勝手に人の写真を持って帰るのは悪いから。
ツバキに聞いてから貰おうかなって…」
「確かに…写真の内容ばかりに目を奪われていたけど、それはカインに対して誠実じゃないね。
…でも貰うのを聞くのは…ちょっと…」
誠実が服を着て歩いているようなクロトは、写真を名残惜しそうに眺めていたが机に置く。
それをミドルは呆れた顔をして取り上げた。
「はぁー…仕方ないなぁ。
カインの写真はカインにあげるよ。
それを本人から貰ったら?
一緒に見て感想を言ったり、写真の雰囲気とかドレスが気に入ったからって言ってさ」
騙した事にならないか不安そうなクロトに、ウィングは「そのくらい建前として良いだろ。嫌ならカインは明らかに顔に出るんだ、その時は遠慮すれば良い。俺は遠慮なく貰っていく」と写真を手に持ち、そのまま自分のデスクに帰って行った。

「…というか…皆んな…
写真を持って帰って何に使うの…?」
まぁ見てて可愛いなとは思うけど、飾るの?と首を傾げて聞くカイザに全員が固まる。
それを他者に話すような内容では無いと思ったが、性欲が無いのではと疑いかねない位淡白なカイザには分からない事なのだろう。
「えっ、カイザ、お前はツバキに貰ったらどうするんだよ」
「…俺…?
…うーん……
気分が沈んだ時に見たり……
…何か大事な時にお守りにしたり…?」
「健全だなカイザ…
いや、俺もそんなもんだけどよ」
「僕はルキに持って帰るねーってわざと言って恥ずかしがらせるよ。
リビングにもワザと飾って、家に来た時に驚かせるつもり」
「…それ、ルキがミドルの家に行きたく無くならないかな…
俺は…もしカインが写真をくれたら、手帳に挟んでおこうかな…いつでも見られるし。
それを見つかっても天然な彼女だから、そんなにドレスが好みなのかって言われそうだけど…」
「どう扱おうが自分の勝手だろ。
しまってようが飾ろうが、性欲吐き出すのに使おうが関係ねえよ」
フォルテの言葉にカイザが眉間にシワを寄せると、また喧嘩が始まると周りは身構えたが、全く違う反応が帰ってきた。
それにミドル、カルファー、クロトは目を丸くする。
「…性欲を吐き出すって…この写真に…?
色気を感じる部分…ある…?
…清楚で純粋な感じだし…意味分からない…」
「ハッ、お前どんだけ良い子ちゃんなんだよ。
無垢なもの程汚して自分のモノにしたくなるんだろうが。
ウェディングドレスを乱して………」
「へぇ、ウェディングドレスを乱して?
なんの話しをしているのかな?」
気づかないウチにフォルテの背後にはファインが立っており、腕を組んで冷めた目をしている。
貞操観念の強い彼女はそう言った話しが好きでは無い。
なのになぜあの女タラシのフォルテを好きになったのか不思議だ。
「新婦をそういう目で見てたの?」
「ちげぇよ。
お前のウェディングドレス姿がエロいからそういう気分になるって話しだ。
この写真、貰って帰る。
貰ったモノは好きに使って良いんだよな?」
ニヤニヤ笑うフォルテにファインはカァッと赤くなると、持って帰らないで!と慌てて取り上げようとする。
しかし背の高いフォルテが立ち上がると太刀打ちできない様子だ。
「何慌ててんだよ、冗談に決まってんだろ。
お前がドレス着てるなんて綺麗な姿…
早々拝めるもんじゃねえから大切にとっとく。」
「そ、そんな良いモノでも無いでしょうに…
っていうか何でアンタが私の写真を持って帰るのよー!」
「俺好みの女だから」
写真にキスをして見せ、真っ赤になったファインが負けを認め「好きにしなさいよ…」と蚊の鳴くような声を出し、ふらふら事務所から出て行った。
フォルテはあと一息だなと言うと、ジャケットの内側に写真をしまう。

ファインが出ていくのと入れ違いにカインとルキ、イリスが事務所に帰って来て首を傾げた。
そして男が事務所の一箇所に集まっているのを見るとそちらへ来る。
「お前ら何やってるんだ?」
「この間の宣材写真ができたから見てたんだよ。
どれをどう使おうかってねー」
「ふーん…って、お前、何で俺の写真ばかり見てんだよ!」
「可愛いから貰って帰ろうと思って!」
「はぁ!?人の写真勝手に持って帰るなよ!
良いからそれは俺によこせ!」
「あははー
なんかさっきもこのやり取り見た気がするなぁ
僕も写真にちゅーすれば良いのかな?
本物にしたいんだけど」
何言ってんだバカ!とルキに背中を叩かれているが、ミドルは楽しそうに笑う。
いつもの事だと、カインとイリスが気に留めず上手く撮れてて皆んな綺麗だと話していた。
クロトはそこへ思い切って声を掛ける。
「皆んな綺麗だね。
ジルの腕がいいのもあるけど、やっぱり皆んな美人だからよく映えてるよ。
…か、カインが一番綺麗だ……良いよねこのウェディングドレス!
こういうのを好きな人に隣で着て貰えたら幸せだろうなぁ…」
クロトは自分で言っておいて、なんだか情けなくなり肩を落とした。
イリスは苦笑いをしたが、カインは首を傾げて彼を見上げる。
「む?ドレスが気に入ったのか?
クロトが結婚か…きっと素敵な貴方ならすぐに良い人ができるだろう。
その時の為に参考に写真を持って帰るか?」
「えっ、あ、あぁ、うん…ありがとう。
写真…大切にするよ…」
写真を貰う事に成功はしたが、脈が全く無い反応に複雑な気持ちになる。
もうちょっと写真を褒めておこうとして彼女の顔を見て驚き、動きを止めた。
「…クロトが誰かと結婚しても、私とは変わらず仲良くしてほしい…
幸せなのをお祝いはするが…家族以外でクロト程心を許した仲の良い人は他にいないから…
結婚して一緒に居られなくなるのは…とても寂しい気がして来た」
しょんぼりした顔をする彼女の言葉が嬉しくて、クロトは柔らかく笑うと「どうやったら寂しく無くて済むか一緒に探そうか」と言う。
カインはパッと明るい顔になり、目を細めて嬉しそうに頰を赤らめた。
「うん…ありがとう。
なんだか自分の写真を人にあげるのは気恥ずかしいな…
…?ルキのは兄さんが持っているが、ファインとイリスの写真は無いのだな」
「あぁ、うん。
ファインのはフォルテが持って行ったから。
イリスのは…」
クロトがウィングをチラリと見たのに、イリスは「え?何で私の写真を…?」と驚く。
イリスからは16も歳が離れ、感情を大きく動かさない大人だ。
自分が見合わない、恋愛対象に思われていないと普通は考えるだろう。
しかし難しい顔をしているその下には彼女への下心を隠しているのを男は全員知っていたし、女もイリスへ気持ちがあるのは知っていた。
ウィングは誰か一人に情を傾けるのは上の立場として良くないと思ったのか言葉を濁した。
「あー…良い写真だったからな。
背中が特にいいな…腰からしたもスラリとしていて…
いや、らしく無い事を言った。
イリスが嫌なら返しておく。」
「えっ、あっ…その…
そんな風に思ってくれたん?
なんか気恥ずかしいな…
…何で欲しいんか分からんけど、ウィングなら変に使ったりせんやろうし、別にええよ」
「そうか…なら遠慮はしない」
ウィングはバラすなよと言う目でクロトを見るが、クロトはニコリと笑うだけだ。
食えない奴だと苦笑いする。
イリスを自分のデスクの方へ手招きすると彼女に耳打ちをした。
「こんな美人のウェディングドレス姿を他の奴に見せられねぇな。
…だがまたこの姿を見せて欲しい。
今度は仕事じゃ無くプライベートで」
いつも苛立った様子の彼が、甘い声で囁くので驚いて頰が赤くなる。
プライベートでとは、イリスが誰かと結婚する時に呼べという事なのか、あるいは自分と結婚した時に見せろという意味なのか…
どちらとも取れてしまい困惑した。
後者やったらどうしよう…
そんな風に思うと鼓動が速くなり彼の顔をまともに見えない。


ツバキとシークが、昼食の出前が届いてますよと声を掛けに事務所に来ると、カルファーがシークに駆け寄った。
「シーク!
ドレスの写真、一枚で良いから俺にくれ!」
「へっ!?いきなりどうしたの?」
「カルファー…それで貰おうとしてるの…?
ちゃんと理由を話して…」
「お、おう。悪い」
この間撮った写真が出来上がった事や、シークの写真が可愛かったから欲しい事を説明していると、彼女は頰を赤らめる。
「ぅえ?可愛い…かったの?」
「おう、もうすんんげぇ可愛いかった!
折角綺麗にしてんだから、記念に欲しいと思ったんだけど…ダメか?」
「…俺も…ツバキのドレス姿の写真が欲しい…
ツバキは結婚なんて嫌だろうけど…
この写真見てたら…なんだか…幸せな気持ちになるから…」
「わ、私の写真もですか?」
ツバキとシークは恥ずかしそうに互いに目を見合わせる。
そして一つ条件があると指を立てた。
「写真をあげる代わりに、カイザさんは私と、シークちゃんはカルファーさんと今写真を撮ってください。
貴方達だけ写真を貰えるなんてズルイです」
「わぁ!いいね、それ!
カルファー、写真撮ろうよ!
撮ったのも送ってあげるから…ダメ?」
まあるい瞳で彼を見上げるシークに、カルファーは胸が強く痛む。
こんなに可愛いなら強請られてしまえば何でもやってしまいそうだと、迷わず頷いた。
シークが携帯のカメラを開くと二人してくっつき写真を撮る。
近くていい匂いがするなんて考えていたが、ふとカイザとツバキに目をやる。
二人も仲良く写真を撮影してそれを見ていると、カイザが思わぬ言葉を発した。
「…ツバキ、俺と婚約しようか…」
「「「えっ!?」」」
三人して驚き目を丸くしていると、カイザは表情を変えず涼しい顔で淡々と言う。
「…今の婚約者と結婚嫌なんでしょ…?
俺…ツバキの婚約者のフリをするよ…
好きな人ができたら…別れたら良いんじゃないかな…」
「そ、そんな…カイザさんに悪いです!
こんな事をさせる為にお話しした訳ではありません。
それに私の親が婚約者を変えるとは思えません」
それに「…大丈夫…」とカイザは言うと一枚の名刺をツバキに手渡す。
そこにはカイザの父親であろう人物の名前と、大手企業の社長と言う肩書きが書かれていた。
「は!?お前、御曹司だったのかよ!」
「うん…この式場…
俺の父のグループの一つなんだ…
…ウィングに譲渡されてるから…ウィングがここの社長なんだけど…
俺は…ここで経営とか会社を学ぶ為に…研修に来てる形なんだ…」
これを知っているのはウィングとフォルテだけだからと口元に人差し指を立て、ナイショと言う。
御曹司だからって態度を変えるメンバーではないのだが、気を使われるのも嫌なのだろう。
「た、たしかに…
それなら私の両親も喜ぶとは思いますが…」
「…別れるとはいえ婚約者に見られるから…
嫌だった…?」
「えぇ、嫌ですね。
婚約者に見られる事がでは有りません。
誠実で女性に紳士な貴方に気持ちの無い事をさせる事が、です。」
ツバキは少し怒ったように語気を強める。
彼女は決して怒らない子だったのだが、どうやら琴線に触れてしまったようだ。
「…ごめん」
「…貴方が優しさから言ってくださっているのは分かっています。
助けを求めるようにお話をしてしまった私にも非があります。
…ごめんなさい…」
「…うん…でも俺、この役は譲る気無いから。
ミドルに…君のご両親に会う約束…付けてもらったし」
それにまた三人は驚いて声を揃え「えっ!?」と発する。
「…君に話さず勝手にごめん…
…でもツバキ…頑固だからきっと聞いてもらえないと思って…先手を打った…」
「もう…カイザさんには敵いませんね…」
「…俺…本当は父の会社を継ぐのか嫌だったんだ…
それを汲んで…父の元で働いてたウィングが…
『父を利用する位になれ、そうすりゃお前は自由だ』って…ここに誘われたんだ…
ウィングには凄く感謝してるし…今…それを利用する時だって…思ってる」
俺はやりたい事しかしてないよと静かに言うカイザに三人は笑う。
「では、よろしくお願いしますねカイザさん」
「…こちらこそ…大切にする…」
「ふふっ、仮の婚約者ですのに?」
穏やかに笑うツバキを見て、カルファーとシークは安心したように表情を緩めて目を合わせた。
シークは、親友をずっと心配していたカルファーが嬉しそうに肩から力を抜いたので、なんだか自分も嬉しくなる。
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