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小説

昼休みになりトウマは弁当を食べようかとカバンを開けたところで、名前を呼ばれて顔を上げた。
クラスに居た生徒がざわめくので、何かと思ったら…教室のドアの前にはアリアとソフィアが立っていた。
学校でも美人と人気の三人のうち二人がそこに居れば男は騒ぐ。
目立ちたく無いため関わり合いになりたく無かったが、ソフィアが弁当の袋をこちらに見せて首を傾げているので、すぐにカバンから弁当を取り出して教室を出た。

階段を下まで降り、人気のない一階の階段裏に連れられてそこに座った。
「『幽霊に詳しい神社の息子』って噂で聞いた時、まさかクールビューティで女子から人気の王子様の事だと思わなかった」
「…なんだそのクールビューティとか王子様とか…俺だって男を手玉にすると噂のアリアとはあまり関わりたく無い。
今頃教室では「恋愛に興味ないとか言ってた癖に」とか言われてるに決まってる」
「……まぁ…噂なだけでアリアはほんとは純…むぐっ」
ソフィアが何かを言おうとしたが、すかさずアリアが口を塞いで阻止した。
別にアリアの事は気にならないので、特に追求せず弁当を食べ進める。
「…で、俺に何か用か?
昼休みに、しかも弁当を食べながらだなんて、どうせ話が長くなるから引き止めておくためだろ」
そう言うと分かってるじゃないと、アリアは笑うが直ぐに真剣な顔をした。

「お願い、助けてほしいの」
「断る。俺は霊専門の便利屋か?
まだ俺は見習いだ。
何でもかんでも首を突っ込んで、上の奴らに睨まれても困る。
式神との契約の行使だって容易くないんだぞ」
正式にプロの陰陽師に頼めと言うと、金のない子どもの言う事で大人が動くはずがないとイライラした様子で言う。
ソフィアが神隠しに遭った時とは違い、どこか焦っているようにも見える。
時間がない…と言う事なのだろうか。
ソフィアをチラッと見ると、彼女はこちらに気づく。
「トウマ……アリアはこんなだけど…
…アリアが心配してる人はいい人だから…
…助けてあげてほしい…」
「こんなって何よ!」
「…分かった。話を聞こう」
喧嘩が始まってしまう前に先手を取ってそう言う。
するとアリアはパッとこちらを見て、少し安心したようにホッと息をついた。
ソフィアにそう言われてしまえば仕方ないと、惚れた弱みに心の中で苦笑いをする。

アリアは人伝てに聞いた話を説明しだす。
彼女には親しくしている…というか、からかい、ちょっかいを掛けている男子生徒がいる。
名前はフェリックス・グランデ。
気さくで友人も多い人物だが、頼まれたら断れない性格と、面倒見の良い性格でよく巻き込まれがちだそうだ。
その彼が今回誘われ巻き込まれたのが「コックリさん」だそうだ。
フェリックスは渋々放課後それに付き合ったらしい。
メンバーは男2人、女3人で行った。
紙に鳥居、50音のひらがな、はい、いいえ、0から9の数字を書き、10円玉を用意した。
鳥居の上に置いた硬貨に全員がその指を置いて、声を揃えて言う。
「コックリさん、コックリさん、どうぞおいで下さい」
「コックリさん、コックリさん、おいでになられましたら『はい』にお進み下さい」
最初は動かなかったが、3回唱えたところで10円玉が何かに引っ張られるように「はい」の文字へと引き寄せられる。
それに驚いた女生徒が慌て始めた。
「だ、誰かワザと動かしたでしょ!?」
「冗談でもしねえよ!」
と、女生徒と男生徒が口論になる。
フェリックスは「落ち着け!精神状態が不安定になると良くないんだろ?怖いならさっさと帰って貰おう」と提案する。
そしてコックリさんに何度も帰ってもらうように説得するが「いいえ」から動かなくなってしまった。
5回目聞いた所で女生徒の一人が錯乱して指を離してしまったらしい。
その瞬間、硬貨が激しく滅茶苦茶に動き出し、男の力でも制御出来ない程の力で暴れまわった。
女の子達は恐怖で泣き出し、手を離してしまう。
仕方なく残った二人も硬化から手を離して、一応紙は48枚に破り、10円硬貨はすぐに使用して破棄した。

「降霊術だな。
コックリさんは狐狗狸とも書くが、一般的に狐の霊を呼び寄せ探し物をしてもらうものだ。
決まり事があり、それを守れないと精神を病むと言われている。
本来西洋では、霊能力者が降ろす霊を選び執り行うものだったが、なぜか日本では思春期の学生が怖いもの見たさにやりたがる。
そしてバカを見る。」
「ちょっと、フェリックスの事を悪く言わないで。
彼に何しても、何言っても良いのは私だけなのよ」
「…なんだその理不尽でフェリックスに得を感じないルールは」
アリアにこうも付きまとわれ、からかわれている彼の事を哀れに思う。
もしそれを喜んでいるのであればとんだイカれた野郎だ……いや、逆なのかもしれない。
アリアは彼を独占したがっているのか?
その考えに辿り着いたが、口に出すと話が進まなくなるとつぐんだ。

「で、フェリックスが精神を病んだか」
「いいえ、それは大丈夫なの。
普通に学校にも来ている。
けど話にはまだ続きがあるのよ」
良くある話しと言えば良くある話しだ。
女の子達はそれからコックリさんを怖れて学校を休んでいるらしい。
しかしそこからが困った事になった。
フェリックスにコックリさんでの不安や不調は見られない、女生徒も怖れているだけで何も無いのだが、もう一人の男生徒の様子がおかしい。
フェリックスは今朝、その男生徒にこう言われたそうだ。
「俺、あれからコックリさんが守ってくれてる。
コックリさんの声の通りにしたら、何でも願いが叶う実が手に入った。
この実を成長させなきゃいけない。
だからまた儀式をしよう。
今度は二人で」
と誘われたそうだ。
女の子達も参ってるし、そう言う冗談は止めろよと言ったが、こちらの言葉が通らないようで「今夜迎えに行く」と言うとふらふらと去っていったそうだ。

それを話したフェリックスは「あいつも思春期で、男はそういうのに憧れる時期があるんだよ」と苦笑いをしていたようだ。
その男子生徒はフェリックスにそれを言った後、直ぐに早退をし会えなかったが、彼を見たクラスメイトは「ふらついてて体調悪そうなのに、笑ってた」と言っている。
「絶対ヤバいやつに巻き込まれてる!
本人は気にしてないけど、誰にでも優しいからこんな事になるのよ!
学校に来ない女の子の見舞いに行くのを、どれだけ説得してやめさせたか…」
アリアがあまりにも必死で言うので、そうとう入れ込んでいるんだなと思う。
男性の憧れ、高嶺の花を射止めた男がどんな奴か興味が湧く。
アリアよりは仲良くなれそうだと勝手にそう感じた。
「後は俺に任せておけば良い。
二人も守りながら祓うのは難しいんだ。
お前の想い人は必ず助けてやるから………

…って言ったよな?
なんで二人共ここに居る」
眉間にシワを寄せてアリアとソフィアを見た。
日は先程沈んだばかりの6時半だ。
校門に来ると既に二人の姿があり、予想はしていたがとため息を吐く。
ソフィアの手を握り、片手で髪を撫でる。
「暗くなると危ない。
女の子なんだから気をつけないと…」
「…大丈夫…だってトウマが守るって約束してくれたから…」
表情は変わらないが、俺の服を握りながらこちらを見上げるソフィアが可愛すぎて勝てないと思う。
私も女の子なんだけどと不満そうにアリアが言うので、そうだったなと返しておいた。
女性を求める欲求が無いに等しい自分が、唯一男として反応できる相手はソフィアだけだ。
俺にとって彼女だけが女性として見えるのだと言う事は、今口にするには早すぎると心に留める。

コックリさんが行われたと言う空き教室に来た。
扉を開くと、空気中に飛散する霊の残留思念を感じる。
今はここに居ないが、まだ依り代が有るなとゴミ箱を開けた。
中から細かくちぎられた紙を拾うと、それを全て袋に入れる。
「…その紙…」
「あぁ、コックリさんを呼ぶときに使った紙だ。
どうやら彼らは狐では無いモノを呼び寄せてしまったらしい。
この紙に降ろされた「何か」は、きっとまた儀式をしにここへ来る」
そういうと、教卓の上にその紙を置く。
そして一度教室を出て隣の教室に入った。
霊力を言霊に込め口を開く。
「カイン、仕事だ」
魔方陣が展開すると、中から茶髪赤眼の女性が出てくる。
髪はセミロングで、表情は硬く、腰には女性が振るうには少し長い日本刀を下げている。
出てきて早々、アリアとソフィアを見て眉間にシワを寄せた。
「トウマ様、今日はどのようなご命令を」
「今から悪霊が来る。
万が一戦闘になったら君の力が必要だ。
頼めるか?」
「勿論です。」
カインと呼ばれた式神はカチャリと日本刀を鳴らしていつでも準備はできているという様子だ。

ふと、廊下を何かが引きずる音と足音がする。
それと同時に男性の声が聞こえてきた。
その声は一人のもので一方的に話し掛けている。
「おい!話し聞けよ!
家からここまで引きずる事ねぇだろ!
イテテッ、お前すげぇ力だな
なぁ…儀式なんて止めとこうぜ?」
その声を聞いたアリアがハッとして顔を上げる。
声を押し殺すように小さく「フェリックス…」と呟く。
心配だという目で廊下の方をじっと見つめるアリアに、普段からそう女の子らしく素直にしていれば可愛げもあるのにと勿体無く思える。
ガラリと隣の教室が開く音がし、再び引きずられる音がした。
カインとトウマは身を屈めると、見つかってしまわないように気をつけながら、後ろ側のドアをわずかに開き覗き込む。
フェリックスは椅子に座らさせられると、ロープで手首と椅子をくくりつけられてしまう。
「はは…なんだよ、悪い冗談か?
これじゃあ俺が儀式の供物みてぇじゃねーか」
「そうだ。
この実を成長させるためにお前の血を吸わせる。
何人もの血を吸わせて成長仕切って花が咲いた時、俺の願いが叶うんだ!」
「…人を殺してまで叶えたい願いってなんだ」
「それは、私の受肉。
そして闇の世界を広げるための第一歩なのだ!」
男生徒のものだった声は、途中で別人のように高くなったり低なったりと安定しない。
彼の体がぐらりと崩れ、後ろに倒れこむと同時に中から何かが飛び出した。
持っていた実と同じように全身緑色をしており、皮膚の上からでも血管が脈打つのが分かる。
下半身は何本もの触手がうねっており不気味な姿をしていた。
もはや霊ではなく魔物だ。

「トウマ様、あれはいわゆる悪魔です。
日本では妖…でしょうか。
闇の領域を広げる為に人に取り憑き惑わせます。
あの実はいわゆる妖の卵、血を吸わせて成長し産まれればまたそれも人に寄生をする。」
カインがそう説明している間に、妖は触手を鞭のように振りフェリックスを襲う。
強い衝撃に椅子ごと後ろに倒れこむと、そのまま意識を手放した。
カインはすぐさま立ち上がると、教室の扉を開く。
それに驚いたように妖がこちらを見た。
カインは教室に飛び込むと、自分より二倍は身長のある妖に向かって刀を抜く。
「私はカイン、剣技の神。
この光ある世界に、お前のような闇をはびこらせる訳にはいかない!」
そう言った次の瞬間、四方から触手が猛スピードで迫り来る。
カインが床を蹴り飛び上がりながら体を捻ると、スルリと隙間を縫ってそれを避けた。
避ける際に刀身が触手を斬り裂いてゆく。
4本の触手は粉々に床に崩れ落ちた。
しかし痛みもないのか、妖は下品な笑い声を上げる。
そして切断した面から、またズルリと触手が生えてきた。

カインの剣技は目にも止まらない。
素人が見ても美しい太刀筋に、舞っているのではと錯覚する。
しかし何度刃で斬り裂いてもそれは直ぐに再生した。
触手で本体である体に届かないのならと、全ての触手を切り刻んで見せるが、体に刃を向ける前にまた端から生えて行き阻止される。
「…っつ…!?」
ついに避け損ない頰にわずかに擦り傷を負い後ろに飛び退いた。
肩で息を整えると、頰に触れ、血がわずかに出た事にカインがハッとしている。
「ど、どうしたの?
あの子、動揺しているけど…」
「…マズイな…妖よりも怖い奴に怒られる。
後からバレるより今謝っておくか…」
丁度手詰まり出しなと、霊力を込める。
「クロト、手を貸してくれ」
そう呼ぶと、今度は魔方陣から赤髪の男性が現れた。
彼は目を開くと、周りを見渡しニコリと優しく笑う。
そしてゆっくりカインに近寄り、腕を引っ張った。
「カイン、何してるのかな。
俺は大切な君に戦って欲しくないって言ってるよね?」
「わ、私は剣技の神だ。
これが私の仕事で、トウマ様には力を貸す契約をしている。
それはクロトも同じだろ?」
「…でも、綺麗な顔に傷が付いてる」
彼は傷口をペロリと舐め血を舌で拭うと、カインを抱きしめた。
頰を赤く染め、硬かった表情が緩んだカインはうっとりした顔つきに変わる。

腕の中に彼女を収めたまま、クロトは今度はこちらを見た。
「トウマ」
名前を呼ばれ、冷や汗を一筋流れるのを感じながら顔を引きつらせた。
「わ、悪かった。
しかし俺にはカインを含む十二の式神達全員の力が必要だ。」
「あまり女の子に怪我をさせないで欲しいんだ。
カインは従順だから使いやすいのは分かるけど、こういう事は俺で事足りるだろ?」
そう言うと同時に、部屋の気温がグッと下がった。
カインがクロトから離れ敵に飛び込むと、先程して見せたように、攻撃を避けながら触手を斬り裂いていく。
切ったその瞬間から、切断面が一瞬にして凍りついた。
まるでどこを切っていくのかが分かるように、次から次へと切り落としてはそこが凍っていった。
「カイン」
名前を呼ばれ、カインはくるりと宙を一回転するとクロトの後ろに降り立つ。
全て触手が切り落とされ、その頃には寒さのあまり息が白くなっていた。

クロトはカインの頭を撫でると、自分一人で妖に歩み寄る。
教卓の上に置かれた紙を見て目を細め、次いで妖に目を向けた。
「悪さは辞めて帰る気になった?
大人しく引けば許してあげよう。
カインに傷を付けた事も見逃してあげる」
「…お前らに助けを乞う事はない…!」
触手の一つの氷が砕け、再生した触手がクロト目掛けて振り降ろされた。
しかしそれが頭部に直撃する前に、片手で触手を受け止めてニコリと笑う。
「流石悪霊。
改心する気はさらさらない、か。
嘘を付く知能もない君は残念だけど…
もう終わりだ」
クロトが握った部分からパキパキと音を立てて、触手が凍っていく。
妖は「ヤメロ」と恐怖の色を見せ叫ぶが、それは次第に速度を上げ全身を凍て付かせた。
するとブワッと風が吹く。
凍りついた教室の床も、妖も、寒いほど冷たかった空気も、その風で粉々になった。

サッと溶けるように消滅した妖を見てクロトは柔らかく微笑むと、今度はトウマを見て「さあ、説教だ」と言う。
…これは確実に怒っているなと、トウマは覚悟を決めクロトの側に行く。
「俺もカインも、君を認めて慕っている。
あの総大将でさえトウマの力になる契約を結んでいるんだ。
…神は死ぬ事は無い。
だけど傷付かない訳じゃ無いのは知っているだろ?
次からはカインを使う前に俺を呼んでくれないかな?」
そう言うとポンポンと頭を撫でられる。
今回は確かにカインよりクロトの方が適任だったと反省する。
しかしあまりにも過保護な恋人だと心の中で思うが、それを見透かされたようで「大切なモノを大切にして悪い?」と言われた。

フェリックスの拘束を解いて状態を確認していたカインが「気絶しているだけ、直ぐ起きる」と報告に来た。
彼女はクロトの腕に擦り寄る。
「クロトはやっぱり強いな…かっこよかった…」
「ありがとう。
カインはいつ見ても綺麗な戦い方するね。」
「…そう…?……褒められて嬉しい…」
甘い空気を振りまき出した二人の事はいつものようで、トウマは眉間にシワを寄せて項垂れる。
その近くにいたアリアが走り出すと、気を失ったフェリックスの側に寄り抱きついた。
今にも泣きそうな彼女だったが、フェリックスが小さく唸り瞼がピクリと動くと慌てて離れる。
「…っ…いってぇ…
頭も身体も………あれ、アリア?
何してんだ?こんな遅い時間に」
「ふん、感謝しなさいよね。
私がアンタを助けるように動かなかったら、今頃死んでたわよ」
「は?」
状況が読めないとフェリックスは周りを見渡す。
ソフィアにトウマ、それから和服の知らない男女が居れば状況が理解できず困惑するも当然だろう。
しかし先程の禍々しい妖の姿を見た後だ。
それの姿が無い事には、助けられたと言う事は分かったようだ。
「…そっか、全然状況が読めねぇけど、助けてくれたんだよな。
アリア、サンキュ。」
アリアの背中に腕を回し、ほんの一瞬だが抱きしめて背中をポンポン叩いた。
それに驚いた彼女は赤くなった顔を隠すように彼に背を向け「別に!たまたまよ!」と強がって言う。

「皆さんも、俺を助けてくださったんですよね。
なんとお礼をして良いか…ありがとうございます」
フェリックスは頭を深く下げると、それにクロトは優しく微笑む。
「助けを受けるのは悪い事じゃない。
礼なら主人から貰うし、俺はこれに興味があるから貰っていくよ」
そう言って妖が持っていた実を見せ、そしてカインの腰を抱く。
カインは「またね」と手を振ると、二人してスッと姿を消した。
それにフェリックスは何だ?と驚いた顔でこちらを見るので、また一から説明しなくてはならないのかと頭が痛くなる。

コックリさんに使った紙を回収し、ソフィアやアリアを自宅へ送り届けながらフェリックスに経緯を話した。
「なんかアニメの話を聞いているみたいだ。
でもあんなモノを見ちまったからなぁ」
「信じる信じないは好きにしたら良い。
ただアリアが俺に必死に助けを求めたのは事実だ。」
「アイツが……なんか意外だ。
俺の事なんてそこらに居る男の一人に違いないだろうと思ってたからな。
アリアにとって友達の中でも慕われてるなら悪い気はしねぇかな」
どこか照れ臭そうに笑うフェリックスにトウマもフッと笑う。
すると彼は右手をこちらに差し出して来た。
「俺はフェリックス・グランデ。
今日は助けてくれてありがとう。
今度は俺がお前を助けるから、困った事が有ったら言えよ?」
「俺はトウマ・アスマ。
…そうだな。友人も多く先生にも信頼されている君からの報酬は、俺と友人になるという事にしておこう」
そんなので良いならお安い御用だと、フェリックスは笑いながらトウマと握手を交わした。

次の日
土曜日で学校が休日だったため、家の手伝いをして昼過ぎに帰ってきた。
「あ!トウマお帰り!」
「…また勝手に出てきてたのか…」
「だって人間界好きなんだもん。
あ、クロトがカインを治してって連れてきてたよ。
かすり傷だけど場所が顔だから、絶対跡にしたく無いって。
クロトは理性的で1番マトモなのに、恋人の事になると盲目だよね。
…トウマも大変だったね」
「シークに慰められるとは思ってもみなかった」
一息つきたくて座ろうかと机の上を見ると、見覚えの無い紙袋が置かれている。
一体何かと思い覗き込むと、中身は今人気でなかなか入手できない和菓子店のカステラだった。
「…これは…どうした」
「言うの忘れてた。
朝ソフィアが来てたの!
トウマが居ないって聞いたら「渡しておいて」と置いていったよ。
二回も世話になったからーって!」
「な…なぜ俺を直ぐに呼んでくれなかった!
ソフィアの私服を見るチャンスだったのに…
くっ…」
「え?ぅえ?ご、ごめん」
よく分からないという様子でシークがこちらを見ているが、早く帰ってこなかった自分に後悔しかない。
それよりも今は、お礼を言わなければと携帯を開いたところで気づく。
……連絡先すら交換していなかった。
トウマは自分の愚かさを呪うばかりだった。
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