小説
ウィングはタバコをひとふかしすると、眉間により深い溝を作る。
廃校まで足を伸ばし、とある教室の前で脚を止めた。
そのドアの前にはボンヤリと青白く光る少年が座っていたが、こちらを見てニコリと笑うと姿を消す。
その教室の中から声が聞こえて来た。
「男の神の方は誘い出しにも反応しなかった…
機械もうまく作動しないみたいだし、もっと強力な神を捕まえるには改良が必要だな。
さて、折角捕まえた神だ。
コイツを利用して他の強力な神を捕らえるか。」
「…そんなんホンマにできると思うん?
きっと私を助けに来るんは1番強くて恐ろしい神や」
イリスは総大将である自分が必ず助けてくれるのを確信しているのか、人見知りの割に強気でそう言う。
流石俺の嫁だと気分が良くなる。
「ははは、強がってもダメだ。
ホントは俺に何されるか分からなくて、怖くて仕方ないんだろ?
ほら、足が震えてる。」
「や…!体に触らんといて!」
イリスが美人だからと言って神に手を出す気かとため息を漏らす。
珍しいアルビノの浮世離れした容姿は見る人によれば奇異だが、自分にすれば貴重な宝石のようだ。
そんな大切なものに傷を付けられてはこまると、教室の扉を音を立てて開いた。
するとイリスの体を撫でていた男は驚いてこちらに振り向く。
そして冷や汗を垂らしながら乾いた笑みを浮かべた。
「はは…早速強そうなのが引っかかってきた」
「俺はそこらの神とは違う。
捕らえられると思うなよ小者が」
イリスと視線が合うと、フッと笑って見せタバコの火を消した。
それを見た彼女は安心したように優しく微笑む。
「おい、あの神を捕らえろ!」
「イリス…俺の元に帰ってこい。」
男が命令すると機械が作動し痛みが走る。
それにイリスは体を震わせて悲鳴を上げたが、すぐにウィングの言霊で踏み出した足が止まる。
首に付いた機械のランプが緑色に変わり、命令が停止したのが分かった。
イリスは慌てたようにウィングの方へと駆けて行く。
「お前の力であの神を不能にしろ!」
「イリス、愛している。
早く帰ってお前の作る飯が食いたい」
イリスは痛みで顔を歪めたが、次いでウィングの言霊に顔を赤くした。
彼の言霊が強すぎるのか、首に付いた機械がプスッと音を立てると、赤いランプが今度は点灯が消えた。
呪縛から解けたのかイリスは再び駆け出し背後に隠れるように、背に回ってギュッと抱きついた。
そんなイリスの頭を優しく撫でると、首に付いた機械を強く握り破壊して外す。
「怖かったか?
すぐに駆けつけられなくて悪かった。」
「ううん、来てくれるんは分かってたし…
ウィングは総大将なんやから、みんなをまとめなあかんの知っとるよ」
ニコリと笑いながらそう言うので、完全に信頼を置いている恋人が可愛くて仕方ないと頰にキスをした。
男は「言霊だけで…強すぎる!」と後退りをし腰をぬかしているので、神が居なければ本当に大したことがない奴だとため息を漏らした。
「お前はこの機械を製作した人間だな?
陰陽師協会に借りを作るのも悪くない」
そう言うとウィングはイリスを担ぎ上げて肩車をした。
すると見る見るうちに姿が変わってゆく。
鋭い爪や牙、荒々しい鱗が生え、姿は龍に変わってゆく。
部屋の天井一杯まで巨大化すると、身を屈めて男を咥えた。
翼でひと仰ぎすると窓は全て割れ、窓枠を破壊しながら外へ飛び立った。
トウマは病室に結界を張り警戒していたが、魔方陣からカイザとツバキが出てきたのでそれを解く。
「終わったのか…みんなは?」
「ご心配をおかけしました。
ここにくる前にそれぞれに声を掛けましたが、
皆さん救出に成功したようです。」
「…みんな犯人は協会に連れて行ってる…
俺たちみたいな強力な式神が何体も現れたら…
…騒ぎになってるかもだけど…」
「そうか…」
無事を聞いてホッとしたように自然とそう声が漏れた。
それにツバキは「やはりあなたは素敵な主人ですね」と嬉しそうに言う。
それから言伝てが二件あると続ける。
おそらく最初に拐われ、トウマを襲ったカインは呼び出されっぱなしにあい1番疲弊していた。
そのため回復した後謝罪に来ると言う。
またシークも拐われた事や痛み、強制命令で恐怖を得ているため、落ち着いたらすぐに治癒に来るようにするようだ。
「…俺の事は気にしなくて良い…
全員落ち着くまで呼び出しに応じなくても良いと伝えてくれないか?」
「まぁ、まだ生きて数年のあなたが気を使う必要は無いのですよ。
私はあなたなのですから。
あなたが必要な時はいつでも呼んでください」
「……そう。
君達は俺たちの子どもだ…
…もちろんトウマだけじゃなく…ソフィアも…」
ツバキとカイザがソフィアに向けて手を差し出す。
それを訳もわからず両手で握った彼女にツバキは優しく微笑んだ。
すると、手が柔らかくぼんやりと光る。
うっすら手の甲に魔方陣が現れたかと思うと、それはすぐに消え去った。
「これで私達二人の名前を呼べば直ぐに駆けつけられます。
いつでもあなた達二人を見守っていますよ。
どうか幸せな人生を」
そう言うと、ツバキはカイザの手をそっと握る。
カイザはそれに答えるように彼女を見た後、二人は水に溶けるようにして消えた。
「子どもって何…」
ソフィアは考えても意味が分からないという顔でこちらを見た。
事実を伝える事に躊躇したが、一つ咳払いをして彼女の顔をみる。
「…俺もつい最近知ったんだが…
どうやら神の加護を多く受けて生まれた人間は、その神と性質がよく似るらしい。
人間で言う遺伝のようなものだ。
特に神同士が強く愛し合った時に人間に影響を与える事があり…
ソフィアはカイザの影響を強く受けている。
母親がツバキだと言っていたから…恐らくそう言う事なのだろう」
ちなみに俺はツバキの鏡写しであり、自分とソフィアは二人の神の影響を得た性質の近い存在だと話した。
…だから惹かれるのも無理はない…とまでは言えなかったが、変わりにソフィアと一緒にいて安心すると伝えた。
すると彼女は「そうだったんだ…」とどこか他人行儀に答えた。
夕方になり父が顔を出したのと同時にソフィアは帰宅した。
父に「良い子だな」なんて嬉しそうに言われたが、こちらは返事を返さないでおいた。
彼女が霊能力もちなのは気づいているのだろう。
その言葉は、神社の跡取りの嫁候補に良いという意味も含まれているのだと、眉間にしわを寄せた。
翌日シエルは先に退院をして行き、相談に乗ってくれた事に礼を言われる。
そして自分も、元気になったシークの治療を受けて無事退院する事が決まった。
神社に帰るとカインがクロトに連れられて待っていた。
まだ顔色が良くないが早く謝りたかったからと、神域である神社でなら出てきても大丈夫なようで待っていたらしい。
ぺこぺこ頭を下げて、自分の知りうる言葉で謝る。
彼女のせいではないのだからと、これまで通りにして欲しいと頼むと、少し恥ずかしそうに、嬉しそうに頷いて神界に帰って行った。
…しかしクロトの事は引き止める。
「ウィングは呼びかけてもなかなか答えないからクロトに言っておく。
最近俺の周りで怪異現象が多発しているのをオカシイと思わないか?
しかもこのタイミングでのこの事件だ。」
そう言うとクロトは神妙な顔をして眉間にしわをを寄せる。
「…確かに。
トウマに契約した神を次々に呼び出させているようにも見える。
まるで何体と契約しているか確認しているようだ。
この事は全員に警告しておく。
トウマを含む子ども達も、必ず俺達が守るから」
何か分かったら連絡するから、君は学生らしく心配せず人生を楽しんでなさいと笑い姿を消した。
トウマは心に不安を抱きながら、しばらく去った後を見つめていた。
廃校まで足を伸ばし、とある教室の前で脚を止めた。
そのドアの前にはボンヤリと青白く光る少年が座っていたが、こちらを見てニコリと笑うと姿を消す。
その教室の中から声が聞こえて来た。
「男の神の方は誘い出しにも反応しなかった…
機械もうまく作動しないみたいだし、もっと強力な神を捕まえるには改良が必要だな。
さて、折角捕まえた神だ。
コイツを利用して他の強力な神を捕らえるか。」
「…そんなんホンマにできると思うん?
きっと私を助けに来るんは1番強くて恐ろしい神や」
イリスは総大将である自分が必ず助けてくれるのを確信しているのか、人見知りの割に強気でそう言う。
流石俺の嫁だと気分が良くなる。
「ははは、強がってもダメだ。
ホントは俺に何されるか分からなくて、怖くて仕方ないんだろ?
ほら、足が震えてる。」
「や…!体に触らんといて!」
イリスが美人だからと言って神に手を出す気かとため息を漏らす。
珍しいアルビノの浮世離れした容姿は見る人によれば奇異だが、自分にすれば貴重な宝石のようだ。
そんな大切なものに傷を付けられてはこまると、教室の扉を音を立てて開いた。
するとイリスの体を撫でていた男は驚いてこちらに振り向く。
そして冷や汗を垂らしながら乾いた笑みを浮かべた。
「はは…早速強そうなのが引っかかってきた」
「俺はそこらの神とは違う。
捕らえられると思うなよ小者が」
イリスと視線が合うと、フッと笑って見せタバコの火を消した。
それを見た彼女は安心したように優しく微笑む。
「おい、あの神を捕らえろ!」
「イリス…俺の元に帰ってこい。」
男が命令すると機械が作動し痛みが走る。
それにイリスは体を震わせて悲鳴を上げたが、すぐにウィングの言霊で踏み出した足が止まる。
首に付いた機械のランプが緑色に変わり、命令が停止したのが分かった。
イリスは慌てたようにウィングの方へと駆けて行く。
「お前の力であの神を不能にしろ!」
「イリス、愛している。
早く帰ってお前の作る飯が食いたい」
イリスは痛みで顔を歪めたが、次いでウィングの言霊に顔を赤くした。
彼の言霊が強すぎるのか、首に付いた機械がプスッと音を立てると、赤いランプが今度は点灯が消えた。
呪縛から解けたのかイリスは再び駆け出し背後に隠れるように、背に回ってギュッと抱きついた。
そんなイリスの頭を優しく撫でると、首に付いた機械を強く握り破壊して外す。
「怖かったか?
すぐに駆けつけられなくて悪かった。」
「ううん、来てくれるんは分かってたし…
ウィングは総大将なんやから、みんなをまとめなあかんの知っとるよ」
ニコリと笑いながらそう言うので、完全に信頼を置いている恋人が可愛くて仕方ないと頰にキスをした。
男は「言霊だけで…強すぎる!」と後退りをし腰をぬかしているので、神が居なければ本当に大したことがない奴だとため息を漏らした。
「お前はこの機械を製作した人間だな?
陰陽師協会に借りを作るのも悪くない」
そう言うとウィングはイリスを担ぎ上げて肩車をした。
すると見る見るうちに姿が変わってゆく。
鋭い爪や牙、荒々しい鱗が生え、姿は龍に変わってゆく。
部屋の天井一杯まで巨大化すると、身を屈めて男を咥えた。
翼でひと仰ぎすると窓は全て割れ、窓枠を破壊しながら外へ飛び立った。
トウマは病室に結界を張り警戒していたが、魔方陣からカイザとツバキが出てきたのでそれを解く。
「終わったのか…みんなは?」
「ご心配をおかけしました。
ここにくる前にそれぞれに声を掛けましたが、
皆さん救出に成功したようです。」
「…みんな犯人は協会に連れて行ってる…
俺たちみたいな強力な式神が何体も現れたら…
…騒ぎになってるかもだけど…」
「そうか…」
無事を聞いてホッとしたように自然とそう声が漏れた。
それにツバキは「やはりあなたは素敵な主人ですね」と嬉しそうに言う。
それから言伝てが二件あると続ける。
おそらく最初に拐われ、トウマを襲ったカインは呼び出されっぱなしにあい1番疲弊していた。
そのため回復した後謝罪に来ると言う。
またシークも拐われた事や痛み、強制命令で恐怖を得ているため、落ち着いたらすぐに治癒に来るようにするようだ。
「…俺の事は気にしなくて良い…
全員落ち着くまで呼び出しに応じなくても良いと伝えてくれないか?」
「まぁ、まだ生きて数年のあなたが気を使う必要は無いのですよ。
私はあなたなのですから。
あなたが必要な時はいつでも呼んでください」
「……そう。
君達は俺たちの子どもだ…
…もちろんトウマだけじゃなく…ソフィアも…」
ツバキとカイザがソフィアに向けて手を差し出す。
それを訳もわからず両手で握った彼女にツバキは優しく微笑んだ。
すると、手が柔らかくぼんやりと光る。
うっすら手の甲に魔方陣が現れたかと思うと、それはすぐに消え去った。
「これで私達二人の名前を呼べば直ぐに駆けつけられます。
いつでもあなた達二人を見守っていますよ。
どうか幸せな人生を」
そう言うと、ツバキはカイザの手をそっと握る。
カイザはそれに答えるように彼女を見た後、二人は水に溶けるようにして消えた。
「子どもって何…」
ソフィアは考えても意味が分からないという顔でこちらを見た。
事実を伝える事に躊躇したが、一つ咳払いをして彼女の顔をみる。
「…俺もつい最近知ったんだが…
どうやら神の加護を多く受けて生まれた人間は、その神と性質がよく似るらしい。
人間で言う遺伝のようなものだ。
特に神同士が強く愛し合った時に人間に影響を与える事があり…
ソフィアはカイザの影響を強く受けている。
母親がツバキだと言っていたから…恐らくそう言う事なのだろう」
ちなみに俺はツバキの鏡写しであり、自分とソフィアは二人の神の影響を得た性質の近い存在だと話した。
…だから惹かれるのも無理はない…とまでは言えなかったが、変わりにソフィアと一緒にいて安心すると伝えた。
すると彼女は「そうだったんだ…」とどこか他人行儀に答えた。
夕方になり父が顔を出したのと同時にソフィアは帰宅した。
父に「良い子だな」なんて嬉しそうに言われたが、こちらは返事を返さないでおいた。
彼女が霊能力もちなのは気づいているのだろう。
その言葉は、神社の跡取りの嫁候補に良いという意味も含まれているのだと、眉間にしわを寄せた。
翌日シエルは先に退院をして行き、相談に乗ってくれた事に礼を言われる。
そして自分も、元気になったシークの治療を受けて無事退院する事が決まった。
神社に帰るとカインがクロトに連れられて待っていた。
まだ顔色が良くないが早く謝りたかったからと、神域である神社でなら出てきても大丈夫なようで待っていたらしい。
ぺこぺこ頭を下げて、自分の知りうる言葉で謝る。
彼女のせいではないのだからと、これまで通りにして欲しいと頼むと、少し恥ずかしそうに、嬉しそうに頷いて神界に帰って行った。
…しかしクロトの事は引き止める。
「ウィングは呼びかけてもなかなか答えないからクロトに言っておく。
最近俺の周りで怪異現象が多発しているのをオカシイと思わないか?
しかもこのタイミングでのこの事件だ。」
そう言うとクロトは神妙な顔をして眉間にしわをを寄せる。
「…確かに。
トウマに契約した神を次々に呼び出させているようにも見える。
まるで何体と契約しているか確認しているようだ。
この事は全員に警告しておく。
トウマを含む子ども達も、必ず俺達が守るから」
何か分かったら連絡するから、君は学生らしく心配せず人生を楽しんでなさいと笑い姿を消した。
トウマは心に不安を抱きながら、しばらく去った後を見つめていた。