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二章:魔導士協会

教会はこじんまりとしているが丁寧に手入れをされ、几帳面なシスターの性格が表れているようだ。
しかし人気はない。
しんと静まり返り、懺悔する人も出入りする信者も周囲には見当たらなかった。
扉を開くと教壇の前でシスターが一人祈りを捧げている最中で、自分達に気づくと中断し振り返る。
優しく微笑む彼女は少し悲しげだが清廉としていた。
声を掛けようとするとそれを拒むようにシスターの影が揺らめき、彼女を守るように包んだ。
その影は人の形をなすと、思念の世界で見たあの半魔神に変わる。
酷く警戒し絶対に触れさせないといった様子だ。
「…何しに来たの?ツバキを破壊させたりはしない」
冷たい目で睨みつけるが、彼女への想いで瞳の奥は熱を帯びている。
カルナが言っていた人形とはツバキと呼ばれたシスターのことなのだろう。
既に二人の中では話しは済んでおり、共に生きる道を選んだといった様子だ。
いかにも人間は信用できないと言った様子の半魔神とは正反対に、ツバキは変わらず穏やかである。
「カイザ、私は大丈夫だから…
お客さんが来てくださったんだしお茶を出さなきゃ」
のんびりとした静かな声でカイザと呼ばれた半魔神をいさめると、ツバキは嬉しそうに腕をすり抜け講堂の裏手へ行こうとする。
しかし少し歩くと何もない場所て蹴つまずき地に伏せた。
慣れた様子でカイザが彼女を起こすと「気をつけて」と優しく言い見送る。
立ち上がるとこちらに向き深いため息をついた。
「ツバキの体はもう長くは持たない。
直し方も分からない体は日に日に緩んでガタがきてる。
ああやって調子が悪く転けたり動けなくなる事が増えているんだ。
本人は…20年しか持つ必要が無い体だからと言っていたけど…」
「なんだ、そんな事が悲しいのか。
だったらそれはもう解決済みだな!」
悲しげに目を伏せるカイザが顔を上げると、思念の世界でみた魔神が金髪の少女を連れ、天窓から飛び降りてきた。
話しは聞いてたぞ!と楽しそうに言う彼に、全員が警戒する。
先日襲われたばかりの記憶が新しいカインはローブの中でぷるると体を震わせ怯えたので、クロトは途端に機嫌が悪くなった。
「カルファー、よくも俺の家族に手を出してくれたね。
また説教が必要かな?」
にこりと口元だけで冷たく笑う深淵の魔導士に、カルファーはげっという顔をした。
悪かった!もうしないから今は勘弁!と慌てて言っている間にツバキが戻ってくる。
また人数が増えていると驚くと、お茶を更に取りに行こうとするので引き止めた。
魔神は「よろしくな」と言うと連れていた少女が元気一杯に「任せて!」と笑顔を振りまく。
ツバキに近寄ると体をじっくり眺め、椅子に座らせる。
うなじについていたコントロールパネルを開くとシークは慣れたようにいじり始めた。
カイザが怪訝そうな顔をすると、カルファーはにっと笑う。
「いやぁ、偶然出会って面倒見てた人造人間なんだけどな。
実はカルナの最期の試作品なんだと。
だからシークは完成品に最も近いらしい。
完成品は今カルナの思念が入ってる肉体な」
どうやらシークと呼ばれた少女はメンテナンスも自分でできる、ほぼ人間と変わらない肉体を持つ素体なんだそうだ。
力の弱ったとは言えあのカルナが作り出したツバキだ。
修復さえ定期的にすれば何百年でも生きられるよと少女は嬉々として言う。
その言葉にカイザは救われたような安心した顔をし、ありがとうと穏やかに言った。
「で、鍵の完成具合はどんな様子なんだ?」
フォルテが失礼も気にせずそう聞くとカイザはピクリと眉を上げる。
やはり破壊しにきたのか人間と睨むと、性急過ぎるんだよ半端もんと二人が一触即発状態だ。
ファインが落ち着くようにフォルテ腕を引っ張るが、怪我するから下がってろと押し返される。
そんな二人の様子も気にならないのかカルファーは、半魔神なんて初めて見たと物珍しそうにカイザを見る。
「俺、元人間なんだよなー
カルナの一部は人間にしか宿らない。
魔神になる方法なら知ってるけど、戻り方は知らないから人間にはしてやれねぇなぁ。
ま、お前は魔神と人間の架け橋みたいで半分ずつもなんか良いな!」
とカイザの手とフォルテの手を取りブンブン振り回すので、喧嘩の腰を折られる。
二人は同時に「ヤメロ」「やめて」と口にしたので、ほんとは気が合うんだろ!?と笑うカルファーをフォルテはバシッと叩いた。
カイザも酷く不本意そうである。
「あの、鍵の完成までですが…
あと三ヶ月といった所でしょうか。」
自分の寿命を話しているようで苦しいのか、胸元をキュッと握りながら自分の中の鍵について話す。
鍵の形をしているがこれは生命の元そのもので人間を作り出す核になるようだ。
これがあれば人造人間ではなく正真正銘の人間になれる…
いわば禁忌のアイテムである。
子を宿せない人造人間が命を育めるようになったりと、喉から手が出るほど欲しがるものは数多といるだろう。
「ご主人様は再び人間になる事を望んでおられます。
貴方達に分散しても強大な力です…
一つに集約されればたちまち生物の意思を奪い理想郷を作り出そうとされるでしょう」
「ツバキ…あんな奴をご主人様なんて呼んじゃダメって言ったでしょ…?」
カイザに注意されツバキはハッとする。
従い敬うようプログラミングされているのか、自然と口に出ていたようだ。
しかしツバキの感情がそれに反発しているようで、自分の言ったことにシュンと肩を落とす。
「…とにかく、ツバキを破壊するっていう手段に出るなら俺はみんなの敵だから。」
ふいっと顔を逸らしツバキを守るように側による。
シークはメンテナンスが終わったようでカルファーの側に寄った。
偉い偉いと頭を撫でられ凄く嬉しそうだ。
そしてシークが耳打ちをした後カルファーは顔を上げる。
「正直俺は楽しけりゃなんでも良い。
バカだし対応策なんて思い浮かばないしな。
生きられるならツバキを破壊するのもアリだと思う。
けどシークが仲間見つけて嬉しそうなんだよなぁ…
だから俺は破壊反対派で。」
そう口にした事をクロトとジルは驚く。
昔はあんなにも自分の欲に忠実で、楽しいと思うことは周りなど気にせず全力で実行していたのに。
魔神の力を制御する事が出来ているのか、元の人間としての理性が働いているように見えた。
「そうだね、俺も二人の間を引き裂くのは最善では無いと思う。他の手段を考えよう。」
「とは言ってもねぇ…これが難しいのよね…」
『英知』と呼ばれたカルナの頭脳を宿すジルエットでも良い解決策は見出せないでいた。
ひとまずこの件は持ち帰りそれぞれが思案しようと決まる。
カルファーはシークと共に教会に留まる事を決めたので全員がいつでも顔を合わせられるようになった。

その中でファインは一人、自分の考えを悟られないようそっと心を隠した。
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