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二章:魔導士協会

三人の魔導士達は半魔神が居る教会に行くのはファインが目覚めてからにしようと話が決まったようだ。
彼女も自分達と同じ立場になり、彼女自身の問題でもある。
そのため自分の未来に関わる事は彼女にも知る権利があると結論付けたためだ。
イリスは「姉がおらんようになるかも知れんのに!自分にも関係ある事やから!」とその訪問について行く事を譲らなかった。
主人の気持ちを汲むのもあるが、この世界に関わる重要な出来事を見ておきたい気持ちがあり、ウィングはイリスの味方をした。
しかしファインが目覚めるまでまだ2日ある。
それまで落ち着かないイリスを街の外まで連れ出した。
本当はジルエットの側に居たかったのだろうが、狙われていたのでしばらく外出を控えさせていたため、久しぶりに気晴らしになるだろう。
勝手にクローゼットを開け自分好みの服を選びオシャレをするように言うと恥ずかしがっていたが、玄関で待っているとちゃんと指定した水色の清楚なスカートとフリル付きで愛らしい白いブラウスを身につけてきた。
ジルエットにしてもらったのかいつもより華やかなメイクに思わず見惚れてしまい、イリスに不思議がられる。
「あー…想像以上に綺麗だったから見惚れていた。
こんな若い美人を連れていたら憲兵に売春だと疑われないだろうか」
と素直に本音を言うと、イリスは苦笑いしウィングって何歳なん?と聞くので394歳と答えると年下やんと驚いていた。
「お前は何歳なんだよ」
「女性にそれ聞く?420歳やけども…」
そう複雑そうな顔をして言うので、26しか変わらねぇのかと言うとそういう反応なんやと苦笑する。
別に今更年齢にはこだわりがない。
種族によって寿命の長さも、どこからが年寄りかも違う。
1000年生きると言う人魚からすれば400歳は20代後半くらいだろうか。
16年生きる猫からすれば400歳近く生きているウィングは相当化け物だし、猫又からしてもかなり生きている方である。
一つの物差しで測れないものを気にしても仕方ない。
そんな事を考え、たわいも無い会話をしながら街の北側に行くと海岸に出る。
半分人魚なだけあって海には思うところがあるのか、イリスは目を輝かせた。
「海なんてホンマ久しぶりに来たわ…
せや、せっかく夏やしもう一つの姿見せてあげるわな」
そう言うとイリスは走り出し服を着たまま海に飛び込んだ。
水中に沈んで消えた彼女はしばらく姿が見えなくなると、海面から何かがポン!とはじき出されるように飛び上がる。
高く飛び上がったのは自分の主人であり、太陽光で煌めく姿は美しいと感じた。
先程着ていた服ではなく、魚の下半身に上はフリルの付いたチューブトップの水着である。
胸は小さいが人魚とはどうしてこうも神秘的で色っぽいのだろうとウィングは感嘆した。
腰からナイフと拳銃を外して砂浜に落とすと、服が濡れるのも気にせず胸の辺りまで浸かる所まで海に入る。
イリスがスッと近寄り顔を海面にあげた。
「その姿も綺麗で色っぽいな。
食べてしまいたいくらいだ」
「なんなんそれ…口説いてるんか魚に見えるんかどっちかにしてくれへん?」
その返事にウィングはふはっと笑う。
「食べ物には見えねぇよ。
それにお前を失ってまで不老不死になりたいとも思わねぇしな」
海水で濡れた頰を撫でると、イリスはチラリとウィングの顔を見ては何か言いたげにしているので言うように促す。
聞くのが恥ずかしいのか視線を泳がせるが、決心し少しずつ言葉を出した。
「ウィングは、なんで私に優しいん?
口説くような事沢山言うし…自分の何が良いのか分からん」
自身なさ気に言うのではぁ…っとため息をついた。
あれだけ褒めているのになぜ十分に伝わらないんだと肩透かしだ。
イリスの背中に腕を回し、抱きしめると彼女は頰を赤らめ胸元に頭を預けた。
「愛しているから…じゃあダメなのか?
イリスの事は綺麗だと思う。外見も中身も俺好みだ。
お前は真面目で家事も上手く、出来た子だと思う。
……なんてな。
それは確かなんだが、本当はキッカケになった理由がまだある」
彼女は覚えていないだろうが、生まれて100年経ち魔力を得て猫又になった直ぐに出会ったのがイリスだった。
その頃はウィングも怪物として右も左も分からない時期で、自分が猫又である事は隠しており、気性の荒かった自分は喧嘩も絶えず、いつも怪我をしている。
猫の姿でフラフラ歩いているとイリスは可哀想にと、見かける度に手当てをしてくれていたのだという。
「まさか300年近く経ってからお前に再会するとは思って無かった。
人間だと勘違いしていたから死んだ筈の奴が目の前に現れて、俺もついにあの世へ連れてかれるのかとドキッとしたぞ。」
その頃は本当に不安と、上手く人付き合いのできない自分は孤独で参っていたのでお前に優しくされたのは印象に残っていたと、その頃の感情を思い出したのか優しい表情になる。
イリスはそんな昔から自分を想ってくれていたのかと驚き、なんだかくすぐったい。
昔の事すぎて覚えていない自分が憎らしくもあった。
「というか、口説かれている自覚があるなら逃げないで返事が欲しいんだがな」
安心しろ、断られても使い魔としてしっかり守ってやると付け加えながら笑う。
そんなにも長い間自分との事を大切にしてくれていた彼に軽い気持ちでは返事ができない。
俯いて言いあぐねる彼女に愛おしそうに視線を落とすと手を離した。
イリスはそれが凄く残念で、断ると彼が消えてしまいそうな気がし不安になる。
いつの間にか彼がそばに居て、守られる安心が当たり前になっていたのだなと小さく笑う。
彼が手を離しても自分はくっついたまま離れる事は出来なかった。
顔を上げウィングを見ると目が合い気恥ずかしくなる。
「…私の負けです…ウィングが側におるんが当たり前になって気づかないフリをしてたけど、私…好きになってしもうとるみたいや…」
そうもごもご言う彼女のアゴに手をかけると、上に向かせ唇を重ねる。
舌を絡める深いキスに驚き逃げようとするが、反対の手で肩を掴まれ身動きが取れない。
尾ひれの先まで溶かされるような甘く激しいキスに思考が停止する。
口を離すと耳元で「愛してる」と囁かれびくりと体が震えた。
ウィングが動きを止め体をじっと見るので首を傾げる。
「…なんなん?」
「いや、人魚とセックスする時はどこにハメたら良いのか考えていた」
それを聞きイリスは今までに無い程顔を赤くする。
尾びれを持ち上げ彼の顔面をそれでべちんと叩くと、体を反転させ水中に逃げた。
驚き足を滑らせたウィングは水面下に沈む。
---猫の俺は泳げないんだが…
と自分のカナヅチが情けなく思いながら底につく前にイリスに引き上げられる。
ようやくできた呼吸に水が混じりむせ返ると、砂浜に寝転んだイリスに苦笑いされた。
「泳げんのやったら言うてくれたらえぇのに。
ウィングでもできん事はあるんやね」
「…っ、はぁ…俺は意外と苦手なものだらけだぞ。」
見せないだけだと言うと寝転ぶイリスに跨り胸元を撫でる。
これからされる事を察し慌てて外である事を伝えるが、何百年も積もらせた想いに彼は止まらない。
胸を露わにし彼の目に晒され、恥ずかしさと結ばれる喜びで鼓動がうるさく鳴る。
「悪い、人魚とは未経験なんだ。痛かったら言えよ」


「は、初めてが外でやなんて最悪やぁ…」
イリスは羞恥心に殺されそうな気分で、溢れそうになる涙を堪えた。
自分の欲望に素直なウィングは、全然悪気を感じていない声で悪かったなと謝罪し、結ばれた事を嬉しそうにしている。
普段表情の少なく不機嫌が標準装備の彼が、見たことない程ご機嫌なので悪い気はしない。
はぁぁっとため息をつくと、人魚の姿に人の姿にと何度も交わったのを思い返しまたため息をつく。
ウィングが短い言葉で術を唱えると、ふわりと暖かい風が下から吹き、服は乾き砂が落ちた。
イリスの乱れた髪を優しく手櫛で治すウィングを見ると、何をされても結局は許してしまいそうやなと苦笑いする。
「にしても人魚の体はああなってるんだな」
人間相手でも普通にハメられて良かったと感心したように言うので、もう一度頭から海水を掛けてびしょ濡れにしてやった。
そろそろ帰るかと言うと、クタクタになったイリスを当然のように抱き上げようとするので、街中で視線を集めるのは勘弁と意地でも自分で歩く。
彼なりの気遣いなのか、夕食は俺が出すから出来合い物を買って帰ろうと手を引かれた。
握られた手が本当に恋人になったのだと自覚を持たせるので鼓動が早くなる。
どれが良いか聞かれた気がするが、彼の声が耳に入らなくて変な顔をされてしまった。
「…主従契約も恋人関係も無理矢理迫って悪かったな」
商品を選んでいると小さめの声でウィングが呟いたのが、イリスにははっきりと聞こえていた。
見た目も中身も大人な彼だが、やはり300年間大切に想っていた人物に会え年甲斐も無く舞い上がり、どうしても手に入れたいと急いでしまったようだ。
相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、内心では反省し落ち込んでると思うと可愛い所も有るんだなと思わず笑みが溢れる。
「そりゃ最初は何なんコイツとは思いましたけど
助けてくれたり自分のために色々してくれて、自分の事を大切にしてくれる人やってのは十分伝わってたよ。
…姉の事や人魚やこのアルビノや…
よう偏見持たれやすい自分やけど、ウィングはそんなん全部どうでもえぇって、ちゃんと私を見て褒めてくれたから嬉しかてん。
主従契約も、恋人関係も無理矢理やないよ」
優しく微笑むとウィングは驚いた顔をした後にフッと笑った。
その後帰宅すると、ウィングはジルエットの元に行く。
彼が自分からジルの元へ行くなど初めてかもしれない。
あらお帰りなさいと呑気に言う彼女に摑みかかるように迫った。
「おい、お前の妹は俺が貰うぞ。
…だがお前に何かあったらアイツは俺なんか見えなくなるくらい泣くだろうな。
だから死にそうになったら俺を呼べ。
助けてやる」
そう言うとジルエットの手を引っ張り額にキスをした。
するとウィングはとっさに突き飛ばされる。
彼の項にあるイリスとの契約魔方陣の横に半分だけ形を成した魔方陣が浮かび上がった。
「なななな!なにするのよ!
そんなキザなやり方で契約しなくても良いでしょ!
あー!もう!一方的に力を貸されるのも釈だし…
仕方ないわね」
ジルエットがウィングの胸に手を当てると、魔方陣の反対側が浮かび上がる。
これで正式な、両者が力を貸し合う契約が成り立った。
それにニヤリと笑うと「お前も俺のモノにしてやろうか?」と頰を撫でながら言うので、ジルエットは後ろに跳びのき顔を真っ赤にして逃げていった。
高尚の魔道士もウブな乙女だったかとククッと笑うと冗談だと去った先に呼びかけた。
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