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二章:魔導士協会

フォルテが次に目を開けると天井も床もない真っ白な空間に居た。
あたりを見回すと見知った顔と知らない顔が揃う。
クロトとジルエット、それから魔神の手配書で見たカルファーという男、もう一人は知らない男だ。
円を描くように立ち、中央には意識のないファインが横たわっている。
駆けよろうと思うが不意に現れたカルナの思念体に動きを止める。
「ようやく全てが揃った。
この時を何百年と待ったか…」
自らの半生とこれから死して自らに帰る者達を哀れむように周りをゆっくりと見渡す。
カルナがボンヤリと光ると、ファインの体が次第に作り変えられ不老になってゆくのが全員に分かる。
フォルテはヤメロと怒りを込めて言葉を発するがカルナは何も感じないように口を開いた。
「我が『傲慢』よ。それはできぬ。
どんなにお前が止めても私の中の良心である『聖母』は、お前らの悲しみや苦しみが分かるならと、不老を受け入れるだろう。
一番近くで『聖母』の愛を感じ受けたお前がよく知っているはずだ」
確かにそうだ。
ファインは頭が硬く優等生だが、正しいと救えると思うと周囲をはねのけ突き進む所がある。
ぐっと押し黙り横たわる彼女を見つめるだけしか自分にはできない。
カルナは喜びを噛みしめるように震え、落ち着かせるように大きくため息をついた。
「あぁ、ようやく自分の中にかつての栄光も悲しみも喜びも帰ってくる!
魔法を見つけた時は震えた…自分の研究が成果を出す喜びは何よりも素晴らしい!
そうだろ我が『英知』よ」
今度はジルエットの方を向くが彼女は顔を逸らし目を合わせないようにしている。
それに少し不満そうだが、今度はクロトの方を向く。
「その魔法で他を圧倒するのは中々に心地よい。
好敵手が居なくてはつまらないからな!
国を守るという名目で力を振るえるのは快感でもあった。
なぁ、我が『英雄』よ」
クロトは何も言わないが、今にもカルナを殺し自分は生き延びるといった目で睨みつける。
しかしカルナはそれを気に留めない。
今度は魔神の方へ向く。
「お前は何でも欲しがるので人では無くなったか。
だが人は欲がないと成長はない、繁栄はない!
手に入れた時の快感は病みつきになる。
これこそ『強欲』よ」
魔神のカルファーはははっと笑い「ぜってぇお前の好きにはならねぇ」と敵意をむき出した。
カルナは流石強欲だと感嘆する。
最後に角が一本生えた男に向かう。
彼は半分だけ魔神なのだろうか。
「あぁ、大丈夫だ。不安がらなくても良い。
私はお前があってこその私である。
その経験があって初めて他の感情が生まれると言うものだ。
もちろんお前も愛そう『悲哀』よ」
半魔神の男は表情を変えず彼をを見据える。
それに何かを思い出したようにカルナはパッと明るい顔をする。
「そう、そうだ。
私が復活するには私自身を解放する鍵が必要だ!
『聖母』が封印から解放された20年前から形成していたものがもうすぐ完成する!
鍵の成長が遅く手をこまねいていたが、あの器の人形に第五感情の愛を教えたのはお前だな『悲哀』よ
でかした!あれから急速に完成に近づいている!」
そう言われると、ピクリとも動かなかった半魔神が目を見開いた。
何のことだ?と呟くとカルナは不思議そうな顔をした後哀れな目で彼を見る。
「知らなかったのか…?
…ふむ、あの人形は自分が何者か知っていながらお前には隠していたのだな。
彼女は鍵を母体とするただの器に過ぎない。
私が復活する時に鍵を抜かれ活動を停止しガラクタとなるのだ。
そう、彼女は私が作り出したただの道具なのだ」
先程まで無感情だった半魔神の彼は鋭い殺気を向ける。
ジルエットはまだ復活までの猶予があるのだと汲み取り、クロトとフォルテに目配りをする。
二人も同じように思ったのかそれを確認すると、半魔神の男を探るように見た。
しんっと静まり返った空間で一人カルナは愉快そうに笑う。
「諸君、来るべき日までもうしばらく待つのだ。
なぁに、今までの時間を思えばあっという間。
精々抗うがいい。」
そう高笑いするとまた視界がホワイトアウトした。


目を覚ますとフォルテは自室のベッドに横たわっていた。
隣には未だ眠って目を覚まさないファインがスヤスヤと寝息を立てている。
頭をなでてやろうと手を伸ばしたが、誰かいるのに気付き顔を上げた。
「お前は確か、イリスの使い魔の…」
「ウィングだ。
はぁ、3人運ぶのはなかなか大変だったんだぞ。
突然ジルエットが倒れるもんだからお前らにも何かあったかと探した。
仲良く廊下なんかで眠りやがって」
どうやら主人の命令で見張りをしていたようだ。
外は暴動も収まり、事態は終息したようでいつもの活気が戻っている。
この町はタフだなと一先ず安心する。
何があったか聞いてもいいか?とウィングが言うが、フォルテは聞きたいならジルに聞けと彼をあしらった。
彼が家から去り主人の元へ帰ると、再びファインに目を落とす。
体を作り変えられている途中で3日は目を覚まさないなとため息をつく。
ふと彼女が「これからはずっと一緒にいる」と言ったのを思い出し、フッと笑った。
「お前、ずっとは無理だろ。
もうすぐ終わっちまうかもしれねぇのに…
…でもま、抗ってダメだっても死ぬ時も一緒だな」
ファインの額に自分の額をくっつけてそう言った後、そっと唇を重ねた。


ウィングがイリスの元に帰還すると、いつものようにジルエットを怒るイリスの声がした。
「ちょっと!倒れたばっかりなんやから大人しくしとき!」
「時間が無いんだってば!
私人探ししなきゃならないの!」
仲良く言い争う姉妹に咳払いをすると、ジルエットをベッドに押し返してやる。
あんたも敵か!と怒るのではぁっとため息をつく。
「落ち着けよ…人探しなら猫の専売特許だ。
誰を探してる?特徴的なヤツならわかるかも知れん」
そう言うと、ジルは凄く特徴的だとウィングに顔を近づけ、食い入るように見つめた。
半分人間、半分魔神の人物だ。
髪は黒く真ん中分け、表情は少なく冷めた印象。
そう言っただけでウィングは「あぁ」と声を漏らした。
「もしかしてあれか、最近教会に住んでる半魔神だな。
シスター一人で切り盛りしているカルナ教の教会だ。
街の東の端に小さいが参拝者もある…」
「それだーーー!」
ジルエットはベッドから出るとクロトとフォルテに手紙を書いた。
全くとイリスが困ったように笑い、ウィングに力になってくれてありがとうと微笑む。
使い魔なんだから当然だろと顎に手を掛け唇を親指で撫でると、キスされた事を思い出したのか色白の頰が赤く染まる。
可愛いなと言うと顔を背け逃げてしまう。
ジルエットも居るし見逃してやるかと笑うと、ジルにジトッとこちらを見られ固まった。


クロトは目がさめると三人に覗き込まれており苦笑いする。
体を起こし心配を掛けた事を謝る。
「ちょっとやめてよね、年寄りが倒れたらついに寿命が来たのかと心配するじゃんか」
とミドルの言いかたは悪いが心配はしてくれたんだなと笑う。
先程自分の長命の理由を話したばかりだからか三人なりに気にかけてくれているのだ。
特に弟のルキは気が気でないようで不安そうな顔をする。
なるべく気を逸らすようにミドルが遊びに連れ出しているため、寝不足でウトウトしていた。
妻になったばかりのカインはよく自分を見張るようにどこへでもくっついてくるようになる。
一緒に居られるのは嬉しいが、警戒させて不安にさせて…夫としてダメだなと困った顔をする。
「大丈夫。まだ少し時間があるから。
なんとかしてみせるよ」
「…うん、でもクロトの魂が消滅する分けじゃないなら
私があなたを助けるから。
だからいざとなったら私を呼んで」
どうするつもりなのか計りかねるが、危険な事はさせられないと思う気持ちと頼りにしている気持ちがぶつかって微妙な顔をしてしまう。
お陰で気持ちがバレてしまい三人に怒られてしまった。
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