このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

二章:魔導士協会

ファインは高級な家具に囲まれはぁっとため息をついた。
一体幾らしたんだと思いつつふかふかのベッドに腰を掛ける。
これからあの謀略の魔導士と二人での生活が始まると思うと心臓が持ちそうに無い。
年齢はかなり行った年配者だが、自分とさほど変わらない見た目年齢で、しかもかなりのイケメンだ。
恥ずかしい所は見せられ無いと思うと女としての死活問題が深刻である。
…まぁ、ただの子どもと思われからかわれている感じは否めないがとため息をつく。
ふと玄関の鍵が開けられる音がし、そちらに向かう。
そろりと曲がり角から顔を覗かせ小さな声で「お帰りなさい」と言うと「何を緊張しているんだよ」と笑われた。
今日は協会の会合パーティがあるとかで誘われてはいたが、引っ越しの準備をしなくてはならなくて断っていたのだ。
初めて私服や部屋着を見せるのも、こうして帰宅を出迎えるのも同棲している恋人のようで、どういう顔をして彼に向かえば良いのか分からず恥ずかしくてたまらない。
きっと向こうは小動物を保護しているか何かだと思っているに違いないと思う事にし、彼に近寄る。
「うわ、タバコ臭い!フォルテってタバコ吸うっけ?
初めて知ったかも…」
「滅多に吸わないんだけどな。
つまらない会合で話しかけられたく無い時にたまにな」
と言うとリビングへ歩みを進め、ソファに脱いだ服を放り投げる。
高い服がシワになる!と、ファインが回収し丁寧にハンガーへかけた。
匂いが付いているので早めにクリーニングに出すかとフォルテを見ると、平気で下着一枚で居るので顔をそらす。
「ちょっと!服!着て!」
「あ?もうお前来客じゃねぇだろ?
服着ろって、これから風呂に行くしなぁ…
これくらい慣れろ。」
そう言われもう一度フォルテを見る。
100年以上生きたとは思えない若く引き締まった体に妙に色気を感じドキドキする。
頭を横に振り自分を落ち着かせるとソファに座り彼を見上げた。
「あのさ、明日囚人に会って尋問する仕事入ってるんでしょ?いい加減遠ざけないで連れて行って欲しいんだけど」
そう言うとフォルテは眉間にしわを寄せて機嫌が悪そうにファインを見下ろす。
またダメだと言われるんだろうなと思い先に口を開く。
「頭が硬い私は色んなものを見て学んでかなきゃダメなんじゃないの?」
自分の言った事を言われ頭をガシガシとかく。
少し考えた後、体調や気分に不調をきたしたらすぐに引き上げるからなと念を押され、彼は不満そうに風呂場に行った。


翌日、フォルテに付き添い協会敷地内のはずれまで来る。
想像より大きな刑務所に驚き、沢山の囚人が収容されている事実を改めて知る。
刑務官たちがフォルテに敬礼する横を通り抜け、迷わず尋問室へと歩いた。
「俺はこっちの部屋で囚人と直接話をする。
その間お前は隣の部屋から中の様子を見てれば良い。
俺はお前の様子が分からないから一応刑務官に任せておく。
気分が悪くなったらすぐ退室しろよ」
昨夜から何回も念押しされている事を改めて言われる。
分かってるよと優しく笑うが、フォルテは変わらず気がすすまないと言う顔だ。
むしろ普段見せないような心配そうな表情でこちらを見るので、自分はこの人に余程大切にされているのだなと感じる。
部屋に入ると男性刑務官と、フォルテの配慮なのだろうかもう一人女性刑務官が居た。
今日はよろしくお願いしますと頭を下げると敬礼で返してくる。
のぞき窓からはフォルテと囚人が向き合い座る姿が目に映った。
囚人は坊主頭で痩せた男だ。
目の下にクマがあり、イライラして落ち着かない。
手元の経歴を見ると建設業に就いていたようだが、彼には家族が居ないようだ。
どうやら殺人の罪で収容されているらしい。
罪を認めているものの、どうして殺したか、どう殺したかを言わず手を焼いていたためこちらに回ってきたのだろう。
フォルテはどうやら相手を威圧し恐怖させ不安を煽り吐露させるやり方のようだ。
優しく説き伏せる彼なんて想像もできないが、自分の暗い部分を私に見せたくなかったのだなと感じる。
時に楽しげに猟奇的な言葉で煽る彼に、ファインは恐怖を感じる事は無かった。
しかし会話を聞くうちにふと気づく。
震え上がり怒る囚人だが「家族」「子ども」「奪う」という言葉に妙に反応しているように見えた。
そしてどうして彼が殺人を起こしたのかに気づいた時、瞳から大粒の涙が溢れる。
それは止まる事を知らず次々に溢れてゆく。
それに気づいた2人の刑務官がファインに「退室しますか?」と心配そうに聞いてきた。
しかしその声は彼女に届いていない。
ふらりと立ち上がったかと思うと、刑務官の制止も聞かず部屋を出て隣の尋問室の扉を開いていた。
突然開いた扉からファインが入室し、フォルテが目を見開いて驚く。
フォルテが名前を呼ぶが耳に入っていない様子で、囚人しか見ていない。
止めようと立ち上がるが、それよりも早くファインは囚人に近寄り抱きしめた。
今まで怒っていた囚人も何が何だか分からず戸惑う。
少し離れ目線を合わせたかと思うと、涙で赤くなった瞳で優しく微笑んだ。
「あなたも大変辛い思いをされたのですね…」
いつもと様子の違う彼女にフォルテはマズイと肩を掴み声を掛ける。
しかしやはり他の事には反応を見せず会話を続けた。
「愛する人が脅かされる恐怖は、あなたを変えてしまうほど苦しいものだったのですね。
彼女達はあなたを恐れてなどいないでしょう。
なぜなら貴方によって守られたのですから。
貴方の帰りを待っていますよ」
そう優しい声で寄り添うように話しかける。
手を両手で包み込むように握り囚人を見つめた。
囚人は抵抗することも無く震えだすと、瞳から涙を零した。
しばらく泣いている彼を愛しいもののように抱きしめると、落ち着いた囚人は神に罪を独白するかのように話し始める。
どうやら籍こそ入れてないが事実婚の嫁と子供がいるらしい。
仕事の都合で別居しているが、嫁が柄の悪い男に言い寄られいたそうだ。
その男が今回の被害者である。
その男は家にまで上り込むこともあり、生活を脅かされていた。
住居を変えても追いかけてくる奴はとうとう子どもを人質に取るぞとまで言ってくる。
それに我慢ならなくなってしまったのだと泣きながら話した。
「辛い胸中を…よくぞ話してくださいました。
少しでも早く家族の元へ帰られるよう、情状酌量の余地を問うため再調査をするようお願いしてみます。
ただ、人を殺めた事は事実に相違はありません。
最終的に出た判決には従い、罪は償い綺麗になって帰りましょう」
優しく声をかけるファインに囚人は泣きながら何度も頷く。
囚人を離しファインが立ち上がったかと思うと、よろめき後ろに倒れた。
それをフォルテが受け止め、顔色の悪い彼女を覗き込む。
「あれ…フォルテ…
なんだか凄く暖かくて悲しい気分…
でも凄く落ち着いてて……ん?ここ尋問室…?
いつの間に…」
そう言った所で自分が何かをやらかした事に気付き、えへっと笑ってみせる。
しかし許される事は無く「刑務所には出入り禁止だ!!」と怒鳴られてしまった。
しかもしばらく職務に出るな!と言われてしまい、すぐさま転移魔法で自分の部屋に飛ばされてしまう。


自分でも何をしたのか覚えておらず戸惑うが、先程から腹の底に暖かい、自分のものとは違う魔力を感じた。
しかしそれはすぐに溶け自分の魔力と混ざり合いような感覚を得る。
優れなかった体調も落ち着いたため、謹慎を食らった自分は大人しく家事でもしていようと昼食の準備をした。
少ししてまだ業務もあるのにフォルテが帰宅すると、キッチンで家事をするファインに近寄り肩を掴む。
「おい!まだ休んでろ。
さっき記憶が飛んだばかりだろ。
体にまた異変が起こったらどうする!」
「そ、そんなに怒らないでよ…
私何してたのか全然覚えてないし、体調はもう戻ったよ。
だから大丈夫。
体に異変と言えば…私誰かに魔力を分けてもらったりした?
さっきこの辺りに自分のとは違う魔力が溜まってて、体に溶けて馴染んだ気がするんだけど…」
とへそのあたりを指差しながらそう言うと、フォルテは血相を変える。
小さく「覚醒が始まったのか」と呟くと、頭を抱えてふらりと椅子に腰掛けた。
ファインは心配になり顔を覗くと、幼い自分を哀れむように絶望した目で見返す。
そして彼女を抱きしめると今日の仕事は全部キャンセルだと言い、しばらく離してはくれなかった。
彼が顔を上げるまでこちらも抱きしめ返していると、フォルテは掠れた声で話す。
「…お前にこれから起こる事は、近々俺の口から話す。
だから待っててくれ。」
自分の事なのに自分にはサッパリ分からないが、高尚な彼がこれ程までに取り乱す事態なのだということだけは分かる。
なるへく優しく落ち着いた声で「うん」とだけ返した。



「クロト、お手紙捕まえた」
鳥の姿になった手紙を咥え、黒猫が褒められたそうに擦り寄る。
クロトはなにそれと笑いながら猫喉元を撫でてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
手紙を受け取り中を開くと送り主はフォルテからのようだ。
慌てた様子で走り書きされた内容に、クロトは目を見開く。
そして悲しい顔をするので、黒猫は人の姿になり彼を抱きしめた。
「俺、皆んなにちゃんと話しておかなきゃならない事がある。」
そう深淵の魔導士が口にすると、カインは額にキスをし「いつだって私はあなたの味方。側にいるよ」と微笑んだ。
5/10ページ
スキ