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1年目

---フォルテ視点

医務室に着くと校医のジルエット先生が出迎える。
ファインの見舞いに来たことを伝えると全員の顔を確認して通してくれた。
一番奥の、カーテンで仕切られたベッドに行き乱暴に開くと、上半身を起こし教科書に目を通すファインが驚いたようにこちらを見た。
側にあった椅子にどかっと座ると「体調はどうなんだ」と聞いてやる。
困ったような笑っているような微妙な表情でファインが口を開いた。
「歩くと貧血でフラフラしたり気分が悪くなっちゃうけど…少しづつ良くなってるよ。
医務室に連れてきてくれたのフォルテなんだってね。ありがとう。」
まだ完全では無い彼女が弱々しく笑うので胸の奥がモヤモヤする。
本なんて見ないで寝てろと取り上げると、3日も授業に出れないんだから少しくらい良いだろ!といつものように反抗してくる。
その様子にコイツの命が失われなくて良かったと感じた。
こうでなくては張り合いがない。
「ホント真面目なヤツだな…授業の内容くらい俺が教えてやる。
なんのための療養だ…」
そう言うと困ったような顔でそれなら寝てようかなと、ようやく言う事を聞いてくれる。
するとカーテンの向こうから「もう良い?」とクロトの声が聞こえてきた。
…コイツらが居たのをすっかり忘れていた。
そしてカーテンの内側に入ってきた男共にチッと舌打ちをする。

「ファイン大丈夫?
無事回復して良かった」
「ありがとうみんな。心配かけてごめん。」
そういうと、何があったか聞きたいんだろ?と思い出しながら先生に話したであろう内容を口にする。
あの日は次の授業の準備を任されていて、一人先に片付けを済ますと教室へと急いでいた。
校舎に入ろうとした時に今まで気に留めなかった腕の痣が痛んだので、まくって見てみると、くっきりと数字が浮かび上がり驚く。
後で先生に報告しようと荷物を持ち直した時…
誰かの強い力によって両肩を押さえ込まれた。
声を上げる間も無く首筋に激痛が走り、世界がグラリと反転したと思うと昏倒していたのだという。
「後ろからだったから姿はみてなくて分からないけど…人…のようだった。
でも体温が無くて掴まれた肩が凄く冷たかった。」
震えるファインの肩に腕を回して寄り添ってやる。
いつもなら「セクハラだ」と叩かれるのだが、弱った今はその力もなく肩に頭を預けてきた。
本当に怖かったんだなと怒りがこみ上げ、それをなんとか腹に収める。
ツバをつけられたもう一人の友人に目をやると、他人事のように呑気な様子で腕を組み「なんかヤバイ事になってるのな」なんて言っている。
全然分かっていないバカに、なんで自分はそんな奴を親友としているのか今更ながらため息をついた。
「…なんか吸血鬼がいるみたいで気味悪ぃ…」
ルキがポツリと呟くと的確な例えに納得がいく。
血を抜かれる被害者に、死体のような体温の無い体…
しかし伝説上の生き物であり現存するかは自分達の知識だけでは分かりかねる。
カルファーが聞いた羽音も謎であるが、もし痣が襲われる日付を指しているのであれば、襲われるのを回避できるかもしれない。
今はボンヤリとして形がハッキリしないが、次第に形を露わにしていくのであれば予想は立てられる。
こんな間抜けでも居ないとカイザと二人になると思うと寒気でゾッとした。
「おいカルファー、これから勝手な行動をするな。痣は毎日俺様に見せろ。」
「…何その拷問。どうせフォルテに見せたって何も分かる訳がない。俺が確認する」
また睨み合う二人にカルファーは「いや、俺を取り合ってどうすんだよ!」と苦笑いしながら間に割って入ると「気持ち悪い事を言うな」と同時に怒鳴る。
どうしても大嫌いなこいつと息が合ってしまう事に更にイラ立った。
あまりに騒ぐのでジルエット先生に医務室を追い出され、朝一番の授業の準備をするため寮へと帰る事にした。
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