1年目

---クロト視点

11月になり雨の降りそうな曇天の中、授業を終えクロトは寮へ向かう道を歩いていた。
箒を片付け、同寮達と談笑しながら歩いていると少し先の校舎の陰から悲鳴が聞こえる。
聞き覚えのあるその声に走っていくと、そこには同じグリフィンドール1年の女生徒が倒れていた。
彼女はファイン。
規律を守る真面目で男勝りな性格をしていて、イタズラ好きな3人をよく叱っていたのが印象的だ。
そんなはつらつとした彼女が、今は死人のように肌が白く唇が真っ青になって横たわっている。
身近な人物の無残な姿に全員が青ざめた。
しかしフォルテだけは人混みをかき分けると、今にも事切れそうな彼女をローブで包むと抱き上げ医務室へと急いだ。
女癖の悪い問題児の彼が豊満な彼女に一番よく絡んでいた。
それ故に思わず体が動いたといった様子だ。
心配になり全員で医務室へと急ぐ。
医務室の前に着くと、追い出されたフォルテが機嫌悪そうに立っていた。
どうだったのか聞いても首を振って分からないと返すのみだ。
全員が血相を変えたまま沈黙する。
「…これって次はまた誰かが狙われるかもしれねぇって事じゃねぇのか?」
ルキがそう漏らすと視線がそちらに集まる。
実は2週間程前に同じように女生徒が倒れていたのを目撃していた事を話した。
連続性が出てきた事から、自分達にも降りかかる脅威であると知り不安で落ち着いてはいられない。
「おいこらガキども。午後の授業は休講だ。
全員寮へ戻れ、談話室で教員から話がある。
一人にはなるな、固まって動け」
医務室から出てきたウィングに言われ、促されるまま周囲を警戒するように寮へと急いだ。
寮の中なら合言葉を言わない限り外部の者は侵入はできない。
そう全員が思い寝床へと帰る。

全員が元気もなく談話室に集まった。
グリフィンドール担当教員が輪の中心に立つと重苦しく話す。
「皆さん、目撃した人も居るとは思いますが、女生徒が何者かに襲われ生命の危機に晒される事件が起きています。
なるべく一人で行動しないように。
また夕食事後の外出は禁止します。
何かあった際は速やかに教員に通達するように。
それからファインの最近や事件前の様子に何か変化を感じだ者はいますか?」
淡々と話す教員にフォルテがスッと手を挙げた。
全員の視線がそちらに集まる。
「1週間前、ファインが腕にやけに大きな痣を作って痛がっていた。
別にぶつけたワケでも無いのに、チクッとしたと思ったらできてたらしい。
今日抱き上げた時に見えたんだが、その痣がくっきり1115と数字になってた。」
その言葉に皆が騒めき出す。
口々にその数字は一体なんなのかや、痣ができたばかりだが自分は大丈夫かなど話し合い不安が蔓延する。
教員が手を叩くと明日からは通常通りに授業がある事と、1人で出歩かない事、不自然にできた痣があった場合は報告するように言われる。
この日は誰もが恐怖と不安でなかなか眠れなかった。
仲良くなった別寮のカインやツバキはどうしているだろうか。
襲われたのが2人共女性であったこともあり、同性の彼女達は自分よりも恐怖に怯えているかもしれないと気がかりになった。

次の日起きると、朝食には全員ではぐれないように整列して食堂に向かう。
丁度背後がハッフルパフの席でカインとツバキを見つけて近くに座った。
こちらに振り向いたカインは心配そうな顔を向けてくる。
「クロト大丈夫?グリフィンドールの1年生が倒れてたのを目撃したって聞いたから心配した…
身近な仲間が襲われて怖かったよな…」
ぎゅっと手を握り気遣ってくれる彼女に思わず笑みがこぼれる。
カインだってこの状況に不安な筈なのに優しく気遣ってくれ、こんなにも心配してくれていたのかと嬉しくなる。
横に座るツバキはなんだか元気が無いが、その様子を見たカイザが正面に座り、彼女を少ない言葉で気遣うとツバキは笑顔をみせる。
彼は殆ど自分から誰かに話しかける事がなかったので驚いた。
あのイタズラ好きの3人にもそれぞれ気にかける子はいるのだなと感心する。
「ツバキ、グリフィンドールに仲の良い人居たんだな」
「最近仲良くなったの。
私運動が苦手で…上手に箒に乗れなかったでしょ?
一人で練習してたら彼が付き合ってくれて」
嬉しそうにカインに話すツバキにカイザは相変わらず無表情で無言だ。
一体どんなふうな会話があり仲良くなったのか想像できないが、人とあまり友情を育まない彼にとって珍しい事には違いなかった。
隣にやってきたカイザが珍しくてじっと見過ぎたのか「何?」と眉間にシワを寄せて不快そうにこちらを見返してくる。
にこりと笑い返し「何でもない」と言うと早く食べなきゃ授業に遅れると食事に入った。
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