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1年目

--クロト視点

妹のルキが倒れた女生徒を発見した夜も過ぎたが、先生から注意喚起は一切無かった。
連続性も確認できず、混乱を招くため不確かなまま発表するわけにもいかないのだろう。
幸い女生徒も大事には至らなかった。
しかし脅威には違いなく、他に被害者が出ない事を祈るばかりだ。
今日の授業も終え中庭の前を通るとカインが読書に没頭する姿が見えた。
噂も四十九日。
最近ではカインの噂話しにも飽きた大衆は、ヒソヒソと話す者もいなくなっていた。
そのためこうして一人で歩く姿を見るようになる。
いい事なのだが、昨日の事もあり少し心配だ。
「カイン、何読んでるの?」
声を掛けると余程集中していたのか驚いたような顔でこちらを見上げる。
そして俺だと分かると柔らかく微笑み返した。
「兄さんに呪文の本を借りたんだ。
この間クロトの腫れた手をあっという間に治した呪文を教えてとねだったら、まだ早いからと言われてしまって…基礎から勉強中なんだ。」
確かにあの呪文は便利だ。
誰かに何かあれば助ける事ができる。
痛いらしいけど骨折も治せるらしいよと教えてくれ、興味を持つのも納得できた。
隣に座り本を覗き込むと、思った以上にカインとの距離が近かったようで、照れたように笑うカインにごめんと微笑み返した。
「そういやルキが君のお兄さんに会ったみたい」
そう言うとカインは「えっ」と声を漏らした。
そして眉をひそめて恐る恐る失礼な事しなかったかを聞いてくる。
「最初はキツく当たられたみたい。
でも最後には優しくしてもらったみたいで…
ありがとうって言いたいんだけど機会が無くてね」
学年も寮も違うため食事のタイミングでしか狙って会う機会が無いのだが、なんせ大勢が行き交うため取り逃がしていた。
カインが不思議そうな顔をした後少し安心したように口を開く。
「良かった。兄さんは純血主義だから…
混血のルキに酷い事したのかと思った。
でも最近の兄さんはマグルを卑下する事が無いとスリザリン生が言ってたし…」
俺がハッフルパフに入ったのも悪くなかったのかもと苦笑いする。

しばらく本を見ながら話しをしていると、グリフィンドール生の男子生徒三人がこちらを見て近づいてくる。
フォルテ、カイザ、カルファーだ。
この三人は同じ1年生で頭の痛い事に問題児だ。
授業中先生に気づかれないように鍋にいも虫を入れて爆発させたり、女生徒の個室に入っていたり、注意してきた子の過去の失敗を事細かに説明してみせ黙らせる。
このうちの二人は初めての呪文学で喧嘩をし、クロトに怪我させた人物だ。
また何か企んでるのかとため息が出る。
「クロトが女の子と二人で居るなんて珍しいな!」
「…この子、呪文学で怪我させかかった子じゃない…?」
「へぇ、お前も隅に置けねぇな」
口々に好き勝手言う三人にクロトは表情を崩さず何か用かな?と伺う。
すると三人は楽しそうにニヤニヤ笑う。
いや、カイザは相変わらず無表情だが…
「この間のお詫びだ。飴やるよ」
フォルテが袋から飴玉を取り出すとカインの口に押し込む。
食べちゃダメだ!とカインの手を掴むと、時はすでに遅く…
手がくっついて離れなくなった。
「おー、これこんなに早く効くのな。
あはは、もっと仲良くなれそうだなー」
「大丈夫、4時間しか効かないから…
寮に戻らなきゃいけない時間までには離れる」
そこに座れと低い声で怒ってみせるが、三人はクロトが追いかけられないのを良いことに中庭から逃げていった。
何が大丈夫なんだと怒りも収まらない。
ふとカインの顔を見ると、驚いたような恥ずかしそうな表情でキョトンとしている。
まだ嫌がられていないだけ良かった。
手が離れ寮に帰ったら説教だなと今は怒りを腹のなかにおさめる。
「えっと、4時間ならトイレくらい大丈夫だけど…ご飯どうしよう」
カインが困ったような表情でクロトに言う。
カインの左手はクロトの右手に掴まれた形でくっついている。
利き腕が右のクロトは何かするごとに苦労するだろう。

そして食事の時間。
あれから3時間経ったが一向に離れる気配がない。
無理矢理離れようとしても自分の手じゃ無いみたいに動かなかった。
食堂につくと仕方ないから減点されないで教員に話しをつけると、カインは自分の知らない教師の元へと向かった。
確か入学式で説明のあった…ウィングという人物だ。
知り合いなんだと言うと彼に手を見せる。
ウィングは驚いた顔をしたが「変なオモチャで遊んだな?」と呆れた顔をした。
「いや、遊んだ訳ではなくイタズラされた。
彼らの言葉が正しいならあと1時間で離れる。
食事だけが問題なのだが、私がグリフィンドールの席に座っても良いだろうか」
そう言うとまぁ好きにしろとウィングは適当に返事を返す。
変な気は起こすなよとクロトに念を押し、カインには嫉妬深い兄にもちゃんと説明をしておけと促した。
今度はくるりとスリザリン生の席の方を見、ミドルがこちらを見ているのを確認する。
カインがくっついた方の手をブンブン振ってみせると、ミドルは何をやってるんだという表情をした後こちらに近寄ってきた。
「何してるの……仲良いね」
「いや、イタズラされて離れなくなってしまって…」
「あぁ、最近流行ってるよねくっつきキャンディ。まぁくっついたのがその優男で僕は安心だけど」
「ご心配なく。後でイタズラの張本人達もしめておきますから
それから先日は妹に良くして下さりありがとうございました。」
ミドルが報復でもしかねないので先に手を打つ。
それを聞いてふふっと笑ったミドルは「期待してるよカインのナイトくん」と言って自分の席に戻った。

グリフィンドール生の席にカインとともに座るとルキが驚いたように彼女を見る。
くっついた手を見せ「やられた」と言った後、イタズラの張本人達に目を配らせた。
3人はドキッとした顔をし、後で話があるから待ってろという思考が伝わったのか、食事を済ませるとさっさと寮へ帰って行った。
左手でフォークを持ち食べようとすると、カインが食事をフォークに刺して「あーん」と食べさそうとしてくる。
…これじゃあまるで熱々のカップルのようだ…周りの視線が痛い。
さすがにまずいと「それはちょっと…」と苦笑いすると、彼女は少し考えた後、一口で食べやすいサイズに料理をカットし皿に盛り付け、スープカップも左側に持ち手を移動させてくれる。
これならフォークだけでで食べられる。
純血主義で有名なナイトレイ家だが、カインの気遣いから本当に愛情を注がれ教育を受けて育ったためのものだと感じた。
それだけに突然家族から切り離されたのが悲しくもある。
「そういやさっきの…ウィング先生とはどういう知り合いなの?」
「師匠は家庭教師だったんだ。
5歳の時に初めて会った。
純血でこの学校も成績優秀で卒業したとか…
16違うから師匠が21歳の時だな。」
熱いスープを冷ましながら思い出すように話すカインを見る。
ウィングは純血だが別に純血主義では無かったようだ。
10歳だったミドルは既にナイトレイ家の流れに乗っていたが、カインはそうでなく憧れた先生に強く惹かれたため考え方が違ってきた。
おかげでクロトとも仲良くなれて良かったと微笑む彼女に、こちらこそと微笑み返す。
確かに純血主義なら混血の自分は受け入れられなかっただろう。
自分と友達になれて良かったと思って貰えるなら素直に嬉しい。
ふと右手を動かすと自分の意思で動かせる事に気付いたが、食事が終わるまでは彼女の手を握っている事にした。
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