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1年目

--ルキ視点

力無く兄の横に座ると、ハロウィンにちなんだ料理やバタービールなどが卓上に華やかに並べられているのが目に入る。
しかし食欲が湧かない。
生々しい人間の姿に血の気が引く。
様子の違う妹に眉間にしわを寄せてクロトは顔を覗き込んだ。
「どうしたの?顔色が悪いよ」
心配かけまいと黙っていようとしたが、これは自分だけで仕舞い込める話ではない。
学校に何か恐ろしいものが入り込んでいる。
それは勿論自分にも、大切な兄にも身の危険として関わってくる話だ。
パーティの席であるため「寮に戻ったら話す」と小さな声で言ったせいか、弱々しくなってしまった。
ミドルの方をチラリと見ると先程の事は無かったかのように談笑する。
しかしこちらからの視線に気づき、こっそりウィンクをしてみせた。
正直彼がどうしたいのか分からない。
スリザリン生らしく純血以外は認めないのか、気に入らない者には冷酷で意地が悪いと思わせる。
しかし脅威を目の前にした時、5つ年上なのを感じさせるような大人の優しさや対応にどちらが本当の彼なのか分からなくなった。
兄なら本性を見抜くかもしれないとそれも含めて後で話そうと考える。

寮に戻り兄の部屋で先程あった事をなるべく事細かに説明する。
至って冷静に聞いているようだが、最初はわずかに怒りを、後半につれ深刻そうな面持ちをしていた。
「ルキ、大丈夫。
きっと先生たちが何か対策を練ってくれる。
事態が悪化するようなら連絡もあるはずだし、それが無くてもなるべく一人にならないようにしていれば良い。
幸い同寮になったんだからなるべく一緒に居よう。」
そしてこの話しは騒ぎになるから誰にも話すなと念を押される。
箒にもようやく跨がれ、覚えた呪文は浮遊や簡単な変身呪文のみの1年生が何ができるわけでも無い。
兄に話し少しだけ胸のつっかえが取り除けたような気がした。
「カインの兄貴の…ミドルってやつは一体何だったんだ…」
「それは俺も分からない。
まだ1度しか顔を合わせて無いしね。
一応上級生としては下級生を守る気はあるみたいだけど…
何を考えてるか分からないし、ルキにまた何かするようなら許さない。
直ぐに言いに来なよ」
随分と頼もしいおにいちゃんだなと怒りを露にした瞳に苦笑いした。
まぁでもミドルに賛同する所が一つあると付け加える。
「上級生に敬語使えってあれ程言ったよね?
だからスリザリン生に手を出されたんじゃないの?
他にも狙われるよ!?」
またお説教が始まってしまったと項垂れる。
こうなると長いし、ちゃんと聞いてないと更に怒られる。
その時、ルキは幸か不幸か呼び出しに合った。

指定された部屋に行くと、そこは教員の部屋だった。
助けを求めに行った時に、近くに居て真っ先に声を掛けた先生がデスクに座っている。
深く座り、難しそうな表情で眉間にしわを寄せている。
そのデスクの前には背の高い水色の髪を一つ括りにした…ミドルが立っている。
彼も呼び出されたのだろうか。
「来たか。はじめましてだな。
俺は闇の魔術に対する防衛術を担当しているウィングだ。
今日お前たちがあそこで何をしていて、どのような状況で発見に至ったのかを聞きたい」
「妹と仲良くしてくれてる子の妹なので、挨拶をして少し話をしていました。
話し終えて先に食堂へ行こうとしたら彼女の悲鳴が聞こえて、戻ったら女生徒が倒れていました。」
ミドルはこちらには目を向けず、すかさず経緯を説明する。
嘘をつくのに手慣れている感じがし信用ならない。
ウィングがルキを見ると「相違ないか」と聞いてくるので、穏便に済ますためにも頷く。
するとはぁとため息をついた。
「ミドル、嘘をついてはいないだろうが、かなり警戒されているな。
どうせ捻くれた会話でもしたんだろう。」
「煩いよ。妹と仲よくしてる奴がどんな奴か確かめただけだ。
まぁ、ちょっと痛かったかもしれないね」
「お前なぁ…シスコンもいい加減にしろよ」
「お前もロリコンはいい加減にしろよ、カインに嫌われろ、ばーか」
表情を変えずに淡々と文句を言うミドルにウィングは頭が痛そうだ。
どうやらウィングはミドルが幼い頃から知っているようで、ルキに変な所を見せて悪いなと声をかける。
そして次はお前の番だと説明を要求する。
ミドルが去ってすぐ、気持ちを落ち着かせてから食堂へ行こうとした。
ミドルが去ったのと反対側の廊下は明かりもついておらず暗い。
電気が壊れたとかで夜は入らないように通達があった廊下だ。
広い校内にまだ慣れず、こっちには何があったかと少し進んで覗いた所…
そこには壊れて点滅するライトに照らされた、肌の白い女生徒が横たわっていたのだ。
思い出すだけでぞっとする。
若干の吐き気に顔色が悪くなってしまったのをミドルが見てはぁとため息をついた。
「可愛い子犬ちゃんにもう聞くのはやめたげてよ。ちゃんと気分回復する朗報はあるんでしょ?」
「あぁ、ルキが早くに見つけてくれたおかげで彼女は命拾いした。
ただ血がまだ足りないからな。
4日は安静と様子見だ。
…それにしても襲われたのに何も覚えてなかったのが気になる」
これは関係のない話だなとウィングはもう寮へ帰って休むよう二人を促す。
しかしミドルはルキにまだ行くなと部屋のソファに座らせた。
そして勝手に冷蔵庫を開け、今度は電子レンジを使う。
何をしているのか見ていると出てきたのはホットミルクだった。
「乱暴にしたお詫びだよ。
これ飲んで風呂に入ったらちゃんと寝なさい。
でも混血が生意気ばかり言ってたらまた虐めちゃうからね」
教員の前で堂々と言うなとウィングが呆れたようにミドルを叱る。
ミルクはハチミツが溶かしてあり、甘く暖かい感覚が体に広がった。
ハロウィンの日にとんでもない出会いと衝撃を受けたが、この暖かさに少しは眠れるような気がする。
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