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1年目

--ミドル視点

「お前ら、夏休みどうするんだよ。
夏休みは学校に残れないだろ?」
夜の勉強会中にルキが僕とカインに予定を聞いてくる。
カインをチラリと見た後、にこりと笑って口を開いた。
「僕は実家に帰るよ。
夏休みはウィングを保護者にしてカインを預けようと思ったんだけど…ウィングは仕事で長めの出張が有るみたいだからね。
ツバキの家に預けようかと考えてる。」
羊皮紙に教科書の内容をまとめながらそう言うと、ルキは「ふーん」と言って自分の兄を見た。
クロトはそれに気づき、少しためらう…というよりは勇気を出すために一つ咳払いをすると、カインの手を握り顔を見る。
「夏休み中の一ヶ月、俺の家に来ない?
この間の長期休暇にカインの話しを両親にしたんだ。
そしたら是非会ってみたいって言ってて…
カインが良かったらだけど、俺は君に地元を紹介したいな」
クロトは口説くのが上手いなと思いつつ、カインの顔を見ると嬉しいのか口元が綻んでいるので、こちらも嬉しくなり微笑む。
しかし人の家に泊まった経験が無いためか戸惑っているようだ。
…まぁ、男の子が居る家だもんな…
お母様が聞けば「なんてはしたない、男は獣であなたを狙ってるのよ」なんて言い出しそうだ。
カインもそれを思い出したのか、まさかの事を口にする。
「クロトは獣なのか?」
それに二人は意味が分からないという様子で首を傾げた。
過保護に育てられ過ぎて余計な事を言ってしまったと苦笑いをし、カインの両肩に手を置く。
「カイン、そういう事は本人の前で言うものじゃ無いでしょ?
真正直に聞かれて『そうです、カインの体が目当てです』なんて言う男は居ないんだから。
…僕がクロトなら大丈夫だって保証するから、泊まりたいなら行っておいで」
そう言うとカインは首を縦に振り「行く」と言うが、クロトとルキは僕の言葉で「獣」の意味を理解したのか苦笑いをしていたが、カインの男性との付き合いに母親が厳しかった事を説明すると納得した。
「安心しろよ。
兄貴もカインと過ごすと楽しいって思っただけだろうし
何かあった時は俺が助けてやるよ」
「なっ…!人聞きが悪いな。
冬休みみたいにカインを置いていくのが心配なだけで、他意はないよ」
僕とルキが声を揃えて「へぇー」と気の抜けた返事と、生暖かい視線を送ると、クロトは「やめて」と慌てたように否定してくる。
素直にカインが大切な人だから一緒に居たいと言えば良いのにと、まだまだ青くて初々しいクロトが微笑ましくて笑う。
「ミドルも泊まりにくるか?
ま、ついでだけどな。勉強も見てもらえるし」
ルキが兄をからかって楽しかったのかご機嫌な様子で言うので、魅力的な提案だと思う。
しかし自分の家の事を思うと簡単に首を縦に振るわけにはいかない。
「凄く楽しそうなお誘いだけど…んー
そうだね、最後の週だけお邪魔しようかな。
来年はN.E.W.Tも有るし、君達の勉強ばかりは見てられないから、泊まりに行くまでの間は家で試験勉強でも大人しくしてるよ。」
そう言えばルキは「ん、分かった。待ってる」と気にしない風に返事をよこした。
まさかルキから自分を誘ってくれるとは思って居なくて、正直嬉しい。
自由にできる夏休みは最後だろうし、本当は好きにしたかったが、ナイトレイ家に生まれた時点で自由など無かったなと心で苦笑いをした。
だが、大人しくそれを受け入れるつもりもない。
僕は僕らしく好きにしようと思いながら、5つ下の
可愛い後輩達を眺めた。

「で、6月の学年末試験はどうだったの?」
無理には見せなくて良いと付け加えながらそう言うと、カインは成績表を手渡してくる。
流石、僕が教えているだけあって呪文学は高得点だ。
闇の魔術に対する防衛術は、ウィングが担当教諭なんだ、幼い頃から彼に教えられていたカインなら余裕で当然だろう。
そして好きなだけあり天文学は好成績である。
「うんうん、僕の妹だけあって良く頑張ったね。
魔法薬学は苦手かな?薬草学も少し伸び悩んでるから…今度面白い本があるからプレゼントするね」
優しく頭を撫でると、嬉しいのか目を細めて頰を赤らめる。
我が妹ながら目に入れても痛くないなと思いつつ、次いでクロトとルキを見た。
「俺はまぁ、優が殆どだったよ。
でも天文学はちょっと理解が難しくて…
取りこぼしてたな」
「そっか、じゃあちょうど良いね。
カインは天文学が得意だし好きだから、知識欲が強いクロトが興味を持つ話しを沢山知ってるよ。
夏休みに色々聞いてみたら良いんじゃないかな」
流石クロト、僕が教えなくても優秀なのではと思う。
あれだけ呪文が使えるんだ。
他の教科も理解スピードが早くても不思議ではない。
「あー…俺は…
呪文学と闇の魔術に対する防衛術は優だったな。
あとは…それなり。
魔法史は悪かったけど…」
「秀でているものがあるならそれを伸ばすのも手だよ。
苦手なものは後から付いてくる時もあるしね。
僕が低学年の時にわかりやすくまとめた魔法史のノートがあるからあげるよ。
他も苦手なら教えて?
出来る事が有るなら手を貸すから」
成績に自信のなさそうなルキの手を握り、ニコリと笑うと彼女は少し顔を赤らめて他の二人に聞こえないように耳打ちをする。
「俺も薬草学苦手だから今度…泊まりに来た時に個別に教えてくれないか…?
カインは元々基礎ができてて理解が早いし、兄貴は才能あるからそつなくこなしちゃうし…
俺だけ遅れるのも嫌だし
う…無理なら別にいいんだけど…」
普段素直じゃない彼女が、勇気を出して自分を頼ってくれる事が可愛くないわけがない。
思わずふふっと笑みが零れた。
「良いよ。
じゃあ毎日課題を出すから夕食時に食堂で僕に提出して?
直ぐに採点して次の課題渡すから。
天才に追いつくのは努力と基礎をしっかり理解する事。
僕だって努力でここまで来たんだし、ルキも諦め無ければやれるよ」
頭を撫でると、今日はしおらしく「ん。」と言って頷いたので可愛くて仕方ないなと胸がキュっと締め付けられる。
綺麗な顔してしおらしくされてしまうと勝てないなと思った。

決められた教室の使用時間が終わり、クロトはカインに「寮まで送るよ」と話しかけている。
クロトのカインを見る目が優しくて、カインもまた嬉しそうで、大切で心の拠り所だった妹が幸せの先に遠のくように感じた。
ぼんやりそれを眺めていると、ルキに服を引っ張られる。
「…ボーっとしてどうしたんだよ」
「あ、あぁ…あの二人、互いに鈍感すぎるなって考えてただけだよ」
ルキは僕が寮まで送ろうかと言うと、子ども扱いするなと帰ってきた。
別に子ども扱いをしている訳では無いのだけども…友人と言うにはこの関係は何か違う気がして首を傾げた。
「別に、僕はルキを舐めてかかってる訳じゃないよ。
うーん…可愛い後輩、大切な友人…なんかどれもしっくりこないけど
僕はルキを気に入ってて目をかけている事は確かだね」
君は伸びるよと笑い掛けるとルキは照れたように視線を逸らした。
手を握り甲にキスをすると「僕に寮まで送らせて?」とおねだりしてみせると、困ったように唇を結ぶ。
「そういうのヤメろよな…
口説かれてるみてぇ…鳥肌立つ」
「酷いなぁ、スリザリンの女の子なら一発で落ちる僕の甘い言葉なのに…
有り難く受け取ってよね」
「受け取れるか、バカ」
そうは言っているが、可笑しそうに笑うのでその顔に癒されるなと思いながら笑い返した。
ルキを寮まで送っていくと、扉の前で彼が振り向き「絶対、夏休みは泊まりに来いよ」と言うので、「分かってるよ、約束」と柔らかく笑ってみせる。
グリフィンドール寮の門番になっている絵画の婦人が僕の笑顔にきゃっと頰を赤らめたので、投げキスをしてみせるとルキは「バカじゃねぇの」と笑いながら帰って行った。

最後の夏休み
僕にも楽しみができた。
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