1年目

--クロト視点

「グリフィンドールに20点、スリザリンに10点」
学校長、副校長への説明が終わった後、ウィングは三人の生徒にそう声をかける。
一連の事件を解決した事と、果敢にも立ち向かった事、魔法の技術を買われての点数だ。
その後は被害者になったカイン以外早く寮に帰るように言われる。
彼女は念のため一晩先生の部屋にいるようだ。
クロトが付き添ってもいいか聞くと、当然のようにダメだと返された後「そんなに下着が見えたのが良かったのか?」と言われ、全力で首を横に振り部屋を後にした。
寮に帰りクロトとルキは今までの事が夢だったのかと疑うように口を開いた。
「あの痣も魔法の一種なんだな…呪いの類の…
マーキングした相手の居場所が分かるって言ってた」
「そうだね、力が弱くて頻回には使えなかったからひと月に一回だって。
…まだまだ知らない魔法も沢山あるんだろうな」
そうポツリと呟く。
先程の事が忘れられなくて、人生初の魔法使いとしての戦闘に興奮が収まらない。
それでも明日はまたいつも通りに授業があると、無理矢理就寝についた。

朝目が覚めたが、なかなか寝付けずまだ眠たい。
食堂のグリフィンドール生の席にルキと並んで腰を掛けると、カインが駆け寄って来たのが見えた。
「カイン、昨晩は大丈夫だったみたいだね」
「…うん。
クロト、ルキ…助けてくれてありがとう。」
そう言うとカインは右腕にはルキを、左腕にはクロトにしがみつくように抱きしめる。
二人はびっくりしたが、ルキは「俺は大した事してねぇよ」とカインの右腕をクロトの背中へとやった。
兄貴に嫉妬されたり、恋敵と思われてもたまったものじゃない…
そう思い少し距離を取る。
3人で抱き合って居るならまだしも、男女が二人が抱きしめ合っているのは流石にマズイとクロトはカインの肩をグイッと押して離した。
抱きしめられた時に昨日と同じシャンプーの匂いがして、思わず彼女の下着を見たのを思い出し顔が赤くなるのをグッと堪える。
カインには自覚が無いのか、首を傾げて後ろの席にストンと腰を下ろす。
「あーぁ、カインすっかり懐いちゃったねー
お兄ちゃんには労いの言葉無いのかな?」
「兄さん…ありがとう。
私兄さんが居てくれたから負けないで頑張れてるよ」
今度はいつの間にかやって来たミドルに抱きつくと、優しく頭を撫でて貰っている。
カインが本当に安心している顔をしているので、クロトは優しく微笑むとそれを眺めた。

校長が魔法で声を大きくし全員を席に座るように促す。
ミドルとは別れ、カインの後ろに兄弟揃って座ると、校長は全員が座ったのを確認し穏やかに話した。
「嬉しい知らせじゃ。
学生を襲い何人も被害者を出した事件の犯人がついに捕まった。
それを成し遂げたのは生徒じゃ
しかも一年生が二人…6年生が付いていたとはいえ、素晴らしい技術で乗り越えたと聞いておる。」
そう偉大な魔法使いに褒められ、誇らしさとくすぐったさを感じる。
校長の目がこちらを見てフッと優しく細められた。
新たな偉大な魔法使いの誕生かもしれんと話すと、杯を掲げる。
その場にいた全員がそれに習いグラスや杯を持ち上げた。
「この喜ばしい出来事に乾杯じゃ!」
「「「乾杯!!」」」
それを合図にわぁっと歓声が上がると、料理が湧き出てくる。
ようやく訪れた安心な学生生活に全員が肩の力を抜いて、晩餐を楽しんだ。


「犯人捕まえた1年生ってお前だろ」
寮に帰るとフォルテがニヤニヤした顔でそう言う。
なぜ分かったか聞いてみると
「…校長が賛辞を投げた時に恥ずかしそうにしてたから…」
「クロトって分かりやすいよな」
とカイザとカルファーが立て続けにそう言った。
「俺だけじゃ無いよ…
ルキだってミドルだって居たし、ウィング先生も知恵を貸してくれたからね」
「でも先生もミドルも、兄貴が2年3年で習得する呪文を使いこなしていて褒めてたじゃねぇか」
ルキの言葉にやめてよと苦笑いをすると、優等生は違うなとフォルテが鼻で笑う。
襲われたカルファーもファインもどこかホッとしていて、ようやく平穏な日常が戻ったのかと胸をなで下ろす。
フォルテがわざわざファインの座るソファに座り直すと腰を抱いてくるので、彼女はサッと立ち上がって自室へと帰ってしまった。
それに舌打ちをする。
「フォルテ、ファインはその…君と親しくするせいで嫌な目に合っているみたいなんだ」
だから逃げたのかもと、気にしていた事を口にすると彼は驚いた顔をする。
そして眉間にシワをよせ、こちらに来て顔を寄せた。
「…いつからだ?何を誰にされている」
酷くイラついたように急かすので、彼女が彼の中で特別なのは分かった。
なら知っている事は話そうと口を開く。
気づいたのは年が開けてからだ。
フォルテを慕い恋をしているラミアとパトリアが、主にファインを敵視している。
恐らく前々から嫌がらせはあったのだろうが、クリスマスでパートナーになった事から激化したようでクロトの目に留まった。
水をかけられたり、教科書を破られたり、陰口に、物を隠すのは良くされているみたいだ。
「気づいたら手を貸してたんだけど…
ファインはフォルテに絶対言うなって笑うんだ。
でもそれで彼女がずっと辛い思いをするのや、友人関係を変えなきゃないけないのはおかしいよね。
彼女の意思に反するけど、原因になってるフォルテにも伝えるべきだと俺は思ったから」
言うのが遅くなったと伝えると、半年以上も我慢してきたのか?と呟く彼の目が怒りに満ちていた。
どうやら最近ファインに避けられていて原因を探っていたらしい。
彼女も精神的に参っているのだろう。
今までは自分の意思は曲げず耐えてきたが、それができなくなったため避けるようになってしまったのかもしれない。
フォルテは立ち上がると、遠慮なく女子部屋に入っていき…クロトが名前を挙げた二人を連れて談話室に戻ってきた。
彼に話しかけられたのが嬉しかったのか、二人の女生徒は浮き足立っているが、その場に居た全員苦い顔をした。
フォルテがソファーに座ると横に座ろうとする二人に待ったをかける。
「何で俺の横に座ろうとしてるんだ?
お前らはこっちだ」
靴で床を蹴ると、ラミアとパトリアは驚いた顔をしておずおずとカーペットの上に座る。
足を組み肘をついたまま二人を見下ろすと、大きなため息を吐く。
「…お前ら、ファインに余計な事してるんだってな」
「なっ!私達は悪い事はしてません!」
「そうよ、ただ遊んであげてるのよ!
一人だけ抜け駆けしようとした時は罰は与えるけど、ズルをするあの子が悪いでしょ?」
「……俺と仲がいいから、か?」
冷たい視線が突き刺さるのか、彼女達はびくりと体を震わせる。
どうやらファインと親しくなってから、フォルテは女遊びを控えていたらしく、相手されなくなり嫉妬していたようだ。
それを必死で訴え、自分達ともっと一緒にいるようせがまれる。
そうすればファインに手出しはしないと泣きながら言うのだ。
フォルテは更に不快な顔を見せた。
「俺が誰と友人になろうが、誰と話そうが勝手だろ?
お前らに俺の意思を操る権利はない。
汚ねぇ手しか使えねぇ女より、巨乳で純粋で優しい女の方が何倍も魅力的でそそると思わねぇか?」
その言葉に、彼女達はフォルテに好かれているどころか嫌われている事に気づく。
自分達は何てことをしたのだろうかと、もう戻らない彼からの気持ちに涙を零す。
フォルテが更に釘を刺そうとした時、クロトがフォルテの肩を叩いた。
「もう十分分かってると思うよ」
「…チッ。
いいか、これ以上自分の手も心も汚すな。
折角女に生まれたんだ。
恨んでるより笑ってる方が良いに決まってるだろ」
そう言うとフォルテはソファーから腰を上げ、彼女達の頬を撫でる。
頬を赤く染め涙が止まった二人に「ま、お前らはもう二度と俺の中には入れなくなったからな。諦めろ」と見下したように言う。
しかし吹っ切れたのか、彼女達はそんな俺様な所も素敵だと色めき立っているので、その場に居た男は苦笑いをした。
「フォルテ、女遊びやめてたんだな!」
「…別に、ファインがそういうのが嫌いだからじゃねぇよ。
この無表情男にも優男にも負けてられねぇからな。
それだけだ」
そう言うとフォルテは先に部屋に戻ると手をひらひらさせて戻っていった。
その言葉にカルファーははぁ〜っとため息を漏らして感心した。
「…カイザは写真記憶術持ってるし、クロトは才能か?フォルテもできたヤツだもんなー
俺バカだから試験の時は助けてくれよ…」
カルファーが肩を落としながらカイザに言うと、…普段から勉強しなよ…と返されていた。
これで彼女の問題が解決したなら良いのだけどと、その様子を横目にクロトは優しく微笑んだ。
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