1年目

4月21日イースター祭が開催されるとなり、授業は本日休講だ。
食事はいつもと違い、ウサギをモチーフにしたものや卵料理が多く取り揃えられている。
適当に空いているところに座ると、パタパタと誰かが近寄って来たので振り向いた。
同級生のグリフィンドールの女子だ。
「あの!カイザくん…これ…受け取って!」
何かと思えば自分でペイントした緑とピンク色の卵に、花柄の模様が描かれている。
そういえば、女子たちがイースターの日に卵に想いを込めてプレゼントするのが流行っていると話していたのを記憶の端で覚えていた。
確か…緑は子孫繁栄、豊穣、希望、ピンクは成功だ。
花のモチーフも確か子宝だったなと思い出しながら、彼女が自分に向ける感情に気づき受け取るか一瞬迷う。
しかし受け取らないとなると彼女はどう思うだろうか…それなら表情は変えず何も聞かない、何も知らないフリをしていた方が良いと思い、それを受け取る。
「…卵?自分で作ったんだ。上手だね…」
ありがとうとそれだけ言うと彼女から顔をふいっと反らし食事に掛かる。
気持ちの無い相手に期待させるようなことはしたくない。
男子ならズバッと言ってしまうのだが、女子となると扱いに困る。
…なるべく傷つけたく無いし…
そう思いながら、彼女から距離を置いておくよう注意を払う事にした。


が、彼女は何を思ったのか後を付いてくる。
今日一日校内や庭などにイースターエッグが隠されているようで、一定数以上集めた人には褒美があるとかで、みんな折角だからと探しに走り回っていた。
カルファーに助けを求めようと思ったが、恋人になったシークと楽しそうに走って行ってしまったので、彼女の事を話す間もない。
一定以上の速度を落とさないように廊下をひたすら真っ直ぐ歩いていると、突き当たりでツバキがしゃがんでいるのが見えた。
「…ツバキ…」
「あ、カイザさん。
イースターエッグをお探しですか?
私、今見つけたところで…」
ツバキが声を掛けると立ち上がり、こちらに青い卵を見せてきた…かと思うと、ピタッと動きを止め自分ではなくその後ろに視線をやる。
そして直ぐにカイザの顔を見ると、困ったような顔をし、小さな声でなるべく口を動かさないように話した。
「…あの、私お邪魔でしょうか?」
「え?…なんで?」
「カイザさんの後ろで、可愛らしいお方が物凄くそういう顔をされてますので…」
オロオロと視線を泳がすツバキに、今は後ろを向けないが何となく状態を察し、苦笑いをする。
…いつから自分に好意を持っているのかは知らないが、クリスマスにパートナーとして誘った相手と話しているのは彼女にとって気分が良いものでは無いだろう。
ツバキにまでとばっちりが行ってわいけないと思い、「じゃあ、またね」と声を掛け離れようとした時、ツバキに服を掴まれる。
私の勘違いでしたら聞き流して断ってください。
と小さな声で前置きしてから、後を付いてきていた彼女にも聞こえるように笑顔で口を開く。
「ハッフルパフの友人と昨晩イースターのお祝いにお菓子を作ったんです。
父の生まれであるニホンのお菓子なのですが…良かったら食べに来ませんか?
今を逃したらしばらくは食べられませんよ」
ふふっと楽しそうに笑いながらツバキが言うので、彼女は事情や理由も聞かず助けようとしてくれているのだと気づく。
良いの?と聞くと勿論です!と嬉々として返してくるので、言葉に甘える事にした。
しかし、ツバキは自分の手を握ると今度は後ろにいたグリフィンドール生にも声を掛ける。
あなたも一緒に行きましょう!と彼女の手も握るとにこにこしたままハッフルパフの寮の方へと歩いて行く。
…助けてくれる…んじゃ無いのか
そう思いながら教室に入ると、多くのハッフルパフ生に紛れて他の寮生も混ざっていた。
ツバキはきょろきょろ見渡すと、いくつか皿にお菓子を盛り手渡してくる。
「こっちは私が抹茶で焼き菓子を作ったものです。
こっちはカインが作ったもので、凄く美味しいですよ!
シークちゃんのチョコレート菓子も可愛くて素敵ですよね」
そう言って説明すると、今度はグリフィンドール生の女の子の手を引くとお菓子を選びに連れて行ってしまい、一人残されてしまった。
…あんな積極的でお喋りなツバキは初めてだ。
そう思っているとカインがそばに来て腕を引かれる。
驚いてその通りにしたが、教室に続く準備室に入ると手を離しクルリとこちらを見る。
「…ねぇ、ツバキは何をあんなに無理しているんだ…?」
その言葉に確かにと思い従姉妹である彼女に事情を説明した。
するとカインは「モテるんだな」と感想を言うと、持っていた皿からツバキが作ったものを選び口に押し込まれる。
突然の事で驚いたが、その優しい味わいにツバキの暖かみが伝わりなんだかホッとする。
この味は好きかもしれないと考えていると、カインが表情を変えずため息を付いた。
「…しばらくここに居たら良い。
ハッフルパフ生しか出入りしないから。
ツバキにはここに居る事は教えておく。」
ありがとうと庇い立てしてくれる彼女に礼を言うと、グリフィンドール生の女の子よりツバキを大事にしてくれたら私は嬉しい…と言い残すと準備室を後にした。


皿の上のモノを食べ終えるとカイザは会場に戻る。
ツバキはそれに驚いた顔をしたが、好意を寄せる女子生徒は嬉々としていた。
その女の子に近寄り、朝貰った卵を彼女に返す。
そして君にそういった感情は無いという事をはっきり伝えると、彼女は酷く驚いていたが険しい顔をして教室を去って行った。
「よかったのですか…?」
心配そうにツバキが声をかけてくるので、小さく微笑む。
「…うん、彼女の事よりツバキに無理させるのが嫌だったからね…」
そう言うとツバキは驚いて目を丸くし、気づいていたのですねと苦笑いをする。
好きだと追い回されるより、ツバキのように気づいたらそこに居るような安心できる人の方が何倍も自分には良い。
そう思いながらため息をつくと、暖かいお茶をコップに入れ手渡してくれた。
「…ありがとう…
ツバキの作ったお菓子美味しかったよ。
ニホンのお菓子は初めてだったけど、甘すぎなくて好きかも…」
「ホントですか?
なら勉強みて下さるお礼にまた作りますね」
嬉しそうに微笑むツバキを横目にお茶を一口飲む。
胸を満たすような暖かさに気持ちが緩む気がした。
すると今度は空いた方の手に丸みのあるものが握らせられる。
それは卵で、色は紫色に三角の模様があしらわれている。
パッとツバキを見ると、ふふっと笑いかけられた。
「先程見つけたのでカイザさんにあげますね。
私からの気持ちです。」
紫は信頼、三角はイースターエッグに一番使われるが魔除けの意味を持つ。
わずかに微笑み返すとそれを大事にポケットにしまった。
「…ありがとう…でも返してって言ってももう返さないよ?」
「受け取ってくださるのでしたら嬉しいです。
返してなんて無粋な事は言いません」
こちらも返品不可ですからと楽しそうに言うので、彼女には敵わないなと優しく微笑んだ。
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