1年目

---ミドル視点

毎年の如く休みが開け列車に乗り込む。
来年は最高学年だ。
試験が控え就職活動があり帰省することもなくなる。
本来なら今年もその予定だったが、カインの事もありしつこく帰省を促されていた。
まるで妹などいなかった様に振る舞う家族に吐き気のする最悪な休みだ。
しかし帰って良かったと心底思う。
自分の中で一つ決心がついた。
汽車の中を歩くとふとルキの姿が目に入り、座席の扉を開く。
向こうはげっという顔をしたが、気にせず隣に座った。
「冬休み楽しかった?」
「はぁ?別に…家族で過ごしただけだし、大して変わらねぇよ。
お前は楽しかったのか?」
「お前って…君に言葉遣いを言ってもムダなのはよく分かったよ…
…家族と居て楽しい感覚は無いなぁ
焦りを感じることは有ったけど」
そういうと興味無さそうにふーんと言葉が返ってき、いろいろあるんだなと呟く。
体裁や跡取りばかり気にする親や親戚には気が休まらない。
名家に生まれるのも辛いものだなと自分の境遇に苦笑する。
唯一大切にし苦しみも喜びも共有してきた妹に早く会いたくて仕方なかった。
まだカインが入学する前、頻回に手紙をやり取りし、帰省すれば離れなかった彼女を思うと今年は一人にしてしまった事が悔やまれる。
また、しがらみ無く側にいられたウィングに軽い嫉妬心が湧く。
それが知られたらまだ子どもだのシスコンだの言われても仕方ないなぁと思いながら、背もたれに体を預けた。

汽車が走り出してすぐ、クロトがやってきた。
自分の姿を見て驚くが、何食わぬ顔をしていたらそのまま向かいに座る。
「…そういやクリスマスにカインにプレゼント送ったんだってね。
凄く喜んでたよ、この色男め」
「それはどうも」
クロトはカインのことで突かれ少し表情を緩めるが、変わらず憎い返事を返す。
ベルトから伸びるチェーンを辿り、ポケットからカインがあげた時計を出すと蓋を開く。
「ここに刻まれた家紋はナイトレイ家のものだ。上手く使えば役に立つ。
学生にはあまり意味はないかもだけど。
大切にしなさい」
そういうと再びポケットに入れる。
社会に出て純血の魔法使いを相手にする時黙らせる事位なら容易だ。
また闇の者とも繋がりがあるナイトレイ家の家紋なら多少の身の安全に使う事はできるかもしれない。
そんな事に使う日が来なければいいけどと心から思う。
そう考えていると、ふと、血液の鉄臭い匂いがした。
思わず顔を上げると、学生ばかりの車内であるはずなのに廊下を大人の男性が歩いて通り過ぎたのが目の端に映る。
立ち上がって扉を開き去った方向へ目をやるが、そこには誰も居なかった。
突然の自分の挙動にクロトとルキは目を見張り、こちらを不可解そうに見てきたため、誤魔化すようにニコリと笑い返す。
「ごめん、びっくりさせたかな?
知り合いが通った気がして覗いたんだけど勘違いだったみたい」
「いや嘘だろ。
血相変えてまで慌てるような知り合いってどんな奴だよ…」
ルキにズバリと言われ驚く。
そんなに顔に出てたのか、あるいは彼がよく見ていたのか…
どちらにしろ嘘が得意な自分を見抜かれたのはなんだか新鮮な気がした。
驚いて少し思考が停止し苦笑いを零す。
「はは…ルキは面白いね。僕の負けだ。
さっき血の匂いがして廊下みたら大人が歩いてたから、ちょっとびっくりしてね。
ゴーストでは無かったのに覗いた時には既に姿が無くて「きゃああああああ!!!!」
そこまで話したところで別の車両から悲鳴が聞こえる。
バタバタと現場に急ぐ生徒達や、何事かと覗く人でざわめき出す。
二人もその異変に立ち上がったが、出ていかないようにすかさず廊下への扉と窓を閉め鍵をかけてやる。
何事か気になるようでこちらを見てきたが、自分達にも危険が迫っているのだと理解したのか大人しく座った。
「…その大人が去った方角は悲鳴が聞こえた方向と同じだよね」
クロトが落ち着いた様子で言うので喰えない子だなとつくづく思う。
そうだよと頷くとルキは「一連の犯人が列車に乗っているのか?」と血相を変える。
ハロウィンの夜を思い出したのだろうか。
生々しいあの光景を直ぐに忘れられる訳はないなと、彼の首の後ろに腕を回し自分の胸元に抱き寄せる。
背中を撫でると、優しくするなよバカ…と悪態をつかれるが、大人しく腕に収まっている姿は可愛く思えた。
「エクスペクト・パトローナム」
杖を振ると銀色の毛並みが美しい狼が姿を現わす。
狭い座席を駆け回るとスッと姿を消した。
それに見惚れている二人に目を細める。
「大丈夫、僕は成績優秀なんだ。
特に呪文系はね。
そばにいる時に何かあったら守ってあげる。」
そう言い落ち着いたルキを離すとミドルは立ち上がる。
するとみるみるうちに身長が低くなったかと思うと、地面に這いつくばる大蛇へと姿を変えた。
「…お前、アニメーガスだったのか?」
ルキの言葉にミドルは反応するように首を持ち上げ、廊下へズルズルと這ってでた。
しばらくして戻ってくると再び人の姿になる。
思わぬ収穫に自然と笑みがこぼれた。
扉を閉めるとルキとクロトに近寄るよう手招きする。
「ふふ、面白いものが見えたよ。
蛇の目の一つは赤外線でモノを見て獲物を探すんだ。
現場近くに行ったら、コウモリが一羽身を隠しているのが見えたよ。
死角に入っても体温までは隠せて無かったね」
「もしかして、ミドルと同じアニメーガス?」
「かも知れないね。
襲ったのが人だったり小さい生き物だったりするのはそのせいかも。
変身術じゃ自分の意思で術を解けないからね」
変温動物に冬は厳しい…すっかり体が冷えたと、ルキの服の中に手を入れ暖を取ろうとすると、寒いのが苦手だったようで酷く怒られた。
いる場所が分かっているなら何で捕まえなかったのか聞かれたが、自分は未登録のアニメーガスであり表立ってあの姿で活動できないこと、現場で大蛇が人目に着けば自分が犯人とされかねない事を挙げた。
「それにコウモリの天敵だからね
僕を見かけて場所を移動したんじゃないかな」
そう話していると魔法学校に着き汽車が停車したのを感じる。
サッとローブを羽織ると二人に動く時は僕も誘ってよねと楽しげに言い汽車を後にした。
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