1年目

--クロト視点

生徒達が待ちに待った今日、今年最後の学校でクリスマスイブの夜だ。
いつもの食堂はパーティ会場と変わり、クリスマスの装飾で彩られている。
魔法で粉雪が舞う中、着飾った学生や教員が華やかな姿を見せた。
「クロト…おまたせ」
会場から少し離れた廊下で待ち合わせして正解だったと思う。
普段黒いローブに身を包んでいるからか、ドレスがより華やかに見えた。
控えめな可愛らしさをもつ服がよく似合う。
誰かに見せて、彼女の可愛さに気づかれるのが嫌だなと心から思った。
「凄く可愛いね、似合ってるよ。」
「でしょう?僕ってやっぱセンスあるよね
今日のために少し髪を伸ばさせて正確」
カインに声を掛けたつもりが、いつの間にか現れたミドルに賛辞が奪われてしまった気分だ。
パートナーであろう金髪美人のスリザリン生を横に連れているが、彼女はこちらが気に入らないのか「フン」とそっぽを向いたままだ。
その様子にミドルは苦笑いし、今夜は沢山楽しみなよとヒラヒラ手を振ると、パートナーを連れ会場に入って行った。
「ごめん、彼女純血主義なんだ。
…でも私は彼女が一番可愛そうで仕方ない。
兄さんは、フッても後味悪く無さそうな…
一番自分の家柄にしか興味の無い子を選んだって言ってたから」
表情を変えずに言うカインの代わりに自分が苦笑いする。
家が立派なのも苦労するのだなと…ミドルだけでは無くカインも含めそう思った。

いつまでも廊下にいては冷えてしまうため会場に行こうかと声を掛けると、慣れた様子で寄り添うように腕を絡めてくる。
きっとマナーとして学んだだけでなく、そういった場の経験があるのだろう。
距離があまりにも近くてドキッとさせられる。
会場内は暖かくそれぞれが思い思いに楽しんでいる。
入ってすぐ、カルファーとシークが飛び込むように寄ってきた。
「クロト!なんだカインを誘ってたのか。
お前どんなに可愛い子に誘われてもうんと言わないから、来ないのかと思ってたぞ」
寮違うのによく一緒に居るもんね、とシークも声を弾ませながら言った。
「それはお互い様でしょ
でも、シークに会いたいからって夜外出時間外に寮を抜け出すのはもうやめてくれるかな?」
そう言うとカルファーは悪びれもせずにこにこしたまま、ゼンショする!とシークの手を引き逃げるように去っていった。

…かと思うと今度はグイッと肩を引っ張られ見るとフォルテとカイザがにらみ合っている。
「なぁ、クロト。
やっぱ女は巨乳が一番だよな?」
「…何言ってるの?
デカイだけじゃ品に欠ける…形が綺麗じゃないと」
パーティの場で何を張り合ってるんだと思っていたら…まさに二人の好みを体現しているファインとツバキが、呆れたような恥ずかしいような顔を真っ赤にして側にいた。
確かにファインはこの歳にして既に胸が大きく男なら見てしまう程に魅力的だ。
ツバキは程よいサイズで、ドレスを着ていても胸元がいやらしくなく綺麗である。
「クロトはどっちが…」
と二人が口にした時、ふとカインの体を見る。
……形や大きさ以前に貧乳だ。
なんだか聞いてはならない事を聞いてしまった気分になり、その場で固まる。
途端に静かになった二人が注目したままなので、カインは首を傾げた。
「あのさ…人のパートナーの体をじろじろ見ないでくれる?
俺は胸に好みとか無いから
というか、女の子達が困ってるから下らない喧嘩はそこまでにした方がいいんじゃ無いかなぁ?」
少し凄んで見せるとフォルテとカイザはぐっと押し黙る。
カイザは直ぐにツバキの元へ行き、困らせてごめんと気遣い静かな場所までエスコートする。
フォルテは水を差され不満そうだが、ファインがなだめると、暇つぶしの対象が変わったのか今度は彼女に掛かりっきりになった。
ひとまず大暴れをする事がなくホッとはしたが、こんな日にまで普段と変わらないやりとりに苦笑いが溢れる。
「クロトは友人が多くて慕われているな。
そういう所、素敵だと思う」
「悪い奴らじゃ無いんだけど…手間が掛かって仕方ないよ」
と漏らすとカインが少しだけ頰を赤らめて視線を逸らしたので、気になり顔を覗き込む。
「どうしたの?顔赤いよ」
「えっ、あ…
…クロトは人気あるのに、沢山いる友達の中から私を選んでくれたんだなと思ったら嬉しくて…」
小さな声で恥ずかしそうに言うカインに胸がキュッとなった。

空いたソファーに座り談笑していると、ふと妹のルキが目に入った。
その横には頰に赤い紅葉を咲かせたミドルがニコニコしている。
こちらに気づいたのか小さく手を振ってきたが、先程の女の子が居ない事から「フッたんだな」とすぐに分かり苦笑いが漏れる。
絡まれて鬱陶しそうなルキに心の中でドンマイと声をかけておく。
ふとカインを見ると「先生と一緒に居るのは誰だろう…」と呟く。
視線の先を追うとウィング先生がアルビノで髪まで白い女生徒を側に連れているのが目に入った。
今や親代わりで唯一頼りにしている大人の事だ、カインにとっては何より気になって仕方ないのだろう。
「そういや医務室で見かけた事あるよ。
ジルエット先生の妹さんで同い年だったかな」
そういうと「そうか」と興味無い素振りを見せて視線を外す。
本当は気になるんだなと思うと少し妬けてきて、腰に腕を回し距離を詰めた。
カインは驚いた顔をしたが、頰を赤らめて俯き体を預けてくる。
「明日兄さん見送りに行く時、クロトにも会いに行くね」
「ありがとう。そんなに長い休みじゃないけど…手紙送るよ」
今危機がはびこるこの学校で彼女を残していくのは気が気でないが、グッと我慢し無事を祈るだけだった。
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