1年目

「1210か。今日はお前寮からでるなよ」
えー!と不満を漏らすカルファーにフォルテは死ぬつもりかバカと暴言を吐く。
首にできた痣は今日の日付けをくっきりと浮かび上がらせている。
授業に皆んなが出て行く中、カルファーは退屈そうにソファーに寝転んだ。
責任を感じたシークが度々心配し、痣を確認しに来ていたが、今日をやり過ごせば彼女もホッとするだろうかと考える。
しばらくして昼食の時間にフォルテ、カイザ、クロト、ルキが食事を持って様子を見に来た。
「まだちゃんと生きてたか」
「不謹慎だな!…まぁ飯はありがとう。
昼休みは寮に居るのか?
ちょっと部屋に行ってくる。すぐ戻るな」
そう言うとカルファーは自室に向かった。
しかし待つ事も無くすぐにガラスが割れる音と、カルファーの怒号が聞こえ全員で急いでそちらへ向かう。
扉を開けると室内に変わりはなかったが、窓が内側から外に向かって割られたのが分かる。
そしてその窓の側には首から真っ赤な血を流したカルファーが、肩で息をして立っていた。
傷口を手で押さえているが血が止まらない。
クロトはカバンからタオルを出し傷口に当てると、医務室へ!と声をあげた。

「いやー、やられちまったな!」
カルファーは大事にはならなかったが、ここまで通って来た道が赤く染まり大惨事である。
割と多めに血を流したにも関わらず、血の気が多いのか処置をして貰うとピンピンしていて飽きれた。
首からの出血は止まり、大きなガーゼが貼り付けられる。
増血剤を投与され、鉄剤が処方された。
安静にしてろと言われてもじっとしていないであろう彼にとって、これだけで済んだのは朗報だ。
これで痣が出ても危機は回避できるのだとわかったのは怪我の功名だろう。
「カルファー!」
知らせを聞いたシークが泣きそうな顔をしてカルファーに飛びつく。
付き添って来ていたツバキとカインの息が上がっているので、余程急いで駆けつけたのが一目で分かった。
カルファーは屈託の無い笑顔でシークの頭を撫でる。
「もう大丈夫だ。結構痛かったけどな!
でも倒れたりしてないだろ?
ちゃんと俺は無事だ。だから泣くな」
その時その場に居た全員がカルファーにはシークが駆けつけてくるのを分かっていて、無理をしているんだと気づく。
いつものテンションを保っているが、貧血のせいで白くなった顔色は隠せない。
本当は横になりたいくらい気分が悪いのではと心配になる。
しかしカルファーは「これでシークとクリスマスパーティーに出られるな」と嬉しそうに笑っていた。
カイザが付き添いに来ていた二人に目を配らせると、ツバキとカインがシークに「今日は疲れているしまた明日にしよう」と促し、医務室から出て行く。
それを確認するとカルファーはベッドに横たわり肩で息をした。
「しんっっど…酸素が回ってない感じが…
なんだこれ、俺風邪とか引かないから…
病気に慣れてなくて…余計にしんどい」
冷や汗をかいて転がる彼に、全員が変に意地張らなくても良かったのにと苦笑いする。
息が整い体調が落ち着いた頃、部屋に戻った時の状況を説明し始める。
部屋に入ってまず違和感を覚えたのは窓だった。
開けてない筈なのに開いている。
鍵をし忘れていたとしても、勝手に開くような強風は吹いていない。
警戒しながら窓を閉めようと近づくと、痣ができた日に聞いた羽音が横を通り過ぎる。
振り返っても姿は無く、変だと顔を上げると首筋に激痛が走った。
しかし首がやられるのは前の二人から分かっており、すぐに手を伸ばしたので刺さっていた何かが離れ、窓を割って外に出て行ってしまったのだ。
「もう少しで捕まえられそうだったんだけどなぁ…
でもファインの時と違って、襲ってきたのは人じゃ無く何か小さいものだったぞ」
そして先ほど痣を確認したが消えて無くなっていた。
以前に襲われた二人も、襲われた翌日になると痣は無くなっている。
今回は失敗したためか、そのまま直ぐに消えてしまったのだろうか…
何にせよ謎が謎を呼ぶばかりではっきりしない。
分かった事は痣は襲われる日を示している事
首から死にかけるほど血を抜かれる事
人のようで羽の生えた小さなものである事
窓を開け侵入しており知性のある生き物である事
そして痣が出ても回避する事ができる。
どこに潜んでるとも知れない脅威だが一つ希望が見出せたことに安堵する。
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