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1年目

兄に手を引かれ列車に乗り込む。
向かうは魔法学校だ。
私は純血と呼ばれる魔法使いだけで構成された家系の出である。
代々スリザリンで学び優秀な成績を収めてきた。
5つ上の兄もスリザリンに在籍しており、親も私のスリザリン入りは確定だろうと期待されている。
正直血が何だとか、マグルだとかどうでもよいと思っている自分は家で異端扱いされかねない。
そのためこの考えは兄以外親も知らない。
しかしスリザリンならスリザリンでも構わないのだけどもと、手元の本に目を落とした。

しかし組み分け帽子が叫んだ寮はハッフルパフだった。
瞬間的に兄の顔を見ると、酷く驚きこちらを見つめている。
いつまでも椅子に座っているわけにはいかないため、席を移動した。
…まずいことになった。
自分の思考や本質を組み分け帽子はみのがしてくれなかったのだ。
しかも一番の落ちこぼれと言われる寮に入ることになるとは…両親もカンカンだろう。
ホグワーツ創立の4人のうちが一人ハッフルパフ。
優しさに溢れ拒否することなく、種族や過去にとらわれず受け入れた人物だ。
特に個性も無く他の寮へ入れなかったあぶれた者を拾う落ちこぼれ寮として認識される。
もちろん優れた人物も沢山排出しているため卑下するつもりもない。
ただ…家での私の立場はこれで無くなるだろう。
そして名高きナイトレイ家の娘が、まさかハッフルパフにと周囲の騒めきにも表情を動かさず居ると、隣にツバキが座る。
同い年のいとこで、どうやら同じ寮に選ばれたらしい。
彼女は分家で純血主義からは外れて育った。
心の優しい彼女がこの寮なのには納得する。
事情を知るためか何も言わずにわずかに震える手を握り返してくれ、少し落ち着く。
兄が酷く心配した顔でこちらを見るので、微笑んで手を振って見せる。
すると兄はツバキに目をやると頼むと言うようにウィンクした。

夜には速達で部屋に手紙が届き、気の狂ったような文面に涙が溢れる。
あぁ、私はここで終わったのだ。
家族に突き放され疎外感で溢れた。
先程早速動いた兄が、両親たちから何かされないようにとツバキの家であるアスマに籍を動かす手筈を取ったと報告しにきた。
酷く心配した顔で抱きしめ「僕はずっとカインの兄だからね」と変わらぬ愛を注いでくれる彼の身も心配だ。
二人で分散していた親の期待が全て彼にかかる。
何事もそつなくこなす彼だが、陰で血の滲むような努力を重ねているのは知っていた。
そっと背中に腕を回し「私は大丈夫。兄さんこそ無理しないで」と返した。
手紙を読んだ後、教員に許可を貰い中庭に一人出ると像の縁に腰を下ろす。
これからどうなるのだろうと涙で腫らした目蓋を気にしながら空を眺めていると、視界に赤毛の男子学生が映る。
向こうも誰かがいるとは思っていなかったようで、驚きこちらを見返してきた。
「ごめん、親に連絡入れにフクロウ舎に行ってたんだ。
帰りがけに星が綺麗だから覗いただけで…泣いてる人が居るとは思わなかった」
彼は困ったように笑ってみせる。
赤いネクタイ…グリフィンドールだ。
勇敢で信念を持つ力強い寮の彼の優しい表情になぜかまた涙が出る。
彼は慌てて近寄り、肩にローブをかけてくれた。
今は優しさが身に染みる。
しかしこの姿を見られてしまったら事情を話さざるを得ない。
一つ一つ、自己紹介から始め説明をしていった。

「なにそれ、自分の子が可愛くないの?
確かに君の家の名前は有名だけど…
そこまで酷い所とは知らなかった。」
自分の話しに憤りを感じているのか、混血のクロトは自分の事のように怒ってくれる。
彼の暖かい優しさは、親が自分に向ける家ありきのものでなく、兄やツバキから貰う感情に似ていて安心する。
「でも学校にいる間は親も分からないんだから、自由にしていたら良いんじゃないかな。
優しいお兄さんやいとこが居るなら大丈夫。
良かったら俺とも友達になってよ。」
そう手を差し出されそれをそっと握り返す。
屈託のない笑顔を向けよろしくと笑う彼がとても眩しくみえ、頰が紅潮する。
入学初日は最悪の日であり、ステキな友人が出来た日になった。
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