テスデイ 聖杯戦争小ネタ
路地裏に荒い息が響く。
「畜生、なんで、なんでっ、こんな目に……っ!」
男は、なにかに追われていた。それが何なのか、男にも分からない。けれど、見られている、見られている、見られている!得体の知れないものが、恐ろしいものが!止まれ、立ち止まるな、後ろを振り向かずに足を動かせ。止まってしまったなら一環の終わり、この身は供されてしまう!訳も分からないままにそんな思いばかりが男をつき動かす。
足がもたつく。息は絶え絶え。持っていたモノなど、どこかに落としてしまった。それでも、男の生命としての本能が警鐘を鳴らす。生き延びたくば、それしかないのだと。
ゴミに足を取られ、躓き、無様に男は転んだ。見あげた先は行き止まり。コンクリートの壁が、悪魔のように嗤う。
「あ……」
こつ、こつと音が迫る。わざとその存在を知らしめるかのように。怯え、震え、抗ってみせろとでも言うように。
けれど、男は何も考えられなかった。
これだから神なんてものはくだらない、クソだ、まやかしだ。そんなモノがいるのなら、この窮地から男を救うはずなのだから!
「ああああああああああぁぁぁいやだいやだいやだオレはまだ死にたくないぃぃぃぃ、やめろ、おねがいします、どうかっ」
「今際の際の言葉がそれか。情けねぇなぁ」
酷薄な音がした。それと同時に男の胸元からは、手が生えていた。黒くひかる、鋭利なナニカ。それをぎょろりと動いた目玉が視認した瞬間、男は発狂しかけた。けれど。
「……、ァ、」
血が飛び散る。男の胸元から、口元から。最後に足掻くように地を掻いた手は、何も掴めずに。男は小さな声を最後に絶命する。
けれども、こんな戦士でもないものにかけてやるほどの情を彼は持ち合わせていなかった。
「こんな男の心臓を喰らわんとならないとはな」
死体となった男を、見下ろす。なんて、情けないのか。抗いもしない、戦士たる資格すらない。せめて、最後まで足掻いたのならば食いでもあったろうに。本当なら選り好みくらいはさせて欲しい所だよ、そう酷薄に告げて、腕を引き抜く。その手に持った脈打つ心臓を供される価値すらないものだと、一呑みにする。
ああ、なんて不味い。これは本当に魔術師の心臓だというのか。こんなのはゲテモノにも劣るだろう。味わうことすらも惜しい。
口元を赤く染め、舌打ちを一つ。
「ったく、召喚に応じる相手を選ぶべきだったな」
夜の風が金糸を靡かせる。もう暫くすれば、あの気に食わない繰り人形共がここへとやってくるだろう。そのことでさえ腹立たしくて、テスカトリポカはため息をついた。
**********
テスカトリポカは、アステカの全能神。本来、触媒を用意されたからといって召喚が叶う存在ではない。
けれど、そんなに テスカトリポカが召喚に応じてやるために人間の身体まで用意して召喚に応じてやったのは、単純な好奇心だったからだ。
もっと血湧き肉躍る戦いを。このテスカトリポカの相手たるに相応しい戦士を、戦いを。
聖杯戦争とは、様々な時代を生きた英霊が召喚され、争うのだという。ならば、テスカトリポカのお眼鏡にかなう戦士が一人くらいいてもおかしくはない。
そんな好奇心で参加してしまったのがよくなかったのだろうか。
「テスカトリポカ、おい、どこにいる!」
喧しい男の声に舌打ちをひとつ。テスカトリポカにとって、戦士とは到底認められない輩の声。テスカトリポカの、マスター。
この男は、卑劣であった。策を練り、弄すのは認めよう。他者を上手く使う事も認めよう。それも戦い方の一つならば、戦神テスカトリポカはそれを肯定する。けれど、この男は論外だ。この男は、決して自ら戦おうとしない。テスカトリポカをいいように使い、魔力抵抗の弱い一般人を暗示にかけ、まるで玩具の兵隊のように使い潰す。その癖、気に入らないことがあるとすぐに激高し、罵倒し、自らの魔術師で作り上げた玩具を壊し、憂さ晴らし。酷い時には、ナイフで痛めつけながら人形相手にセックスを行った。
これが、ほんのわずかでも男に動く意思があったのならばテスカトリポカとてここまで嫌悪はしなかったろう。けれど、この男のしていることはマスターという立場と魔力を笠に着た裸の王様だ。愚王とすら称してやる気にもなれない、戦士の風上にも置けぬ。
だから、テスカトリポカはこの男のくだらなさを知り、すぐに一度殺そうとした。けれど、令呪が邪魔だ。コレは絶対の命令権。テスカトリポカとて、従わざるを得ないだろう。
だから、待とうとしていた。
愚かな男は、自らが動かずに使役をするためのより強制力の高い道具を作り出すために、令呪を使っていた。愚かしいことに、自己満足のために令呪を利用し、できないことを為そうとしていた。
その虚栄心のためか、男はテスカトリポカが裏切るなどと考えることもできないようであった。
「テスカトリポカ、テスカトリポカ!見ろ、この禍々しい首輪を!これを嵌めれば最後、敵のサーヴァントでさえも俺の前に平伏し、恭順する!すべてのサーヴァントを従え傘下に加えれば、この聖杯戦争は俺のもの、俺が聖杯を手にする!そうだろう、テスカトリポカ!」
男が叫ぶ、笑う、狂乱する。手に輝く禍々しい真紅の首輪。ああ、ここまで酷いとは。一般人でも飽き足らず、他陣営の英霊すらも思い通りに出来なければ仕方がないなどと。
「やはり、オマエは駄目だな」
呟いて、煙を纏う。
「オマエのような奴は、マスターとしても戦士としても反吐が出る」
「あ゛……?」
男のぎらついた目がテスカトリポカを見ようとした、その瞬間。狂気に満ちた顔のまま、男の首は綺麗さっぱり転げ落ちる。その目の前で、爛々と光る首輪を踏み潰す。ライターを男の工房に放れば、勢いよく火が燃え出す。喜ぶように、猛るように。何もかもをなかったことにするように、断罪のように火はその勢いをましていく。
いい気味だ。
鼻を鳴らし、テスカトリポカは踵を返す。この男の心臓を糧にすることさえもテスカトリポカは我慢ならなかったから、これでいい。
マスターを殺せば現界し続ける事は難しいだろうとは分かっていたが、それも承知の上。あんな男、視界に入れ続けるだけでも吐き気がする。
この身に単独行動のスキルはないが、依代を作った上での現界であるせいか、まだこの身体は保っている。なら、消えてしまうその時までなにをしようか。せっかくだから、どこかの陣営でも襲おうか。それくらいの旨味はあっていいだろう。
けれど、歩く内に身体の動きは鈍くなる。動かないわけではないが、確実に鈍重に、重く、戦士の動きができないほどに。消えてしまわないのはこの身が依代だからか。
「あー……これじゃあ最期のお楽しみもできやしねえな……」
そう呟いて、視界に捉えたベンチに転がる。そのまま煙草を吸おうとして、ライターがないことを思い出した。そのまま夜空を見上げる。紺碧の夜空に星が瞬き、月は弧を描く。こんな風景は、アステカと変わることがない──。
そんな、らしくないことを考えていた時だった。
「どうかしたのか」
幼い声がする。視線を向ければ、そこに居たのは子供だった。ハニーブロンドに、深いアメジスト。造りもののように、綺麗な造形の子供。
「やめとけよ、関わってもいいことねえぞ」
「それは、理由にはならないな」
子供は、譲らなかった。テスカトリポカの元に歩み寄ると、じっと見詰める。深い、深い菫色で。
「あきらかに、疲弊している。こんな時間にベンチに横たわっているのも普通はしない行動だろう。それに、その手の血。なにかあったんだろう」
「わかるなら、やめとけよ」
「いいや。それはだめだ。オレは、善いことをしなくては。できることならなんでもしてやるから、教えて欲しい」
そう告げる子供に、テスカトリポカは珍しいことに逡巡をした。今の状態は、恐らく魔力不足。現界が可能な程度の魔力を供給すれば、おそらくまだテスカトリポカは退去せずにいられるだろうが、しかし。
そうやって何も応じずにいると、痺れを切らしたのは子供の方であった。
子供は、自らの指を噛んだ。そこから、ぷくりと血が溢れる。芳醇な、馨しい、テスカトリポカにとっての貢物。
それを、子供はテスカトリポカの口元に差し出した。
「飲め。その口元の赤いものは、血だろう。お前がなんなのかは分からないし、実際になにを食したかは分からないが、血を好むということは、お前にとって血は重要なんだろう。死なない程度になら、好きにしろ」
「……あのなぁ。オマエ、よくこんな得体の知れないやつにそんなことしたっていいことねえぞ」
「特に理由はない。だって、オマエは困っていて、オレはそれを見てしまったから。父さんに見つからない範囲でなら、協力しよう」
そう言って、子どもが指先を近付けてくる。見た目にそぐわず、なんて強情。けれど、現界してから今まで出会った中で一番、戦士としての面構えをしている。
ああ、どうしようか。興味が湧きそうになる。もう少し、ここにいたくなってしまった。
そう思ってしまうと、もう駄目だった。
「サーヴァント、アサシン。テスカトリポカ」
「……?」
「オマエがオレのマスターか?」
「マスターがなんなのかは分からないが、それが善いことならば」
父さんに見つかってしまうのは困るから、見つからないようになら。そう大真面目に応じた子供が指先を押し付けてくる。その血をひとつ啜って。テスカトリポカは、にやりと嗤った。
──ああ、このテスカトリポカの聖杯戦争はここが始まりなのだ、と。
※マスターが気に入らずに殺したところをデイビット君に拾われるテスカトリポカ。
「畜生、なんで、なんでっ、こんな目に……っ!」
男は、なにかに追われていた。それが何なのか、男にも分からない。けれど、見られている、見られている、見られている!得体の知れないものが、恐ろしいものが!止まれ、立ち止まるな、後ろを振り向かずに足を動かせ。止まってしまったなら一環の終わり、この身は供されてしまう!訳も分からないままにそんな思いばかりが男をつき動かす。
足がもたつく。息は絶え絶え。持っていたモノなど、どこかに落としてしまった。それでも、男の生命としての本能が警鐘を鳴らす。生き延びたくば、それしかないのだと。
ゴミに足を取られ、躓き、無様に男は転んだ。見あげた先は行き止まり。コンクリートの壁が、悪魔のように嗤う。
「あ……」
こつ、こつと音が迫る。わざとその存在を知らしめるかのように。怯え、震え、抗ってみせろとでも言うように。
けれど、男は何も考えられなかった。
これだから神なんてものはくだらない、クソだ、まやかしだ。そんなモノがいるのなら、この窮地から男を救うはずなのだから!
「ああああああああああぁぁぁいやだいやだいやだオレはまだ死にたくないぃぃぃぃ、やめろ、おねがいします、どうかっ」
「今際の際の言葉がそれか。情けねぇなぁ」
酷薄な音がした。それと同時に男の胸元からは、手が生えていた。黒くひかる、鋭利なナニカ。それをぎょろりと動いた目玉が視認した瞬間、男は発狂しかけた。けれど。
「……、ァ、」
血が飛び散る。男の胸元から、口元から。最後に足掻くように地を掻いた手は、何も掴めずに。男は小さな声を最後に絶命する。
けれども、こんな戦士でもないものにかけてやるほどの情を彼は持ち合わせていなかった。
「こんな男の心臓を喰らわんとならないとはな」
死体となった男を、見下ろす。なんて、情けないのか。抗いもしない、戦士たる資格すらない。せめて、最後まで足掻いたのならば食いでもあったろうに。本当なら選り好みくらいはさせて欲しい所だよ、そう酷薄に告げて、腕を引き抜く。その手に持った脈打つ心臓を供される価値すらないものだと、一呑みにする。
ああ、なんて不味い。これは本当に魔術師の心臓だというのか。こんなのはゲテモノにも劣るだろう。味わうことすらも惜しい。
口元を赤く染め、舌打ちを一つ。
「ったく、召喚に応じる相手を選ぶべきだったな」
夜の風が金糸を靡かせる。もう暫くすれば、あの気に食わない繰り人形共がここへとやってくるだろう。そのことでさえ腹立たしくて、テスカトリポカはため息をついた。
**********
テスカトリポカは、アステカの全能神。本来、触媒を用意されたからといって召喚が叶う存在ではない。
けれど、そんなに テスカトリポカが召喚に応じてやるために人間の身体まで用意して召喚に応じてやったのは、単純な好奇心だったからだ。
もっと血湧き肉躍る戦いを。このテスカトリポカの相手たるに相応しい戦士を、戦いを。
聖杯戦争とは、様々な時代を生きた英霊が召喚され、争うのだという。ならば、テスカトリポカのお眼鏡にかなう戦士が一人くらいいてもおかしくはない。
そんな好奇心で参加してしまったのがよくなかったのだろうか。
「テスカトリポカ、おい、どこにいる!」
喧しい男の声に舌打ちをひとつ。テスカトリポカにとって、戦士とは到底認められない輩の声。テスカトリポカの、マスター。
この男は、卑劣であった。策を練り、弄すのは認めよう。他者を上手く使う事も認めよう。それも戦い方の一つならば、戦神テスカトリポカはそれを肯定する。けれど、この男は論外だ。この男は、決して自ら戦おうとしない。テスカトリポカをいいように使い、魔力抵抗の弱い一般人を暗示にかけ、まるで玩具の兵隊のように使い潰す。その癖、気に入らないことがあるとすぐに激高し、罵倒し、自らの魔術師で作り上げた玩具を壊し、憂さ晴らし。酷い時には、ナイフで痛めつけながら人形相手にセックスを行った。
これが、ほんのわずかでも男に動く意思があったのならばテスカトリポカとてここまで嫌悪はしなかったろう。けれど、この男のしていることはマスターという立場と魔力を笠に着た裸の王様だ。愚王とすら称してやる気にもなれない、戦士の風上にも置けぬ。
だから、テスカトリポカはこの男のくだらなさを知り、すぐに一度殺そうとした。けれど、令呪が邪魔だ。コレは絶対の命令権。テスカトリポカとて、従わざるを得ないだろう。
だから、待とうとしていた。
愚かな男は、自らが動かずに使役をするためのより強制力の高い道具を作り出すために、令呪を使っていた。愚かしいことに、自己満足のために令呪を利用し、できないことを為そうとしていた。
その虚栄心のためか、男はテスカトリポカが裏切るなどと考えることもできないようであった。
「テスカトリポカ、テスカトリポカ!見ろ、この禍々しい首輪を!これを嵌めれば最後、敵のサーヴァントでさえも俺の前に平伏し、恭順する!すべてのサーヴァントを従え傘下に加えれば、この聖杯戦争は俺のもの、俺が聖杯を手にする!そうだろう、テスカトリポカ!」
男が叫ぶ、笑う、狂乱する。手に輝く禍々しい真紅の首輪。ああ、ここまで酷いとは。一般人でも飽き足らず、他陣営の英霊すらも思い通りに出来なければ仕方がないなどと。
「やはり、オマエは駄目だな」
呟いて、煙を纏う。
「オマエのような奴は、マスターとしても戦士としても反吐が出る」
「あ゛……?」
男のぎらついた目がテスカトリポカを見ようとした、その瞬間。狂気に満ちた顔のまま、男の首は綺麗さっぱり転げ落ちる。その目の前で、爛々と光る首輪を踏み潰す。ライターを男の工房に放れば、勢いよく火が燃え出す。喜ぶように、猛るように。何もかもをなかったことにするように、断罪のように火はその勢いをましていく。
いい気味だ。
鼻を鳴らし、テスカトリポカは踵を返す。この男の心臓を糧にすることさえもテスカトリポカは我慢ならなかったから、これでいい。
マスターを殺せば現界し続ける事は難しいだろうとは分かっていたが、それも承知の上。あんな男、視界に入れ続けるだけでも吐き気がする。
この身に単独行動のスキルはないが、依代を作った上での現界であるせいか、まだこの身体は保っている。なら、消えてしまうその時までなにをしようか。せっかくだから、どこかの陣営でも襲おうか。それくらいの旨味はあっていいだろう。
けれど、歩く内に身体の動きは鈍くなる。動かないわけではないが、確実に鈍重に、重く、戦士の動きができないほどに。消えてしまわないのはこの身が依代だからか。
「あー……これじゃあ最期のお楽しみもできやしねえな……」
そう呟いて、視界に捉えたベンチに転がる。そのまま煙草を吸おうとして、ライターがないことを思い出した。そのまま夜空を見上げる。紺碧の夜空に星が瞬き、月は弧を描く。こんな風景は、アステカと変わることがない──。
そんな、らしくないことを考えていた時だった。
「どうかしたのか」
幼い声がする。視線を向ければ、そこに居たのは子供だった。ハニーブロンドに、深いアメジスト。造りもののように、綺麗な造形の子供。
「やめとけよ、関わってもいいことねえぞ」
「それは、理由にはならないな」
子供は、譲らなかった。テスカトリポカの元に歩み寄ると、じっと見詰める。深い、深い菫色で。
「あきらかに、疲弊している。こんな時間にベンチに横たわっているのも普通はしない行動だろう。それに、その手の血。なにかあったんだろう」
「わかるなら、やめとけよ」
「いいや。それはだめだ。オレは、善いことをしなくては。できることならなんでもしてやるから、教えて欲しい」
そう告げる子供に、テスカトリポカは珍しいことに逡巡をした。今の状態は、恐らく魔力不足。現界が可能な程度の魔力を供給すれば、おそらくまだテスカトリポカは退去せずにいられるだろうが、しかし。
そうやって何も応じずにいると、痺れを切らしたのは子供の方であった。
子供は、自らの指を噛んだ。そこから、ぷくりと血が溢れる。芳醇な、馨しい、テスカトリポカにとっての貢物。
それを、子供はテスカトリポカの口元に差し出した。
「飲め。その口元の赤いものは、血だろう。お前がなんなのかは分からないし、実際になにを食したかは分からないが、血を好むということは、お前にとって血は重要なんだろう。死なない程度になら、好きにしろ」
「……あのなぁ。オマエ、よくこんな得体の知れないやつにそんなことしたっていいことねえぞ」
「特に理由はない。だって、オマエは困っていて、オレはそれを見てしまったから。父さんに見つからない範囲でなら、協力しよう」
そう言って、子どもが指先を近付けてくる。見た目にそぐわず、なんて強情。けれど、現界してから今まで出会った中で一番、戦士としての面構えをしている。
ああ、どうしようか。興味が湧きそうになる。もう少し、ここにいたくなってしまった。
そう思ってしまうと、もう駄目だった。
「サーヴァント、アサシン。テスカトリポカ」
「……?」
「オマエがオレのマスターか?」
「マスターがなんなのかは分からないが、それが善いことならば」
父さんに見つかってしまうのは困るから、見つからないようになら。そう大真面目に応じた子供が指先を押し付けてくる。その血をひとつ啜って。テスカトリポカは、にやりと嗤った。
──ああ、このテスカトリポカの聖杯戦争はここが始まりなのだ、と。
※マスターが気に入らずに殺したところをデイビット君に拾われるテスカトリポカ。
1/2ページ