Domsubユニバース
なんだか、匂いがする。どこかで嗅いだことのあるような匂い。
その匂いに誘われるように瞳を開くと、デイビットは寝かされていた。起き上がるのに苦労はしなかったし、いつになくすっきりとした気分でもある。記憶の中で、ここまで身体が軽いと思ったことはないように感じるので、これはテスカトリポカとplayをした影響かもしれない。これじゃあSubみたいだなと苦笑。さて、その本人はどこにいるだろうかと辺りを見回せば、探し人はすぐに見つかった。風に金髪が靡いている。それと一緒に紫煙もゆらゆらと揺蕩う。デイビットを眠りの淵から引き上げた匂いはこのテスカトリポカの吸う煙草だったのだろうと検討をつけた。そも、このミクトランの地で煙草などという嗜好品が用意できるのかと些細な疑問が過ぎったものの、デイビットのサーヴァントはアステカの全能神。多分、それですべて片付けられてしまうだろうなと思って、余計なことは聞かないことにした。どうせ、疑問に思ったことも覚えてはいられまい。
「テスカトリポカ」
「よう、起きたかデイビット」
テスカトリポカが振り向く。見た目には何も変わらない。けれど、playのみならずお仕置まですることになったにも関わらずテスカトリポカの機嫌は悪くなさそうである。会ってほんの数日なので、間違っているかもしれないが、その時はその時でいいだろうと、楽観的に考えることにした。
「オレは、起きた時やけにすっきりした気分で、身体が軽い。おそらく、playの効果は出ているんだろうと思うが、テスカトリポカはどうだ?」
「この身体を用意してほんの僅かしか経ってないから碌なことは言えんが、まあ悪くはない気分だな。お仕置きとはいえ、オマエの血をもらっているから、魔力供給にもなったせいかもしれんが」
「あれはお仕置きではなくて魔力供給だったのか」
「いや、違う。オレも神ならともかくDomとして振舞ったことはないから、あれはちゃんとお仕置きのつもりだったさ。まあ、オマエが嫌がることが分からなかったから取り敢えずはオレの好む行為にしたら偶然にもそれが魔力供給を兼ねていただけだな」
身体的な接触でも魔力供給はできるんだろう。そんな問いに、多分なと返す。新米マスターにそんなことを言われたって困る。デイビットはレイシフトの中でもサーヴァントを召喚できなかったので、テスカトリポカが初めてのサーヴァントなのだ。経験値は皆無、クリプターの中でもマスターとしては初心者もいいところだ。記憶にある範囲なら回答はできるが、それ以外はどうにも難しいのが現状だ。
とはいえ、テスカトリポカにそんな事情を話す必要性も感じなかったので、ただ頷いておく。今はplayにもお仕置きにも支障はなかったこと、またそれらの行為が当人同士に対して良い影響を及ぼしていたことが分かればいい。悪影響を及ぼす行為ならば、しない方がいいのだから。そんなことをしたって時間の無駄である。
まあ、それを言うのならばテスカトリポカに対してSub性に切り替わることがなければ一番良かったろうが、起こってしまったことを憂いてもどうにもならない。そこは、諦めるしかない。
「そうか」
結局、当たり障りのないことしか返せない。マスターなのにSubとして支配されたいなんて、おかしいだろうか。けれど、相手はアステカの全能神。それに、デイビットの声に応じてくれた相手だ。召喚できなくても仕方がないと思っていたというのに、この手を取ってくれたデイビットにとってのハジメテだ。そのせいだろうか。分からない。
「取り敢えず、今はもう少し寝ておけ。playもお仕置きもしたんだ、疲れてるだろ」
「さあな。けれど、オレにはやることが……」
「五分しか覚えていられないんだろう。それなら、やったって忘れるんだ、寝ちまえ寝ちまえ」
「……覚えるべきことが、あるかもしれない」
「余計なことは考えるなっての。ほれ、寝ろ。デイビット。SleepとかCommandにあるのか?」
「さあ……分からない」
「そうかい。まあ、いい。寝てしまえ。なんならこのオレが子守唄でも謳ってやろうか?」
「いらない。こどもじゃない……」
けれど、こんなちゃんとCommandになっているかどうかあやふやな言葉でもSubとして反応したくなるのか、デイビットは元の通りに姿勢を横たえた。それから、空を見上げる。異聞帯。有り得たかもしれない、偽物の青い空。
仕方ないやつ。そう呟いたテスカトリポカの手のひらがそっと目許に翳される。
そういえば。テスカトリポカの目も、この空と似た色をしていた。そんなふうに、思った。
その匂いに誘われるように瞳を開くと、デイビットは寝かされていた。起き上がるのに苦労はしなかったし、いつになくすっきりとした気分でもある。記憶の中で、ここまで身体が軽いと思ったことはないように感じるので、これはテスカトリポカとplayをした影響かもしれない。これじゃあSubみたいだなと苦笑。さて、その本人はどこにいるだろうかと辺りを見回せば、探し人はすぐに見つかった。風に金髪が靡いている。それと一緒に紫煙もゆらゆらと揺蕩う。デイビットを眠りの淵から引き上げた匂いはこのテスカトリポカの吸う煙草だったのだろうと検討をつけた。そも、このミクトランの地で煙草などという嗜好品が用意できるのかと些細な疑問が過ぎったものの、デイビットのサーヴァントはアステカの全能神。多分、それですべて片付けられてしまうだろうなと思って、余計なことは聞かないことにした。どうせ、疑問に思ったことも覚えてはいられまい。
「テスカトリポカ」
「よう、起きたかデイビット」
テスカトリポカが振り向く。見た目には何も変わらない。けれど、playのみならずお仕置まですることになったにも関わらずテスカトリポカの機嫌は悪くなさそうである。会ってほんの数日なので、間違っているかもしれないが、その時はその時でいいだろうと、楽観的に考えることにした。
「オレは、起きた時やけにすっきりした気分で、身体が軽い。おそらく、playの効果は出ているんだろうと思うが、テスカトリポカはどうだ?」
「この身体を用意してほんの僅かしか経ってないから碌なことは言えんが、まあ悪くはない気分だな。お仕置きとはいえ、オマエの血をもらっているから、魔力供給にもなったせいかもしれんが」
「あれはお仕置きではなくて魔力供給だったのか」
「いや、違う。オレも神ならともかくDomとして振舞ったことはないから、あれはちゃんとお仕置きのつもりだったさ。まあ、オマエが嫌がることが分からなかったから取り敢えずはオレの好む行為にしたら偶然にもそれが魔力供給を兼ねていただけだな」
身体的な接触でも魔力供給はできるんだろう。そんな問いに、多分なと返す。新米マスターにそんなことを言われたって困る。デイビットはレイシフトの中でもサーヴァントを召喚できなかったので、テスカトリポカが初めてのサーヴァントなのだ。経験値は皆無、クリプターの中でもマスターとしては初心者もいいところだ。記憶にある範囲なら回答はできるが、それ以外はどうにも難しいのが現状だ。
とはいえ、テスカトリポカにそんな事情を話す必要性も感じなかったので、ただ頷いておく。今はplayにもお仕置きにも支障はなかったこと、またそれらの行為が当人同士に対して良い影響を及ぼしていたことが分かればいい。悪影響を及ぼす行為ならば、しない方がいいのだから。そんなことをしたって時間の無駄である。
まあ、それを言うのならばテスカトリポカに対してSub性に切り替わることがなければ一番良かったろうが、起こってしまったことを憂いてもどうにもならない。そこは、諦めるしかない。
「そうか」
結局、当たり障りのないことしか返せない。マスターなのにSubとして支配されたいなんて、おかしいだろうか。けれど、相手はアステカの全能神。それに、デイビットの声に応じてくれた相手だ。召喚できなくても仕方がないと思っていたというのに、この手を取ってくれたデイビットにとってのハジメテだ。そのせいだろうか。分からない。
「取り敢えず、今はもう少し寝ておけ。playもお仕置きもしたんだ、疲れてるだろ」
「さあな。けれど、オレにはやることが……」
「五分しか覚えていられないんだろう。それなら、やったって忘れるんだ、寝ちまえ寝ちまえ」
「……覚えるべきことが、あるかもしれない」
「余計なことは考えるなっての。ほれ、寝ろ。デイビット。SleepとかCommandにあるのか?」
「さあ……分からない」
「そうかい。まあ、いい。寝てしまえ。なんならこのオレが子守唄でも謳ってやろうか?」
「いらない。こどもじゃない……」
けれど、こんなちゃんとCommandになっているかどうかあやふやな言葉でもSubとして反応したくなるのか、デイビットは元の通りに姿勢を横たえた。それから、空を見上げる。異聞帯。有り得たかもしれない、偽物の青い空。
仕方ないやつ。そう呟いたテスカトリポカの手のひらがそっと目許に翳される。
そういえば。テスカトリポカの目も、この空と似た色をしていた。そんなふうに、思った。
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