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私の熱を奪ってね
※年齢操作があります(専門学校生)
『今日、体調悪いので休んでます。あとでノート貸して』
「……結城、大丈夫か?」
スマホを見てひとりごちながら、そのまま『大丈夫か』とメッセージを送る。
結城は俺が気になってる女子だ。普段、授業をサボることはない。俺がバイトのシフトがうまくいかないとかで休んだりサボったりでノートなどお世話になっている側だというのに。
ほどなくして『もうダメだー』というメッセージと行き倒れているクマのスタンプが送られて来た。
『病院は行ったか?』
『行ったよー』
『熱は?』
『38』
『そりゃ、やべーな 今は?』
『寝てる』
どんどん短くなる文が不穏だ。でも、寝てるなら大丈夫だな、ノートぐらいとってやるか、と授業開始のチャイムを聞いた後、またスマホが震えた。
『たすけてー』
もう漢字変換すらしていない。
助けを求めてる……ってことは、俺、行った方がいいいのか?つーか、行って……いいのか?
koreha……家に行けるチャンスじゃね?
『何かいるもんあるか?』
ない脳みそを極限までひねって講義中の机の下、あわよくばの思いで送ったメッセージには既読がつかなかった。
◆◆◆
同期の仲間内での宅飲みをしたことがあるから彼女の家はわかる。学校からそれほど遠くない、一人暮らし用、5階建てのマンション。
当たり前だが、一人で行くのは初めてだ。
1階のコンビニで病人に必要そうなものを揃え、彼女に電話をかけてみる。
……出ない。
部屋の前で再度電話をかけてみるが、出ない。2回ほどインターホンを押してみても、応答はない。
「どうすっかな……」
出てくれないことにはどうしようもねーしな……。とりあえず、コンビニ袋をドアノブにかけて、後でメッセージでも送っておくか。
「あたっ!……!?」
ドアノブに袋をかけた勢いでうっかり回してしまった。
カチャ……
「開いてんじゃねーか……」
開くとは思っていなかった。不用心すぎる。不心得者が彼女の部屋に入って……とか考えるとぞっとする。まさか、既読がつかないのはそのせいじゃねぇだろうな……。はやる気持ちを抑え、とにかく一度メッセージを入れる。
『開いてたから、入るぞ』
これでよし。俺は助けを求められて来たんだから入っても大丈夫だよな、と自分に言い聞かせてからドアを開けた。
◆◆◆
「邪魔するぞー、結城?」
返事はない。念のため一旦内側からカギは閉めておく。靴が一足、家の中に向けて脱ぎ捨てられていた。玄関の片付いている様子からそれだけが異質だ。
奥の部屋へと続く扉を開ける。右にキッチン。奥の窓際にはベッドが、手前のローテーブルの上に処方された薬と家の鍵、ペットボトルが乱雑に置かれている。その脇には脱いだと思われる服がたたまれずに一か所に固めておいてあった。
手元のビニールがカサッと音をたてると、ベッドの上の布団がもぞもぞと動く。
「あれ?だあれ?」
「俺」
「あ、鎌先くん?」
「ああ……。鍵、開いてたぞ。俺じゃなかったら、どうしてたんだ」
「ごめん……病院行って……帰ってきたら、力尽きちゃって……」
「インフルか?」
「んーん、違うって。ただの風邪みたい。こんなに熱出てるのに」
「熱以外は?」
「頭とか、関節が痛い……熱が原因って言われたんだけど……」
布団の隙間から出てきた結城の目は半分しか開いていない。顔も赤い。まだ大分悪そうだ。
「つらそうだな……。あー、これ」
袋から、ゼリー飲料、スポドリ、桃の缶詰、レトルトおかゆ、冷えピタ、を取り出しテーブルに乗せる。
「わー、私の欲しいもの全部そろってる。そこの財布にお金入ってるから……」
「要らねぇよ。おつかいで行ったわけじゃねーし。……見舞い代わりだよ」
「……ありがとー」
起き上がろうとするのを慌てて止め、彼女の額に手を当てる。
「あっち、何度だよコレ」
「………さっき計ったら、39度近かった」
「やべーな」
「もう、起き上がるとふらふらするんだよね」
「飲むか?」
「うん……」
ゼリー飲料とスポドリを見せると、スポドリを指さしたのでキャップをひねって渡してやる。彼女は弱弱しくそれを受け取ると、キャップを閉めなおして顔に当てる。心なしか表情が和らいだ彼女にタオルのありかを聞き、キッチンで濡らして彼女の顔を拭いてやる。
「きもちいー」と紅潮した顔で言う彼女にはクるもんがあったので慌ててタオルを渡して目を反らす。
いやいやいや。付き合ってねーし、病身をどうこうしようとは決して思っていない。決して……。
そんなことより、あんまり、長居するのも悪いだろう。
「それじゃ、俺、そろそろ……」
「さむい……」
ぶるっと震えながら布団の端を掻き合わせている。その仕草が小さな子供みたいで思わず手を握ってやる。ちっこい手。
「鎌先くんの手、あったかいね」
そういって紅潮した頬と潤んだ瞳のコンボで見つめられるんだからたまったもんじゃない。
あーーーーー!
こうなったら……。押すか引くか……二つに一つだ。
「ちょっとお前、奥、行け」
「え?あ、うん」
もぞもぞと奥に動くのを待たず布団をめくり俺の体を滑り込ませる。ベッドが悲鳴を上げるようにミシっと音を立てる。そのまま、彼女の身体を抱く。思ったより華奢だ。
「!?かまさき……くん?」
「どうだ、少しはあったかいか」
俺は照れ隠しも含め、彼女に考えさせないように早口でまくしたてる。それは功を奏したようで、暖を求める彼女はそちらに意識がいったようだ。
「あ……うん……」
そううなずくと、彼女は自分の身を俺にくっつけるようにピタッと寄せてきた。反射的に腰が引ける。
「鎌先くんのカラダ、すごくあったかい」
変な意味ではないんだろう。決して、決して……。
「あー……。俺、体温高いらしいんだよな。筋肉ってあったけーらしい」
「そうなの?」
いつもの身長差が横になっているとゼロになる。クスクス笑う彼女の顔が近い。笑いを止めた彼女はとろんとした目で俺を見る。
布団の中で、見つめあう俺と結城。
……誘ったのは、お前だからな。
心の中でそう言い訳をして、彼女の瞳に引き付けられるように顔を近づける。もう少しで唇と唇が触れる距離まで近づいたとき、彼女が我に返ったように布団で自分の唇を隠した。
「鎌先くん……ダメ」
「……わりィ」
彼女の熱にあてられて俺までおかしくなってしまったようだ。頭を冷やさないと……。
体を引いてベッドから出ようとすると、彼女は弱弱しく俺の服を引っ張る。
「いやなわけ、じゃ、ないよ?」
「……は?」
「これで……鎌先くんにうつしたりしたら、私一生後悔する」
「ンな、大げさな」
笑って冗談にしようとしたのに、彼女はしがみつくようにすり寄ってきた。
「!?」
「治ったら、いっぱい、して……?」
俺の目を覗きこむようにする彼女の瞳をこれ以上見ていると、またどうにかなってしまいそうだ。それを隠すように両腕で彼女の熱い身体を強く抱きしめる。
「……わかった」
そう俺が答えると、彼女がふふっと笑う息づかいが聞こえた。
「やくそく……だ……よ」
「?結城?」
それきり彼女は眠りに落ちてしまったようだ。規則正しくも熱い寝息が俺の首あたりをくすぐる。
これは……まいった。
もうちょっと落ち着いたら帰るか……でも鍵は……どうすっかなー、と考えながら、彼女の小さい頭を撫でた。
★★★
鎌先……くん?
目覚めて最初に見えたのは、鎌先くんの寝顔だった。
「!?」
え?なんで?なんで私、鎌先くんと一緒に寝てるの?全く状況が飲み込ない。
ええーと、昨日は……。熱出して……鎌先くんからメッセージが来たから、それに返しているうちに寝ちゃって、それから……。
起きたときの習慣で無意識に枕元のスマホに手を伸ばす。
不在着信2件
未読メッセージ……10件?!
トーク画面を開いて頭を抱えた。
鎌先くんに助けを求めた所で私のメッセージは止まっていた。
そうか……それで……。鎌先くんは来てくれたんだ……。
熱でも出さなければこんな大胆なメッセージは送れない。今さら、この状況にドキドキしてきたけど……。……なんか、私、いっぱい汗かいてる……。シャワー浴びたい。
そーっと、彼を起こさないようにベッドを抜け出す。体のだるさはあるものの昨日よりは全然動ける。脱いだ衣服と新しい着替えを持って、バスルームに向かう。
熱いシャワーを頭から浴びているうちに、だんだん……思い出して、きた。鎌先くんに、鍵開けっ放しだったのを怒られて……、飲み物とか買ってきてくれたのにお礼を言って……。寒気がすごかったから、かけるものを取ってきてもらおうとしたら、鎌先くんが、布団に入ってきてあっためてくれたんだ……。それで、私、その体温に安心して、そのまま……。
……!??寝ただけだよね?
なんか引っかかる。鎌先くんに甘えて……。何か……恥ずかしいお願いをしてしまったような。
悶々と考えながらの着替えが終わり、湿気でこもった脱衣所のドアを開ける。髪を乾かし、歯ブラシを手に取ったところで、玄関の鍵が開く音がした。コンビニの袋の音。いつのまにか鎌先くんも起きて、一階のコンビニに買い物に行ってたらしい。彼は起きている私を見ると、
「おー、大丈夫そうだな。鍵借りたぞ」
そう言って袋から歯ブラシセットだけ持って私の横に立つ。
「…………」
「…………」
二人で無言で歯を磨く。……とても気まずい。先に私が磨き終わり、コップで口を漱ぐ。コップを軽く洗って彼に場所をゆずると、彼も口を漱いだ。
「あのよー」
「え?なに?」
彼用のタオルを出そうと背を向けたとき、急に声をかけられた。
「風邪……治ったか?」
「?うん、おかげ様で、」
「そっか……。……昨日、お前と約束したことがあんだけどよ、覚えてるか?」
「ん?」
振り返ってタオルを渡すと、それをひったくるように取りごしごしと顔をこする。タオルの隙間から見えた鎌先くんの目が私を射抜くように光って、ドキッとする。
約束?何だっけ?私、ホントに何をお願いしたの?!
「あー、覚えてなくてもいっか。うやむやにしたくねーから、ここで、守ってもらう」
タオルを外して首にかけた鎌先くんは、さっきの目が嘘のようにいつもと同じように見えた……けど。彼は私の方に一歩寄る。狭い洗面所だから避けられない。壁際に追い詰められた。上から彼の顔が近づいてくる。「嫌なら突き飛ばせ」と囁かれ、はて?と首をかしげると、目を閉じる間もなく……
え?え?ええ?
唇と唇が重なりゆっくりと離れていく。ミントの香りと柔らかい感触が唇に残り、心臓が感じたこともないぐらいドキドキしている。
「え、あ、あの、なんで?」
「あーー『いっぱい』って言ってたよな」
いっぱい?……あ!
鎌先くんは私の腰をぐっと引き寄せる。今度はゆっくりと顔が近づいてきた。確認するように「いやか?」とかすれた声で囁かれる。
……抵抗なんてしない。もう、思い出した。私が言ったことだ。だから、私はこう答える。
「ううん、……いっぱいして」
鎌先くんはニヤリと笑った。それから矢継ぎ早にキスが降りてくる。回数を重ねるごとに唇が触れている時間が長くなって、彼の目が熱を帯び欲が孕んでくる。私の目はその視線を受け止めるために潤むしかない。それを見て、満足そうに彼の目が閉じられる。
また熱が上がってしまった気がする。
くらくらとする頭と体を持て余した私は、倒れこむように彼の身体に身を預けた。
title by「twenty」
※年齢操作があります(専門学校生)
『今日、体調悪いので休んでます。あとでノート貸して』
「……結城、大丈夫か?」
スマホを見てひとりごちながら、そのまま『大丈夫か』とメッセージを送る。
結城は俺が気になってる女子だ。普段、授業をサボることはない。俺がバイトのシフトがうまくいかないとかで休んだりサボったりでノートなどお世話になっている側だというのに。
ほどなくして『もうダメだー』というメッセージと行き倒れているクマのスタンプが送られて来た。
『病院は行ったか?』
『行ったよー』
『熱は?』
『38』
『そりゃ、やべーな 今は?』
『寝てる』
どんどん短くなる文が不穏だ。でも、寝てるなら大丈夫だな、ノートぐらいとってやるか、と授業開始のチャイムを聞いた後、またスマホが震えた。
『たすけてー』
もう漢字変換すらしていない。
助けを求めてる……ってことは、俺、行った方がいいいのか?つーか、行って……いいのか?
koreha……家に行けるチャンスじゃね?
『何かいるもんあるか?』
ない脳みそを極限までひねって講義中の机の下、あわよくばの思いで送ったメッセージには既読がつかなかった。
◆◆◆
同期の仲間内での宅飲みをしたことがあるから彼女の家はわかる。学校からそれほど遠くない、一人暮らし用、5階建てのマンション。
当たり前だが、一人で行くのは初めてだ。
1階のコンビニで病人に必要そうなものを揃え、彼女に電話をかけてみる。
……出ない。
部屋の前で再度電話をかけてみるが、出ない。2回ほどインターホンを押してみても、応答はない。
「どうすっかな……」
出てくれないことにはどうしようもねーしな……。とりあえず、コンビニ袋をドアノブにかけて、後でメッセージでも送っておくか。
「あたっ!……!?」
ドアノブに袋をかけた勢いでうっかり回してしまった。
カチャ……
「開いてんじゃねーか……」
開くとは思っていなかった。不用心すぎる。不心得者が彼女の部屋に入って……とか考えるとぞっとする。まさか、既読がつかないのはそのせいじゃねぇだろうな……。はやる気持ちを抑え、とにかく一度メッセージを入れる。
『開いてたから、入るぞ』
これでよし。俺は助けを求められて来たんだから入っても大丈夫だよな、と自分に言い聞かせてからドアを開けた。
◆◆◆
「邪魔するぞー、結城?」
返事はない。念のため一旦内側からカギは閉めておく。靴が一足、家の中に向けて脱ぎ捨てられていた。玄関の片付いている様子からそれだけが異質だ。
奥の部屋へと続く扉を開ける。右にキッチン。奥の窓際にはベッドが、手前のローテーブルの上に処方された薬と家の鍵、ペットボトルが乱雑に置かれている。その脇には脱いだと思われる服がたたまれずに一か所に固めておいてあった。
手元のビニールがカサッと音をたてると、ベッドの上の布団がもぞもぞと動く。
「あれ?だあれ?」
「俺」
「あ、鎌先くん?」
「ああ……。鍵、開いてたぞ。俺じゃなかったら、どうしてたんだ」
「ごめん……病院行って……帰ってきたら、力尽きちゃって……」
「インフルか?」
「んーん、違うって。ただの風邪みたい。こんなに熱出てるのに」
「熱以外は?」
「頭とか、関節が痛い……熱が原因って言われたんだけど……」
布団の隙間から出てきた結城の目は半分しか開いていない。顔も赤い。まだ大分悪そうだ。
「つらそうだな……。あー、これ」
袋から、ゼリー飲料、スポドリ、桃の缶詰、レトルトおかゆ、冷えピタ、を取り出しテーブルに乗せる。
「わー、私の欲しいもの全部そろってる。そこの財布にお金入ってるから……」
「要らねぇよ。おつかいで行ったわけじゃねーし。……見舞い代わりだよ」
「……ありがとー」
起き上がろうとするのを慌てて止め、彼女の額に手を当てる。
「あっち、何度だよコレ」
「………さっき計ったら、39度近かった」
「やべーな」
「もう、起き上がるとふらふらするんだよね」
「飲むか?」
「うん……」
ゼリー飲料とスポドリを見せると、スポドリを指さしたのでキャップをひねって渡してやる。彼女は弱弱しくそれを受け取ると、キャップを閉めなおして顔に当てる。心なしか表情が和らいだ彼女にタオルのありかを聞き、キッチンで濡らして彼女の顔を拭いてやる。
「きもちいー」と紅潮した顔で言う彼女にはクるもんがあったので慌ててタオルを渡して目を反らす。
いやいやいや。付き合ってねーし、病身をどうこうしようとは決して思っていない。決して……。
そんなことより、あんまり、長居するのも悪いだろう。
「それじゃ、俺、そろそろ……」
「さむい……」
ぶるっと震えながら布団の端を掻き合わせている。その仕草が小さな子供みたいで思わず手を握ってやる。ちっこい手。
「鎌先くんの手、あったかいね」
そういって紅潮した頬と潤んだ瞳のコンボで見つめられるんだからたまったもんじゃない。
あーーーーー!
こうなったら……。押すか引くか……二つに一つだ。
「ちょっとお前、奥、行け」
「え?あ、うん」
もぞもぞと奥に動くのを待たず布団をめくり俺の体を滑り込ませる。ベッドが悲鳴を上げるようにミシっと音を立てる。そのまま、彼女の身体を抱く。思ったより華奢だ。
「!?かまさき……くん?」
「どうだ、少しはあったかいか」
俺は照れ隠しも含め、彼女に考えさせないように早口でまくしたてる。それは功を奏したようで、暖を求める彼女はそちらに意識がいったようだ。
「あ……うん……」
そううなずくと、彼女は自分の身を俺にくっつけるようにピタッと寄せてきた。反射的に腰が引ける。
「鎌先くんのカラダ、すごくあったかい」
変な意味ではないんだろう。決して、決して……。
「あー……。俺、体温高いらしいんだよな。筋肉ってあったけーらしい」
「そうなの?」
いつもの身長差が横になっているとゼロになる。クスクス笑う彼女の顔が近い。笑いを止めた彼女はとろんとした目で俺を見る。
布団の中で、見つめあう俺と結城。
……誘ったのは、お前だからな。
心の中でそう言い訳をして、彼女の瞳に引き付けられるように顔を近づける。もう少しで唇と唇が触れる距離まで近づいたとき、彼女が我に返ったように布団で自分の唇を隠した。
「鎌先くん……ダメ」
「……わりィ」
彼女の熱にあてられて俺までおかしくなってしまったようだ。頭を冷やさないと……。
体を引いてベッドから出ようとすると、彼女は弱弱しく俺の服を引っ張る。
「いやなわけ、じゃ、ないよ?」
「……は?」
「これで……鎌先くんにうつしたりしたら、私一生後悔する」
「ンな、大げさな」
笑って冗談にしようとしたのに、彼女はしがみつくようにすり寄ってきた。
「!?」
「治ったら、いっぱい、して……?」
俺の目を覗きこむようにする彼女の瞳をこれ以上見ていると、またどうにかなってしまいそうだ。それを隠すように両腕で彼女の熱い身体を強く抱きしめる。
「……わかった」
そう俺が答えると、彼女がふふっと笑う息づかいが聞こえた。
「やくそく……だ……よ」
「?結城?」
それきり彼女は眠りに落ちてしまったようだ。規則正しくも熱い寝息が俺の首あたりをくすぐる。
これは……まいった。
もうちょっと落ち着いたら帰るか……でも鍵は……どうすっかなー、と考えながら、彼女の小さい頭を撫でた。
★★★
鎌先……くん?
目覚めて最初に見えたのは、鎌先くんの寝顔だった。
「!?」
え?なんで?なんで私、鎌先くんと一緒に寝てるの?全く状況が飲み込ない。
ええーと、昨日は……。熱出して……鎌先くんからメッセージが来たから、それに返しているうちに寝ちゃって、それから……。
起きたときの習慣で無意識に枕元のスマホに手を伸ばす。
不在着信2件
未読メッセージ……10件?!
トーク画面を開いて頭を抱えた。
鎌先くんに助けを求めた所で私のメッセージは止まっていた。
そうか……それで……。鎌先くんは来てくれたんだ……。
熱でも出さなければこんな大胆なメッセージは送れない。今さら、この状況にドキドキしてきたけど……。……なんか、私、いっぱい汗かいてる……。シャワー浴びたい。
そーっと、彼を起こさないようにベッドを抜け出す。体のだるさはあるものの昨日よりは全然動ける。脱いだ衣服と新しい着替えを持って、バスルームに向かう。
熱いシャワーを頭から浴びているうちに、だんだん……思い出して、きた。鎌先くんに、鍵開けっ放しだったのを怒られて……、飲み物とか買ってきてくれたのにお礼を言って……。寒気がすごかったから、かけるものを取ってきてもらおうとしたら、鎌先くんが、布団に入ってきてあっためてくれたんだ……。それで、私、その体温に安心して、そのまま……。
……!??寝ただけだよね?
なんか引っかかる。鎌先くんに甘えて……。何か……恥ずかしいお願いをしてしまったような。
悶々と考えながらの着替えが終わり、湿気でこもった脱衣所のドアを開ける。髪を乾かし、歯ブラシを手に取ったところで、玄関の鍵が開く音がした。コンビニの袋の音。いつのまにか鎌先くんも起きて、一階のコンビニに買い物に行ってたらしい。彼は起きている私を見ると、
「おー、大丈夫そうだな。鍵借りたぞ」
そう言って袋から歯ブラシセットだけ持って私の横に立つ。
「…………」
「…………」
二人で無言で歯を磨く。……とても気まずい。先に私が磨き終わり、コップで口を漱ぐ。コップを軽く洗って彼に場所をゆずると、彼も口を漱いだ。
「あのよー」
「え?なに?」
彼用のタオルを出そうと背を向けたとき、急に声をかけられた。
「風邪……治ったか?」
「?うん、おかげ様で、」
「そっか……。……昨日、お前と約束したことがあんだけどよ、覚えてるか?」
「ん?」
振り返ってタオルを渡すと、それをひったくるように取りごしごしと顔をこする。タオルの隙間から見えた鎌先くんの目が私を射抜くように光って、ドキッとする。
約束?何だっけ?私、ホントに何をお願いしたの?!
「あー、覚えてなくてもいっか。うやむやにしたくねーから、ここで、守ってもらう」
タオルを外して首にかけた鎌先くんは、さっきの目が嘘のようにいつもと同じように見えた……けど。彼は私の方に一歩寄る。狭い洗面所だから避けられない。壁際に追い詰められた。上から彼の顔が近づいてくる。「嫌なら突き飛ばせ」と囁かれ、はて?と首をかしげると、目を閉じる間もなく……
え?え?ええ?
唇と唇が重なりゆっくりと離れていく。ミントの香りと柔らかい感触が唇に残り、心臓が感じたこともないぐらいドキドキしている。
「え、あ、あの、なんで?」
「あーー『いっぱい』って言ってたよな」
いっぱい?……あ!
鎌先くんは私の腰をぐっと引き寄せる。今度はゆっくりと顔が近づいてきた。確認するように「いやか?」とかすれた声で囁かれる。
……抵抗なんてしない。もう、思い出した。私が言ったことだ。だから、私はこう答える。
「ううん、……いっぱいして」
鎌先くんはニヤリと笑った。それから矢継ぎ早にキスが降りてくる。回数を重ねるごとに唇が触れている時間が長くなって、彼の目が熱を帯び欲が孕んでくる。私の目はその視線を受け止めるために潤むしかない。それを見て、満足そうに彼の目が閉じられる。
また熱が上がってしまった気がする。
くらくらとする頭と体を持て余した私は、倒れこむように彼の身体に身を預けた。
title by「twenty」
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