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陽だまり
クラスメイトの黄金川は直射日光みたいなヤツ。
明るくて、大きくて、やかましい。
部活のために学校に来て、部活のついでに授業を受けてる。そんなヤツ。
だから、同じクラスでもそんなに接点はない。適当に授業受けて、適当に女子高生やって、放課後ダッシュで遊びに行くような私とは。
黄金川は私には健全すぎて強すぎる光。
なのに。
その直射日光を、今、なぜか私は、もろに浴びている。
「何?黄金川」
「それ!」
黄金川が指さしたのは、私の手にあるネイルファイル。
「それ、どうやったらうまく使えるんだ?」
「え……」
自習になってしまった金曜5限。課題さえ終われば退室OKとの指示で現在30分ほど経過したところ。周囲は動き出したクラスメイトでだんだんと騒がしくなっている。開け放たれた扉から入ってくる空気が冷たい。
私も実習で爪欠けしたな、とネイルセットを机の上に広げたところだった。
目をらんらんと輝かせてこちらを見る黄金川に戸惑いしかない。
「俺も使ってんだけどさー、イマイチうまくいかなくて」
彼がブレザーのポケットから取り出したのはステンレス製のネイルファイル。思わず私の視線は黄金川の顔とネイルファイルを行ったり来たり。
「??」
口角が上がったきょとん顔でこっちを見てるけど、こちらこそきょとんだ。
黄金川がこれを?使ってる?なんで?
「…… ちょっと、手、見せて」
まさかの組み合わせに好奇心が勝った。黄金川は既に主のいない前の席に後ろ向きに座り両手をこちらに向ける。
デカい手。つめも大きい。指先を横から見る。ガタガタな断面。絶対爪切りで切った方がマシな出来。
「……黄金川さ、ファイル使う時どうしてんの?」
「ファイル?あー、やすり使うときみたいに普通に……」
そう言いながらやりにくそうに、指を伸ばしたままファイルを行ったり来たりさせる。
「それだよ!往復でやっちゃダメだって」
「えっ?マジで?!」
「そう。こうやって、一方向にって、それの袋かなんかに書いてなかった?」
どう見ても説明とか読むタイプじゃなさそうだもんなー。私も友達から習ったクチだから人のこと言えないけど。
指を曲げてファイルを動かしてみせると「こうか?」と黄金川も私を真似てぎこちなく動かす。
……何か違う。自分の手を木片だとでも思っているような直線的な動き。
「ちょっと貸して。一回やるから、見てみ」
見かねて彼のファイルを取り上げ、指をこちらに向けさせる。
あ……そう。一応、確認。
「スクエア?ラウンド?」
「ファイ?」
首をかしげる黄金川。その様子にほっとしながら黄金川の爪にファイルをあて削っていく。
爪の形の基本的な整え方、四角にするか丸く整えるかを聞いてみたけど、これにピンとこないってことはソッチに目覚めたワケではなさそう。
それにしても。お世辞にも器用とは言えない黄金川がわざわざファイルを使って爪を整えようとするのはなんで?
大きな爪を指に沿わせ最小に整え、これでどう?と彼の手を解放する。まじまじと自分の爪を見た黄金川は感激したように声を上げた。
「おお!おおお!スゲー!あっという間にここまで!こんなキレイに!」
「……黄金川、鼻息でカスが飛ぶ」
「師匠と呼んでいいスか?」
人の話を全く聞かずキラキラした目で私を見る黄金川。しかも軽く敬語になっているのが笑える。
「大げさだって。でも、あんた何でまたこんなの使おうと思ったの?爪切りでやりゃいいじゃん」
黄金川は即答だった。
「爪の手入れに目覚めたんで!」
えー……?
……まじでソッチ?
引き気味に黄金川を見ると、彼は自分の指先を神妙に見つめてる。
「バレーやってると、ボールで爪欠けるとか折れるとかしょっちゅうで」
あっ、あー……!
部活がらみかー!
それなら、良かった!
再度ほっとした私には気づかない様子で黄金川は続ける。
「指もやられるから一緒にテーピングで保護してたんスよ。でも、おととい練習試合したカラスノって高校のバレー部に、すっげーセッターがいて」
そこで言葉を切った黄金川に「セッターってトス上げる人?」とおぼろげなバレーの知識を頼りに口を挟むと「そう」と軽くうなずいて黄金川は続ける。
「どんだけ練習したらこんなに上手くなるんだ?って感動すら覚えるくらい、もう!神業って感じのすげー上手いヤツで!」
黄金川の声に熱が入る。セッターの良し悪しなんて私にはさっぱりだけど、黄金川にここまで盛らせるんならとにかく上手いんだろう。
「セッターは一番ボールに触るから、爪が割れるとか当たり前だと思ってたんだけど、そいつの指見たらテーピング一つ巻いてなくて。そんなんで指傷めないのか聞いてみたんスよ」
そこで、黄金川は一息つき口を尖らせる。
「そしたら、『ボールと指の間に0.1ミリでも何かあると感覚が狂うから、爪と指先は完璧に手入れしてる』だと。爪も爪切りだとヒビがはいるからやすり使うって」
……はー、なるほど。それに影響されて黄金川がネイルファイル持ってるのか。カラスノ高校のセッター意識たっけーな。そこら辺の女子以上だ。
「その発想ってもうアスリートの域だね」
「だろ!?」
「何で黄金川がドヤ顔?」
調子のいい黄金川に思わず吹き出す。
でも、カラスノのセッターもスゴイけれど、他校だから敵のはずなのに自分の事のように誇らしげな黄金川もいいヤツだと思う。
私ったらそんなケナゲな黄金川にヒドイ疑いを……。ホント、ごめん。
「俺も練習量は負けるつもりねーけど、スゴイヤツはそっから違うんだなって。そんでマネしてみたんだけど、上手くいかねーんだよな」
そういってふっと笑った顔は少し影を帯びて、いつもの全開の明るさが丁度良い具合になった。
朝も毎日早そうだもんな。このところの寒さの中、誘惑に負けずに布団から脱出できるってだけで尊敬する。
実習以外はほとんど寝てるし。授業終わった後もダッシュで出てくし。練習めちゃくちゃしてるんだろう。
黄金川が部活にかけているのはわかる。私の持ってる知識で役に立てるなら応援したいと思った。
「……こんなの黄金川ならすぐ上手くなるよ」
「そっスか?」
「うん。あと、爪の手入れもいいけど、ハンドクリームとか塗っといた方がいいよ。乾燥してるし。爪のヒビでダメならささくれとかもアウトでしょ」
「あー、そッスね」
あとは……。そういえば、前にテレビでサッカー選手だかが爪の補強にトップコートみたいのを塗ってるって言ってたけど、あれはなんだっけ?
そうだ!
「黄金川、私、爪を保護するやつ持ってるから試しに塗らせて。ダメだったら落とす」
「マジか?あざっす!!!」
よし!かかった。ちょっとした悪戯を思いついた。顔が笑いそうになるのを何とかこらえる。
「じゃあ、目、つぶって」
「え?なんでだよ」
「……見られると緊張するから?」
適当な言い訳にしぶしぶ目を閉じた黄金川を確認し、ポーチから爪の保護用のネイルファンデ、それにホワイトとアート用の細筆のついたグリーンのネイルを取り出す。
まずは一応全体にさっとネイルファンデを塗る。うん。そんなに目立たない。あとは……どの指にしようかな。よし、ここ。一番使わなそうな、左手の薬指。まずはホワイトのポリッシュで整えて……。
「で、黄金川、背番号は?」
「7番ッス!」
「ん?バレーって確か6人でやるんだよね?あー可哀想に。補欠かー」
「俺、ちゃんとレギュラーっスよ!」
「マジで?」
「マジ!」
「こら、動くな」
手を持って振って乾かし、グリーンのネイルで直線を描いていく。よし、完成!
「いいよ、目、開けて」
ここだけ何かしたんスか?と不思議そうにしながら目を開いた黄金川は自分の爪に視線を落とす。
我ながら上手く描けた。白地に緑の『7』の数字。
「ああああ!スゲー!コレ、今描いたんスか?」
「そー、あ、コラ、乾くまでちょっとかかるから触るなって」
逆の手で爪をつつこうとしているのを慌てて止める。
「スゲー!俺のユニフォームみたい!!!」
「マジで?私、すごくない?」
「マジでこんな感じ!結城、今度試合見に来いよ!」
「えー。めんどいからユニフォーム着て来てって」
「コレ、作並や先輩に自慢するっス!」
「おーおー、しろしろ」
「よし!!!」
黄金川が気合を入れたのと同時に5限終了のチャイムが鳴る。自習は担任の授業だったから、今日のホームルームはない。
「じゃ、俺部活行く」
「うん、行ってらっしゃい。ちゃんと課題提出しなよー」
黄金川が荷物を取りに自席へ戻る。まるで季節外れの台風一過だ……と少々の疲れを覚えて机の上を片付けていると、
「あ、忘れてた」
黄金川が私の席まで戻って来た。
「何?どうした?」
そう言って彼を見上げると黄金川は顔をくしゃくしゃにして笑う。
「ありがとう、結城さん」
それだけ言うと「じゃあな」と手を振って出て行った。
……少しだけ、脈が早くなってる。顔も少し熱い。
黄金川のこと……直射日光みたいだなんて思ってたけど、ちょっと違う。
今の季節、恋しくなるような陽だまりみたいなあたたかさ。
何でだろう……。無性に、部活をしている黄金川が見てみたい。
何でだろう……。黄金川をそこまで一生懸命にさせるものを知りたい。
いやいやいや。ちょっと、私、どうした?
両手でぱしんと頬を叩く。ひんやりとした手が心を落ち着かせ、冷静に考えを巡らせる。
そういえば……バレー部の顧問って、生活指導の追分じゃん!あの爪、見つかったら怒られるよね?
落とすやつ……あ、持ってきてる、よし。
……しょーがないなー。私が、行ってやんないと!!うん。これはしょうがない。
言い訳とリムーバーを見つけた私は、カバンをひっつかんで黄金川がいる体育館へと駆け出した。
Hauta様に提出
title by「箱庭」
クラスメイトの黄金川は直射日光みたいなヤツ。
明るくて、大きくて、やかましい。
部活のために学校に来て、部活のついでに授業を受けてる。そんなヤツ。
だから、同じクラスでもそんなに接点はない。適当に授業受けて、適当に女子高生やって、放課後ダッシュで遊びに行くような私とは。
黄金川は私には健全すぎて強すぎる光。
なのに。
その直射日光を、今、なぜか私は、もろに浴びている。
「何?黄金川」
「それ!」
黄金川が指さしたのは、私の手にあるネイルファイル。
「それ、どうやったらうまく使えるんだ?」
「え……」
自習になってしまった金曜5限。課題さえ終われば退室OKとの指示で現在30分ほど経過したところ。周囲は動き出したクラスメイトでだんだんと騒がしくなっている。開け放たれた扉から入ってくる空気が冷たい。
私も実習で爪欠けしたな、とネイルセットを机の上に広げたところだった。
目をらんらんと輝かせてこちらを見る黄金川に戸惑いしかない。
「俺も使ってんだけどさー、イマイチうまくいかなくて」
彼がブレザーのポケットから取り出したのはステンレス製のネイルファイル。思わず私の視線は黄金川の顔とネイルファイルを行ったり来たり。
「??」
口角が上がったきょとん顔でこっちを見てるけど、こちらこそきょとんだ。
黄金川がこれを?使ってる?なんで?
「…… ちょっと、手、見せて」
まさかの組み合わせに好奇心が勝った。黄金川は既に主のいない前の席に後ろ向きに座り両手をこちらに向ける。
デカい手。つめも大きい。指先を横から見る。ガタガタな断面。絶対爪切りで切った方がマシな出来。
「……黄金川さ、ファイル使う時どうしてんの?」
「ファイル?あー、やすり使うときみたいに普通に……」
そう言いながらやりにくそうに、指を伸ばしたままファイルを行ったり来たりさせる。
「それだよ!往復でやっちゃダメだって」
「えっ?マジで?!」
「そう。こうやって、一方向にって、それの袋かなんかに書いてなかった?」
どう見ても説明とか読むタイプじゃなさそうだもんなー。私も友達から習ったクチだから人のこと言えないけど。
指を曲げてファイルを動かしてみせると「こうか?」と黄金川も私を真似てぎこちなく動かす。
……何か違う。自分の手を木片だとでも思っているような直線的な動き。
「ちょっと貸して。一回やるから、見てみ」
見かねて彼のファイルを取り上げ、指をこちらに向けさせる。
あ……そう。一応、確認。
「スクエア?ラウンド?」
「ファイ?」
首をかしげる黄金川。その様子にほっとしながら黄金川の爪にファイルをあて削っていく。
爪の形の基本的な整え方、四角にするか丸く整えるかを聞いてみたけど、これにピンとこないってことはソッチに目覚めたワケではなさそう。
それにしても。お世辞にも器用とは言えない黄金川がわざわざファイルを使って爪を整えようとするのはなんで?
大きな爪を指に沿わせ最小に整え、これでどう?と彼の手を解放する。まじまじと自分の爪を見た黄金川は感激したように声を上げた。
「おお!おおお!スゲー!あっという間にここまで!こんなキレイに!」
「……黄金川、鼻息でカスが飛ぶ」
「師匠と呼んでいいスか?」
人の話を全く聞かずキラキラした目で私を見る黄金川。しかも軽く敬語になっているのが笑える。
「大げさだって。でも、あんた何でまたこんなの使おうと思ったの?爪切りでやりゃいいじゃん」
黄金川は即答だった。
「爪の手入れに目覚めたんで!」
えー……?
……まじでソッチ?
引き気味に黄金川を見ると、彼は自分の指先を神妙に見つめてる。
「バレーやってると、ボールで爪欠けるとか折れるとかしょっちゅうで」
あっ、あー……!
部活がらみかー!
それなら、良かった!
再度ほっとした私には気づかない様子で黄金川は続ける。
「指もやられるから一緒にテーピングで保護してたんスよ。でも、おととい練習試合したカラスノって高校のバレー部に、すっげーセッターがいて」
そこで言葉を切った黄金川に「セッターってトス上げる人?」とおぼろげなバレーの知識を頼りに口を挟むと「そう」と軽くうなずいて黄金川は続ける。
「どんだけ練習したらこんなに上手くなるんだ?って感動すら覚えるくらい、もう!神業って感じのすげー上手いヤツで!」
黄金川の声に熱が入る。セッターの良し悪しなんて私にはさっぱりだけど、黄金川にここまで盛らせるんならとにかく上手いんだろう。
「セッターは一番ボールに触るから、爪が割れるとか当たり前だと思ってたんだけど、そいつの指見たらテーピング一つ巻いてなくて。そんなんで指傷めないのか聞いてみたんスよ」
そこで、黄金川は一息つき口を尖らせる。
「そしたら、『ボールと指の間に0.1ミリでも何かあると感覚が狂うから、爪と指先は完璧に手入れしてる』だと。爪も爪切りだとヒビがはいるからやすり使うって」
……はー、なるほど。それに影響されて黄金川がネイルファイル持ってるのか。カラスノ高校のセッター意識たっけーな。そこら辺の女子以上だ。
「その発想ってもうアスリートの域だね」
「だろ!?」
「何で黄金川がドヤ顔?」
調子のいい黄金川に思わず吹き出す。
でも、カラスノのセッターもスゴイけれど、他校だから敵のはずなのに自分の事のように誇らしげな黄金川もいいヤツだと思う。
私ったらそんなケナゲな黄金川にヒドイ疑いを……。ホント、ごめん。
「俺も練習量は負けるつもりねーけど、スゴイヤツはそっから違うんだなって。そんでマネしてみたんだけど、上手くいかねーんだよな」
そういってふっと笑った顔は少し影を帯びて、いつもの全開の明るさが丁度良い具合になった。
朝も毎日早そうだもんな。このところの寒さの中、誘惑に負けずに布団から脱出できるってだけで尊敬する。
実習以外はほとんど寝てるし。授業終わった後もダッシュで出てくし。練習めちゃくちゃしてるんだろう。
黄金川が部活にかけているのはわかる。私の持ってる知識で役に立てるなら応援したいと思った。
「……こんなの黄金川ならすぐ上手くなるよ」
「そっスか?」
「うん。あと、爪の手入れもいいけど、ハンドクリームとか塗っといた方がいいよ。乾燥してるし。爪のヒビでダメならささくれとかもアウトでしょ」
「あー、そッスね」
あとは……。そういえば、前にテレビでサッカー選手だかが爪の補強にトップコートみたいのを塗ってるって言ってたけど、あれはなんだっけ?
そうだ!
「黄金川、私、爪を保護するやつ持ってるから試しに塗らせて。ダメだったら落とす」
「マジか?あざっす!!!」
よし!かかった。ちょっとした悪戯を思いついた。顔が笑いそうになるのを何とかこらえる。
「じゃあ、目、つぶって」
「え?なんでだよ」
「……見られると緊張するから?」
適当な言い訳にしぶしぶ目を閉じた黄金川を確認し、ポーチから爪の保護用のネイルファンデ、それにホワイトとアート用の細筆のついたグリーンのネイルを取り出す。
まずは一応全体にさっとネイルファンデを塗る。うん。そんなに目立たない。あとは……どの指にしようかな。よし、ここ。一番使わなそうな、左手の薬指。まずはホワイトのポリッシュで整えて……。
「で、黄金川、背番号は?」
「7番ッス!」
「ん?バレーって確か6人でやるんだよね?あー可哀想に。補欠かー」
「俺、ちゃんとレギュラーっスよ!」
「マジで?」
「マジ!」
「こら、動くな」
手を持って振って乾かし、グリーンのネイルで直線を描いていく。よし、完成!
「いいよ、目、開けて」
ここだけ何かしたんスか?と不思議そうにしながら目を開いた黄金川は自分の爪に視線を落とす。
我ながら上手く描けた。白地に緑の『7』の数字。
「ああああ!スゲー!コレ、今描いたんスか?」
「そー、あ、コラ、乾くまでちょっとかかるから触るなって」
逆の手で爪をつつこうとしているのを慌てて止める。
「スゲー!俺のユニフォームみたい!!!」
「マジで?私、すごくない?」
「マジでこんな感じ!結城、今度試合見に来いよ!」
「えー。めんどいからユニフォーム着て来てって」
「コレ、作並や先輩に自慢するっス!」
「おーおー、しろしろ」
「よし!!!」
黄金川が気合を入れたのと同時に5限終了のチャイムが鳴る。自習は担任の授業だったから、今日のホームルームはない。
「じゃ、俺部活行く」
「うん、行ってらっしゃい。ちゃんと課題提出しなよー」
黄金川が荷物を取りに自席へ戻る。まるで季節外れの台風一過だ……と少々の疲れを覚えて机の上を片付けていると、
「あ、忘れてた」
黄金川が私の席まで戻って来た。
「何?どうした?」
そう言って彼を見上げると黄金川は顔をくしゃくしゃにして笑う。
「ありがとう、結城さん」
それだけ言うと「じゃあな」と手を振って出て行った。
……少しだけ、脈が早くなってる。顔も少し熱い。
黄金川のこと……直射日光みたいだなんて思ってたけど、ちょっと違う。
今の季節、恋しくなるような陽だまりみたいなあたたかさ。
何でだろう……。無性に、部活をしている黄金川が見てみたい。
何でだろう……。黄金川をそこまで一生懸命にさせるものを知りたい。
いやいやいや。ちょっと、私、どうした?
両手でぱしんと頬を叩く。ひんやりとした手が心を落ち着かせ、冷静に考えを巡らせる。
そういえば……バレー部の顧問って、生活指導の追分じゃん!あの爪、見つかったら怒られるよね?
落とすやつ……あ、持ってきてる、よし。
……しょーがないなー。私が、行ってやんないと!!うん。これはしょうがない。
言い訳とリムーバーを見つけた私は、カバンをひっつかんで黄金川がいる体育館へと駆け出した。
Hauta様に提出
title by「箱庭」
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