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桃色吐息
『先、シャワー浴びて来いよ』
彼はそう言った後、その台詞の使い古され具合を思ってか『ベタだな』と少し気まずそうな顔でつぶやき、それから笑った。
その表情は思い出せるのに、自分がどうやってシャワーを浴びたのか覚えていない。
付き合い始めて半年。
今まで彼に触れられたのは、手、頬、髪、そして唇…、あとは…少しだけ胸。本当にそれぐらい。
『もうとっくに最後までいってんだと思った』と友達に驚かれるぐらいには待ってもらってきたんだと思う。
でも、これからすること…は?
シャワーを浴びる前に、彼がナイトテーブルに置いた銀色の箱。異様な存在感を放つそれに、自分と彼がこれからするであろうことの恥ずかしさととんでもなさを改めて思い知らされる。
ここまで。今日ここに来る前に、いくらでも断るチャンスはあった。だから心の準備はできている。今さら怖気づいたなんて言わない。
でも。それでも、やっぱり……。
ガチャ
扉の開く音に肩が震え、思考がそこで停止する。
上がっていく心拍数。
むわっとした湯気が舞い込み部屋の湿度を上げていく。
備え付けのバスローブを羽織り、水分を含んだ髪を無造作にタオルで拭いている笹谷が私の視界に入る。
降りた髪がいつも晒されている額や目を隠し、そこにどうしようもなく男を感じて、いたたまれなくなって視線を外す。
もう、いまさら。じたばたしてもしょうがない。
すうっと息を吸う。
ふっと息を吐く。
もう一回。
よし。
顔を上げる。
「友紀」
タイミングを見計らったように声を掛けられた。そうして、私の隣に腰かける。
ゆっくりと視線を合わせる。髪の隙間から覗く瞳が愉し気に笑っているのに、そこに黒く静かにゆらめくものが見えた気がして慌てて目を逸らす。
笹谷なのにいつもの笹谷じゃない。落ち着いたはずの心臓が、また鼓動を早める。
「覚悟はできたか?」
ベッドが一つ。
朝までここに二人きり。
その意味がわからないなんて今さら言わない。
覚悟なんて、ここに来る前から決まってる。
「……うん」
「何か……言っておきたいことはあるか?」
聞くよ、と私に向けて笑いかける。
言っておきたいこと?……ああ、もうベタだけど、今はこれしか思い浮かばない。
「……はじめてだから、やさしくしてね」
「ベッタベタだな」
改めて言われると恥ずかしすぎて、うつむいて頭を笹谷の胸にぶつける。
「……最初が、すごく好きなひととで、良かったと思ってるから……」
そう、これが、私の、本心。
はじめては、絶対、笹谷がいい。
できれば次も、その先も。
彼は一つため息をつくと、確かめるように私の肩に触れる。
「わかった、やさしくするから」
降りた髪の隙間から覗く笹谷の目が愛おし気に細められ、唇が降りてきた。
深く交わる唇から鼓動が飛び出そうになる。唇の動きに乱れた呼吸がさらに心臓がせわしなく動かす。
名残惜し気に唇を放されて、ようやく目を開くと、切なげに眉をひそめながら笑う笹谷と目が合う。
こんな顔するんだ……。
直接触れ合った素肌に彼の体温が伝わってくる。
その瞬間、今まで抱えていた漠然とした不安を愛おしさが圧倒した。
「笹谷の体、すごく熱い……」
閉じ込められた腕のなかで、思ったことをつぶやくと、彼の胸が笑う息づかいに合わせて上下する。
「そりゃ、ずっと好きだった子を、初めて抱こうとしてんだからな」
ずっと好きだった。
そっか。そうなんだ。
私だって。
両腕を彼の体にしがみつくようにからめると、応えるように彼は私の体を隙間なく覆う。
ねえ、笹谷。
この体の熱を、信じてもいい?
私を求める笹谷と笹谷を欲しがる私。
重なる唇。触れ合う胸。絡み合う視線。
このまま。全てがくっついて2人の体の境界がなくなってしまえばいい。
彼の指が私の皮膚の薄いところをなぞる。
その感触に思わず開いた唇から、声にならない吐息が漏れる。
吐息の色が、変わった気がした。
※企画サイト nuit 様よりタイトルをお借りしています
『先、シャワー浴びて来いよ』
彼はそう言った後、その台詞の使い古され具合を思ってか『ベタだな』と少し気まずそうな顔でつぶやき、それから笑った。
その表情は思い出せるのに、自分がどうやってシャワーを浴びたのか覚えていない。
付き合い始めて半年。
今まで彼に触れられたのは、手、頬、髪、そして唇…、あとは…少しだけ胸。本当にそれぐらい。
『もうとっくに最後までいってんだと思った』と友達に驚かれるぐらいには待ってもらってきたんだと思う。
でも、これからすること…は?
シャワーを浴びる前に、彼がナイトテーブルに置いた銀色の箱。異様な存在感を放つそれに、自分と彼がこれからするであろうことの恥ずかしさととんでもなさを改めて思い知らされる。
ここまで。今日ここに来る前に、いくらでも断るチャンスはあった。だから心の準備はできている。今さら怖気づいたなんて言わない。
でも。それでも、やっぱり……。
ガチャ
扉の開く音に肩が震え、思考がそこで停止する。
上がっていく心拍数。
むわっとした湯気が舞い込み部屋の湿度を上げていく。
備え付けのバスローブを羽織り、水分を含んだ髪を無造作にタオルで拭いている笹谷が私の視界に入る。
降りた髪がいつも晒されている額や目を隠し、そこにどうしようもなく男を感じて、いたたまれなくなって視線を外す。
もう、いまさら。じたばたしてもしょうがない。
すうっと息を吸う。
ふっと息を吐く。
もう一回。
よし。
顔を上げる。
「友紀」
タイミングを見計らったように声を掛けられた。そうして、私の隣に腰かける。
ゆっくりと視線を合わせる。髪の隙間から覗く瞳が愉し気に笑っているのに、そこに黒く静かにゆらめくものが見えた気がして慌てて目を逸らす。
笹谷なのにいつもの笹谷じゃない。落ち着いたはずの心臓が、また鼓動を早める。
「覚悟はできたか?」
ベッドが一つ。
朝までここに二人きり。
その意味がわからないなんて今さら言わない。
覚悟なんて、ここに来る前から決まってる。
「……うん」
「何か……言っておきたいことはあるか?」
聞くよ、と私に向けて笑いかける。
言っておきたいこと?……ああ、もうベタだけど、今はこれしか思い浮かばない。
「……はじめてだから、やさしくしてね」
「ベッタベタだな」
改めて言われると恥ずかしすぎて、うつむいて頭を笹谷の胸にぶつける。
「……最初が、すごく好きなひととで、良かったと思ってるから……」
そう、これが、私の、本心。
はじめては、絶対、笹谷がいい。
できれば次も、その先も。
彼は一つため息をつくと、確かめるように私の肩に触れる。
「わかった、やさしくするから」
降りた髪の隙間から覗く笹谷の目が愛おし気に細められ、唇が降りてきた。
深く交わる唇から鼓動が飛び出そうになる。唇の動きに乱れた呼吸がさらに心臓がせわしなく動かす。
名残惜し気に唇を放されて、ようやく目を開くと、切なげに眉をひそめながら笑う笹谷と目が合う。
こんな顔するんだ……。
直接触れ合った素肌に彼の体温が伝わってくる。
その瞬間、今まで抱えていた漠然とした不安を愛おしさが圧倒した。
「笹谷の体、すごく熱い……」
閉じ込められた腕のなかで、思ったことをつぶやくと、彼の胸が笑う息づかいに合わせて上下する。
「そりゃ、ずっと好きだった子を、初めて抱こうとしてんだからな」
ずっと好きだった。
そっか。そうなんだ。
私だって。
両腕を彼の体にしがみつくようにからめると、応えるように彼は私の体を隙間なく覆う。
ねえ、笹谷。
この体の熱を、信じてもいい?
私を求める笹谷と笹谷を欲しがる私。
重なる唇。触れ合う胸。絡み合う視線。
このまま。全てがくっついて2人の体の境界がなくなってしまえばいい。
彼の指が私の皮膚の薄いところをなぞる。
その感触に思わず開いた唇から、声にならない吐息が漏れる。
吐息の色が、変わった気がした。
※企画サイト nuit 様よりタイトルをお借りしています
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