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365分の1の偶然
「あーっ!!!やっと終わったっ!」
最後の小ねじを分別し終えて私は目頭を押さえる。
実習の片づけ。工具用の引き出しの立て付けが悪くて「何やってんだ、お前」と声をかけてきてくれた二口にお願いしたら「何だコレ」とありったけの力で引き抜き、ねじとワッシャーをキレイにぶちまけてくれてしまった。先生は「あちゃー、お前らそれ分別しとけよー」と職員会議に行ってしまう。頼んだのは私なので一人で片付けるつもりだったけど、たまたま部活がオフな二口も一緒に片づけてくれた。二口には片思い中だったから秘かに嬉しかったりする。
「目、しょぼしょぼする…指紋なくなってそう…」
「クッソ肩いてぇ、明日腕上がるかな」
私が手の平を見つめながら嘆くと、肩をぐるぐるまわしながら二口が言う。
「あーあ、私、今日誕生日だったのに…」
「えっ?結城も?俺も今日、誕生日!」
「そうなの?」
びっくりした、誕生日一緒なんて。つーか、好きな人の誕生日を知らないってどうなのよ私。まあ、聞く機会もなかったし。
「二口って5月とか6月とかでもう終わってるんだと思ってた。へー蠍座の男なんだー」
「そう、意外?」
「うーん、言われてみるとそうかもって感じ?」
「どういうことだよ」
「嫉妬深いとかむっつりスケベとか?蠍座ってメジャーどころの特徴が妙にイメージ悪いよねー 」
「お前、俺の事そんな風に思ってたのかよ…言っとくけどそれブーメランだからな」
「うぐっ」
他には…好きになったら一途、とかもあったな。それを知って当たってるなと思ったんだよ。もう一年も片思いだし。二口はどうなのかな、と思いつつ次の話題にいく。
「でもさー、次の日がメジャー過ぎて影薄いよね」
「あー…1並びな」
「キャラクターの誕生日とか11月11日めっちゃ多いの!」
「確かに、11月10日っていうと『惜しい!』とかわけわかんねーこと言われるよな」
「何がポッキーの日だ!」
「そうだそうだ!何が嬉しいんだよ、あんなの」
「私、小学生の頃『トイレの日だー』って軽くいじめられたよ」
「そんなのあんの?俺は『エレベーターの日だな』って言われたぐらいだな」
私と二口は『1110あるある』で盛り上がる。
「あと、何気にビッグネームがお亡くなりになるよな」
「あー、高●健」
「森●子もな」
「昔、お母さん森●久彌が亡くなったって、私の誕生日そっちのけでびっくりしてたよ…」
「ひどいな『あんたが生んだ日だろ!』って言いたくなるよな」
言いながら二口が笑う。あ、そういえば
「酒が飲める飲めるぞ~って歌知ってる?」
「あー、親父が歌ってた!」
「あれの11月!」
「「何にもないけど!!」」
指を差し合い、声が揃う。
「ひどいよねー」
「最近10月はハロウィンで盛り上がってるもんなー」
「11月はクリスマスに侵食されつつあるし。2か月も何を準備するのよ!」
「1週間足らずで用意できる正月って偉大だよな……」
「11月のイベントって、七五三ははるか昔に終わったし…ボジョレーヌーボー解禁ぐらいかな」
「まあ、俺らは誕生日あるし」
「うん!良かった、11月生まれで」
「「イエーイ!!」」
疲労のあまり変なテンションになった私たちは、そこでハイタッチを交わす。
「ところで二口って、今日の何時ごろ生まれたの?」
その質問に「んーーっと確か…」と宙を見て思い出す仕草をする。
「夜だったらしい、病院の先生がほとんど帰った後で一人しかいなかったとか聞いたような」
「私、お昼~!ふふん、私の方がお姉さんだ!」
「たった数時間じゃねーか!」
「これから敬語使ってね、後輩」
「何でだよ!使わねーよ」
「ん?でも年も誕生日も同じってことは、もしかして……」
「……作成日も同じかもしれないってことかー」
「ちょっと!そういうのやめようよ」
「…俺も言っててこれはアウトだと思った」
「2月ぐらいかな」
「計算はえぇな!」
「9月生まれが多いのはクリスマスがどーとか聞いたことがあるから、2ヶ月ずらしてみた」
「へぇ…そういや茂庭さん、9月生まれだったな」
悪い顔で笑う二口。茂庭さんっていうのは、部活の先輩かな?
「俺たちは、春の訪れとともに…ってことか…」
「あれ?ひょっとしてバレンタインなんじゃないの?」
「……」
「……」
「この話はやめようぜ」
「う、うん、そうだね」
微妙な雰囲気になってしまった。これはいけない。話題を変えよう。
「二口」
「ん?」
「あのさ、誕生日プレゼント…っていうか、一つお願いしたいことがあるんだけど」
「え?オレも誕生日なのに?」
「うん、無理だったら断ってくれていいから」
「しょーがねーな、同じ誕生日のよしみで聞いてやるよ」
二口はそう言うと綺麗な目をこちらに向けた。うん。一緒に作業して同じ誕生日だって知って楽しく過ごせた。これだけでもいいんだけど。
「3年後の誕生日、もしお互いフリーだったらでいいから、一緒に『飲み』に行かない?」
これは今告白できる度胸のない私の、将来に向けての保険。彼はぽかんとした顔になり、あきれたように笑う。
「そんなんでいいの?いいよ」
思わぬ快諾に私は食い付く。
「いいの?私、絶対連絡するからね」
「じゃ、さ、オレのお願いも一つ聞いてくれる?」
「うん。もちろんいいよ」
「このお願い聞いてもらうと、お前のお願いが聞けなくなるかもしれないけど…」
私はその言葉に血の気が引いた。3年後のお願いが聞けなくなる?アドレス帳からオレの連絡先を消せとか、オレの前から消えろとか…?強張った顔で無理やり笑みを作って二口を見ると、彼はぷっと噴き出した。
「いや、そんな無理なお願いはしないつもりだけど」
ふっと笑った。やだ、今の顔、超かっこいい。と思ったら、すっと真面目なかっこよさを更新してきた顔で見つめてくるから、心臓が止まりそうになる。
「オレと付き合ってくれない?」
私は目を丸くした。ん??今、何て?これはあれだ。きっとあっちだ。
「どこに?…いたっ!」
脳天にチョップをくらわされた。振り下ろし始めの位置が高いから結構痛い…。二口は顔を赤くして私に怒鳴る。
「バカか!付き合うって言ったら彼氏彼女だろ!普通!」
「だって…。じゃあ、私のお願いが聞けなくなるって何で?」
「『お互いフリーだったら』って条件だったろ?3年以内に別れたら、とても気まずくてムリだろ?」
「…うっ、まー確かにね」
「でもオレは3年で離す気ないけど?」
いたずらっ子みたいな目をしてこちらを見て、楽しそうに、からかうように笑う。こちらはさっきから心臓がおかしいというのに。
「さー、どうしますか結城サン?」
「……こちらこそお願いしマス…」
「うし。ったく、お前のお願いも同じだと思ってたのに、ひよるんだもんなー」
「……」
私は全然わからなかったのに、こちらの気持ちは筒抜けだったなんて……!悔しいからちょっと反撃させてもらった。
「もし、二口と結婚したら、子供も同じ日になるようにしようか」
「は…?」
「だーかーら、バレンタインあたりにいっぱいえっc…」
そこまで言ったところで、顔を真っ赤にした二口に口をふさがれる。
「がーーーーっ!お前、つーか、何てことを!」
「もがっ、ぼがもがもふぁ!」
く、苦しい。必死にたしたしと彼の腕を叩くと解放してくれた。
「帝王切開とか無痛分娩とか駆使すればちょっと生む日選べるらしいし」
「だから、なんでそういうのに詳しいんだよ!」
笑うと、私の頭をくしゃくしゃに撫でまわした。
「はいはい、11月10日にもう一個追加。俺たちの付き合い記念日ってことで、ケーキでも食いに行こうぜ」
「賛成!!」
そうして、私と二口は手を繋いで昇降口まで競争するように走った。
「うわー、今年の誕生日、超たのしー!!」
「私も!!」
2018.11.10
HappyBirthday Kenji Futakuchi!
「あーっ!!!やっと終わったっ!」
最後の小ねじを分別し終えて私は目頭を押さえる。
実習の片づけ。工具用の引き出しの立て付けが悪くて「何やってんだ、お前」と声をかけてきてくれた二口にお願いしたら「何だコレ」とありったけの力で引き抜き、ねじとワッシャーをキレイにぶちまけてくれてしまった。先生は「あちゃー、お前らそれ分別しとけよー」と職員会議に行ってしまう。頼んだのは私なので一人で片付けるつもりだったけど、たまたま部活がオフな二口も一緒に片づけてくれた。二口には片思い中だったから秘かに嬉しかったりする。
「目、しょぼしょぼする…指紋なくなってそう…」
「クッソ肩いてぇ、明日腕上がるかな」
私が手の平を見つめながら嘆くと、肩をぐるぐるまわしながら二口が言う。
「あーあ、私、今日誕生日だったのに…」
「えっ?結城も?俺も今日、誕生日!」
「そうなの?」
びっくりした、誕生日一緒なんて。つーか、好きな人の誕生日を知らないってどうなのよ私。まあ、聞く機会もなかったし。
「二口って5月とか6月とかでもう終わってるんだと思ってた。へー蠍座の男なんだー」
「そう、意外?」
「うーん、言われてみるとそうかもって感じ?」
「どういうことだよ」
「嫉妬深いとかむっつりスケベとか?蠍座ってメジャーどころの特徴が妙にイメージ悪いよねー 」
「お前、俺の事そんな風に思ってたのかよ…言っとくけどそれブーメランだからな」
「うぐっ」
他には…好きになったら一途、とかもあったな。それを知って当たってるなと思ったんだよ。もう一年も片思いだし。二口はどうなのかな、と思いつつ次の話題にいく。
「でもさー、次の日がメジャー過ぎて影薄いよね」
「あー…1並びな」
「キャラクターの誕生日とか11月11日めっちゃ多いの!」
「確かに、11月10日っていうと『惜しい!』とかわけわかんねーこと言われるよな」
「何がポッキーの日だ!」
「そうだそうだ!何が嬉しいんだよ、あんなの」
「私、小学生の頃『トイレの日だー』って軽くいじめられたよ」
「そんなのあんの?俺は『エレベーターの日だな』って言われたぐらいだな」
私と二口は『1110あるある』で盛り上がる。
「あと、何気にビッグネームがお亡くなりになるよな」
「あー、高●健」
「森●子もな」
「昔、お母さん森●久彌が亡くなったって、私の誕生日そっちのけでびっくりしてたよ…」
「ひどいな『あんたが生んだ日だろ!』って言いたくなるよな」
言いながら二口が笑う。あ、そういえば
「酒が飲める飲めるぞ~って歌知ってる?」
「あー、親父が歌ってた!」
「あれの11月!」
「「何にもないけど!!」」
指を差し合い、声が揃う。
「ひどいよねー」
「最近10月はハロウィンで盛り上がってるもんなー」
「11月はクリスマスに侵食されつつあるし。2か月も何を準備するのよ!」
「1週間足らずで用意できる正月って偉大だよな……」
「11月のイベントって、七五三ははるか昔に終わったし…ボジョレーヌーボー解禁ぐらいかな」
「まあ、俺らは誕生日あるし」
「うん!良かった、11月生まれで」
「「イエーイ!!」」
疲労のあまり変なテンションになった私たちは、そこでハイタッチを交わす。
「ところで二口って、今日の何時ごろ生まれたの?」
その質問に「んーーっと確か…」と宙を見て思い出す仕草をする。
「夜だったらしい、病院の先生がほとんど帰った後で一人しかいなかったとか聞いたような」
「私、お昼~!ふふん、私の方がお姉さんだ!」
「たった数時間じゃねーか!」
「これから敬語使ってね、後輩」
「何でだよ!使わねーよ」
「ん?でも年も誕生日も同じってことは、もしかして……」
「……作成日も同じかもしれないってことかー」
「ちょっと!そういうのやめようよ」
「…俺も言っててこれはアウトだと思った」
「2月ぐらいかな」
「計算はえぇな!」
「9月生まれが多いのはクリスマスがどーとか聞いたことがあるから、2ヶ月ずらしてみた」
「へぇ…そういや茂庭さん、9月生まれだったな」
悪い顔で笑う二口。茂庭さんっていうのは、部活の先輩かな?
「俺たちは、春の訪れとともに…ってことか…」
「あれ?ひょっとしてバレンタインなんじゃないの?」
「……」
「……」
「この話はやめようぜ」
「う、うん、そうだね」
微妙な雰囲気になってしまった。これはいけない。話題を変えよう。
「二口」
「ん?」
「あのさ、誕生日プレゼント…っていうか、一つお願いしたいことがあるんだけど」
「え?オレも誕生日なのに?」
「うん、無理だったら断ってくれていいから」
「しょーがねーな、同じ誕生日のよしみで聞いてやるよ」
二口はそう言うと綺麗な目をこちらに向けた。うん。一緒に作業して同じ誕生日だって知って楽しく過ごせた。これだけでもいいんだけど。
「3年後の誕生日、もしお互いフリーだったらでいいから、一緒に『飲み』に行かない?」
これは今告白できる度胸のない私の、将来に向けての保険。彼はぽかんとした顔になり、あきれたように笑う。
「そんなんでいいの?いいよ」
思わぬ快諾に私は食い付く。
「いいの?私、絶対連絡するからね」
「じゃ、さ、オレのお願いも一つ聞いてくれる?」
「うん。もちろんいいよ」
「このお願い聞いてもらうと、お前のお願いが聞けなくなるかもしれないけど…」
私はその言葉に血の気が引いた。3年後のお願いが聞けなくなる?アドレス帳からオレの連絡先を消せとか、オレの前から消えろとか…?強張った顔で無理やり笑みを作って二口を見ると、彼はぷっと噴き出した。
「いや、そんな無理なお願いはしないつもりだけど」
ふっと笑った。やだ、今の顔、超かっこいい。と思ったら、すっと真面目なかっこよさを更新してきた顔で見つめてくるから、心臓が止まりそうになる。
「オレと付き合ってくれない?」
私は目を丸くした。ん??今、何て?これはあれだ。きっとあっちだ。
「どこに?…いたっ!」
脳天にチョップをくらわされた。振り下ろし始めの位置が高いから結構痛い…。二口は顔を赤くして私に怒鳴る。
「バカか!付き合うって言ったら彼氏彼女だろ!普通!」
「だって…。じゃあ、私のお願いが聞けなくなるって何で?」
「『お互いフリーだったら』って条件だったろ?3年以内に別れたら、とても気まずくてムリだろ?」
「…うっ、まー確かにね」
「でもオレは3年で離す気ないけど?」
いたずらっ子みたいな目をしてこちらを見て、楽しそうに、からかうように笑う。こちらはさっきから心臓がおかしいというのに。
「さー、どうしますか結城サン?」
「……こちらこそお願いしマス…」
「うし。ったく、お前のお願いも同じだと思ってたのに、ひよるんだもんなー」
「……」
私は全然わからなかったのに、こちらの気持ちは筒抜けだったなんて……!悔しいからちょっと反撃させてもらった。
「もし、二口と結婚したら、子供も同じ日になるようにしようか」
「は…?」
「だーかーら、バレンタインあたりにいっぱいえっc…」
そこまで言ったところで、顔を真っ赤にした二口に口をふさがれる。
「がーーーーっ!お前、つーか、何てことを!」
「もがっ、ぼがもがもふぁ!」
く、苦しい。必死にたしたしと彼の腕を叩くと解放してくれた。
「帝王切開とか無痛分娩とか駆使すればちょっと生む日選べるらしいし」
「だから、なんでそういうのに詳しいんだよ!」
笑うと、私の頭をくしゃくしゃに撫でまわした。
「はいはい、11月10日にもう一個追加。俺たちの付き合い記念日ってことで、ケーキでも食いに行こうぜ」
「賛成!!」
そうして、私と二口は手を繋いで昇降口まで競争するように走った。
「うわー、今年の誕生日、超たのしー!!」
「私も!!」
2018.11.10
HappyBirthday Kenji Futakuchi!
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